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59話「P」VS 武装した男

倉庫から飛び出し、コウジを背負いながら一目散に車に向かって走っていた。

雨はすでに止んでおり雨雲がなく、その代わり月明かりが周りを照らしていた。


「はぁ・・・はぁ・・・車にコウジさんを置いて、その後に速攻お母さんを回収する・・・!」

車までの距離は倉庫まで約2kmほどあることを思い出した。車に向かっては戻って、また車に向かっての行動をすることを考えると約6kmの距離になるが、母親の安全とコウジの容体を考えると泣き言は言ってられなかった。


「はぁ・・・はぁ・・・2人を車に積んだら病院行かないと・・・!あれ・・・?病院って、コウジさんってどこへ連れて行ってもいいのかな・・・⁈」

コウジを抱えて走りながら、次に取るべきアクションを整理するように独り言を言っていた。この時点で1kmほどの距離を走っていたが息は今の所、そこまで切れてはいなかった。


「ケイコさんとのランニング・・・やっておいて良かった・・・!」

毎日20km走っていたことを思い出し、それに比べると6kmという距離はあまりに短く感じていた。とはいえ、人間1人を抱えて周りを警戒しながら走るのは特訓の時とはまた違う緊張感があり、その緊張感のせいで体力がいつもより消費されていた。


「おい・・・急ぐぞ・・・!」


「レインコート・・・やっぱり買わなくて良かったぜ・・・」

突然奥の建物の影から声が聞こえたため、走っていた足にブレーキをかけるように止め、近くの物陰に隠れた。


「マズい・・・!」

聞いたことのある声が聞こえた。よくよく声の主を思い出すと、コウジと共に倉庫を目指していた際に最初に発見した男達だった。そして、偶然にも今いる場所もその時に隠れた地点だった。


「・・・どうしよう」

潜入した時のように物陰に隠れてその場をやり過ごそうと最初は考えていたが、その場合、男達が母親の元に行くことは明白だった。


「やるしかない・・・」

先ほどRを撃ったが止めはコウジが刺してくれた。おそらく殺しに未だ抵抗のある自分を思ってのことだったのだろう。毒を受けた満身創痍な状態にも拘わらず、代わりにやってくれたのはそう言うことなのだと、今更ながら考えていた。


「ここで待ってて・・・」

背負っていたコウジを建物の影に降ろすと、銃を構えながら男達が通り過ぎるのを待っていた。


「大丈夫・・・私ならできる・・・私ならできる・・・」

明らかにこの男達よりも格上であるRを不意打ちとはいえ撃つことができた。その事実を思い出しながら、自分を奮い立たせるようにそう言い聞かせていた。


「例の殺し屋が倉庫で暴れてるそうだけど、どれくらい強いんだろうなぁ・・・」


「せっかく家で寝ようと思った時に・・・クソ!」

男達が会話をしながら小走りで目の前を通り過ぎていき、通りに出ると男達の背中が見えた。


カチャッ・・・


ゆっくりと両手で銃を正面に構えて男達の背中を狙った。


「・・・」

ブルブルと手が震えていた。たとえ母親を救うためとはいえ、本当に人間を撃っていいのか?そう思いながら引き金の上に指を置きながら躊躇していた。

先ほど引き金を引けたのはコウジが目の前でやられる寸前のところを見ていたからこそ迷わずにやれたのであって、今は悩む余裕がある精神状態だった。


「ここで撃たなくても母親が危険に合うかどうかなんて分からない・・・」

どうにか引き金を引かなくてもいい理由を懸命に探していた。そうしているうちに男達との距離が5m、6m、7mと離れて行っていった。


すると、頭の中でいつか聞いた言葉が反響していた。

「相手はあなたのお母さんを誘拐するという犯罪を犯してるんだから、そんな相手に躊躇してたら大切なものを守ることはできないわ・・・何もね・・・」


「この言葉・・・そうだ、ケイコさんが私に言ったセリフだ・・・」

そして、その後に他の言葉も頭の中で反響していた。


「自分の身が危険に感じたら絶対に相手を殺せ」


「コウジさん・・・!」

そこの物陰にいるコウジも守るためにもやらないとと、両手に思い切り力を入れた。が、しかし、引き金を引くだけの力がどうやっても入らなかった。


「はぁ・・・ダメだわ・・・」

ゆっくりと両手で構えた銃を降ろそうとしたその時、


「人質のババアは殺していいのか?」


「ああ、敵が襲ってきたんだ。指示通り到着したらすぐに殺すぞ」

その言葉を聞いた次の瞬間、


「ダメェッ!!!」

パンッ!パンッ!パンッ!・・・


恐ろしさのあまり目を瞑りながら引き金を何度も引いた。約10mほど男達との距離が離れたタイミングだった。


「うあぁっ!!」

同時に1人の男の短い叫び声が聞こえた。恐る恐る目を開けると地面に横になりながら足を抑えながらうずくまっていた。そして、その横にはこちらを見ている図体の大きい男がいた。その様子を見て8発のうち1発が男の太ももの大動脈、急所に命中し、倒れていることが分かった。


「・・・女?まさか人質の娘か・・・?!」

そう言いながら銃を向けられていたため、男は少々後ずさりをしながらこちらの様子を伺っていたが、目つきは鋭く、隙があれば遠慮なくこちらに襲ってくるのが伝わった。


「(ここでこいつらを倒さないとお母さんが殺される・・・!)」

先ほど銃を撃たなくても母親は無事かもしれないという楽観的な考えはすぐに消え去っていた。


「うおぉぉぉぉぉぉーーーー!」

自分の中で相手を殺す覚悟が決まっているのかあやふやの中、それを誤魔化すかのように叫びながら引き金を引いた


カチッカチッ!

