44話 悔しい悔しい‼︎
「・・・Rの拠点は分かった?」
「ああ、桃子の特訓しとる間にあらかた調べておいたわい。ワシはお前と違って情報収集は得意じゃない。だから、家に帰ったらワシのパソコンに入ってるあるデータを確認しておいとくれ」
「分かったわ」
桃子との特訓が終わった後、畑でケイコとコウジが会話をしていた。
「本当はお前が情報収集をして、ワシが桃子の特訓を専属でやった方が効率が良いと思うがのぉ・・・ワシはああいったデスクワークは好かんし、桃子の相手をしている方が楽しいわい」
「・・・2人で決めたことでしょ?文句言わないの」
コウジが口を曲げながら愚痴を言うが、ケイコは無視するように咎めた。
「で・・・そっちはどうじゃ?桃子の様子は」
土いじりをしながら、コウジはケイコにそう尋ねた。
「あの子・・・筋は良いわね」
「ほう・・・例えばどんなところじゃ?」
「まず頭が良いわ。同じミスを繰り返さないから、ちゃんと頭を使ってるし、あと集中力もある。だから銃の扱いもCQCの成長スピードも早いわね」
「お前がそんなに他人を褒めるなんて珍しいのぅ」
コウジが素直に桃子を褒めているケイコの様子に、意外さを感じていた。
「あと気のせいかもしれないけど・・・なんだかんだで修行を楽しんでいるようにも見えるわ」
「・・・楽しんでる?そんな余裕あるんか?お前の特訓はワシから見ても中々ハードじゃぞ?」
「体力特訓とかは確かに辛そうに見えるけど、銃火器の扱いや、組み手の時は楽しんでいるように見えるのよ・・・まるであなたのようだったわ。あくまでそう思うだけだから気のせいかもしれないけど」
「・・・多分それは気のせいじゃないと思うけどのぉ」
ケイコの話を聞いたコウジは、顎をさすりながらそう答えた。
「あら・・・どうしてそう思うの?」
「山でサバイバルをした時も最初は必死そうにやっておったが、最終的には楽しそうにしておったし、目の前のことに必死に夢中になっている状態が、桃子にとっては嫌なことを忘れられるんじゃろうなぁ」
「母が誘拐されてるのに、なんだかずれた子ね・・・」
コウジの説明を聞いても、ケイコはいまいち桃子の気持ちが理解ができない様子だった。
「だからじゃろ?ビルで男達に銃撃戦にあって、自宅でまた男に襲われて、さらに親を誘拐されておる。まさに踏んだり蹴ったりじゃ・・・ストレスがピークになると開きなおる人間も多いのは戦場で沢山見てきた」
「たしかに・・・ストレスを受けすぎて壊れる人間と、強くなる人間をたくさん見てきたわ。戦いに巻き込まれた民間人、裏家業や同業者も含めて」
「まぁ・・・ワシ達にとってはそんなもんは日常茶飯事じゃが、一般的には異常なことじゃ。ケイコも一般的な表の世界の常識を理解しておくと桃子の心理を理解できると思うぞ?」
コウジに注意を受けたような気がして、ケイコがムッとした表情をした。
「そんなのあなたに言われたくないわ」
「フォフォフォ、ワシは映画やドラマを見ておるからお主よりかは分かっておるよ」
「私だって介護職とご近所付き合い頑張ってるわよ」
お互いが非常識であることを認めてはいたが、お互いとも自分の方がマシであることを譲らなかった。
「それなら一緒にドラマでも観るか?来週面白そうな月9ドラマがやりそうなんじゃ」
「それは絶対に嫌よ。観るとむず痒くなるわ」
ケイコが待ったをかけるような、右手の掌をこちらに向けた。
「あなたは感情の勉強に興味持ってやれたから出来るのよ。あなたもそうだけど、私も幼少期から感情を殺す訓練を受けてきたのに、今更そんなことを身につけるなんて無理よ」
「それじゃあ、最初はとりあえず本を読め。漫画でも映画でも小説でも、あぁそうじゃ・・・ワシがたまにやるボランティアの紙芝居。一緒にやるか?子供と触れ合うと、そう言った感性がよく理解できて面白いぞ?」
「遠慮しておくわ・・・私が子供嫌いなのは知ってるでしょ?」
コウジの提案にケイコは、うんざりした表情でそう答えた。
「まぁともかく、桃子も最初は取り乱しておったが、今は悩んだり考えてもしょうがないと覚悟を決めたんじゃろうなぁ」
先ほど話をしていた内容に戻した。
「あーそういえば、桃子がこんなことを言っておったぞ?」
「・・・何?」
ケイコが気になる様子でコウジに聞いた。
