表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルがゴミだった俺、組み合わせたらヤバくなった  作者: 藤崎聖子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/36

第三十五話 最初から、一個も

## 第三十五話 最初から、一個も


「最初の能力が火種程度とは滑稽だ」


 オルディナスが言った。


 レインの指先で、小さな炎が揺れる。


 冒険者試験で笑われた日と同じ火。


 三秒後には消える。


「ああ」


 レインは火を見つめた。


「昔は、俺もそう思ってた」


 光柱の向こうで、フィオが手を伸ばす。


「《微風》!」


 紙一枚ぶんの風が柱の隙間を抜けた。


 《微火》へ触れる。


 炎が少しだけ大きくなった。


「何度切られても、最初から繋げばいい!」


 クロエが《瞬速》で光柱の内側を走る。零・一秒ぶんの速さが風へ乗り、火が柱を一周した。


 ミルが石床へ指を当てる。


「《小分け》!」


 光柱の土台に、小さな亀裂が二つできる。


 アルティシアの《微誘導》が火を数センチ曲げ、その亀裂へ導いた。


 セレスの《微圧縮》が火を一パーセント縮め、隙間へ押し込む。


 ベルの《微増幅》が、燃える音をほんの少し大きくした。


「無意味な抵抗」


 オルディナスが腕を振る。


 光柱が狭まり、全員を押し潰そうとする。


 ヴァレンが紙切れを一枚、柱へ貼った。


「《紙貫通》!」


 紙の向こうへ、小さな穴が開く。


 エスメが《一寸転移》で火を穴の内側へ送る。


 アクアが火に含まれる一滴の魔力を複製した。


 ここまで重ねた九つの働きが、一滴の効果を次の火へ渡していく。一度の複製が、前を行く火から後ろの火へ受け渡された。


 一つが二つ。二つが四つ。


 ノクティリアが空中の埃を半秒止め、その埃へ触れた火も止める。


 止まった火が、次の火の足場になる。


 メモリアーナは「継」の周囲から復元した管理記録と、目の前の明滅を照合した。


「次の明滅で、右側が弱くなります!」


 フェリは金貨を投げなかった。


「弱くなる未来を、私が選ぶ!」


 《微幸運》が、ほんのわずかに結果を傾ける。


 リネアリスが柱の内側へ線を引いた。


「ここまでが檻。ここから外は自由!」


 リヴァのハンカチが裏返る。


 閉じ込める性質が、解放する性質へ変わった。


 ネーミが光柱へ名をつける。


「《脆い》」


 シェアが全員へ亀裂の色を見せた。


 サンドラが砂粒を一つ作る。


「存在しない概念を作る。《神の許可を必要としない道》」


「代価は全員で払う!」


 レインが叫ぶ。


 十九人から小さな記憶が一つずつ消える。


 フィオは昨日食べた菓子の味を忘れ、本人だけが本気で悔しがった。


 道ができる。


 最後にアリアが糸を掲げた。


「《糸接ぎ》!」


 三秒間、切られた十八の力がレインの核へ繋がった。


【原初スキル確認】


【《微火》】


【《微風》】


【《瞬速》】


【《小分け》】


【《微誘導》】


【《微圧縮》】


【《微増幅》】


【《紙貫通》】


【《一寸転移》】


【《一滴複製》】


【《埃停止》】


【《一文字記憶》】


【《微幸運》】


【《線強調》】


【《布裏返し》】


【《名前表示》】


【《色共有》】


【《砂粒創造》】


【《糸接ぎ》】


【十九系統確認】


【連結限界突破】


【世界法則への接続を開始】


 十九の光が一本の糸になる。


【《概念創造》と《糸接ぎ》を連結します】


【スキル連結成功】


【《万象連結》を獲得】


 世界が、無数の糸として見えた。


 敵と敗北。


 仲間と完全回復。


 現在と勝利した未来。


 繋ごうと思えば、どれも繋げられる。


