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49話 人として生きたい

「到着まで時間がかかる。寝ててもええぞい」

深夜23時。コウジがこちらにそう言いながらハンドルを握っていた。


潜入決行日となり、敵のアジトである漁港の倉庫に、ハリーの手配した車で向かっていた。手配した車で向かっている理由は、相手にバレずに移動するためであるのと、仕事が終わった後の証拠を残さないためであった。


ケイコは別行動でRの依頼をこなしている体をとるため、依頼されたターゲットのいる場所へ移動していた。現地に到着している頃には雨が降っていることが予測されていたため、すでに黒いレインコートを2人とも着ていた。


「・・・」

今から母親を助けに行くことを考えると、寝るなんて余裕は当然ながらなかった。前日も緊張で寝れていなかったが、不思議と眠気なんてものは湧いてこなかった。


「な〜に桃子、打ち合わせをした通りに動いてくれればそれでええんじゃよ。最初は緊張するかもしれんが、いざ潜入がスタートして体を動かしておれば緊張せんよ」


「・・・はい」

緊張した空気を和ますためにそう言ったが、上の空のような素っ気ない返事をしていた。


「・・・ケイコとは色々とお話とかはしたんかのぉ?」


「え?」


「いや・・・ワシとの会話が最近やけに固いような気がしてのぉ」


「・・・っ!」

そうコウジに言われ、図星のような表情をしていた。ケイコから以前は怖い人だったと聞いていたため、あれから気を遣う様な対応をしていた。


「長時間運転をせにゃならん。ワシはこういうジッと同じ場所に座っているのが苦手じゃから、暇にならないようになんでもええから話を振ってくれんか?」


「え・・・あぁ・・・はい」

そう言われると、それはそれで言葉が詰まってしまった。


「何か頭の中で思いついたことがあれば、それを口にしておくれ・・・」


「そのコウジさん・・・どうしてケイコさんとお付き合いをしようとしたんですか?」

コウジの要望通りに、思っていたことを口にしていた。


「さぁ・・・なんでじゃろうなぁ。最初は敵対同士じゃったが、そこから逃亡生活を一緒にする様になった後、一緒に仕事をする流れになって・・・いつの間にか今の状態になっておったのぉ」


「と、逃亡ですか・・・?」

コウジから初めて聞く単語が出てきて、つい聞き返していた。


「そういえば言っておらんかったかのぉ?ワシとケイコは元々は敵対組織として争っていたんじゃが・・・尻尾切りにあってのぉ」


「尻尾切り・・・ってなんですか?」


「これは珍しいことなんじゃが・・・ワシを雇った組織とケイコを雇った組織が和解したんじゃ」


「え・・・?じゃあ争わなくてよくなるから、平和になるんじゃないんですか?」


「それが・・・そうもいかんのじゃよ・・・」

そう言いながら、ハンドルを右に回してカーブを曲がっていた。


「これまでの争いの原因をワシ達、雇われの殺し屋や傭兵になすり付けるために、組織と組織が結託して始末しにかかってきたんじゃよ」


「はぁ・・・?な、なんでそんなこと・・・そのまま平和で終わることはできなかったんですか?」

あまりに理不尽な内容に納得がいかなかった。


「元々はワシもケイコの方も、反政府のゲリラ組織が雇い主で、ただの縄張り争いをしてただけじゃったんだが、国が本格的にゲリラ組織を壊滅させるために、他の国と手を組んで、大掛かりな弾圧を巨額の資金を投じて図ったんじゃよ。それにゲリラ組織がビビって、国に降伏をしたんじゃよ・・・」


「い、いいじゃないですか・・・だからそれって平和になったってことなんでしょ?」

そう言うと、コウジは「ふっ」と小さく笑うようなため息を吐いた。


「ただし・・・降伏するためには組織のリーダー並びに幹部達の身柄を国に差し出さなきゃならんかったんじゃ。牢獄に入ることになるがおそらく処刑は免ないじゃろう」


「・・・え?ま、まさか・・・!」

そう言うと、今頭の中で思いついたことが、あまりに恐ろしく感じて口に出すことができなかった。


「そうじゃ・・・ワシ達を殺して、その死体を国に差し出そうとしたんじゃよ。ゲリラ組織のリーダーや幹部の替え玉としてのう」


「ひ、酷い・・・ひどすぎるわ・・・!」

あまりに非人道な行為に、思わず声が大きくなってしまっていた。


「ワシやケイコも含めて、雇われた者達は事情を何も知らなかったから、不意打ちを喰らったかのように襲われてのぉ。ほとんどの同業者は殺されたが、その生き残りがケイコや他にもちらほら・・・結局、この事情についての詳しい部分は国外逃亡をした後に知ったよ。どうやら国側も極秘による水面下で進めていた様じゃったから当時は随分とびっくりしたんじゃよ」

