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70話 待望の我が子との初対面

ブゥーン!ブゥーン!・・・

携帯電話のバイブレーションが2回ほど鳴り、その後すぐに音が止まった。コウジと事前に打ち合わせをしていた合図だった。


「・・・」

使われていない廃墟ビルの屋上から、とある東京の郊外にある雑居ビルの入口を監視するように、スナイパーライフルで覗き込んでいると、黒尽くめの武装した怪しい男達がビルへ入って行くのが見えた。


パーンッ

パーンッ

パーンッ

パーンッ

パーンッ

パーンッ


先ほどのコウジからの合図通りに狙撃した。観測者が横についていなく、久しぶりの武器だったためターゲット全員の始末は出来なかったが、たった4名の侵入ならコウジ一人なら素手でも問題ないだろうと判断し、スナイパーライフルの片付けをしていた。


本当は私がビル内へ行きたかったが、あの人の言う通り、組み手で勝つことは出来ていないのも事実だったため、あの人らしい調子の良い理由であったが、仕方なくそこは譲った。元々会うことが出来るのだからこれくらいはしょうがない。


また、ビルであの子を回収するのではなく、その前に自宅にいるタイミングで保護するという案もあったがそれはやめた。

理由は、まだ何も起こっていないタイミングでやると、保護ではなく誘拐になってしまうからだ。警察が動くのも面倒ではあるが、それ以上にあの子に説明をしても納得してくれることはないだろうと思った。当たり前だ。こちらが知っているあの子の会社の情報もこちらがハッキングという犯罪をして得た情報である上に、そんな誘拐犯である私達の言葉を素直に信用するわけがない。

やむ終えないが、ビルで接触し、回収する流れが一番良いだろうという判断だった。


もう少しであの人が娘をここに連れてくる。そう考えると体がソワソワした。

自分の調べでは、どんな顔をしていてどんなスタイルをしているのか、性格もわかっているつもりだったが、いざ直接会うとなると楽しみでいるのと同時に、多少の不安もあった。

もしかしたら、自分を孤児院に預けた両親を恨んでいるかもしれない。しかし、もしそうだとしても受け入れるしかないし、その覚悟はしていた。


それよりも、いざ子供が目の前に出てきたら、母として自分が自分ではなくなってしまうのではないかと思っていた。あの子のことになると感情が暴走する。

自分が母としての自覚を持つことで、人として精神的に弱く変化してしまうのではないかと、今更になって思っていた。

しかし、だからと言って、会わないという選択肢は取れない。それでは死ぬに死にきれない。


もちろん今から会うと言っても、自分達が本物の両親であることは絶対に言わないことはコウジとは事前に決めていたし、自分自身その意向には賛成だった。自分達の告白で子どもが危険な目にあうリスクを増やすのはバカバカしいことだからだ。


ブゥーン!ブゥーン!


携帯のバイブレーションが鳴っている。コウジからの着信だった。


「もしもし?」


「あー思った通り・・・素人じゃ」

電話越しからコウジがそう呆れた口調で答えた。例の依頼先の会社のことだった。実際の自分たちの問題として、昔よりは減ったとはいえ命を狙われているの事実だった。そんな自分たちの命を守ることを報酬としてこちらから提示をしたのだが、これは実際に出来るわけがないことを分かっている上での提示。つまりいやがらせをこちらからしたに過ぎなかった。


「そりゃそうよ・・・純粋に仕事の依頼をしてきたの?」


「いんや・・・おそらくダブル狙いじゃ。ワシ達も随分舐められたもんじゃわい。若い頃はこんなことありえんかったのにのぉ」

ダブルとは、こちらに仕事を依頼し、あわよくばこちらに懸かっている懸賞金を狙うことだった。たまに腕に自信がある犯罪組織が懸賞金狙いで襲ってくることがあったが、苦戦をしたことはない。