 だが同時に、条件も分かった。


 存在しない未来は選べない。


 誰かの意思を勝手に書き換えることはできない。


 大きな結果を繋ぐほど、十九人全員から代価が失われる。


「敵を敗北へ繋げれば終わる」


 ゼノグラードが言う。


「代価は?」


 レインが問う。


「おそらく、十九人が出会った記憶すべて」


 それでは意味がない。


 この旅を消して勝つなら、オルディナスと同じだ。不要なものを切り捨て、結果だけを残す。


「使わない」


 レインは敗北の糸から手を離した。


「何のための最終能力よ!」


 クロエが叫ぶ。


「もっと小さく繋ぐ!」


 オルディナスの腕が光の槍を作る。


 世界を消すほどの一撃。


 レインは《万象連結》で、仲間一人ずつの現在を、その者が自分で選んだ次の一歩へ繋いだ。


 《万象連結》の糸が、光柱を破った瞬間へ伸びる。


 消えかけた風、亀裂、火、雫が、その場に留まった。


「二度目を使ったの?」


 アクアが自分の掌を見る。


「違う。最初の力が消える前へ繋いだ」


 再使用までの時間も、一日一回という制限も変わっていない。


 フィオの風が残る。


 クロエの速さが火を先へ運ぶ。


 ミルが作った亀裂が広がる。


 アルティシアが曲げた軌道が、次の道を示す。


 十八人の仲間が起こした小さな変化が、順番に重なる。


 神の攻撃を一度に消すのではない。


 風で一度ずらし、速さで一瞬先へ出て、分割し、軌道を曲げ、圧縮する。


 紙一枚ぶんの穴へ、一センチずつ転移させる。


 一滴ずつ複製した空間へ散らし、半秒ずつ止める。


 攻撃の癖を記録し、外れる未来を減らす。


 境界の外へ押し出し、属性を反転する。


 《無害》と名づけ、色を共有し、無害になる道を一粒だけ創造する。


 最後に糸で繋ぐ。


 神の槍は十九の小さな働きによって、ただの光へ変わった。


「あり得ない」


 オルディナスの声に、初めて感情が混じる。


「不足した権能が、管理者権限を上回ることはない」


「不足してたんじゃない」


 レインの後ろに十八人が立つ。


「一つ足りなかったら、ここまで来られなかった」


 指先には、最初の《微火》がまだ灯っている。


「ゴミなんかじゃなかった」


 紙一枚ぶんの風が重なる。


「最初から、一個も」


 十九人が自分で使った力は、次の役割へ渡っていく。


 最初に動いたのはフィオだった。


 《微風》で神の輪の表面に積もる白い粉を払う。


 管理光が結晶化した欠片。風がなければ、弱点の亀裂は隠れたままだった。


「右上、髪一本ぶん!」


 フィオが叫ぶ。


 クロエは《瞬速》でレインの火を運んだ。


 零・一秒しかない。


 距離も一歩ぶん。


 それでも、普通に投げれば神の腕へ消される一瞬を抜けるには足りた。


 火が亀裂の手前へ届く。


 ミルの《小分け》が炎を二つに割る。


 一つは囮。もう一つが本命。


 オルディナスの腕は大きい火を選んで消した。


 小さく分かれた本命を、アルティシアの《微誘導》が数センチだけ曲げる。


「この数センチのために、何万本も外してきた!」


 火は亀裂へ入った。


 セレスが一パーセント圧縮する。


 亀裂より細くなった火が、神の輪の内側へ滑る。


「一パーセントを笑った人へ、今のを測ってほしいですね」


 ベルが《微増幅》で燃焼音を大きくした。


 音が内部構造を震わせ、空洞の位置を知らせる。


 ヴァレンは紙へ輪の形を写した。


「これを紙と定義する!」


 《紙貫通》が写しの向こう側、神の輪へ穴を開ける。


 エスメは穴の位置を一センチ移した。


 神が修復しようとする場所と、実際の傷がずれる。


「鍵を動かすより、こっちのほうが早いわね」


「八日かからない!」


 全員が返した。


 最初の連携でアクアが複製した一滴は、火の中に残っていた。


