63話 ね?行こうよ
「この獲れた野菜・・・あっちへ運んでくれ」
「うん・・・」
次の日の夕方、2人で畑で野菜の収穫をしていた。昨日の母との会話から誰とも顔が合わせにくく感じていたため、そっけない返事が続いていた。
「お母さんとお話したけど・・・ええ人じゃったぞ・・・」
「・・・そうだね」
「桃子のことも色々と話してくれたわい・・・」
「・・・もういいよ。そう言う話は」
話を終わらせるように言いながら、収穫した野菜を運ぼうとした。
「なぁ桃子よ・・・ワシだけに教えてくれんか?」
「・・・?な、何?」
イタズラする子供のように口に指一本立てながら駆け寄ってきた。
「大学に入った時、家に帰ってこないでそれを注意していたと母親から聞いたんじゃが・・・夜遊びとかじゃなくて何か事情があるんじゃろ?」
「・・・え?大学・・・?」
まさか急に大学生の頃の生活について尋ねられるとは思ってもいなかったため、少々驚いていた。
「今まで桃子と関わって、無闇やたらと夜遊びするようには見えんかった・・・むしろ自分を安く売るように見えん。仮にもしそうだとしても、何か事情があるんじゃろう・・・」
「・・・」
「ワシは他人の生き方にあれこれ言う気も権利もない。元々こんな仕事をしていたくらいじゃからのぉ・・・」
「・・・うん」
もしかしたら、なんとなくは察していたんじゃないかと思いながら、コウジのことを信用していたため、大学生の時にしていた生活事情について伝えようと思った。
「実は・・・そう言うことなの」
大学生の頃に夜になっても外を出ていた理由を伝えた。
「なんじゃそれ・・・?隠す必要なんてあるんか?そんなこと・・・」
「な・・・!まさか知らないで聞いたの?!」
勘の鋭いコウジのことだから、てっきりもう把握されている物だと思っていた。
「・・・知らないから聞いてるんじゃろ?」
「はぁ・・・余計なこと言っちゃったかな?」
「ぜひお母さんに教えてあげるといい・・・喜ぶと思うぞ?」
「そうだったら良いんだけど・・・いつも就職しろ就職しろって言うから、切り出すタイミングがないの。いざ言ったら言ったで、そんなことする時間があったら就職頑張れとか言われそうで、そんなこと考えてたらここまでズルズルきちゃった」
そう言うと、遠い視線を送りながらカゴに入れた野菜を運搬した。
「桃子・・・ワシは自分の親とは6歳の頃に内乱に巻き込まれて死んでおる。じゃからそう言う親子との関係についてはよう分からん。ただのぉ、少なくともワシが同じ立場じゃったらすごく嬉しいのぉ」
「そうかな・・・」
「親が生きているうちにしかできんことじゃ。良い機会じゃし伝えてみぃ」
「うぅ〜ん・・・」
「少なくとも親と2人きりになってしもうたら、また言うタイミングを逃すんじゃないかのぉ?」
「たしかにそうだね・・・うん、分かった。そうする!」
コウジから励まされたような気分になり、気持ちが少し晴れやかな気分になった。
「ねぇ・・・」
「・・・うん?」
「ありがとう・・・」
そうボソッと言いながら先ほどと同じように、カゴに入れた野菜を運搬した。
「フォフォフォ・・・子供を持つと言うのはええもんじゃのぉ・・・」
日は沈み、夕日となってあたりを眩しく照らしていた。
そして、日が沈み、いつものようにちゃぶ台を囲んで、4人で夕飯を取った後だった。
「ねぇ・・・お母さん・・・」
夕食を4人で摂った後、そのまま居間で声をかけた。親子の寝室で話すこともできたが、コウジの言った通り、言うタイミングがまた逃してしまうと思った。
「どうしたの?」
「・・・そ、その・・・なんというかさ」
気恥ずかしい気分になりながら、言葉を詰まらせていた。
「ど、どうしたの?まさかまた何か悪いことでもしたの⁈」
「そ、そんなじゃないよ!」
「だったらどうしたのよ?」
