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68話 あの子は間違いなくお前さん達の子供だ

「ハリー・・・!早くうちの子の居場所を教えなさい・・・!」


「コラコラ!よさんかケイコ!少しは落ち着け・・・」


「ぐ、ぐえっ・・・!話すから・・・離してくれ!」

興奮したケイコが来日し、家にわざわざ訪れに来たハリーの胸ぐらを掴み、揺さぶっていた。


「ごほごほっ!こっちの業界から離れて結構経つのに、力が全く衰えていない・・・たくっ!わざわざお前さんたちのために来てやってるんだぞ!」


「・・・悪かったわ」

そう言われると、手を離し、無表情のまま謝罪していた。


「ほれ・・・ハリーに緑茶でも出してやれ」

そうケイコに言うとキッチンに引っ込んで行った。


「・・・ケイコ?こっちでの名前か?」


「そうじゃ。そんでワシはコウジじゃ。ラストネームはミナガワじゃ」


「ほぉ・・・苗字までついてるのか。随分と力が入ってるじゃないか」


「それだけじゃない・・・なんと、戸籍まで手に入れておる。すごいじゃろ?」


「おいおい・・・どうやって調達した?何かやったのか?」


「大したことしとらんよ・・・たまたまボランティアでやったお仕事の関係者から、祖父母が亡くなったからってことで、ちょうど戸籍を譲ってもらったんじゃよ」


「随分と融通のきく知り合いだな・・・」

雑談をしていると、奥から緑茶の入った湯呑み3つをお盆に乗せて、ケイコがやってきた。


「おお、これがジャパニーズティーというやつだな!」


「ええ、そうよ。これ飲んだらさっさと話しなさい」


「せっかちなやつだ・・・あっちぃ!」

沸かしすぎたお湯で作ったようで、ハリーは飲み慣れていない湯呑みでなんとか頑張ってお茶を飲もうとしていた。


「ふぅ・・・味は悪くないが、俺はコーヒー派だな。それにしても調べるのに骨が折れたぜ。どこから話していいか悩むところだが・・・」


「そうじゃのぉ・・・とりあえず今知っている情報から話してくれ」


「ああ、分かった」

そういうと目の前にあるちゃぶ台の上に資料を広げた。


「まず居場所は東京の北区にあるPIKARAマンションの710号室に母と2人で住んでいる」


「母?養子か?」


「ああ、そのようだ。名前は荒波桃子。現在は高校生で受験勉強を頑張ってやってるようで、5歳で今の養母にあたる人物に引き取られている。それからずっと2人で生活しているようだな」


「信じられん・・・」

改めて直接会う時に詳しく話すとのことで、ハリーの来日を待っての話だったため、いざこうやって自分の子供の情報を聞けているこの状況が、夢を見ているかのような感覚だった。


「まぁぶっちゃけた話をするとだな、今回発見したこと自体はただの偶然だったんだ。タバコ・・・いいかな?」

そういうと、タバコを咥えた。


「構わんよ。で、何があったんじゃ?」


「子供を置いてった国で長い戦争があったろ?この前、たまたまその国在住の人から仕事の依頼で行ったんだ。依頼内容は戦争が始まる直前で消失した子供の捜索依頼だった」


「消失した子供の捜索?」


「ああ、たまたま戦争が始まる前に呑気に観光をしていたみたいでな。戦争が終わった頃にようやく入国ができるってもんだから。そのタイミングでその国に移住しては子供を探しているんだと」

たまに聞くような依頼内容だった。戦争に巻き込まれた行方不明者を探す依頼は骨が折れる。証拠もなく闇雲な調べをするしかないため、殺し依頼よりもよっぽど難易度の高いものだった。


「・・・まず見つからんじゃろ」


「ああ・・・俺も正直受けようか迷ったが、お前さんたちの子供の件もあったし、その依頼主も金払いは良かった。せっかくだし受けてみることにしたんだよ。すると・・・面白いことがわかった」

