56話 Rとの確執
「今回の依頼は俺だけと聞いていたが?」
不服そうに依頼主を介した古い付き合いの交渉人に対し、そう投げかけた。
「・・・例の傭兵上がりの殺し屋に今回の案件を依頼したいと言われたんだ。これでも、先にこっちに依頼したんだからってことでなんとか依頼をキャンセルさせないでねじ込んだんだ・・・勘弁してくれよ」
薄暗いパブの中でカクテルを飲みながら、その交渉人は答えた。
「元から複数に向けた依頼じゃない限り、この業界ではダブルブッキングはタブーなことは依頼主も分かってるんだろうな?」
「もちろんわかった上での判断のようだ。それだけ今回の依頼は成功させたいんだろうなぁ」
飲み終わったカクテルグラスを回しながら、中に入っていた氷をカラカラと鳴らしていた。
「どうも実績を見ての判断のようだ。あの傭兵上がりは恐ろしく仕事が早いということで、新人にも関わらず予約がすでに3年くらい先まで埋まっている。そんな中での急な依頼受付をしたみたいだから、依頼主も大慌てであっちへ依頼をかけたみたいだ。相手が悪かったな。タイミングも・・・」
「・・・」
これまで裏の世界で着実に実績を上げていた自分を差し置いて、急にデビューした新人に人気を掻っ攫われたという事実に苛立ちが小さく込み上げていた。
「あともう一つ・・・これ聞いて怒るなよ・・・?」
「・・・なんだ?」
古い付き合いの交渉人がこちらの機嫌を損ねていることを理解した上で、そう問いかけた。嫌な予感をさせながらも、イライラしながらタバコに火を付けて聞き返した。
「その人気者の元傭兵さんの報酬は20万ドルで、お前さんは2万ドルだと・・・」
「・・・っ!!?ゴホッゴホッ!」
驚いてタバコから吸った煙が気管に入り、咳をしていた。なぜなら、向こうの報酬20万ドルというのは元々こちらがもらう報酬であり、それに比べ、最初に提示を受けた報酬よりも1/10に下げられていたからだった。
「俺もそこは交渉したさ。そしたら・・・嫌ならやめてくれて構わないって言われたよ・・・報酬がここまで減るのは俺も死活問題だよ」
殺し屋の交渉人は受け取る報酬の一部から受け取るルールだったため、交渉人も含めてこの提案変更は面白くなかった。
「もし今回の依頼を受けることになったら・・・あっちはファーストで、お前さんはRだとよ」
「コードネームか・・・?」
「そうだ・・・」
「新人がファーストなのは分かるよ・・・そいつメインで依頼したいって言ってたからな・・・クソ!でも俺がRと付けられているのは、どう言う意味だ?」
「Reserveの頭文字だ・・・つまりファーストの補佐をしてほしんだと、そんで持って何かあったら俺たちにも現場に出て仕事してほしい・・・つまり補欠扱いだ」
「なっ・・・!補欠だと・・・⁈」
先に依頼を受けた自分達が補欠扱いを受けていることに納得ができず、怒りが湧き上がった。
「依頼内容はターゲットを消すだけだろ?それなら依頼をこなした人間に20万ドル払うでいいだろ?!」
「・・・出来るのか?相手は新人とはいえ相当仕事が早い。普通は6ヶ月かかる内容も2ヶ月でやったって噂だ」
「・・・くそっ!」
そう聞くと、交渉人の言うとおりで自分自身、依頼をこなす時は納期いっぱいまで準備に時間を使う、万全を徹底的に期すタイプであり慎重な性格だった。なんなら期間を使った結果、依頼を遂行することが困難だと判断した場合、途中キャンセルをするやり方だった。
これは依頼達成率をイタズラに下げたくない意図があるが、このやり方は依頼した側から見れば非常に困るやり方でもあり、一部の依頼人からこのやり方のせいで嫌われている節もあった。
「さらに俺たちのやり方は途中でこっち側の都合で依頼をキャンセルしたとしても、その時までの準備期間の分の代金も請求するやり方だが、あの新人はそんなことしない。そもそもどんな内容でもキャンセルしないんだ。そして、設けた期間の2倍速以上で前倒す。そして、依頼達成率は100%。依頼人があっちに頼るのも無理ないな」
交渉人はお手上げするかのように両手を上に上げていた。今までは売り手市場だったものが、その新人や他の殺し屋が参入し始めていたため、徐々に買い手市場に変わっていってるようだ。
バンッ!