「桃子は親がいないことや、お金が家になかったことに悩んでいて、それを解消するために勉強に打ち込んだようじゃったが、もしかしたら目の前の苦しみを忘れるためにやってたんじゃろうなぁって思ってのぉ」
「あの子なりに思うことがあるのね」
「ワシ達の世界は命を落とさないことに必死じゃが、表の世界は表の世界なりに大変なんじゃよ。多分」
「そのようね・・・Pのような平和な世界で生きていながらも、その反面で自殺する人も沢山いる。私から見たらその気持ちなんてまるで分からないわ。こっちは生きるだけに必死なのに」
ケイコからして見れば、それは命を粗末に扱っているように見えるため、少々呆れたような表情をしながらそう言った。
「ワシだって分からんよ。でもそれが桃子とワシ達の世界の違いじゃよ。殺し屋の技術は桃子に教えはするが、下手に価値観を押し付けないようにせんとのぉ」
「む、難しいわね・・・それ」
ケイコが珍しく考え込むように険しい表情を見せていた。
「逆に・・・修行を通して桃子のダメな部分はあるのかのぉ?」
話を変えるようにコウジがケイコに質問をした。
「・・・Pはメンタルが弱いわ。組み手でもそうだけど、私に攻撃をするときに躊躇することがまだあるから、そこはなんとかしないとダメね」
「その辺りは実践経験を踏まないと難しいんじゃろうなぁ。死から遠い平和な世界で生きてきた人間じゃからのぉ」
「でも、あのままだと問題だから、敵地へ乗り込む時にはそのあたりを克服できるようにはしておくわ」
自分達と桃子がいた世界の違いを感じながらも、どうにか桃子が戦力として成長するためについて2人で考えていた。
「でもあの子は射的の精度が特にいいから、銃火器の扱いを優先的に磨けば相当な殺し屋にはなりそうね」
「・・・」
ケイコの感想を聞いたコウジは、複雑そうな表情を浮かべていた。桃子が殺し屋としての才能があるということは、どこかで多くの人を殺すことになるということだったため素直に喜べなかった。
「あなた・・・分かってるでしょ?こうなっちゃった以上、あの子も殺し屋の技術を持ってもらわないとPの命も危ないのよ」
「ああ・・・分かっておるよ」
「私だって気が進まないけど、2人で決めたんだから・・・Pも立派な依頼人でもあるし、最後まで責任持ってやるわ」
そうケイコが言うと、「あっ」と思い出したような小さな声を出した。
「そういえば、聞きたかったことがあったのよ。あなたね?Pに作戦を持ちかけたのは」
ケイコがコウジにそう尋ねた。
「どうしたんじゃ?急に・・・」
「Pが2本目に用意した木のナイフ。あの削り方・・・あなたが木を加工する時の削り方にそっくりだったわ。あなたの加工用具をPに貸したんでしょ?」
「さぁなんのことやら・・・」
ケイコは確信を持っていたが、コウジは相変わらずとぼけていた。
「仮にワシから桃子にそう助言したとして、それは反則になるんか?」
「・・・いいえ、ただ自力でPに気付いて欲しかったと言うのが私の本音よ」
「フォフォフォ・・・お前も相変わらず厳しいのぉ。ワシ達と違って桃子は一般世界の住人じゃない。なんでもありの裏世界ルールに順応するためには、小さな成功体験がないとまず気付けんぞ」
「・・・そういうものなのかしら?」
ケイコがいまいち納得しきれていない様子で、コウジの言葉を聞いていた。
「それに、ワシとケイコの経験値とは埋められない差が桃子とはあるんじゃ。そんな助言したからといって、お前さんが桃子に負けるとは思えんがのぉ・・・」
「・・・帰るわ」
コウジからそう言われると、ケイコは急に背中を向けて、いそいそとしながら家に向かって歩いていった。
「・・・お前まさか負けたんか?」
「・・・負けてないわよ」
背中を向けながらコウジにそう言ったのだが、明らかに不機嫌な声であることは顔を見なくても分かった。
「・・・あなた、明日私と組み手をしなさい」
ケイコからコウジへ組み手を申し込む時は、イライラしている時か、新しい作戦を立てて勝つ準備ができている時と決まっていた。今回の場合は明らかに前者であることが分かった。
「お前やっぱり負けたん・・・」
「負けてないわよ!!」
コウジがそう言いかけると、食い気味にケイコが大きな声で反論しながら、そのまま背中を向けて家に歩いて行った。
「・・・はぁー。感情的になるなって、いつも自分が桃子に言うとるじゃろうに・・・」
ケイコに聞こえないように小さな独り言を言った。




