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50話 潜入開始

「到着した・・・今から入る・・・」

コウジが車内で電話をしていた。ケイコへ報告を入れている様だったので、そのタイミングに改めて装備の確認を、黒いレインコートを着た上で、雨に打たれながらしていた。ナイフ、ケイコから預かった銃、昇降用ロープから靴紐の緩み、薄型ゴム手袋の付け心地から何まで神経質に確認していた。


「確認が終わったなら予定通り倉庫の裏に回るぞい。ここから約2kmじゃな」

電話が終わったのか、小さな黒いリュックを背負いながら、同じく黒いレインコートを着たコウジが車から出てきた。


港には同じ形、大きさの倉庫が多数点在しており、その倉庫を囲うように2mないほどの塀が立てられていた。そのため自分達の目的の倉庫は他の大きな倉庫に囲まれて見えなかった。


「潜入するための進み方はケイコから聞いておるじゃろ・・・?早歩きで周りを確認しながら前に進むぞ?」


「うん・・・」

今から特訓してきた成果を出す時がきたのを実感しながらそう答えた。


「よし・・・じゃあワシの後ろに付いてくるんじゃ!」

そう言うと、コウジが先頭に立ち、「良比ヶ浜 第三漁港」と書かれた門をくぐり、倉庫の方面へ向かった。それについていくように背中を追いかけたが、その姿勢にも少し驚いたがそれ以上にそのスピードに驚いていた。


「(は、早い・・・!)」

前屈みの、なんとも走りにくそうな姿勢になりながら前へ進んでおり、その姿勢にも驚いてはいたが、何よりもそのスピードに驚いていた。ケイコからは事前にコウジの足の速さを聞いてはいたのだが、想像以上だった。こちらから見ると、ダッシュとさほど変わらないような速さに感じた。そして、ただ単純に足が早いというだけではなく、初めて行く場所にも関わらず、まるで行き慣れているかのようなスピードで前に進んでいる。そんな様子が、より足の速さを強く感じていた。


「(つ、付いていくのに必死だわ・・・!)」

ケイコとの訓練がなければ付いていけてなかっただろうと感じた。


「っ!」

先頭を走っていたコウジが通りに出る直前で、急ブレーキをかけるようにぴたりと足を止め、こちらを制止するかのように右腕を水平に上げて、その場にしゃがみ込んだ。

ゆっくりと物陰から左方向へ覗くと、2名の男が並びながらこちらの方向である漁港の門へ歩いていた。


「ふぅー・・・いつまでこんなところに居ないといけないんだよ」


「しょうがねーよ・・・金になるんだから黙って言うこと聞いてようぜ」

ビルで襲ってきた男達を彷彿させるような、緊張感のない無駄話をしながら歩いていた。約20mほどの距離が離れており、向こうは雨と暗闇という視界の悪さだったため、こちらには全く気づいていなかった。

相手の装備の確認が視界が悪かったためできず、傘をさしているくらいしか分からなかった。


「こっちに来るよ・・・どうするの⁈」

このままジッとしていると、相手との距離がどんどん近づく位置にいたため、思わず小声でコウジにこの後どう動くかの指示を仰いだ。物陰に隠れているとはいえ、近くまで来たタイミングで少しでもこちらに視線を向けられたらすぐにバレる程度の物陰だったからだ。


「シーッ・・・このままジッとしておれ」

コウジがそのまま右腕で制止するように上げっぱなしにしていた。おそらくこのまま大人しくしていれば、方向的にそのまま漁港を出るだろうと予測しているからこその判断だった。


「せめて何かハプニングがないと暇で頭がおかしくなっちまうよ」


「おいおい・・・仲間が前に殺されたんだ。俺は何もない方がいいよ」

15m、10mと徐々に話し声が近づいてきた。バレたらどうしようと頭で考えながら、いつでも戦闘ができるように、しゃがみ込みながらもナイフと拳銃を構えていた。


そして5mほどの距離から声が聞こえてきた。


「それにしてもこの雨、いつまで降るんだ・・・」


「知らねーよ。俺たちが帰る頃には止んでるはずだ」

雨音に混ざりながらも、確実に声がどんどん大きくなっていた。そして1m。


「また明日、俺たちが現場に行く時まで雨降ってたらだるいな」


「傘は禁止って一応言われてたから、レインコートを持っていくぞ」

まさに目の前に男達の右側から見た下半身が見えていた。あまりの距離に心臓音が一番大きく跳ね上がっていた。ちょっと手を伸ばせば触れられる距離で、男達がちょっとでも右方向に視線を向けば、一発で見える場所にいたため、悲鳴を上げたくなる気持ちでいっぱいだった。


「俺持ってないからいいわ」


「バカちゃんと買え。こんなんで報酬下げられたらたまったもんじゃない」

男達は視線をそのまま正面に向けたまま通り過ぎていき、声が少しずつ遠ざかっていった。


「・・・よし。行ったようだわい。進むぞい桃子」

コウジにとっては、この程度のことはビビることでもなく当たり前のことなのだろう。特に何事もなかったかのように、先ほどのようにダッシュに近いスピードで前に進んで行った。


「(す、すごい・・・まさにプロって感じだわ・・・!)」

自分自身が殺し屋として活動をしているわけでなかったが、この2ヶ月間で文字通り、血の滲むような修行をしてきたからこそ、改めてコウジの身体能力、精神力、そして潜入の経験値が高いことが理解できた。


「(それにしてもこのスピードで前に進みながら警戒もちゃんとやってるなんて、信じられないわ・・・)」

マップを覚え、潜入する前にも何度か脳内でシミュレーションを行っていたため、警戒するべき箇所はしっかりと把握はしていたのだが、あまりにコウジの足の速さに付いていくのに必死でそれどころではなかった。


「・・・よし。ここじゃな」

前方でコウジが足をピタリと止めると、目の前には目的地である例の倉庫の裏側にいた。


「はぁ・・・はぁ・・・思ったよりも距離があったわ・・・」


「なんじゃ桃子・・・たった2kmほどの距離でもうそんな息切れしとるのか?」


「ひ、コウジさんの足が早すぎて・・・はぁ・・・はぁ・・・」

ダッシュして足を止め、ダッシュして足を止めの繰り返しだったのと、本番である緊張から余計スタミナ消費が激しかった。


「そんなにはぁはぁ言ってたら敵にバレるぞい・・・まぁこういうことも想定して雨の日にしたんじゃがのぉ。雨音が余計な物音を消してくれるからのぉ」


「も、もうちょっとスピード緩めてくれたらいいのに・・・」


「一応今のは本気の半分以下じゃよ。これでもかな〜りかな〜り緩めたんじゃぞ?」


「・・・」

コウジの言葉に何も言えなくなっていた。そして、コウジは抱えていた黒いリュックから2名分の昇降用ロープを取り出した。


「倉庫の上にこれから登るぞい」


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