「相手は1人?」


「そう、1人じゃ。降参を促したがそのまま襲ってきたから殺っちゃったわい」


「・・・そう」

特にここまでは問題なく感じていた。


「今から追手が来るはずじゃ。ビルの中に入っていく人を見かけたかの?おそらく武器持ちじゃ」


「・・・もうやったわよ。10名確認できたわ」


「おぉーさすがじゃ。10名いたけど全員始末できたんじゃな」


「いいえ・・・4名、そのまま中へ入っていったわ」


「はぁ?ま、待て。4名取り逃してビルに入った?冗談じゃろ??」

コウジの呆れた声が聞こえた。その瞬間、「だから言ったんだ」という言葉が頭に浮かんだ。本当は2人一緒にビルに入る案も検討したのだが没になったのだ。その理由は2人のやり方があまりに違ったため、本番になった時は揉める可能性が高いとのことでコウジの方から無しとなった。普段の仕事では綺麗に噛み合うのだが、自分の子供が関わるとなると、どんな意見も面白いくらい噛み合わなかった。


「観測者なしで同時に10名全員始末するなんて無理よ。それに入り口も他にあるから視認できる範囲が限られてるわ。6人も始末出来れば十分でしょ。あとは自分でやって」

それに、子供と会うのを譲ってやったんだからそれくらいは文句言うな。とも言いたかったが、それは言わないでおいた。


「い、いやワシだけならそりゃー余裕じゃけども・・・」


「・・・」


「あと・・・交渉役が何も知らん娘じゃったのよー」

来たこの会話。このわざとらしい演技ということは、この会話もあの子に聞かれていることだと察した。これも予定通りだった。しかし、


「このままだと危ないから拾ってきてええか?」


「当たり前でしょ!!!必ず無傷で連れて来なさい!!!」

そう大声で怒鳴り散らすと「はっ⁈」と我に返った。我が子に対する思いが急に爆発したかのように、情緒不安定な部分を見せてしまった。


「そ、そんなに怒らんでええじゃろ・・・ちゃんとワシが責任持って世話をするから」


「悪かったわ・・・」

コウジは相変わらず淡々と演技をこなしている。いざこうやってみると、ビルに入る役はコウジで正解だと思った。自分があの子と直接会っていたらどんな醜態を晒すかと考えていた。


「・・・余計なことはしないで殲滅したらすぐに外に出るのよ。遊んだりしないこと。分かった?」


「わ、分かったわい・・・そんなことより相手の装備は?」


「・・・全員銃とナイフを持ってるわ。武器の型は遠くてわからない。さっさと片付けて帰ってくるのよ?最近は本番の時ほど余計な怪我が多いんだから。今からならビルの中に私も入れるわよ?」


「もー分かってるわい!ワシだけで大丈夫じゃから!お前はすぐ脱出できるよう車の用意しておいてくれ!もう切るぞ!」

口うるさくなってしまい、それが面倒になったのか無理やり電話を切られた。


「あの人のことだ・・・念のためビルの出入口を直接見張っておこう」

最近、変に仕事に対する詰めが甘い部分が散見されるところがあった。もしかしたら取り逃がすこともあり得るため、その時は自分が始末しなければいけないと考えた。

使用したスナイパーライフルを手際よく解体すると、ゴルフバックにしまい、車まで運び終え、そのまま車の中でビルの入口を監視していた。


「私も気を付けないと・・・プロとして」

先ほどの感情的に声を荒げてしまったことを反省しつつ、いざ目の前に子供が来たとしても徹底して表情を変えずに、相手にもその事実を悟られないようにする。それが今回の最大のミッションであることを自分に言い聞かせていた。


ブゥーン!ブゥーン!・・・


すると、またケータイのバイブレーションが鳴ったため、電話に出た。


「あー今終わったわい。これから合流地点Aに向かう」


「そう・・・ところで、非常階段からカンカン音が聞こえるけど、逃したんじゃないわよね?」


「・・・確かに1人逃げられたわい。じゃあ処理はお願いするぞい」


「はぁ・・・いい加減、仕事中に遊ぶのはやめて」

イライラしながらそう言った。


「べ、別に遊んでなんかないぞい!真剣に任務してたわい!」


「もういいわ・・・」

これ以上イライラしたくないと思い、話を終わらせようと、イライラしながら乱暴に電話を切った。


すると、


「くそっ!あんなのを相手にしてたら命がいくつあっても足りねぇ!!」

ビルの入り口から、命からがら逃げ出すかの如く、黒尽くめの男が1人出てきた。先ほどスナイプし損ねた男であることがすぐにわかった。


「ふぅー・・・なんとかならないのかしら。あの人の遊び癖・・・」

コウジの甘い仕事に対して文句を言うと、車から降り、ビルの方へと歩いていった。すると、ビルから出てきた男はこちらに気づいた様子だったが、構わずに走ってビルから離れようとしていた。


「ど、どけぇ!!」

そういうと男は走りながらこちらに銃口を向けていた。


パンッ!


