41話 ケイコの近接格闘術
あれから数日が経過し、午前中の準備運動という名の長距離ランニングと、とてつもない回数の筋トレをこなしていた。
最初はこなしきることに必死だったが、慣れていくと山籠りで身についた体力と筋力のおかげか、もしくはケイコが常に見張っていることによる緊張なのか分からないが、最初の頃に比べると比較的、楽にこなせるようになっていた。
「数日前に山で銃の構えと狙撃の特訓したわね。実際に自分で弾を込めて引き金を引く。その時の銃の強い反動を忘れないようにしなさい。あと銃で敵を狙撃する場合は一般的に30m前後で狙うことができるとは言われているけど、本番で動いてる相手に当てるのは基本ムリだから、10m前後じゃないと当たらないと思った上で狙撃をしなさい。いいわね?」
「わ、分かりました!」
ケイコが昨日行った特訓の解説をしていた。初めて本物の銃を撃ったが、あまりに強い衝撃と、大きな音に腰が抜けてしまっていた。体がこの衝撃と音に慣れることができるのだろうかと思っていた。
「今日はナイフを使ったCQCの特訓をするわ。本物と同じ重量の模擬ナイフの刃の部分に絵の具を塗ってあるから、この部分を私の急所につけるのが今日の特訓よ」
そういうと刃の部分に赤い絵の具が塗ってある模擬ナイフを渡された。ケイコの言う通り、山の中で生活をしていた時に使用したサバイバルナイフと同様の重量感があった。
「いい?散々しつこく言ってきてるけど、銃を使用する時も、近接戦闘をする時も常に冷静に、感情的にならずに落ち着いて対処すること。感情的になった時点で戦場では死を意味するわよ」
「はい・・・」
ケイコ自身が経験をしてきたのか、冷たい口調で肝に銘ずるかのように言った。
「じゃあ早速やってみましょう」
「え・・・?まだ何も説明受けてないんですけど・・・」
ケイコから急に言われたため戸惑っていた。
「CQCはあくまで緊急的に戦う格闘技であってスポーツではないわ。だから、Pはただ相手を倒すために何が一番良い動きをするべきかを自分で考えてやりなさい。私はPの動きに対して対応するわ」
「わ、分かりましたけど大丈夫ですか?服・・・絵の具で汚れちゃいませんか?」
ただただ純粋にケイコの洋服を心配した。
「・・・ふっふっふっ」
「え・・・あの・・・」
すると、ケイコが真顔のまま小さく笑っていた。
「P・・・まさか本気で私に絵の具を付けられると思ってるの?相当自信があるようね」
「えぇーー!?い、いやいやいやいや!そんなことは滅相もございません!!」
ケイコのその発言を聞いて、自分が変に自信過剰な発言と思われたようで、それを全力で否定していた。
「・・・自信があるのは素晴らしいことよ。私相手にそんなことを言える人はあの人以外いないわ」
「(全然話を聞いてくれない・・・)」
ケイコがこちらの意図と全く違う理解をしている様子で、誤解を解こうとしたが、こちらの話を全く聞いてくれず、全身に力を抜いて棒立ちになっていた。
「さぁ・・・遠慮なく私にかかって来なさい」
こちらの発言に対して真顔ではあるが、目の奥は笑っているような、そんな不思議な表情だった。こちらのお手並みは拝見するのが楽しみな様子に見えた。
そして、その様子がとにかく不気味に見えた。甘く近づいたら手痛い反撃が飛んできそうな雰囲気だったからだ。
「怖がらなくて良いわよ。あなたが私に一方的に襲うだけで私から先制攻撃はしないわ・・・クックック」
「(こ、怖すぎる・・・!)」
あまりに不気味なケイコの様子に怖気付いていた。
「・・・Pから動きにくいなら、私から攻撃した方がいいかしら?」
そう言うとジリジリとこちらに近づいて来た。
「ま、待ってください!分かりました・・・!自分から行きます!」
ケイコの言葉を聞いて食い気味にそう返事をした。不気味な雰囲気を漂わせながらこちらに近づいて来るなんて、そんなのたまったものじゃなかった。その後しばらく、ケイコの様子をジッと見て、懐に入る様子を伺っていた。
ケイコは力を抜いて棒立ちになっているだけで何もしてくる様子はなかった。
「(ええと・・・急所を狙うようにと言われてたから・・・まずは喉元!」
そう考えると、そのまま模擬ナイフで突くように右手に持っていたナイフを伸ばすように、そのまま喉元を狙った。
フッ
するとケイコが、ゆっくりと体を横に動かして模擬ナイフを避けた。
「P・・・一度相手に避けられただけで体が止まったらダメよ。相手に避けらることを想定してそのまま次の動きをすること。それでも避けられたら、そのまま次の動きをまたすること。これを繰り返すことで相手の動きを読む癖を身につけることができるわ。これがCQCの基本的な考えになるの」
「べ、勉強になります・・・」
こちらの動きに対して、冷静な添削チェックをされた。
「そう・・・じゃあそれを踏まえてもう一度やってみなさい」
そうケイコが言うと、またも棒立ちになり、こちらの攻撃を待っていた。
「(ええと・・・相手に避けられることを想定しないといけないわけだから、喉元の攻撃を避けられたら次はその近くにある急所を攻撃した方がいいのかな?)」
そう考えると早速、喉元へ攻撃をした。
フッ
するとケイコが先ほどと同じ動きで、ゆっくりと体を横に動かして模擬ナイフを避けた。
「(よし・・・ここで腕の大動脈を攻撃する・・・!)」
そう考えると、避けた先のケイコに向かってさらに模擬ナイフで腕を突こうとした。
「・・・」
模擬ナイフがケイコに向かってくるも、避けない様子でジッと見ていた。
「(これは当たる・・・!)」
そう思っていた瞬間、模擬ナイフを持っていた腕をケイコに掴まれると、捻るように腕の向きがグルンと変わり、模擬ナイフの向きがこちらに向けられていた。
グサッ
そのまま模擬ナイフの刃が、自分自身の胸元に刺さった。
「い・・・いったぁあぁあぁーーーー!」
ナイフは刃が研がれているわけではなかったが、材質も重さも本物と変わらなかったため十分痛みはあった。そして、胸元には赤い絵の具がベッタリと付着していた。
「P・・・そんな単調な動きだと相手に読まれやすくなるわ。動きが簡単に読まれるということは、今みたいに自分の武器を利用して反撃されることがあるから気をつけなさい」
「け、ケイコさん・・・ごほっ・・・攻撃しないって言ったじゃないですかぁ!」
ケイコにルール違反であることを抗議するように、地面に倒れながら痛みに悶絶していた。
「先制攻撃をしないとは言ったけど、反撃しないとは言ってないわ。軽率な攻撃は反撃される・・・だからちゃんと仕留め切るつもりで本気でやりなさい。ほら、寝てないでもう何回かこなすわよ」
ケイコがそう言いながら、手を叩いて急かしていた。




