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60話 ケイコ VS 武装した男

聞き覚えのある声だったが、それは本当に耳で聞こえた声だったのか、脳内で勝手に再生された声だったのだろうか。自分には自信がなかったため、そのまま身を縮こませながら目を瞑っていた。


「P・・・もう一度言うわよ。今の現状を報告しなさい」


「・・・え」

最初に聞こえた声よりもはっきりと聞こえた。それも耳からだった。思わず目をゆっくりと開けて真正面を見た。


「っ!!!」

目の前には、ナイフをこちらに向けて振り上げながらも両膝立ちの姿勢になっている男、その後ろにナイフを持っている右腕の間接を決めているかのように、腕を絡ませながら男の喉元にナイフを突きつけているケイコだった。

喉元に突きつけられているナイフの先端がすでに喉に当たっており、ちょっとでも喉元の筋肉を緩めたら刺さるその現状に、再び男は脂汗をかいていた。


何も言われてないが、動いたら殺すと言う強い殺意がそのナイフから十分に伝わった。


「け、ケイコさん・・・!どうして・・・⁈」

ここにいるはずのない人の登場に強く驚いていた。


「一応これでも急いだのよ。P・・・早く現状報告をしなさい」

こちらの驚きを無視するかのように、相変わらず無表情だった。


「は、はい!倉庫に潜入して敵を倒したんですけど、コウジさんがその・・・毒にやられたみたいで・・・!今近くに横になってます!」


「っ!なんですって・・・⁈」

ケイコの眉間にシワが寄っていた。只事ではないことを把握した様だった。


「毒って・・・Rがやったのね?」


「そうみたいです・・・!あ、でも血清はちゃんと私が打ちました・・・!この後はとりあえず病院に行く予定でした・・・!」


「そう・・・だったの」

その時、ケイコは血清を打ってコウジをここまで運んできてくれたことを把握し、安堵したのか眉間の皺がなくなりまた無表情に変わった。


「以前教えたことを冷静にやったのね・・・」

毒の対処法について、桃子にレクチャーした時のことを思い出していた。


「え・・・?ご、ごめんなさい聞こえませんでした!」

ケイコの独り言がうまく聞き取れず、緊急事態の中ということで謝りながらそう聞き返した。


「・・・なんでもないわ。敵はまだ倉庫にいるの?」


「い、いないです!多分・・・」


「多分・・・とは?」


「ひ、コウジさんが1人でやっつけたので、ちゃんと確認してないですけど、その時は特に敵はいませんでした・・・!」


「なんだと・・・!」

その時、ナイフを突きつけられていた男がその言葉に反応した。すでに倉庫内にいる仲間達はやられているという事実に動揺していた。


「分かったわ・・・Pのこれからのアクションを教えて?」


「は、はい!コウジさんを車に運んだ後に倉庫に戻ってお母さんを助けに行って・・・その後は出て行く予定でした!」


「よく分かったわ・・・Pはあの人を車まで運んで。その後は車で待機してなさい」


「え?でもお母さんは・・・?!」


「母親は私が回収しに行くわ・・・ほら早く!」

そう強く言うと、ヨタヨタとふらつきながらも急いでその場を離れると、物陰に置いたコウジの体を背負った。


「っ!」

コウジの体は力なくグッタリとしており、一刻を争う状態だった。


「そ、そうだ・・・!」

そして、思い出したかのように先ほど落としてしまったトカレフを拾い、駆け足で車に向かった。


「はぁ・・・!はぁ・・・!」

一心不乱だった。ケイコが応援に来てくれた今、もはや体力を温存するなんてことをする必要がなくなったため、大急ぎで車に戻ることしか考えていなかった。


「死なないで!すぐに・・・病院に連れて行くから・・・!」


「・・・」

こちらの問いかけに反応はなく、今はただの小さなか弱い老人が背中にいた。その時、改めて自分が血清処置をしたことに対して、すでに手遅れだったのでは?と疑いが込み上げてきたが、その疑いを掻き消すかのように、ただ必死に目の前を走った。


目の前の走る道の上を月明かりが強く照らしており、先ほどまで綺麗に見えたものが今では不吉なものに見えていた。まるであの世から迎えが来るような、そんな神々しさの中に儚い悲しさが混同している様に思えた。




「(この女・・・!)」

男はナイフを突きつけられていたとはいえ、相手が女であることを考慮して反撃をすることを考えていた。


「(とにかく振り解かないと・・・!)」

そう考え、間接を決められていた右肩を中心に振り回してケイコを吹き飛ばそうと力を込めたその時、一切右肩に力が入らないことに気づいた。


「・・・すでに右肩関節を外してあるわ」


「・・・っ!」


「両膝も地面に付いてる。肩関節も外れてナイフも突きつけられてる。もう勝負はついてるわ」

あの一瞬でナイフを突きつけられただけだと思っていたが、そうではないことにようやく気づいた。先ほどまで相手していた小娘とはレベルが違うと感じ、その瞬間相手との戦力差を痛感した。

そして、その瞬間、戦意を喪失した。


「た、頼む・・・!見逃してくれ・・・!」

桃子がコウジを抱えて走って行き、10秒ほどが経過した時のことだった。桃子の足音はどんどん遠くなり、やがて聞こえなくなっていた。


「・・・」

男の命乞いを表情変えずに、ただ反応せず黙って聞いていた。


「な、なぁ・・・!も、もう襲わない!だから頼む・・・!」

桃子がいなくなると、男はケイコと2人きりになったことでより恐怖を感じていた。すでに倉庫には生きている仲間がいないと分かり、自分にとってはもうこの仕事に対して命を賭ける価値も無くなっており、もはや助かることしか考えていなかった。


「・・・ふぅー」

男の声を聞くと小さく息を吐き、間を空けた。


「あの子には・・・なるべくこういうところを見せたくないの・・・」

耳元で冷たく鋭い声が聞こえた。何一つ感情がないのが分かるほどで、生気をまるで感じられなかった。


「はぁ・・・はぁ・・・」

向こうの問いかけに反応することができず、ただ体を小刻みに震わせていた。


「うちの子を殺そうとしたあなたを・・・私が助けると思う?」

囁くような小さなその言葉は感情がなかったがほんの小さく、そして間違いなく強い怒りの感情があった。


「あ・・・あぁ・・・!」

もはや諦めのような喚き声が勝手に漏れ出していた。この言葉を聞いて自分はもう生きてこの場を離れることができないと理解した。


そして、その瞬間視界が真っ暗になり意識がなくなった。


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