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67話 子供の生存報告

赤ちゃんを国境を超えた国に置いて行った後は、さらにそこから西へ逃げた。

追手のゲリラ組織はこちらを追いかけるようにやってきていたが、政府が支援しているとはいえ、別の国にまで入ったことが国際問題に発展した。おかげでこちらの追跡を諦めてくれたようだった。


それから新天地で生活するために、殺し屋業を営んでいたが、ある程度の蓄えができたら転々と生活拠点を変える生活をしていた。いつまた追手が来るかわからないからだ。


その都度、置いて行った赤ちゃんの存在が気になっていた。特にウルフがそうだった。ただでさえ無口だったが、赤ちゃんを置いて行った日を境に、さらに無口になっているように見えた。


ハリーには悪かったが、格安で自分達の赤ちゃんの情報収集をお願いした。依頼した情報は生存しているかどうか、それだけだった。生きていたら無理矢理にも探しに行こうかとも思っていたがやめた。

自分達のような、いつ命が狙われるか分からない人種の元にいる方がよっぽど危ない。それに殺し屋家業と言うこれまた危ない職業で生活を続けている親の元にはいない方がいいと、心から思っていた。とはいえ、生きているかどうかだけでも知りたかった。


しかし、情報収集が得意なハリーでも結果は「不明」だった。確認できなかったのだ。

ハリー自身も逃亡生活をしながらの情報収集な上に、子供を置いて行った国はまさに国際問題が起こっているデリケートな時期だったため、まともに情報を集められなかったのだ。さらに最悪だったのが、その国際問題をきっかけに戦争が勃発し、戦争終結になんと10年もかかった。

自分達の目で確認はしていなかったが、多くの戦死者が出ていたため、もはや絶望的状況だった。


それからというもの、赤ちゃんがいたことを忘れるかのように殺し屋家業に打ち込んだ。ウルフも情報収集と幅広く銃火器を扱える能力によるサポートのおかげで、その業界では瞬く間に有名になった。


しかし、その有名になると言うことが一概にも良いことばかりではなかった。いや、むしろ敵を余計に増やすだけの行為に思えた。同業者からのやっかみ、元クライアントからの口封じによる襲撃、その度に面倒だと思いながらも返り討ちにしてはまた知名度が上がる。


そんな連鎖が続いていたが、この方法でしか働き方を知らない自分達にとって、文句は言えなかった。仕方のないことだとそう自分に言い聞かせながら、いつの間にか20年近くが経過しており、それと同時に自分の体に少しずつ衰えを感じるようになっていることにも気づいた。今までは当たり前のように出来ていた動きで息を切らすようになり、射撃のミスが目立つようになり、物を持つときに重さを感じるようにもなっていた。



今まではその場しのぎのように生活圏を移動させていたが、本格的に殺し屋家業を引退することを考え、隠居をすることにした。その隠居先として決めたのが日本だった。

日本は特殊な国だ。先進国と言われているが、島国だったため自分達のような裏家業の出入りが少ない国だった。しかし、その分人気もあったため、偽造パスポートを手に入れるには相当のお金が必要だった。そのため今まで稼いできたお金のほとんどを、その偽造パスポートの入手に使った。


元々は1人で日本に移住し、隠居する予定だったが、なぜか「ウルフ」も付いて来るとのことだった。「ウルフ」はまだ若かったため、現役でも問題なく活動できたが、同じくこの世界に居続けるのに疲れている様子だったのと、唯一信用のできる自分がいない業界に居続けてもしょうがないとのことだったようだ。

なんとか2名分のパスポートを入手し、無事日本へ渡航することができた。


初めて日本へ渡航した時は信じられなかった。一番驚いたのは治安の良さだった。

夜に出歩いても何も起こらないし、どんな人間でも表の仕事がちゃんとあるし、食べ物や飲み物に困らないことなど、様々なものに恵まれているその環境のおかげでこの治安が確保されているのだろうと思った。