 本来なら、そこで終わる。《万象連結》が新しい一滴へ同じ性質を繋ぎ、複製を広げた。アクアが《一滴複製》を再発動したわけではない。


 一滴は二滴へ。二滴が四滴へ。


 神の内側で、消せないほど細かな火が増殖した。


 ノクティリアは飛び散る結晶の一粒を半秒止める。


 次の一粒が当たり、その後ろへまた一粒。


 半秒ごとに停止を重ね、結晶で退路を塞いだ。


 オルディナスの輪が初めて動きを止める。


 メモリアーナは《一文字記憶》へ刻んだ「継」から、失われた頁を思い返した。そこには、管理権能が壊れた箇所を繋ぎ直す順序も記されていた。


「今までの攻撃と同じ形です!」


 右、左、中央。


 次に閉じる場所を先に告げる。


 フェリは金貨を投げず、両手で握った。


「閉じない未来を、私は選ぶ」


 《微幸運》が結果をほんのわずかに傾ける。


 確率は小さい。


 だが十人が作った現実的な道が、当たり得る未来を一つ残していた。


 リネアリスは空中へ白墨の線を引く。


「この線の内側が管理。外側は、誰の所有物でもない!」


 《線強調》が見えない支配の境界を浮かび上がらせる。


 リヴァは白いハンカチを投げた。


「六百年、これを笑われた借りを返すわ」


 《布裏返し》が、支配する内側と自由な外側を反転させた。


 神の輪は、自らの管理領域から締め出される。


 ネーミリアが輪へ名を与えた。


「あなたは神ではない。《選択肢の一つ》です」


 絶対の管理者という性質が揺らぐ。


 シェアは揺らぎの色を全員へ見せた。


 神にも見えない色。


 名のない、選ばれなかった未来の色。


「気持ち悪くない?」


「きれいです」


 ネーミリアが答える。


 サンドラは砂粒を一つ作った。


「《神を倒せる武器》は作らない」


 代価が大きすぎる。


「作るのは、《自分の目で選べる一瞬》」


 十九人から、昨日見た雲の形という小さな記憶が消えた。


 引き換えに、オルディナスの予測から外れた一秒が生まれる。


 最後にアリアが糸を繋ぐ。


 三秒。


 一秒目に、全員の力が神の輪へ届く。


 二秒目に、別々の結果が一つの火へ集まる。


 三秒目。


 糸が切れる前に、レインは繋ぎ留められていた《微火》を押し出した。


 最初の力が最後に届く。


 《万象連結》は、その結果だけを一つの火へ繋ぐ。


 小さな火が、世界管理神の額にある輪へ届いた。


 爆発は起きなかった。


 輪と、「管理されない未来」が繋がる。


 銀色の輪に亀裂が入った。


 オルディナスの無数の腕が、一本ずつ空から離れる。


 星も雲も、神の糸から解放された。


「管理不能」


 白い体が光へ崩れる。


「未来は、不安定になる」


「それでいい」


 レインは答えた。


「自分で選べる」


 世界管理神オルディナスは、朝の光の中へ消えた。


 勝った後、十九人はすぐには動けなかった。


 《万象連結》の糸が、まだ全員の胸へ残っている。


 誰かの痛みが、別の誰かへ伝わる。


 ヴァレンの脇腹の古傷をフィオが感じ、クロエの空腹を全員が同時に知った。


「ちょっと!」


 クロエが腹を押さえる。


「私を見ないで!」


「朝から何も食べてないの?」


 フィオが自分の荷袋を探る。


「戦闘前に食べると動けないから!」


「私は三つ食べた」


「知ってる。今、全員に満腹感が来てる」


 笑いが起きた。


 泣いている者もいた。


 アリアは宿の看板を見た。消された店名が戻っている。縫い目も、違う色の糸も残っていた。


「勝ったんだよね」


「たぶん」


 レインは空を見上げる。


 神がいなくなっても、朝日は同じ方向から昇った。


 管理者が消えれば世界が崩れると、オルディナスは言った。


 今のところ、風は吹き、石は地面へ落ちる。


「《万象連結》は残ってる?」