そういうと咥えていたタバコの灰を落とそうとしたが、灰皿がないことに気付いたため視線をウロウロさせていると、ケイコが灰皿代わりに刺身用の小皿を持ってきた。


「次、家に来たときは携帯灰皿を持ってきなさい」


「なんだそりゃ?灰皿くらいないのか?」


「ない・・・ワシ達は吸わないからのぉ」


「そうか。じゃあ外で路上で吸えばよかったな」

そう言うと、外に出ようと腰を上げようとした。


「日本では路上でタバコを吸ったら罰金なんじゃよ・・・」


「なんて住みにくい国なんだ・・・治安が良いとは聞いていたが、そこまでやる国とは思わなかったよ・・・」

そうコウジに言われ、上げかけた腰を下ろした。


「・・・あなたのタバコ事情の話を聞くために招いたんじゃないのよ?」

ケイコがハリーの本筋と関係のない話をしたせいで、あからさまに苛立っていた。


「わ、わかったから・・・そんなイライラするなって・・・ほら、タバコでも吸うか?」


「・・・そんなに私を怒らせたいのかしら」


「・・・なんだか昔より短気になった気がするなぁ・・・いやなに、面白いことというのは、戦争が始まる前に依頼主と同じように失踪した子供が他にもいたんだよ。それも50名ほど・・・」


「50名・・・ちょっと多いのぉ」


「そうだろ?戦争が始まってるのならそれくらいの子供が戦いに巻き込まれて行方不明になるのは普通だが、戦争が始まる前の話だったからおかしいと思って、とにかく足を使って調べたんだ。すると、とある場所で次に繋がる話を聞けたんだ」


「とある場所とは・・・どこじゃ?」


「その場所は・・・日本大使館だった・・・」


「っ!」


「・・・この先はなんとなく想像がつくんじゃないか?」

そういうと再びタバコを咥えて、火をつけた。


「まさか・・・戦争が始まる前に、街にいた子供を避難させてということか・・・?」


「ああ、そのようだ。たまたまその国に青年海外協力隊というボランティア団体が来ていたようで、親のいない子供、もしくは親はいるが親の依頼を受けた子供を、難民という形で避難させていたそうだ。おかげで依頼主の子供は日本にいたんだが、そこでなんとお前さん達の子供も一緒にこっちへ避難していたということがその時分かった。その発見した例の子は、そのボランティア団体が運営している孤児院出身だったからまず間違い無いだろう・・・」


「な、なんということじゃ・・・」


「な?頑張っただろ⁈」

ハリーが美味しそうにタバコを吐き出している。まさに一仕事を終えたような表情だった。


「ハリー・・・質問いいかしら?」

今まで黙って聞いていたケイコからそう問いかけられた。


「・・・どうぞ」


「その見つけた女の子が本当に・・・私たちの子供であることを、あなたは証明できるの?」


「・・・」

咥えたタバコを黙って右手に移して、苦い顔をしながら煙を吐き出していた。


「あの時、子供を産んですぐに街に残してきた。自力で産み落としたから血液も知らないし、DNA鑑定でもしない限り、その子が私達の子供であることを証明することは難しいわよ?」