唐突に握り拳を振りかぶり、机を強く叩いていた。横入りしてきた新人が自分の報酬の10倍も受け取り、自分を補欠扱いさせられ、半ばオマケのような扱いを受けたことで怒りがピークに達していた。
「・・・分かった」
「・・・どうした急に。何が分かったんだ?」
気まずい空気の中で交渉人がRにそう尋ねた。
「その内容で構わないから依頼を受けろ・・・その代わり、俺がターゲットを消したら俺に報酬20万ドルにしろと依頼人に伝えろ・・・」
「おいおい・・・聞いてたのか?あくまでお前はファーストの補佐をするようにしろと言われてるんだぜ?」
「分かってる!サポート業務をした上で、万が一俺1人で依頼をこなせた場合は最初に提示した報酬を支払うことを約束させろ!」
「・・・分かった。ダメ元で交渉してみよう・・・」
自分自身、戦闘自体は特別周りよりも出来るとは思ってはいなかったが、一流のプロとして殺し屋を請け負っていることにプライドを持っていた。そんな自分自身の価値を唐突に現れた新人にコケにされたように思えた。
「随分とまた昔話じゃのぉ・・・」
コウジが反政府のゲリラ組織から抜け出した直後に始めた殺し屋家業の時代の話をRから聞かされていた。
「ふん・・・結局あの時の依頼は、依頼主の指示に逆らったのが理由として任務は失敗。そして、俺は業界への信用を一気になくした。その反面、お前はその後も完璧に仕事をこなし続け、裏の業界での地位を確率した。あの件で俺は殺し屋業だけじゃなく裏業界での仕事を、少なくともあの国周辺では出来なくなり廃業まで追い込まれた」
「ワシが依頼をうまくこなせたのは、お主の得意な情報収集力のおかげさ」
「そんなのは関係ないっ!!!」
溜めた怒りが爆発するかのように大きな声で怒鳴り散らした。
「お前に分かるか⁈一度失った信用を取り返すのにどれだけ大変か・・・!?あぁ⁈」
「・・・ただの逆恨みだ。依頼主が勝手に俺達を優先して依頼をしただけだ。そんなに怒るのなら言ってくれれば譲ってやればよかったな」
Rがなぜここまで怒っているのか、ここまで話を聞いてもイマイチ理解ができなかった。
「お前のその余裕のある言動が、俺のプライドを傷つけているのがまだ分からないようだな・・・!!」
「・・・」
「俺は殺し屋として確実に地位を上げていった・・・そんな俺をここまでコケにしたお前をズタズタにしないと俺の気が収まらん」
「だからワシは殺すのか?」
「クックック・・・本当は殺すまでしなくとも、お前を利用して俺が依頼をこなしているように見せかければ、お金と信頼が手に入る。それで気は晴れると考えていた。実際にお前の弱みは情報収集していたからなぁ」
下卑た笑いを見せていた。
「・・・よく調べたな。ワシとケイコ以外でこのことを知っておるのは他にハリーくらいしかいない」
「おかげでたっぷりと時間をかけて調べたよ・・・あのプレハブ小屋にいる奴らのおかげで俺はお前に復讐が出来るんだからなぁ・・・!!」
ヒュッ
Rが怒声を放ったその瞬間、ボール状のものを目の前に投げた。
パァーン
すると当たりが勢いよく灰色の煙に包まれた。広く天井の高い倉庫は一瞬で煙に包まれた。
「・・・煙幕か。くだらん・・・」
そう言うと、装備していた赤外線ゴーグルをかけた。目の前には温度を検知する物体はすでにいなくなっていた。
「・・・ムダだ!分かってると思うが矢には俺のオリジナルで生成した猛毒が塗ってある・・・!時期に動けなくなるぞ!」




