57話 コウジ VS「R」
「(まいった・・・よくある毒なら耐性があるが)」
Rのいる位置から離れるように移動し物陰に隠れていた。右肩から激しい痛みに襲われており、もはや右手を動かすことはできず、そこから徐々に麻痺すと痛みの範囲が広がっている状態だった。
「(相当訓練と対策を積んできたな。おかげで気配が察知できなかった)」
最初にクロスボウで襲われた時のことを思い出していた。普段だったらあの距離からなら背後からでも気配に気づいて避けることができたが、たまたま他のことを考えていた隙を見ての攻撃だったため、あえなく当たってしまったことを後悔した。
「簡単な潜入だと思ったが、まさかRにここまで追い詰められるとは・・・楽しくなってきたじゃないか」
昔の同業者が自分とここまで戦闘で渡り合えている事実に、遊び相手としてワクワクしていた。
応急処置として念の為に持参した痛み止めの注射を肩に刺したが、右腕を動かすことはできなかった。しかし、その追い込まれてる感覚が、コウジにとっては刺激となり、このステージの攻略しがいさを駆り立てていた。
「左手でも銃を打つことは出来るが、命中率は著しく下がることを考えてナイフにするが、足もいつも通りの瞬足で動くのは難しいな」
そう言うと、ナイフを左手に握り直して、今のこの毒に冒されている状態からどのようにしてRに近づくかを考えていた。
「どこにいる!もう時期に毒が全身を回る!」
一方、Rはクロスボウから銃に持ち替え、思考を回していた。
「(サイを一発で動けなくさせるほどの猛毒だ・・・しかし、それを喰らっているからって絶対に油断はできん)」
気配察知能力についてはコウジが上なのを十分に分かっていたため、むしろこの煙幕が出ている状況で戦うのは圧倒的に不利と考えていた。
「(セオリーとしてなら、毒を喰らっているから長期戦の方が有利。自分からやつに近づかないのは正しいが、相手はただの殺し屋じゃない。こっちがセオリー通りの行動を取るのはむしろ動きが読みやすいし、その隙に色々と罠を仕掛けてくる可能性がある。それならここは・・・!)」
コウジを相手にどのように行動をすればいいか思考を回した結果、
「このまま突っ込む!」
煙幕が消えたタイミングで倉庫の中心へ突撃した。体に毒が回るまで待つのがセオリーであったがあえて真逆に行動に出た。
「(明らかにリスクのある行動で気は乗らないが、そもそもやつを始末する行為自体が大きいリスクだ。ここは直感を重視する!)」
相手の裏をかくような行動を思い切ってとった。
「(判断が早い・・・!)」
今まで慎重に仕事をこなすRの特性とは違う行動だったため、物陰に隠れながら驚いていた。様子を伺っている隙に倉庫内でトラップを仕掛けようと思っていたため、その当てが外れてしまった。
「そう来るなら次は・・・」そう思いながら別の作戦を即席で練っていた。
一方、Rは周りを見渡すも、どこにもコウジが居る気配を感じられなかった。
「(やつならどこに隠れる・・・)」
近くには木箱やコンテナが積まれており、目の前には天窓から昇降用ロープが2本垂れていた。隠れる場所が沢山ある中で、ゲリラ戦を得意するやつであれば、どこで陣取って襲ってくるか、コウジの特性を考えながら次の一手を読もうとしていた。
「変な匂いがする・・・」
集中してあたりを見渡しているうちに、爽やかな花の匂いが鼻をくすぐった。奥の物陰からその匂いの元があるようで、少し近づいただけでその匂いが強くなっていった。
「罠か・・・?」
そう言いながらも、このまま放っておくことでリスクが上がる可能性も考えた結果、警戒しながら確認することにした。幸い、匂いの元に引火性も毒性も感じられなかったため、徐々にその場所に近づいた。すると、そこにはリビング用消臭剤と記載された段ボールがナイフで刻まれており、その中にある液体が漏れ出ていた。
「・・・」
なぜこのようなことをしたのかを考えていたその時、
ガチャーン!!!
「っ!」
派手にガラス性の何かが近くで割れる音がしたため、そちらに銃を構えた。
「ガラス・・・」
足元には円形にガラスが粉々に割れていた。破片が細かいのを見る限り、高所から落とされたのだろうと推測し思わず頭上を見上げた。
「俺の勝ちだ・・・」
「っ!!!」
15年以上も昔に聞いたコウジの声が真後ろから聞こえ、心臓が思い切り飛び跳ねた。その瞬間、
「うおぉーー!!」
大声をあげながら裏拳をするように銃を持った手を背後に攻撃するようにして振り返った。
「ふんっ!」
その瞬間、裏拳を避けるようにして低く屈んでいたところから左手で持っていたナイフを胸元に突き刺した。その時、15年以上前の誰にも敵わなかった若かりし頃の姿が錯覚なのか見えていた。
「ぐうぅーー・・・!」
ナイフを刺されたRは呻き声をあげた。
「この距離なら当たる・・・」
すかさず銃を構え、早撃ちを試みた。
「ふんっ!!」
抵抗するように、身を翻しながら前蹴りをコウジに入れて突き放した。ナイフを胸元に刺さったまま仁王立ちをしていた。
「・・・くぅ!」
その直後、コウジは崩れるようにして、倒れそうになったところで片膝を立てながらなんとか踏んばっていた。
「クックック・・・ハッハッハッハァー!言っただろ!お前を殺すために準備をしてきたとなぁ!」
高らかに笑い声をあげながら胸元に刺さったナイフを抜いた。
「はぁはぁ・・・随分と分厚いチョッキを装着しているな」
装備している防弾チョッキに加えて、体に回った猛毒による痺れでうまく力が入らなかった。そのためナイフを刺した時点で致命傷を与えられていないことが感触で分かっていたため、特に動揺もせずにそう言いながら浅い呼吸をさせていた。
「お前のあのわざとらしい老人のような喋り方をするほどの余裕はないようだなぁ・・・体ではなく首元を狙うのが基本なのに、それを出来ないほどツラいようだな」
「お前との戦闘が楽しくてつい喋り方が素に戻ってたよ・・・」
「ふん・・・俺はお前をやっと殺せて嬉しいよ。死ねぇ!!」
そう言いながらコウジへ銃口を向けた。
パンッ!