パスポートの入手に手こずりはしたが、手に入れた甲斐があるように思えた。


日本に渡航してからは、戸籍もとある事情により手に入れることが出来た。これについては話せる機会があれば話すが、とにかく住む場所にも困らず、生活をする上で申し分なかった。

たまに殺し屋家業をしていた頃の噂をどこからか嗅ぎつけて依頼をしてきたり、襲撃してくる輩もいたが、日本という治安の高い国にいるおかげで、襲ってくる敵自身もまともな武器も持つことが出来ないため、撃退するのに手間がかからなかった。


そうして平和な生活を送ることが出来たため、以前から興味のあった家庭菜園にも挑戦してみた。興味を持った理由は、自分自身で何かを育てるということをしたことがなかったからだった。生きるものを殺すことしかしてこなかった身として、何かを育てるという行為は、とても特別なことのように思えた。


また、日本にいて分かったことがあった。それは死んだ家族がいる家庭には仏壇というものを家に置き、故人を奉るという文化があるということだった。たまたま古くて使われなくなった古民家を無料同然で引き取った時にも、古い仏壇があり、その時にその文化を知った。


「あの子のためにも、ここに奉ろう・・・」

そう言い、自分なりに調べた見様見真似の形で、日本流に奉っていた。すでにあの世にいるであろう我が子のために、ケイコと一緒に仏壇へ線香を毎日あげるのを日課にした。我が子の名前「平和」の文字を書いた和紙を飾って。


そんな生活をして早5年ほど経過した。平和な日本での生活にも慣れてきた頃だった。


「やぁ・・・元気か?電話番号・・・あってるよな?」

久しぶりの戦友からの電話は、イヤに明るいテンションだった。


「ハリーか・・・おお、合っておる。元気じゃよ・・・」


「なんだなんだ・・・随分とジジくさい喋り方になってるな。日本が平和すぎて老化が進んでないか?」


「年相応の喋り方で生活しないと周りから不審がられる。それに年相応の生活がしたいからのぉ・・・」


「なるほど・・・普通の生活をするのにも努力は必要ってことだな」


「そういうことじゃな・・・ところでお前さんから連絡して来るなんて、何かあったのか?」

ハリーから連絡が来るというのは決まって、業務連絡であるのだが、思い当たることがなかった。


「おいおい・・・俺に依頼したことを忘れたのか?」


「なんのことじゃ?ここしばらくお前さんに依頼なんてしてないじゃろ?」


「・・・そりゃないぜ。俺は2人が喜ぶ仕事をしてきたんだ。もう少しウェルカムな雰囲気を出してくれよ」


「・・・くどいのぉ。なんの話じゃ?」

ハリーの明るいテンションに付いてこれず、そのしつこいテンションに気怠そうにしながらそう尋ねた。


「・・・ほら。子供の生存確認の件。以前格安で俺に依頼しただろ?」


「・・・っ!」

もう20年以上も前に依頼した話だったのと、もうすでにこの世にいないと思っていたため、このタイミングでまさかその話を聞くとは思ってもいなかった。そのため、一瞬戸惑った。


「・・・まさかそんな昔の話を出して来るとは思わなかったわい。それで?それがどうかしたんか?」


「おいおい、どうかしたんかはないだろ?あれからかなり調べ尽くしたんだ。労いの言葉くらいかけてくれてもいんじゃないか?」


「労うも何も・・・もうすでにこの世におらんのじゃろ?10年間もあんな大きい戦争をしてたんじゃ。それとも遺骨でも見つかったのか?」


「あのなぁ・・・2人が喜ぶ仕事をしてきたって俺は言ったんだぜ?遺骨を見つけたくらいで喜んでくれるのかい?」


「・・・ま、まさか・・・っ!」

久しぶりに体に緊張が走り、冷や汗をかいていた。


「ああ、そのまさかだよ・・・2人の子供は生きている・・・しかもその居場所なんだが、なんと2人のいる国、日本だ。驚いただろ?」

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