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61話 コウジの死

「はぁ・・・!はぁ・・・!!」

なんとか車に到着し、後部座席を開き、そこにコウジを横に寝かせた。そして、運転席を開けエンジンをかけた。ケイコが戻ってきた時にいつでも車を発進させられるようにするためだった。


「うぅ・・・」

その時、意識が戻ったのか後部座席から呻き声が漏れていた。


「お、起きたのね・・・!」

意識が戻ったことで一瞬安心したが、その声は弱々しかった。


「だ、大丈夫だから・・・!もうすぐ病院に行くから安心して・・・!」


「わ、ワシはもうダメじゃ・・・」


「えっ!?」

これまで頼りがいがあるこの老人から今まで弱音を聞くことはなかったため、コウジの口からそれが聞こえたことに驚き、そして不安が一気に襲ってきた。


「そんな・・・!やっと帰れるんだから・・・しっかりして!」


「ううぅ・・・こ、怖い・・・」

もう少しで自分の命がなくなると感じているのか、コウジが何かに怯えるようにうわ言を言っていた。


「もう終わったんだよ・・・⁈もう少しでケイコさんが戻ってくるんだよ・・・⁈」

声を震わせながらコウジの手をそっと握り込んだ。


「やっとお母さんを助けてくれたのに・・・お願い・・・死なないで・・・!」

小さくそう呟くように懇願しながら、ダムが決壊したかのように大粒の涙が溢れ出していた。


「うぅ・・・お願いだから・・・」

そう泣きながら力のない声をかけていた。その時、改めて他人のためにここまで涙を流したことがないことを思い出した。

自分のためにここまで体を張ってくれたことに対しての感謝と、そんな恩人がこの世からいなくなってしまうことへの悲しみで胸がいっぱいになっていた。


「こ、怖い・・・ケイコが・・・怖い・・・!」


「・・・え?」

コウジから聞こえた言葉を聞いて、数秒ほど間が空いた。ケイコが怖いという言葉を聞こえたような気がしたからだ。


「・・・こ、怖いって・・・ケイコさんが・・・?」


「油断して毒を喰らったこと・・・ケイコに内緒にしておいてくれ。ケイコに怒られる・・・!」


「・・・はぁ?」

コウジがズレた心配をしていたため、涙を流しながらもどんな反応をして良いかわからずに変な声が出ていた。


「か、体は・・・大丈夫なの・・・⁈」

改めてそう心配をしながら声をかけた。


「ん・・・?あぁ、血清はもう打ったんじゃろ?しばらく寝かせてくれたおかげもう元気じゃよ・・・おかげでスッキリしたわい!」


「・・・」

能天気な言葉を聞いて、思わず流した涙が引っ込み、唖然とした顔になっていた。


「どうしたんじゃ?変な顔して・・・」


「質問なんだけど・・・いつくらいから元気になったの?」


「いつって・・・ケイコが到着したあたりじゃよ・・・元気になったし動こうかと思ったがケイコもおるし、桃子の背中が心地良くて良い匂いもしたもんじゃからそのまま寝させてもらってたわい♪」


「・・・だったら先に言えぇぇ〜〜!!!」

そう言いながらコウジの顔にパンチした。


「ま、待て、ワシは負傷者じゃぞ・・・!それにしてもワシのためにあれだけ泣いてくれるなんて悪くない気分じゃったわい・・・」


「うるさい!死ねぇぇーーー!!!」

他人のために泣いた涙がバカにされたような気分になり、もう一度パンチした。


「はぁ・・・泣いて損したわ」

怒りが発散されたのか、一気にその感情はなくなり、コウジの態度に呆れていた。


「桃子よ・・・そう言うことだからケイコには毒を喰らったことは内緒にしてくれんか?」


「私に・・・何を内緒するの?」

コウジの言葉に食い気味に被せるように、ケイコの声が聞こえた。視線を送ると背中には意識のない母親が担がれていた。2人とも車の中にいたせいか、ケイコの気配に気づけなかった。


「け、ケイコ・・・!」

不意なケイコの登場に恐ろしく動揺していた。


「・・・あなたには色々と聞きたいことがあるから後にするわ。P・・・助手席に座って。私が運転するわ」


「あ、はい!」

そう言うと、運転席に座っていたところから車の外に出ずに、体を上げてそのまま横に移動した。コウジはケイコの言葉を聞いて、これから説教を受ける前の子供のような面白くない表情をしていた。