そう言うと「クククッ」と小さく笑っていた。自分がまんまと雇い主に嵌められたことを間抜けに感じているかのような反応だった。


「そ、そのコウジさん達を雇ったゲリラ組織は、結局どうなったんですか?」


「ワシの知ってるところでは、結局今も国とは和解がしきれずに相変わらず悪いことをしておるようじゃな。もちろんゲリラ組織のリーダーも幹部も生きておる」


「ゆ、許せない・・・!じゃあただの襲われ損じゃないの!なんて身勝手なの!」

つい怒ってしまい、その声を聞いたコウジが少々驚いていた。


「ど、どうしたんじゃ?桃子・・・」


「どうしたって・・・あまりに自分勝手すぎるわ!誰が聞いてもこんなこと、怒るに決まってるじゃない!」


「・・・桃子は他人のことでそんなに怒ることができるじゃのぉ」


「・・・あれ?」

コウジ達の経験したことを想像して、つい怒ってしまったが、その様子を見ているコウジが逆に他人事のような雰囲気を出していた。その雰囲気を見てつい怒りがなくなり、そのまま拍子抜けをしてしまった。


「ひ、コウジさんはそんなことされて恨んでないんですか⁈!やり返そうとかって考えないんですか⁈!」


「・・・なんで恨むんじゃ?これは雇い主の見定めに失敗したワシ達のミスじゃ」

コウジは過去のこととして、すでに割り切っている様子だった。


「ダメです・・・コウジさん達が許せても私は許せない・・・!」


「フォフォフォ・・・桃子がそう言ってくれるだけで十分じゃよ。あっ・・・ちなみにケイコはいまだにその件については怒っておるようじゃから、ケイコに言ってやると多分喜ぶと思うぞ?」

そうコウジに言われ、真顔であるが静かに激怒しているのが分かる、そんなケイコ特有の恐ろしい表情が頭の中に浮かんでいた。


「いややめておきます・・・怒りの勢いで特訓メニューが増えそうなので・・・」

そう言うとコウジは、吹き出したように笑っていた。


「そう言えば・・・ケイコが桃子に対して悩んでおったぞ?」


「・・・え?私に・・・?」


「ワシとは親しく話してるのに、ケイコにはタメ語なのが面白くないらしいのぉ。そのことについて、桃子が盗み聞きしてたあの日に相談されたわい・・・」


「あ・・・あの時・・・」

そうコウジに言われると、確かにそんな会話が聞こえてきたような気がしたが、その時は母親の救出計画で頭がいっぱいであったため、そのやり取りを忘れていた。


「そう言えば、その話のついでなんですけど・・・これもケイコさんから聞いたんですけど」


「・・・何じゃ?」


「コウジさんって、昔はすごく怖かったんですか?ケイコさんから見たら、私がコウジさんに敬語を使わないでお話しているのが不思議に見えるそうで・・・」

そう言うと、コウジが複雑そうな表情をしていた。


「ケイコめ。余計なことを言ってくれたのぉ。まさかその話を聞いたせいでワシに気を遣う様になったんじゃな?」

そう言われ思わず「コクリ」と黙って頷いた。


「気にするな桃子よ。あくまで過去の話じゃ。あやつとはワシの現役だった昔の頃の方がイメージついておるだけじゃ。ワシだって好きで感情を殺してたわけじゃない」

過去のことを思い出しながら、ゆっくりと車のハンドルを左に回して車線変更をしていた。高速道路を降りた様で、窓には小雨が小さな音を立てながら降り始めていた。


「自分の平和を守るために徹底していただけじゃよ。ワシはただ、人間として生活したいんじゃ・・・」


「人間・・・ですか?」


「ただ普通に喜んで、怒って、悲しんで、年相応に趣味を持って生活をする・・・ワシはそれを人間と呼んでおる」


「・・・」

コウジの言葉を聞いて何も言えなかった。当たり前の様に、嫌なことがあれば怒ったり悲しんだり、または良いことがあれば喜ぶことができる日常に特別な感情を持ったことがなかったからこそ、それが自由に出来なかったコウジの言葉になんとも言えない重みを感じていた。


「ワシは今まで兵器として生きてきた。だから残りの人生を人間として生きる。だから桃子よ・・・今まで通りワシに気軽に話しかけてきておくれ」


「・・・うん、分かった!」

そう言うと、コウジの表情がゆるんだ。


「ちなみに・・・ワシ達の過去をここまで知っているのはこの世に桃子だけじゃよ」


「え?そうなんですか・・・?」


「裏稼業の人間は自分の過去は絶対に語らん。良いことなんかないからのぉ」

そう言うと、コウジの顔を思わず見つめた。


「なんで私なんかに・・・」


「ええんよ。桃子にはワシ達の過去を隠さないで正直に話すって、ケイコと一緒に決めてあるからのぉ。前みたいに変なタイミングで逃げられても危ないじゃろ」


「あ・・・」

その言葉で以前、相談せずに黙って実家に帰ったことを思い出していた。


「それに・・・桃子がきっかけでワシは人間として生きることができておる」


「わ、私・・・?」

そう聞き返すと、車が少しずつ減速しながら停車をした。


「さぁ・・・到着したぞい」

そう言うと、いつの間にか周りは人気も光もない倉庫に囲まれている寂れた漁港に到着していた。「良比ヶ浜 第三漁港」と書かれている看板が立てられており、その脇には大型トラックが入れるような大きい門が立てられていた。


「え?もう到着したの・・・」

長い車移動であったが、コウジとの会話をしていると、あっという間に時間が過ぎていたようで、時刻は深夜2時半になっていた。


「ようし・・・ケイコがカニ鍋を作り置きしてくれてるそうじゃ・・・ちゃっちゃと終わらせて家に帰るぞい」

そう言うと、締めていたシートベルトを外した。


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