69話 コウジ VS ケイコ
「待てケイコ・・・どこへ行くんじゃ?」
「どこへって決まってるでしょ?あの子に会いに行くのよ・・・」
その日の夜、報告の共有が終わり、ハリーが帰った後のことだった。ケイコは東京へ向かう準備を早速していた。
「ダメじゃ・・・行ってはならん」
「・・・」
コウジの制止に何も言わずに黙々と出かける準備をしていた。
「お主も分かっておるじゃろ・・・あの子は今、表の世界で別の母親と一緒に生活しておる。裏の世界に住んでいるワシ達が会いに行ってみろ。危ない目に遭うかもしれんぞ」
「そんなことにはならないわ。そうなったら私が全力で守ってみせるもの」
「こんな老いぼれのワシに一度も勝てないお主がか?」
「・・・そうよ。そこらへんの敵ならまず負けないわ・・・」
コウジが強めの言葉を投げかけるも、全く動じていなかった。
「忘れたのか・・・?そんなワシ達ですら守りきれなくて、知らない国に置いてけぼりにしたんじゃ。ワシ達は子供1人守れなかったんじゃぞ?」
「・・・あの頃と今は違うわ」
何を言っても行く準備を止めるつもりはないようだった。
「お主も分かっておるはずじゃ・・・あの子の未来を守るためにも、そっとしておくのが一番なんじゃよ」
「・・・あなたはあの子に会いたくないの?」
「・・・」
ケイコから鋭く、耳の痛い問いを投げかけられ、黙っていた。
「あの子を置いて行ったことを今日までずっと後悔したわ。あの時、一緒に連れて行ってたら、戦争に巻き込まれずに今も一緒に居れたかもしれないのにって。そんなことを毎日考えていたわ」
「け、ケイコ・・・」
ケイコの口からずっと抱えていた気持ちを初めて聞き、言葉が出てこなかった。
「今ここであの子に会いに行かないと、また同じようなことがまた起こるかもしれないじゃない。もう私は後悔はしたくないのよ。だからお願い。止めないで・・・」
そう言うと立ち上がり、玄関へ向かった。
「だ、ダメじゃケイコ!」
外に出ようとしたケイコの前を塞ぐように立った。
「今あの子には新しいお母さんがいる。ワシ達が急に会いに行っても、事情の知らないあの子にとってはワシ達はただの不審者じゃ」
「・・・それでも構わないわ」
「それに・・・ワシ達が接触したせいで、裏の人間どもにずっとマークされることになったらマズい!」
「・・・じゃあ、あの子と会える距離にいるのに、会わないで死ぬまで一生我慢してろって言うの?」
「・・・くぅっ!」
ケイコの言うこともごもっともだった。そんなことを言っていたらいつまで経っても自分の子供に会いに行くことなんてできないのではとも思っていた。
「どうしても会いに行くのを邪魔するのなら・・・あなたを殺してでも行くわよ?」
そう言うとゆっくりと組み手でよく行う構えを見せた。
「こ、これ!よさんか!」
「うるさい!私はあの子に会いに行くのよ・・・!」
そう言うと、首筋を狙い澄ました様な手刀が飛んできたのをギリギリで避けた。
「(だいぶ頭に血が昇っておる・・・)」
普段の冷静なケイコはどこにもいなく、目の前にいるのは必死に我が子のことを思う1人の母親だった。
「こりゃ本気でやらんと、こっちがやられるわい・・・」
それから荒れ狂う母虎のように、ケイコは暴れた。気を失わせることを前提として本気の攻撃だったため油断していると一撃で意識が持っていかれると判断し、こちらも同様の攻撃をするも、いくら攻撃を与えても倒れることもなく、諦めずに立ち上がっては再び攻撃を繰り出していた。そんな戦いが朝まで続き、その時にはようやくケイコも体力を失い、倒れていた。
「いたた・・・ケイコめ。本気でやりおってからに部屋がボロボロじゃ・・・」
「うぅ・・・!」
お互い満身創痍になりながらも、なんとかケイコを食い止めることができた。部屋は猛獣が暴れ狂った後のように、家具や衣服が散乱していた。
「ふぅ・・・ケイコ。とにかく一度また冷静になって考えよう。何か良いアイデアがあるかもしれん」
ケイコにやられた打撲跡をさすりながらそう言った
「・・・何よ。アイデアって」
床に倒れながら天井を向きながら聞いていた。同じく顔は腫れ、至る所に流血と打撲跡があった。いや、傷の数はコウジの2倍以上だった。
「それは分からん・・・とにかく昨日の今日の話じゃ。焦って結論を出して良かったことなど一度もない。そうじゃろ?」
「話にならないわね・・・」
代案を出せなかったことに大して、そう言いながら、口の中に溜まっていた血を吐き捨てた。