「は、早かったですね・・・」

あまりに早いケイコの帰還に驚きながらそう呟いた。


「ほとんどあの人が殲滅してくれてたから早かったわよ。マップも頭の中に入れてたし・・・それにしても派手に暴れたみたいね。倉庫内がすごかったわ」

そう言いながら、母親を後部座席で横にさせた後、運転席に乗り込んですぐに車を発進させた。


「お母さんは・・・無事でしたか?!」


「ええ、プレハブ小屋の中で待機してたわ。桃子さんの仲間で助けに来ましたと伝えたら安心してそのまま寝ちゃったわ。相当疲れてるようだからしばらく寝かせてあげましょう」

その言葉を聞いて、安堵のため息が漏れ出ていた。


「そ、そうだ!元々こっちに来る予定だったんですか⁈」

計画ではケイコが応援に来ることは聞いていなかったため、改めてなぜここにケイコがいるのかが不思議でしょうがなかった。


「元々はRの依頼を受けたフリをして私が家を出たのも、あなたたちが無事に倉庫に辿り着くための偽装だったから、依頼をこなすつもりもなかったのよ。倉庫に到着した時にあの人から連絡があったから、そのタイミングでここへ向かったのよ」


「も、元々そう言う計画だったんですか・・・?」


「ええ、そうよ。あなたに伝えようか迷ったけど、気が緩むかもしれないと思って結局伏せていたわ」


「そ、そうですか・・・」

内心、言ってくれればよかったのにと思う反面、後からケイコが応援に来ることを知っていたらコウジを担いで脱出したり、男達に応戦することができただろうかと考えていた。そして、おそらくケイコに頼って何もせずに慌てふためいていただけだろうと自分の中で結論を出し、自己嫌悪になっていた。ケイコが応援に来ることは内緒にしておいて正解だったと、自分の中でもそう思っていた。


「P・・・訓練と比べてどうだったかしら?」

不意にそう尋ねられ、しばらく口ごもっていた。


「その、緊張しましたけど、コウジさんが一緒だったのでなんとか・・・ただ結局コウジさんにその、代わりにやってもらいましたけど」


「・・・そう」

やってもらったと言う言葉。つまり人を殺すことであるという意味をケイコもすぐに察したようだった。気を失っているとはいえ、後部座席に母親がいるため気を遣ってはっきりとそうは言わなかった。


「あれだけ訓練してくれてたのにごめんなさい・・・結局ほとんどコウジさんがやってくれてたから」


「いや、初めてにしてはよくやったと思うわ。血清も打って、あの人を背負って脱出して、敵と応戦した。ただ・・・」


「・・・ただ?」


「私よりも明らかに弱い相手にあそこまで手こずってたのはいただけないわ。経験値が浅いから当然と言えば当然だったかもしれないけど・・・」

小さく申し訳なさそうに「はい」と答えた。

ただ、ケイコとしてもただの組み手のようなものであれば勝てたとしても、生き死にをかけた戦いとなると、今の桃子にはまだ早いと分かってはいたため、それ以上は何も言わなかった。


「Pが相手した男・・・銃を持ってなくて助かったわね・・・」


「あっ・・・」

あの時は無我夢中だったため、そのようなことも考えられていなかった。その時自分が男達を止めなければ母親の命がなかったというその事実だけが頭でいっぱいだった。


「どちらにせよそうなってたら、すぐに物陰に隠れて応戦するしかなかったわね・・・それなら、それはそれで、私が到着してたから何はともあれよ。あなたの動きは間違いではないわ」


「あ、ありがとうございます・・・」

今回の仕事を上官のように、桃子の仕事について査定していた。その上官は相変わらず無表情のまま正面を向いてハンドルを握っていた。


「さて、そんなことよりも・・・あなたがいてなぜこんなことになってるの?」

正面を見て運転しながらそう問いかけた。名前は言わなかったがコウジに問いかけているのは明らかで、後部座席から声のない「ついにきたか・・・」と言う声が聞こえた。


「い、いや・・・Rが思ったよりも手強くてびっくりしたんじゃ。まさか気配を悟らせないで背後に回るなんて・・・昔のやつにできなかったことじゃよ・・・」


「それは20年以上も昔の話でしょ?これだけ時間が経過してもいまだに恨んでるのなら、それだけあっちも訓練して対策を練っていることは分かってたことよ。そもそも国の内乱の生き残りだったんだから今まで相手してきた人間よりも手こずるなんてことは分かってたことじゃない・・・大方、業務中にぼーっとして考え込んだりしてたんじゃないの?」