「さすがケイコ・・・痛いところを突くねぇ〜・・・」


「まぁまぁ・・・年齢、性別、ボランティア団体が引き取った孤児院出身、色々な情報が出ているんじゃ。そこまで分かってるのなら後はワシ達だけで調べられる。十分じゃよ」

ケイコの言うことも正しかったが、ハリーの仕事は十分に可能性を感じられるような内容だったため、希望を感じずにはいられなかった。


「・・・クックック。おいおい、まさか俺の情報がここで終わりだと思ってるのか?」

先ほどまで苦い顔をしていたのが、笑いを堪えるような悪巧み顔をしていた。


「・・・何?まだ何かあるの?」


「あると言ったら・・・どうする?」

勿体ぶるようにハリーがケイコの顔を挑発するように視線を送っていた。


「・・・もったいぶらないで話していないことがあるなら早く話せ・・・!」

そう言うと、高速でハリーに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。


「は、話すから・・・離して・・・ごほごほっ!」


「け、ケイコ・・・ほれ、離してやれ・・・!」

なんとかケイコを抑えてハリーを解放させた。


「ごほごほっ!本当にユーモアもなにもない女だぜ・・・!少しは格好つけさせてくれよ・・・」

再び咳をしながらケイコの乱暴な対応に毒ついていた。


「お前さんも懲りない奴じゃな・・・」


「さっきも言っただろ?調べるのに相当骨を折ったんだ。多少はもったいぶらせてくれよな・・・ごほっ!」


「骨折ったって・・・あれで終わりじゃ無いってことかのぉ?」


「ああ・・・ここまで調べて、結局その子がコウジとケイコの子供じゃありませんでしたってオチだと興醒めものだろ?」


「まぁ・・・仕方ないことだとは思うが・・・」

有り得る話しではあるため、その可能性も受け入れつつそう答えた。


「お前さんにとっては仕方ないかもしれないが・・・情報屋として飯を食ってる身の俺としては納得できない。そこで1週間ほど尾行した。何か分かることがあるかもしれないと思ってな・・・」

昔からいい加減な男だったが、得意分野においてはプライドを持っているようで、そのプライドに恥じぬ仕事をしているようだった。


「・・・何かわかったんか?」


「ああ・・・分かったよ・・・」

そう言うと、意味ありげな間を作るように、咥えていたタバコの火を消した。


「なんじゃ・・・すごいことって・・・」


「たまたまその子を尾行していた時にラーメン屋に入って行ったから、後をつけてそのラーメン屋に一緒に入ったんだ。その時のラーメンがまたなんとも美味くてな・・・日本ってこんなに食事がうまいとは思わなかったよ。俺、移住しようかなって・・・」

そう言い掛けた時、ケイコから殺気の込められた鋭い視線が送られていることに気づき、ごほんと咳払いをした。


「で・・・そのラーメン屋で会計をしているときに財布の中身が見えたんだ。お守りのような袋が入っていた。俺はそれに妙な違和感があったんだ」


「違和感・・・?」


「ああ・・・その御守りはボロボロだったのに財布は新しかったのさ。これはつまり、財布を買い換えても御守りは捨てずに持っているってことだ。相当その御守りに思い入れのある証拠だよな?」


「あ、ああ・・・そのようじゃのぉ」

ここだけ聞くと特に違和感を感じるような話には聞こえなかった。たまたまその御守りが、その子にとって何か思い出があるから、財布を買い換えた後も持っているだけなのではとしか思えなかった。


「いや言わなくていい!分かるよ!気のせいだと思うんだろ?ただ俺はずっと情報屋としてこの業界で生きてきた身として、あの身なりのお嬢さんが律儀にあんな地味なお守りをボロボロになるまで持つようなタイプじゃないと見たんだ。気になった俺は隙を見て、財布を一瞬だけ拝借させてもらった・・・」


「それはまた随分と頑張ってくれてるのぉ・・・」


「まぁ・・・人混みの中でシュッとね。やったのよ。そしてその財布の中身を確認して、その御守りの中身を確認した・・・」


「・・・」


「中身・・・なんだったと思う・・・?」

声のトーンが低くなり、急に緊張感のある空気になっていた。


「あなたね・・・またしょうもない回答でもしたら、次は咳き込むだけでは済ませないわよ・・・」


「・・・」

ケイコがイライラしながらハリーにそう牽制をするも、ハリーの態度に変化はなかった。


「その子の持っている御守りの中には・・・これが入ってたよ・・・」

そう言うと、ちゃぶ台の上にそのお守りの中身であろう物の写真を置いた。その写真に写っているのはボロボロのメモ紙でシワと汚れが酷く、かろうじてその紙に書かれている英文をなんとか読み取ることができるような状態だった。


「っ!!!」

ケイコはそれを見ると、大きく驚いた様子で声も出ないようだった。


「俺もお前さん達の子供を置いて行った時は一緒に居たからな。そのメモ紙に書かれている英文は俺も知っていた」


「your name Peace そう書かれている。あの子は間違いなくお前さん達の子供だよ」

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