58話 後は任せて!
「・・・」
何が起きたのか分からないような沈黙の間だった。銃声の主はRだと思っていたが、そのR自身も顔が困惑していた。
「ぐうぅぅ・・・!」
呻き声をあげながら体を崩すように倒れ込んだRの背後には、桃子が両手で銃口を向けて立っていた。
「人・・・撃っちゃった・・・」
初めて人を撃ってしまったことで茫然自失になっていた。
「どうして外にいる・・・⁈」
「だって・・・よく分からない笑い声が聞こえてきたから、もしかしてピンチなんじゃないかなって思って・・・」
コウジがそう聞くと、桃子は声を震わせながら慌てて答えていた。
「私・・・人間を・・・撃っちゃった・・・」
先ほどと同じように自分のしたことを事実確認するようにそうぼやいていた。
「ぐうぅ・・・!な、なぜ・・・こんな小娘の気配に気付けなかったんだ・・・!」
銃撃によるダメージの苦痛による呻きなのか、桃子が背後にいることに気付けなかったことへの悔しさなのかは分からなかったが、上半身に弾が当たったようだった。
心臓には当たらなかったが急所にヒットしていたようで、床に倒れ込んで苦しそうにもがいていた。
「クロロホルム・・・芳香剤に混ぜておいた」
Rが毒を利用した戦闘を見て、咄嗟に倉庫内にある芳香剤にクロロホルムを混ぜ込み、意識を多少でも鈍らせる効果を期待してのトラップだった。おかげで桃子の気配に気付けなかった様子だった。
「とはいえ、まさか桃子に助けられるなんて思わなかった・・・」
毒の麻痺に耐えながら倒れているRに近づき、左手で再び銃を持った。桃子が目の前にいた影響か、口調がいつもの老人風に戻っていた。
「最後に言い残すことはないか・・・?」
Rの顔先に銃口を向けた。
「・・・お前のせいで積み上げたキャリアが台無しになった・・・今ここでお前を殺すことで俺のキャリアが復活する・・・」
先ほどと同じような言葉を死に際になっても言う姿に呆れを通り越していた。執念を感じるほどの苦しみに満ちた表情をしていた。
「・・・お前はなぜそこまで殺し屋業界に固執しているんだ」
名が売れることで自分を殺しにくる追手の存在は自分だけではない。他同業者も殺しを依頼する者からしてみたら、殺しの委託をした事実を知っている存在は煙たく思うため、常に命を狙われる。
それはRも同様だったため、キャリアという言葉が出てくるたびに疑問に思っていた。
「・・・お前には分からないさ。最初から」
「・・・」
「認められない人間の惨めさなんて分からないだろ・・・?ずっとお前のような人間と比較されてバカにされる人間の気持ちが分からないだろ・・・⁈」
苦しそうに咳をしながら血を吐いてそう答えていた。
「お前を殺して・・・お前を認めてる人間を失望させる・・・俺はそのために殺し屋をしているんだよ!」
「もう・・・いいわい」
そう言うと小さく「ふぅー」と呼吸をした。
「お前・・・殺し屋向いてないぞ」
パンッ!
そう言うと、同時に乾いた銃声が倉庫内に鳴り響いた。もがいていたRの体の動きが大の字のまま止まっていた。
「・・・」
しばらく沈黙が続いたのち「ドサッ!」と何かが倒れる音がした。
「うぅ・・・!」
人を撃ったことによるショックと、目の前で大きな声で主張していた人間が死んだことによるショックでぼーっとしていたが、その倒れる音がしたことで正気を取り戻し、音のした方へ駆け寄った。倒れたのはコウジだった。
「だ、大丈夫・・・⁈しっかりして⁈」
コウジは苦しそうな表情を浮かべながら、右肩に刺さっているクロスボウの矢を左手で抑えていた。表情を観察すると顔色が青く、汗もダラダラとかいていた。矢によるダメージだけではここまで苦しまないだろう違和感を感じていた。そして、考えていると一つの答えが出た。
「まさか・・・ど、毒⁈」
そう言うと、コウジは満身創痍になりながらうんうんと頷くジェスチャーを見せた。コウジの様子がいつもより息切れが多く、動きが鈍かったためなんとなく違和感を感じていたのだが、その理由がようやく分かり、慌ててRの体を調べようと近づいた。
「うっ・・・!」
目の前には、先ほどまで生きていた人間の体が、今は生気もなく額に銃で撃たれた跡が生々しく付けられており、絶叫した後のような大きく口を開いているその表情には無念さが感じられた。
「だ、ダメダメ・・・!」
余計なことを考えている時間がないと自分に言い聞かせながら、胸元と腰回りを調べると、液体の入った小さな瓶と注射器があった。
「よし・・・他に瓶はないからこれで合ってる・・・あとは訓練通りに・・・!」
そう独り言を言うと、手際よく瓶に入った血清を注射器で吸い上げ、空気部分を注射器で押し出すと、クロスボウの刺さった右腕部分に注射をした。
「こ、これで良い・・・のよね⁈」
初めて行う処置に自信がなく、この行動に間違いがないか自問自答していた。
「うぅ・・・随分手際がええのぉ・・・」
呻き声をあげながら桃子の早い仕事に対しての感想を伝えた。
「ケイコさんから毒の対処を一応習ってたから・・・毒を使う者は自分自身が毒を受けた時のことを考えて血清も必ず持っているって」
コウジ自身、ケイコの毒に対する訓練知識は必要ないと否定していたことを思い出した。
「まさか必要ないと思っていた知識に助けられるとはのぉ・・・」
「ダメ!動かないで!私が担ぐから!」
そう言うとコウジの体を背負った。
「母親はどうするんじゃ・・・?」
「プレハブ小屋で寝てるから大丈夫!」
「そうじゃなくて・・・また母親に何かあったらマズいじゃろ・・・」
自分を優先で背負ったら母親も背負えないだろうということだった。
「コウジさんも家族みたいなもんよ!何かあったらどうするの!」
「・・・っ!」
そう言うと、意外な言葉を貰ったようで驚いたような様子を見せながら、それから何も言わずにただ黙っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・あれだけ敵が倉庫に集まってから時間が経過してることを考えると、こうこの周りには敵はいない・・・はず・・・」
まだ敵がいるとしたら、この倉庫に応援として突入しているはずとの推測をしながら、コウジを抱えて走りながら倉庫内を脱出した。