煮え切らない話し方に痺れを切らし始めていた。嫌な予感をしているようだった。
「あ、あのさ・・・もし良かったら、一緒に旅行にでも行かない?」
「・・・え?旅行?」
「うん・・・旅行・・・」
思わぬ言葉が娘の口から出ていたようで驚いた様子だった。
「お母さん・・・ずっと働き詰めで旅行とかしたことなかったじゃない。今は病気で働けなくなってるし時間もあるし。どうかなぁ〜って・・・」
「りょ、旅行?桃子と私の2人で?」
母がそう問いかけると黙って首を縦に頷いた。
「北海道でも沖縄でもどこでも良いからさ。行こうよ。もうゆっくりしてほしいんだよね・・・ほら、お母さん。いつも私に就職しろ就職しろって言うけど、一度就職したら長期で旅行なんて自由に行けないでしょ?今回のトラブルで私も新しくお仕事探さないといけないし・・・それまでどうかなって」
「た、確かに旅行なんてもうずっと行ってないけど・・・だけどお金はどうするの?昔と違ってまともに働けてないからそんな余裕もないわよ?」
そう言いつつも、娘からの急な提案で動揺しつつ、内心照れている様子だった。
「お金は大丈夫・・・大学生の時にアルバイトで貯めていたから・・・」
「・・・え?」
「大学の時、帰るのが遅かったりしてたでしょ?あれ、アルバイトしてたんだよね?旅費を貯めるためだったの・・・いつも口癖で旅行に行きたいって言ってたでしょ?あの頃から病院通いも多くなっちゃったし・・・」
「っ!」
この話を聞いた瞬間、娘が大学に入学した時の生活態度について口酸っぱく注意をしては喧嘩をしている光景を思い出していた。娘の告白に信じられないのか片手で口元を覆う仕草をしながら固まっていた。
「じゃ、じゃあ大学に入ってから家に帰らなくなったりしてたのは、旅費を貯めるためだったの・・・?」
「だからそう言ってるじゃん!ただアルバイトで夜遅くまで働くって言ったら反対してたでしょ?夜遅くに働くなんて危ないとか言って心配するし、アルバイトするくらいならってお小遣い渡すだろうし。それだと意味ないから黙って外に出てたの」
そう言われると、何も言えずにただ黙っていた。
「そ、そんな・・・アルバイトで旅行に行けるほど貯められたの?」
「うん・・・」
「いくら・・・貯められたの?」
「う〜ん・・・4年やってたから・・・150万円くらいかな?」
「え?!ひゃく・・・?!」
「うん・・・だから海外のいろんな国にも行けるね」
金遣いが荒く、貯金とは無縁な娘の性格のことは母親としてもよく知っていたため、驚きの声があがった。
「大学の講義をでながらレポートも出して、アルバイトに出てたから大変だったけど・・・」
「桃子ダメよ!そんな大変になって働いて頑張って貯めたんでしょ?自分のために使いなさい!」
反射的に旅行へ行くことを反対していた。
「な、なんでよ!」
「なんでって・・・もったいないでしょう⁈あなたにはまだ先があるんだから。お願いだから自分のために使って・・・」
「なんでそんなこと言うのよ!!」
母の反論に大声で怒鳴りつけた。
「もう・・・一緒に旅行に行けるタイミングなんて・・・ないかもしれないんだよ?」
「も、桃子・・・」
ポロポロと涙を流しながらそう呟き、その様子に何も言えないでいる様子だった。
「私・・・お母さんに何もしてあげられてなかったから・・・血が繋がってないのにここまで育ててくれたから、せめて何か私からもしてあげないと・・・カッコ悪いじゃん・・・」
桃子らしいプライドの高さゆえの発言だった。
「そ、そんな・・・そんなことないわよ・・・桃子がただ元気に育ってくれた・・・それだけで私はもう・・・もう・・・!」
そう言いながら我が子を抱きしめながら涙を流していた。それにつられるように再び大粒の涙を2人で流していた。
2人の様子を見て、コウジはニコニコと笑みを浮かべ、ケイコは呆気に取られるような表情を見せていた。