「・・・」

男のもった銃から弾が出る前に、こちらの持っている銃から弾が発射された。銃から微かに煙が出ていた。


「・・・暇ね」

そういうと再び車の中で待機をしていたが、10分ほど待ったくらいで2人が車に乗り込んだ。



「(・・・ついに来たわ!)」

心臓が飛び跳ねた。ここまで緊張したのはいつ以来だろうか。あの人と四六時中、森の中で追手に追われていたサバイバル生活かもしれないと考えていた。


「戻るのが遅かったわね。久しぶりだったからだいぶ手こずったのかしら?」

しかし、緊張を悟られるわけにはいかない。平静を装わないとと、自分に言い聞かせながらそう話しかけた。


「いんや全然・・・ただ、桃子に教えながら、いや守りながらだったんでついのぉ」


「教えながら?はぁ・・・また余計なお遊びを挟んでたのね」


「ま、まぁまぁ!実践を見せるられるのは中々無い経験なんじゃからええじゃろええじゃろ!」


「で・・・この子が桃子さん?」

後部座席に乗り込んだ女性。情報で調べた通りの人物だった。紛れもない自分達の子供が事情も分からず戸惑った表情を見せていた。


「あ、荒波桃子と言います・・・助けてくださってありがとうございます・・・」


「・・・」

向こうからそう挨拶をされたが、何も反応できず無視をしてしまった。初めての対面になんて声をかけていいか分からなかった。今の自分はどんなことで口を滑らすか分からない。それほど自分に自信がないほど、実の子と対面できたことに対して歓喜の気持ちでいっぱいだったからだ。


「あー桃子・・・こいつはワシの嫁の」


「ケイコよ」

コウジが話を振ってくれたことでようやく口を開いた。歓喜の気持ちを悟らせないように。


それから他愛のない話をコウジとしばらくした後に、桃子の方から質問があった。

「この車はどこへ向かうのか?」という質問だった。これから自宅へ向かい、そこで一緒に暮らすと伝え、殺し屋の訓練もすると伝えると大騒ぎを起こした。


「い、いやです!なんでそんな危ないことをしないといけないんですか!も、もういいですここで下ろしてください!」


「それはダメよ。命を狙われてたばっかりなのにここで降ろせば危ないわよ」


「で、でもこのまま家に向かったら私、殺し屋になるんでしょ!?そんなの絶対に嫌よ!!」

コウジが気を利かして説明をしてくれていると期待した自分がバカだった。まさかここまで反発されるとは思っていなかった。殺し屋の特訓をする理由も私達の子供であるからこそ、いつ命が狙われるかが分からないため、自衛できる力を身に付けてもらいたかった。


そのためにも、素直に自分たちが実の親であることを伝えた方が今考えると早かったかもしれないが、今更その事実を目の前で伝える勇気も私にはなかった。


「・・・どうしても嫌なの?」


「ぜ、絶対に嫌!また危ない目に合うなんてごめんよ!!」

自分の子供にどうしたら言うことを聞いてくれるだろうかと必死に考えたその時、とある方法を思いついた。親としてこのやり方が正しいかどうかは分からないが、余計なことを言う必要もないためすぐに行動に移した。


「そう・・・仕方ないわね・・・じゃあここで死になさい」

そういうと、我が子に銃を向けた。


「・・・えっ?」


「もう一度言うわ。あなたは私たちと一緒に暮らして殺し家として修行をしてもらうわよ。断れば今ここで殺す・・・このまま家に向かうわよ?良いわね?」


「コクッコクッ!!」

効果は抜群だった。実の親として初めての子供に対するしつけに成功し、強い達成感を得ていたが、家に帰った時に一言コウジからこう言われた。


「実の子供に対してはあれはやりすぎじゃ・・・」

そんなことないと思っていたが、それが原因であの子は無断で東京に帰ってしまった。

あの人の言う通りやりすぎてしまった。あの子が家に帰る前に、養母を避難させる予定だったからこそ、銃を向けたことを後悔した。


「母親って難しいのね・・・」


「ああ、殺し屋業務より難しいと思うぞ・・・」


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