36話 桃子 VS クマ
それからさらに数日が経過し、別の拠点で生活をすることに慣れてきた時、再び新しい拠点付近で異変が発生していた。嗅いだことのある獣臭だった。
「この臭い・・・絶対に近くにいる!」
そう確信し、恐る恐る拠点に近づくと、また新しい拠点が薙ぎ倒されていた。
「ガァ・・・!!」
クマを確認した時は運悪く真正面に対峙したため、クマもこちらへ気づいた様だった。こちらに鳴き声を発していた。
「クマがこちらに気づいてる時は、背中を見せないでゆっくり後退する・・・」
図鑑に載っていたクマの習性を繰り返す様に自分に言い聞かせながら後退した。しかし、クマは距離を離さないようにゆっくりとこちらに近づいていた。
「全然離れてくれない・・・それなら例の作戦をしよう・・・!」
そう言うと、ある方に向かって後退しながら進んだ。そこには3mほどの高い崖があり行き止まりになっていた。
あえなく、このままではクマに距離を詰められて襲われる。そんなシチュエーションだったのだが、それも桃子にとっては想定内だった。
「この時のための奥の手よ・・・」
そこには崖の上に登るための木の枝と、ツタで作ったハシゴが事前に架けてあった。クマに拠点を襲われた時を考えておいて、緊急避難をするためのお手製ハシゴがそこには架けてあり、いざクマに襲われた時のことを想定した逃げ道だった。
「・・・グルル」
クマは崖で立ち往生している桃子の様子をジッと見ており、獲物を崖へ追い込んだつもりの様だった。
桃子はハシゴに手足をかけており、後はハシゴを登るだけだった。その際にクマに背中を見せるため、ハシゴを登る時は一気に駆け上がらないといけなかった。
「ふぅ〜・・・せ〜ので行くわよぉ〜」
そう言うと、やり直しのきかない100m走がこれから始まるような感覚になりながら、深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。
「せ〜のっ!!!」
そう言うと、勢いよくハシゴに手をかけて、クマに背中を見せながら登って行った。
「ガアァーッ!!」
すると、それの様子を見たクマは、勢いよくこちらに走って来た。
「マズいマズい!急がないと・・・!」
クマとの距離が10mほどだったが、焦りからか足がうまくハシゴにかけられないでいた。背後を見せていたため、よく分からないが、クマの走ってくる息遣いから、それなりに近い距離まで詰めて来ていることは分かった。
「うおぉぉぉーーーー!!!」
叫び声をあげながら崖によじ登っていたその時、微かに靴が何かに引っ掛かる感覚がした。ふと足先を見てみると、そこにはクマが靴を爪で引っ掛ける様にして引っ張っていた。
「ぎゃあぁあぁあぁーーーー!!!」
恐怖で思い切り大声で叫びながら、クマの爪に引っかかっている足先をジタバタと動かしていた。すると靴が脱げ、そのまま崖下の地面に落ちていった。
「グルル・・・」
クマは地面に落ちた靴をみると、匂いを嗅いでいた。
その隙に桃子は崖から這い上がり、なんとか崖の上に倒れていた。息を切らしながら荒い呼吸をしながら地面に仰向けになっている様はまさに、やり直しのきかない100m走を走り切ったスプリンターそのものだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!やばいやばいやばい!死ぬところだった・・・!」
クマに襲われたことを考え、事前にハシゴを用意したのが正解だったと心から思っていた。呼吸が少し落ち着いたところで、ハシゴの下をみると、クマが靴を咥えながら、今もまだずっとこちらを見つめていた。
「ま、まだいるの・・・!」
このままでは下に降りるわけには行かないし、そのまま崖上に進んで行っても、遠回りをして、またこちらを追いかけて来る予感がしていた。
「逃げてばかりじゃ解決にならなさそう・・・どうしたら・・・」
クマを退治するとまではいかなかったが、せめてクマに一矢報いることで、二度と山の中でクマに襲われないようにしないといけないと思い、何かいい方法がないか考えていた。
「よし・・・これでなんとかやってみよう・・・」
そう言うと、周りにある長い木の枝を拾い、そこにさらに木の枝をツタでくくり付けて、崖の下にいるクマに届く距離ほどの長さにした。その木の枝の先端にナイフをくくり付けた。それはさながら即席のお手製ヤリだった。
「これでクマを攻撃するのはどうかな・・・」
そう考えていたが、イマイチ弱い攻撃に見えたため、他にも何かないか改めてあたりを見回すと、山菜を採取した時に食べられないということで、以前捨てた毒草がそこに生えていた。
「この毒草をナイフに擦り付けて攻撃してみよう・・・」
そう言うと、毒草を木の枝ですり潰した後にナイフに付着させた。クマの方を見ていると、相変わらず、靴を咥えながらこちらの様子をジッと見ていた。
「よし、行くわよ・・・くらえぇぇぇーーーー!!!」
そう言いながら、木の棒をクマの方へ思い切り突き刺した。するとナイフはクマの額に突き刺さった。
「ガオォォウオォーーーー!!!」
クマは大きな鳴き声を上げると、額に刺さったヤリを振り払うように顔をブンブンと振り回していた。そのクマの動きでナイフをくくり付けていたヤリは折れてしまったが、ナイフはいまだに刺さったままだった。
「深く刺さってるのに、死ぬ気配が全然ない・・・」
クマの生命力を目の当たりにして驚愕していた。クマはもがくように苦しんではいたが、弱っている様子はなかった。
やがて頭に刺さったナイフは体を振り回しても取れないことが分かり、頭を崖に打ちつけていた。するとその衝撃でナイフがポロリと取れてしまうと、そのままクマは走り去っていった。
「・・・これでしばらくは襲われない済みそうね・・・」
なんとかやられっぱなしだったクマに一矢報いることができ、これから安心して生活ができそうだと思い、ホッと胸を撫で下ろしていた。