「ち、違うわい!」

そう言い返すも、マシンガンのように出る正論にぐうの音も出なくなり、すかさず別の言い訳を探すような様子を見せていた。


「思わず昔の口調が出てしまうほどじゃったんじゃ!昔は専門じゃなかったはずの毒を使っていたし・・・」


「その肩、クロスボウでしょ?刺さり方を見るにおそらく30m前後から狙われてるはず・・・毒を使おうが何使おうが、しっかり集中してたら気配くらい察知できてたはずよ」

そう言われ「うっ!」という動揺した声が聞こえた。そしてそれと同時に「その通りです」と言う聞こえない声が聞こえた。


「ふぅ〜・・・私との組み手ではいつも勝つのに、こういう時に限って怪我して帰ってくるのを見てると・・・私が弱いみたいに思われてるようじゃない」


「い、いやそんなこと!ケイコはワシから見てもむっちゃ強いで⁈」

慌てたようにそう言ったせいか、語尾に聞いたことのないものがついていた。


「そういう私をフォローしているようなところも含めて無性に腹立つの。もう二度とこういうヘマはやめて」


「・・・ごめんなさい」

先生に怒られている子供のような、謝罪が後ろから聞こえてきた。頭が上がらない様子だった。


「帰り道に病院に寄ってあげるけど・・・待たないで先に帰ってるから。1人で帰ってきなさい。ほらこれ、消毒してあるから」

呆れながらも怒るように言いながら、カバーのかかったナイフをコウジに放り投げた。


「病院に到着するまでに自分でその刺さった矢を抜いて」


「麻酔なしでやるんか⁈」


「・・・昔はよくやってたでしょ。あなたが油断したせいなんだから、それくらいやりなさい。矢を抜くところまで医者にやらせたら時間もかかるし、あのヤブ医者に治療費いくらぼったくられるか分からないわ」


「はぁ・・・歳は取りたくないの〜、昔ならこのレベルなら無傷で脱出してたのに」

そうブツクサと愚痴をこぼしながら、後部座席に置いてあった救急箱を開けた。


「あ、あの・・・」

ケイコの説教が収まったタイミングで申し訳なさそうに手を上げた。


「どうしたの?」


「改めて母を助けてくれて本当にありがとうございます・・・その上で今後、どうしたら良いかなって考えてまして・・・」

母の救出で頭がいっぱいだったため、その後の生活についてどうするかを全く考えていなかった。その上で相談をするように尋ねた。


「まぁ・・・あまり考えずに数週間くらいはゆっくりうちで生活してればええんじゃないかのぉ・・・」


「そうね・・・こうなった以上もう元のマンションには住めないでしょ?」


「そ、そうですね・・・」

改めて元の生活には戻れないことを複雑な気持ちで受け止めていた。


「ゆっくりしている間に新しい家の手配と、他に細かい役所手続きとかやるといいわ・・・ハリーにもそのあたり相談してみようかしら」


「そうじゃ・・・!ハリーにはもう連絡したんか?」

コウジが思い出したかのようにそう尋ねた。


「倉庫の片付けでしょ?倉庫に向かっているタイミングで走りながらやっておいたわよ」


「さすが手際がええのぉ〜」


「・・・あなたと違ってね」


「はぁ〜・・・ケイコ、良い加減機嫌を直しておくれ」

相変わらずコウジの不注意に怒りが収まってない様子だった。一度こうなると根に持つタイプなのは分かっていたため、厄介な表情をしていた。


「Pが無事だったから良かったけど・・・とにかく当分許さないわ・・・」


「え?わ、私ですか・・・?」

急に自分のことを言われたため、反射的にそう反応した。


「・・・家に帰ったら鍋を用意してあるわ。あの人抜きで母親と3人で食べてましょう」

こちらの問いかけが聞こえなかったのか、そう言いながら高速道路を加速しながら走行していた。


外はほんのわずかだが、うっすらと黒から青色に変わりかけていた。日が昇る前兆で時期に明るくなるだろう。長い1日が終わったのだった。

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