「弾切れ・・・!?」

先ほど無我夢中で弾を乱発したことで装填できる8発分を撃ち切っていることに今気づいた。


「マズい・・・!」

急いで装填しようにも手元が焦りによりうまくできなかった。


「今のうちに・・・!」

その様子を見ていた男はチャンスと感じて全速力で走ってきた。


「来た・・・!は、早く・・・!」


「させるかぁ!」

男が全速力で走ったまま右肩をこちらに押し付けるようなタックルをかました。


「きゃあっ!」

体が吹き飛びその反動で銃を落としてしまった。その強い衝撃を受けた反射で小さな悲鳴を出していた



「ふぅ・・・ふぅ・・・ビビらせやがる・・・」

銃で自分が狙われていることが相当脅威だったようで、銃を落とした様子を見て余裕を見せながらナイフを取り出していた。


「そうだ・・・ナイフ・・・!」

男のナイフを見て、思い出したようにこちらもナイフを取り出した。


「っち!こいつも持ってるのか・・・!」

ナイフを持った相手と戦うことになってしまったことに嘆いていた。逃げれるものなら逃げたいが、この仕事ですでにお金を前払いでもらっていたため取り逃してしまったら、それこそ自分を雇ったボスに命を狙われると思った。


桃子「(大丈夫・・・ビビらないで落ち着いて・・・!)」

ケイコとの訓練と、ビルでのコウジが同じような体格差でも圧倒していた光景を思い出していた。


男「おいおい・・・お前が俺に勝てると思ってるのか?」

図体が20cmほど大きく、体重も80kgほどでかなり体格がいい。男は軽口を叩いてはいるが相手もナイフを構えているため、気を緩めずに様子を伺っていた。


「・・・」

男の挑発を無視し、ジリジリと距離を測っていた。お互い身動きが取れない



「(こいつの構え・・・まさか素人じゃないのか・・・⁈」)」

身を低くしながら右手にナイフを正面に向けたその構えは、右にも左にも対応ができる構えだった。明らかに訓練を受けたことのある構えを見て、警戒心が強くなった。素人ではないということは急所を狙ってくるということだったからだ。


「(こんなところでグズグズしてられないぞ・・・!)」

この女がいるということはターゲットである、あの伝説の殺し屋が近くにいる可能性があると思い、急いでこの戦いを終わらせようと考えた。



「クソッ!あぶねーけどやるしかねぇ・・・」

覚悟を決めたようにそう言うと、男が距離を取った後に上着を脱いで左腕に巻きつけた。


「うおぉぉぉーーーー!!」

そして、そのまま先ほどと同じように男が全速力で突進してきた。


「くっ・・・!」

刃物を人間に刺す行為に抵抗があったが、そうも言ってられなかった。男との距離はもう目と鼻ほどの距離だった。突進してきた勢いを使うようにそのままナイフを男の胸に向けた。


グサッ!


男に向けたナイフはそのまま突き刺さり、しばらくお互いの動きが止まった。肉を刺すこの独特の感触は訓練では感じたことのないものだったため、妙な気持ち悪さにひどく心がざわついた。


「くぅぅぅ・・・!」

男は左腕を盾にするように構えていたため、よく見るとナイフは太い二の腕に刺さっていた。その痛みに耐えるかのように呻き声を上げていた。


「がぁ!」

男は痛みに耐えて、出た脂汗を流しながら、右足を上げると足裏を水平にして桃子の腹部を押す様に蹴り飛ばした。


「あぁぁっ!!」

ナイフを刺して呆然としていたため、なんの抵抗もなくそのまま声を出して吹き飛ばされた。尻餅をついて見下ろす男を見ると、刺したナイフは左腕に刺さったままでその表情には痛みと苛立ちが表れていた。


「い、いてぇ!こ、このアマァ・・・!!」

吹き飛ばされた桃子の目の前に立ち、そのまま右手に握っていたナイフをこちらに向けた。


「はぁ・・・はぁ・・・」

桃子は肉を刺した感覚がまだ残っていたのか、ここまでの潜入による疲労だったのか、敵に殺されるのを覚悟していたのかは分からなかったが、取り乱すこともなく、ただ呆然と男が振り下ろそうとしているナイフを息を切らしながら見ていた。


「うおぉぉぉぉ!!!」

男は大声をあげて振り上げたナイフをこちらに振り下ろした。勢いよく振り下ろされたナイフに驚き、身を縮こませながら目を瞑り視線を背けるように首を横にした。


「・・・っ‼︎」

どれくらい目を瞑っていたのだろうか。自分がいまだに生きてるのか死んでいるのか分からない。今ナイフが刺さって痛いのかどうかも分からない。目を開けて、その事実を確認するのがひどく怖かった。


それは永遠に感じるような数秒だった。その時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「P・・・今の現状を報告しなさい」

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