45話 コウジの怒り
プルルルッ!
プルルルッ!
ピッ!
「・・・Rか」
以前にハリーから渡された封筒の中に暗殺依頼の資料と、連絡用ケータイが同封されていた。
そして今、そのケータイから着信があった。このケータイから着信があるのはすなわち、依頼主「R」からの連絡であることは電話に出る前から分かっていた。
「ファースト・・・こっちの依頼は進んでいるのか?」
コウジの予想通り、Rの声が電話越しから聞こえた。
「お主からもらった資料を元に、こっちでも情報収集をしておる。サボらずに進めておるわい」
「ファーストのことは元同業者の私が一番よく知っている。疑ってなどない」
Rのその言葉とは裏腹に、コウジの表情は険しい顔になっていた。
「矛盾しておるのぉ。それならさっさと桃子のお母さんを解放してやっておくれ」
「クックック・・・一流の殺し屋のお前が、関係のない民間人の母親を心配するなんてらしくないじゃないか。それともまさか・・・この母親とお前に何か関係でもあるのか?」
「・・・」
コウジはRの言葉に言い返せずにいた。Rの今のセリフは、こちらの隠している情報をすでに分かっていると告白しているようなものだった。
「あの伝説の殺し屋と言われたお前も、守る者ができると変わるものだな。俺はそうはなりたくないものだよ」
「・・・こんな無駄話をするために電話をかけたんか?お前さんは・・・」
コウジが苛立った口調でRに問いかけた。
「・・・依頼した日から2ヶ月ほど経過した。そろそろ暗殺の実働に取り掛かってもらいたくてな。その催促だよ」
「なっ・・・お前さん面白くない冗談を言うのぉ。3ヶ月って約束してたじゃろう」
コウジは一瞬取り乱した様子を見せるも、冷静に言い返した。
「3ヶ月と言うのはあくまで納期だ。準備期間を3ヶ月と言った覚えはない」
「お前さん。そう言うのはクレーマーって言うんじゃぞ?そもそもこの業界での準備期間は最低でも6ヶ月は設けるのは常識なのは知ってるじゃろ?3ヶ月でも早すぎるっちゅーのに・・・」
「・・・ダメだ。そちらに拒否権はない。拒否したら人質の安全は保証しない」
期間延長の交渉をするも、Rも譲らない姿勢を見せた。
「人質の声を多少でも聞けばやる気を出してくれるかな?」
そう言うと電話越しからゴソゴソと物音が聞こえた後に、「もしもし・・・」と小さな声が聞こえた。やや高齢の女性の声が聞こえた。
「・・・桃子は?桃子は無事なんですか・・・?!」
まだこちらは何も言っていなかったが、こちらに桃子がいることを知っているようで、桃子の現状を案じた声が聞こえた。
「もしもし・・・今こちらで桃子さんを保護しています。心配しないでください」
コウジが言葉を選びながら、母親に伝えた。
「ぶ、無事なんですね⁈良かったです・・・」
そう電話越しの母親が言うと、安心したのか少し呼吸が落ち着いたような様子だった。
「どうか・・・私のことはいいから、自分のことだけを考えてと桃子に伝えてください!」
今は自分の心配をするべきである現状にも関わらず、離れている自分の娘の心配をしていた。その言葉を聞いたコウジは複雑な表情になっていた。
「・・・今あなたの娘は立派に育っています。あともう少しだけ待っててください。すぐに助けますから」
そうコウジが言うと、電話越しからゴソゴソとした物音が聞こえた。
「・・・助けるというのはもちろん、こちらの依頼を遂行するということだよな?」
電話越しの声の主が、母親からRに代わったようだった。
「フォッフォッフォ・・・安心しろ。お前のために、今まで以上に完璧な仕事をこなしてやるわい。楽しみにしておるんじゃぞ?」
「なんだ・・・随分と不気味な笑い方をするじゃないか」
「お前のご希望通り、すぐに終わらせてやるわ」
そう言うとそのまま、ケータイの電話をこちらから切った。
「どうじゃ?逆探知はできそうかのぉ?」
そうコウジが言うと、機械の目の前に座っていたケイコがヘッドフォンを外した。
「なんとかできそうね。おそらくあなたが以前調べた情報と、同じ場所から電話をかけているとは思うわ」
「そうか・・・たまたま電話がかかったタイミングに、ケイコが台所にいたからラッキーじゃったわい。逆探知の情報が分かったら教えとくれ。倉庫で武器の手入れをしておくわい」
そう言うと、コウジは腰を上げた。
「Rのやつ上手くなったのぉ・・・」
「なんのこと・・・?」
「ワシを怒らせるのが・・・」
コウジの表情はいつもと変わっていなかったが、静かな怒りが宿っていたのは誰が見ても明らかだった。
「・・・とにかく冷静になって」
「分かっておる。そのためにも今から武器の手入れをしてくるんじゃ」
「・・・Pもそろそろ訓練から戻ってくるはずだから、それまでには逆探知情報を調べておくわ」
「了解・・・作戦も今晩に練って、決行する日時も決めるぞい」
「決行するって・・・念の為聞くけど、どっちの任務をこなすの?」
ケイコは内心分かってはいたが、仕事として事務的にも確認をコウジにとった。
「決まっておるじゃろ・・・」
コウジの口調には怒りも悲しみもなく、ゴミをこれから捨てに行くような、まるで感情のないような口調だった。
「もちろん分かってたわよ・・・このまま素直にRの依頼をこなしても、Pの母親が解放されるとは思えないわね」
「ああ・・・Rを消しに行くぞ」




