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43話 桃子 VS ケイコ

「よし・・・じゃあこれで今日は最後にするわよ。かかってきなさい」

数週間が経過し、毎日行われていた午前中の準備運動も、射撃と格闘訓練にも慣れてきていた。今日もいつもの訓練をこなし、辺りは日も沈み暗くなっていた。


「行きます・・・」


「行きますとか言わなくていいって言ってるでしょ?スポーツと違って合図はな・・・!」

そうケイコが言いかけると、不意打ちのように模擬ナイフが首筋に飛んできたが、ギリギリで避けると模擬ナイフの軌道が首筋から心臓へ向かってきていた。


「まだ甘いわ・・・」

そう言うと、流れるような動きで模擬ナイフを持っている腕を組み、模擬ナイフを持っていた手首の向きがグルンと変わり、模擬ナイフの向きがこちらに向けられていた。


「今だ・・・!」

すかさず右手から左手に模擬ナイフを握り直し、再び首筋を狙った。


「まだ甘い・・・」

ケイコが小声でそう言うとこちらの足を払われてしまい、体が宙に浮いた。


「(これは前にコウジさんが見せてくれた技・・・⁈)」

体が宙に浮いた時に模擬ナイフを落としてしまい、そのまま勢いよく地面に倒れた。そして、落とした模擬ナイフをケイコが拾い、こちらに刃を向けた。


「これでPの負・・・っ!」

ケイコが言いかけた瞬間、驚いた表情を見せていた。ケイコの足元に倒れていた桃子の手には先ほど持っていたものとは別の模擬ナイフが握られており、その模擬ナイフの刃についた赤い絵の具はケイコの太ももに付着していた。


「はぁ・・・はぁ・・・これで私の勝ち・・・ですよね?」

体をゆっくりと起こして立ち上がりながら勝ち名乗りを上げていた。


「・・・」

ケイコが黙って俯いていた。


「(あ、あれ・・・まさか怒らせちゃった・・・?)」

急に何も言わなくなったケイコの雰囲気に嫌な予感がした。


「・・・Pぃ!!!」


「は、はい!ごめんなさいズルしちゃって!今のはなかったことにしてください‼︎」

急に大きな声を上げたケイコに反応し、即座に何度も頭を下げて謝った


「あなた・・・よくこの組み手の意図に気付いたわね」


「・・・へ?」

ケイコが無表情で静かにそう言った。怒られると思っていたため気の抜けた声が出た。


「私があなたへ言ったルール。それは私から先に攻撃をしないこと、ナイフについた絵の具をつけることと言ったわ。逆に裏を返すとそれ以外は何をしてもいいのよ。例え2本目の模擬ナイフを勝手に用意していたとしてもね」


「(あの時、ワシだったらむしろ褒めるけどって言ってたけど、あれはそう言う意味だったんだ)」

ケイコの解説と真意を聞いた時、コウジから言われたことを思い出していた。


「さらに言うなら、私が合図に対して注意することを想定して裏をかいたのもそうだけど、そこから私の攻撃を何度か凌いだ後に、足元を警戒していないフリをして私に足払いを誘ったのも見事だわ。わざと転倒させられることで私の足元を2本目の模擬ナイフで狙うためだったとはね」


「(そこまでは全く考えてなかったけど・・・)」

普段、ケイコから褒められずダメ出しばかりを受けていただけに、ケイコからの過剰な評価を受けすぎて、逆に居心地が悪くなっていった。


「さらに言うなら、これで最後の組み手と言ったタイミングでこの作戦を実行したのも良かったわ。一度失敗したらもうこの作戦は通用しないからこそ、一番私が油断していてかつ、辺りが暗くなるこのタイミングまで待ったのね」


「あ、ありがとうございます・・・へへへ・・・」

本当は最後までこの作戦を実行してもいいか悩んでいたのだが、そのことをケイコに素直に言うと、呆れられるか怒られるかしかなさそうだったため、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべながら、そのままお褒めの言葉を受け取った。


「そのナイフ・・・見せてみなさい」

そう言いながら持っていた2本目の模擬ナイフを手に取った。


「これは・・・木で作ったのね」

よく見てみると、刃や柄の部分が絵の具で本物のように塗られており、大きさや形は本物そっくりだったため、遠目で見れば本物のように見えた。


「・・・やっぱり」

そうボソッとケイコの口から小さく聞こえた。


「P・・・あなたは良い才能を持ってるわね」


「良い才能・・・私がですか?」

どのような才能を自分が持っているのだろうと疑問に思った。


「ええ・・・あなたは一見か弱くて臆病に見えるけど、その裏をかく才能があるわ。擬態能力と言って私には持っていない才能よ」


「は、はぁ・・・」

それは裏を返すと、弱く見えるだけではないかと思った。


「P・・・これは女としてはとても良い才能なのよ。女は弱く見せるのが得なの。戦いの場合はほとんどが男だからその才能は多くの場所で発揮するわ。少なくともビルで襲われた時、すぐに殺されなかったんでしょ?あの人から聞いたわよ」


「それは・・・そうですね・・・」


「少なくとも私が敵に捕まったら即殺されるでしょうね。私は周りが男しかいない裏組織で育ってきたから、Pのような女性特有のか弱さ、つまり擬態能力は身に付けられなかったわ」

確かにケイコはどうみても強者に見えるため、戦場でケイコと対面した相手は油断なく、容赦なく襲って来るのだろう。


「別にこの話は殺し屋の業界に限った話じゃないでしょ?」


「え?ど、どう言う意味ですか・・・?」


「日常生活においても女は擬態が大事なのよ。見た目を化粧で綺麗にしたり、気が強くてもか弱く見せているでしょ?みんな分かってるのよ。それが一番お得であることがね・・・」

その言葉を聞いた時、以前魚屋の大将に好意を見せてサービスを受けているケイコが目に浮かび「たしかに・・・」と顔を引き攣りながら言った。


「ちなみに男は強く見せるのが得なの。男は力があるように見せて、財力があるように見せて、見た目をカッコよく見せる。日常生活においてもメリットがあるわ。ただ・・・」


「・・・?ただ・・・なんですか?」


「強く見せるのも、財力があるように見せるのも、見た目をカッコよくするのも全てハリボテの偽物で繕うことができるわ。だからPは恋愛をするときは相手に騙されないようにしっかり中身を見極めていきなさい。言いわね?」


「は、はい!わかりました・・・!」

急に母親のような恋愛アドバイスを受けて、戸惑いながらも返事をした。


「さて、Pを褒めるのはこれで終わり。たしかにあなたに不覚を取ってしまったのは認めるわ。だからもう二度とこのようなことがないように、Pの不意打ちには徹底して対処するようにするから。次回の組み手は相当難易度が跳ね上がってると思いなさい」

ケイコの表情に少々苛立ちが滲み出ていた。なんだかんだで不覚を取られたことがよっぽど悔しい様子だった。


「(すごく感情的になってる・・・)」

明日からケイコとの訓練がさらに厳しくなることを聞き、心の中でうな垂れていた。


「じゃあ、Pは先に家に帰ってお風呂に入ってなさい。私は畑に寄ってから帰るわ」

そう言うと、コウジのいる畑に歩いていった。


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