 メモリアーナが聞く。


「残ってる。でも、使わない」


「必要な時も?」


「必要かどうかを全員で決める。俺一人では発動できない」


 レインは糸を解こうとした。


 簡単には外れない。


「アリア」


「繋ぐ能力に、切ることを頼むの?」


「できるか?」


「糸を繋いだ場所なら、どこを外せばいいか分かる」


 アリアは一人ずつの胸へ触れた。


 《万象連結》を消すのではない。


 常時共有を外し、必要な時だけ全員の同意で結べる形へ変える。


 最後にレインとの糸を外す。


 他人の空腹も痛みも消え、自分の体だけへ戻った。


「少し寂しいな」


 レインが言う。


「ずっと繋がってたら、一人で考える時間がなくなるよ」


 アリアは答えた。


「離れても、必要な時に戻れる。それでいいでしょう」


 最終能力を得た直後、最初に選んだのは力を弱めることだった。


 それがオルディナスとの最大の違いだった。


 十九人は宿へ戻った。


 食堂の窓は二枚割れ、天井から白い粉が落ちている。椅子も半分倒れていた。


 それでも鍋は竈に残っていた。


「続き、食べる?」


 アリアが蓋を開ける。


 豆の煮込みは冷めている。


「温める」


 レインが指を出した。


「《微火》」


 三秒の火を薪へ移す。


 世界法則へ接続する必要はない。普通の火で、普通に鍋を温めた。


 十九人分の椀はない。


 先に九人が食べ、洗ってから残りへ回す。


「神を倒したのに、椀は増やせないの?」


 クロエが聞く。


「サンドラに頼めば作れる」


「椀一つにつき、記憶一つ」


 サンドラが答える。


「普通に洗おう」


 全員の意見が一致した。


 フィオは一杯目を食べながら、割れた窓の破片を気にしている。


「掃除したい」


「食べ終わってから」


「誰か踏むかも」


 ヴァレンが剣の鞘で破片を一か所へ寄せた。


 アルティシアは窓枠へ布を張り、ミルが曲がった椅子の脚を直す。セレスは食器の残りを数え、クロエが一枚隠して怒られた。


「癖で!」


「皿まで盗むの?」


「光ってたから」


「ただの油汚れよ」


 ベルはリュートを持ったが、弦が一本切れている。


 アリアが《糸接ぎ》で三秒繋ぎ、その間に新しい弦へ張り替えた。


「今のは神級能力?」


 ベルが尋ねる。


「宿屋の娘の裁縫」


 アリアは答えた。


 ネーミリアが宿帳を拾う。オルディナスの白い光に消された文字は戻っていた。


 ネーミ。


 自分で書いた名も残っている。


 シェアは竈の火に新しい色を見つけた。


「昨日までなかった色」


「どんな?」


「管理されてない色」


「また、あなたにしか見えないの?」


「うん。でも見せられる」


 一人ずつへ共有する。


 同じ色を見ても、フィオは焼けたパンを思い出し、ミルは溶鉱炉、アクアは夕焼けを思った。


 同じものを共有しても、感じ方は違う。


 それを直す神は、もういない。


 ゼノグラードは入口に立ち、食堂へ入らなかった。


「お前も食べろ」


 レインが言う。


「捕虜へ食事を与えるのか」


「裁判まで飢えさせる理由はない」


 アリアが一番欠けた椀へ煮込みを入れた。


「宿代は?」


「持っていない」


「帳簿の仕事で払って」


「世界を救った参謀へ?」


「世界を危険にした参謀でもあるでしょう」


 ゼノグラードは反論せず、椀を受け取った。


 許されてはいない。


 それでも食事をし、明日から責任を取る。


 夜明けが食堂へ差し込む。


 最終決戦の後にあったのは、王の祝宴でも神の奇跡でもない。


 冷めた豆の煮込みと、足りない椀と、片づけるべき破片だった。


 十九人は交代で食べ、全員で宿を掃除した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