46話 桃子とケイコの距離
カチャカチャ・・・
3人でちゃぶ台を囲みながら、晩御飯をとっていたが、いつもより会話が少なかった。
「あの・・・どうしたんですか?」
いつもとはやや違う雰囲気を感じたため、つい尋ねてみた。
「ああ・・・葉物がのぉ、うまくできなかったんじゃ」
コウジはそう言いながら、畑の方へ目線を送った。
「葉物って・・・キャベツとか・・・?」
「ああ・・・無農薬じゃから仕方ないがのぉ・・・」
今日のお昼にRと会話した内容は、桃子には一旦伏せておくことにしていた。桃子に伝えることで不用意な混乱や不安を避けたかったため、作戦が決まってから改めて伝えようと、ケイコと一緒に決めていた。
「あの・・・今更だけど、どうして畑をやってるの?スーパーに行けば野菜なんて買えるのに」
「さぁ・・・そう言えばなんでじゃったかのぉ?覚えておるか?ケイコ・・・」
そう言うと、思い出そうと「うーん」と唸りながら、ケイコにもそう尋ねた。
「知らないわよ。私もPと一緒でスーパーで買った方が効率良いからって反対派だったんだから」
そうケイコは言いながら、畑で採れたキュウリの漬物を齧っていた。
「まぁまぁ・・・今お前が食べておるキュウリの漬物だって、ワシが畑で作ったものじゃぞ?そう考えると美味しく感じんか?」
そう言うと、ケイコに期待の視線を送っていた。
「美味しい・・・と思うわ」
「美味しいだけでええんじゃよ。こう言う時は」
ケイコが頑張って気を遣ったつもりのようだったが、コウジはその様子を見て少し残念そうにしていた。
「・・・ちょっといいかしら?」
急にケイコが意味ありげに小さく手を挙げていた。
「ん?なんじゃ?やっぱりワシの作ったキュウリは美味いか?」
「あなたじゃなくて、Pに尋ねたのよ・・・」
そうケイコが言うと、思わず「え?」という驚いた声を上げていた。
「・・・」
「な、なんでしょうか・・・?」
ケイコが黙ったままだったため、思わずそう尋ねた。ケイコの作る無言の間は、自分にとって心臓に悪かった。
「あなた・・・さっきの会話でもそうだったけど、私には敬語なのに、なんでこの人には敬語を使ってないの?」
「え・・・?あっ・・・」
ケイコにそう指摘されると「たしかに」と心の中で思っていた。ケイコに指摘されるまで気づいていなかった。
「・・・」
ケイコは黙ったまま、相変わらず冷たい視線をこちらに向けていた。
「ご、ごめんなさいごめんなさい!し、失礼でしたよね・・・!?」
ケイコの無言の間に耐えかねて、何度も頭を下げて謝っていた。ヒロシに対して失礼な態度を取ってしまったということなのだろう。
「P・・・これは命令よ。私にも敬語は使わないで気楽に接しなさい」
「す、すいませんでした!これからはしっかり敬語を使っていきますから!」
ケイコに謝るのに必死で、話が全く耳に入っていなかった。
「・・・違うわ。敬語を使わないで自然に接しなさいと言ったのよ」
「・・・え?私がケイコさんに・・・?」
そう言うと妙な沈黙の間が生まれた。
「あの人とだけ楽しそうに会話しててずるいわ・・・私とも楽しく会話をしなさい」
真顔でケイコが言っていたが、やや気恥ずかしさがあるようで、ほんの少しだけ顔を下に向けて俯いていた。
そして、その様子をケイコの後ろで見ていたコウジは、口を開けながら驚いた表情で固まっていた。
「わ、私がケイコさんに敬語を使わないで話せってことですか・・・?」
「・・・さっきからそう言ってるわ」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「・・・なんでも良いから。話を振りなさい・・・」
ケイコに急かされ、何か話のネタを探すようにあたふたしていた。
「あ、あ、あのその・・・すっごい良い天気だね・・・!」
「・・・」
そう言うと、またもや妙な沈黙の間が生まれた。
「・・・それは夜に話す会話なのかしら?」
「いえ・・・違います。ごめんなさい・・・」
「だから、敬語はやめなさいと命令したはずよ・・・?」
会話を見ていたコウジは、ケイコの後ろで腹を抱えながら声を殺してバレないように笑っていた。
「あなた・・・何がおかしいのよ・・・」
「うっ!」
しかし、ケイコにはバレバレだった。
「あわわ・・・頑張って敬語を使わないように会話しますから!本当にすいませんでした・・・!」
コウジが怒られたのが自分のせいだと思い、またさらに謝罪を繰り返した。
「・・・何か違う気がするわね」
頑張って上官の命令を遂行しようとする桃子の姿勢が、逆にケイコ自身の理想から遠ざかっているような気がしてならなかった。
「・・・これはケイコが悪いわい」
仕方なさそうにコウジが独り言をつぶやいた。