「それならまた今度、私と組み手で勝負しなさい」
「・・・?勝負して、どうするんじゃ?」
「私が勝ったら、その足でそのままあの子に会いに行くわ」
「・・・何言っとるんじゃ。ワシに勝てるわけないじゃろ・・・」
「・・・言ったわね。今の言葉、覚えてなさいよ」
それからと言うものの、ケイコからの不意打ちから始まる組み手が隙あれば発生していた。その都度、コウジが勝ってはいたのだが、頻度があまりに多かったため、気が休まらない日が続いていた。
「け、ケイコ・・・!しつこいぞ!それにこのまま戦えばお前の体もマズいじゃろ・・・!」
「・・・だったら早くあの子に合わせなさい!」
頭を悩ませていたため折衷案として、子供の情報を常に集めることを提案した。この提案がケイコにとって効いた様だった。あれからケイコは時間があれば子供の情報を集めていた。
しかし、直接会うことを諦めてはいなかったようで、頻度は以前よりは落ちたものの、定期的に不意打ちから始まる組み手が場所を選ばずに発生していた。
食事中、入浴中、睡眠中、畑仕事中と、とにかくこちらの不意をつくことに全力を尽くしていた。
そんな生活が長らく続いた時、ケイコからとある報告が入った。
「ちょっと・・・」
「ん?どうしたんじゃ?」
ケイコにそう呼ばれたため、向かうとケイコがパソコンの前で座っていた。
「あの子・・・求人サイトで、とあるアルバイトに応募してるの」
どうやら持ち前の情報収集でよくやるハッキングをしていたようで、秘密裏にサーバー情報を覗き見をしていたようだった。
「・・・それがどうかしたんか?」
「そのアルバイト先・・・気になって調べたんだけど怪しいのよ」
「怪しいって・・・粉飾決算でもしてるとかかのぉ?そんなの、上場企業ならどこもしておるじゃろう」
子供のことになると異常に執着するのを知っていたため、大袈裟にそう言っているだけだと思っていたため、そう茶化した。
「違うわ・・・ここの会社。名前は大手企業の子会社という形で登記してあるけど、細かく調べると別会社がメインで稼働してて、その別会社のメイン事業がよく調べ込むと、裏稼業の内容ばかりなのよ。電話詐欺とか、マネーロンダリングとか、殺し屋への斡旋業とか」
「・・・それは本当か?」
自分が想像していたものよりも、大きい問題だったため、思わずそう聞き返した。
「私の情報収集力を知ってるでしょ?間違いないわ」
日本でも闇バイトという形で少しずつ流行り始めているのを聞いてはいたが、巷で流行っているものよりも巧妙で、大資本も関わっているスキャンダルであった。まさか、そんなものに自分の子供がこんなことに巻き込まれることになるとは思ってもいなかった。
「この子が応募した仕事・・・殺し屋への斡旋、紹介業だとしたらマズいわよ。直接裏業界の人間と繋がっちゃうわ」
「それはマズいのぉ・・・」
彼女自身が知らずに犯罪に巻き込まれるのは愚か、命を狙われる対象になりかねないと考えた。
「そうなる前にあの子に会いに行きましょう・・・」
「いや待て・・・ハリーに連絡してくれんか?」
「・・・なんで?」
ここでハリーの名前を聞いて不思議そうにそう尋ねた。
「その怪しい会社から殺しの依頼がないかどうか、ワシの方から聞くように言ってみてほしい」
「・・・それで?」
「もし依頼がある様なら格安で引き受けてやると伝えておいてくれ。その代わり・・・交渉役として荒波桃子を指名する様にとも伝えておいてくれ」
「分かったわ・・・」
コウジの意図がようやく理解でき、そう答えた。
「で、そのあとはどうするの?」
「交渉役として現場に来た時に桃子を回収した後はその会社を潰す。それでええじゃろ?じゃないとあの子が知らんうちに犯罪に巻き込まれるわい」
「・・・そうね。会社もそこらへんのチンピラが立ち上げたようなものみたいだし、簡単につぶせると思うわ」
ケイコもこの考えに賛成のようだった。
「じゃあ私がその現場に行って良いのね?やっとあの子と会えるわ・・・」
「それはダメじゃ・・・」
「・・・はぁ?」
あからさまな不機嫌な表情でコウジを睨んでいた。
「・・・どうしてよ?」
「お主、ワシに組み手で勝ってないじゃろ?だからワシが桃子に会いに行く・・・」
「・・・なんか納得がいかないわね」
散々こちらが娘に会いに行くことに反対していたくせに、私を出し抜いて先に会おうとしていたコウジの調子の良さに苛立っていた。




