33話 1人きりのサバイバル
ギャアーギャアー!
「・・・な、何?何の音⁈」
目を開けると、見慣れない緑一面の光景だった。よく分からない生き物の鳴き声と虫の鳴き声などが混ざっており、なんとも辺りが騒がしかった。
「そうか・・・今日から山の中で生活するんだっけ」
思い出したように頭を起こすよう、おでこを叩いた。
天井だけ完成した粗末な拠点の中で横になっていたようで、近くには焚き火が消えた跡があった。
深く眠っていたようで体が相当疲れていたのを感じた。体を起こそうとするが全身には激しい筋肉痛に襲われていた。
「すごい筋肉痛・・・!畑仕仕事の比じゃないわ・・・」
初めてコウジの畑仕事を手伝った時、ものすごい筋肉痛に襲われていたが、その時でも畑仕事を次の日に手伝うことができるほどだった。しかし、今回のそれは、もはや身動き一つも取れないほどの激しい痛みだった。
「あれ・・・なんだろこれ?」
横にしままの体の傍には本が2冊落ちていた。自分のものではなさそうだったが表紙を確認してみると「野草図鑑」と「野生動物を捕まえるための武器・トラップの作り方」と記載されていた。
「これ・・・コウジさんの・・・?」
おそらく自分のために置いていってくれたものなのだろう。そう思い、激しい筋肉痛に耐えるかのように顔を歪ませながら、本が汚れないよう、自分のリュックの中になんとか入れた。
「あ・・・そういえばいつの間にかいなくなってる・・・」
その時、ようやくコウジが周りにいないことに気づいた。今度こそ、1人でのサバイバル生活がスタートしたのだろうと思った。
「さて・・・まずは今日のやることを計画しないと」
そう言いながら、なんとか筋肉痛と闘いながら、体を引きずるかのように移動し、地面に落ちている枝を拾った。
その枝で土に文字を書くように、何時まで食料を探すか、拠点作りをするか等のタイムスケジュールを練っていた。
ちなみに時間を書いてはいるが、腕時計は持っていないため目安として一応書いただけで、後は体内時計で何とか計っていくつもりだった。
「食料確保の時間を多めにとって、その後に川に行って、水を汲んで来ないと・・・そういえば昨日、いつの間にかコウジさんが水を汲んで来てたけど、川にはまだ私も行ってないから、まずは確認しないと・・・もしかしたら魚とかも捕れるかも!」
自分がこれから行うことを整理するかのように、そう独り言を言いながら、早速コウジが水を汲んで来た時に歩いていた方向へ、まだ見ぬ川へ大きな期待を持たせながら歩いて行った。
「川に行くついでに、野草やヘビも見つかったらいいな・・・」
そう言うと、就寝前にコウジが言っていたヘビに注意するよう言われたことをすでに忘れていた。そして、数十分ほど歩くと、底の浅めな小川があり、小さなせせらぎの音が流れていた。
「す、すごい綺麗・・・」
川は透明で明らかに東京の実家の近所にある川とは比べ物にならなかった。そもそも近所の川が、本当に川であるのかどうかも疑わしいほど、目の前にある川は透き通っていた。
人が近くに住んでいないと、ここまで綺麗な川になるのかと思った。そこから川沿いを上流の方面に少しずつ歩いていくと、そこには小さな滝があり滝壺の地形となっていた。
「すごい迫力・・・」
滝壺に吸い込まれていっている滝は激しい音を立てていた。上から下に水が大量に落ちているその光景はずっとを見ていられるほどだった。
「この滝壺に飛び込んだら気持ちいいんだろうなぁ〜・・・昨日からずっと汗かいてきてたからサッパリしたいなぁ〜・・・」
昨日から汗と土で体が汚れていたため、早くこの体を清めたかったが、今更ながら着替えを持っていないことに気付いたため、水浴びをしてしまうと全裸になってしまうのと、今はそれをする余裕もないため、あえなく断念した。
「あれ・・・川の中に影が見えるけどもしかして魚?」
最初は漂流物か何かかと思い、川の中に入って拾い上げようとしたが、影がこちらを避けるように動くと、そのまま下流方面に流れていった。
「魚だ!間違いない・・・しかもちょっと大きい!」
あれを捕まえられれば、ここでのサバイバル生活にかなり余裕を持たせることができると考えた。
「動きが早すぎるなぁ・・・素手じゃ絶対に捕まえられないや。何かいい方法ないかな・・・」
そう言うとリュックに入れた図鑑を広げた。
「木で作ったヤリ・・・草で編んだ網・・・枝の釣竿・・・探せば色々とやり方があるのね。時間のある時に、できそうなところから試してやってみよう」
そう言い、拠点に戻ろうとした時、ウサギが遠くで毛繕いをしている様子が見えた。
「え?ここにウサギもいるの?」
近づこうと歩いて向かうと、ウサギがこちらに気づいたようで早足に去って行った。
「・・・さすがにウサギは食べようとは思えないわ」
大学の友人がペットとしてウサギを飼っていることを思いだしていた。とてもじゃないが、どんなに空腹でも犬や猫のようなペット動物を食べている自分を想像することができなかった。
「この山、他にもいろんな動物がいそうね。ちゃんと捕獲できれば食料は割となんとかなるのかも・・・」
ウサギを見つけたことで、楽観的な気持ちになることができ、改めて拠点に戻りつつ、食べられる野草とヘビもついでに探した。
それから数時間が経過しただろうか。時計がないため正確にはどれくらいの時間が経過したか分からなかったが、図鑑を見ながらなんとか食べられそうな野草を探すことはできたが、手の平程度におさまる量しか採取ができなかった。
「探した場所が悪かったのかな・・・」
少食とはいえ、この量では1食分にはならないと感じた。
「日が落ちないうちにもっと食料を探さないと・・・」
昨日の筋肉痛と相まって、今日の探索による疲労も出ていたが、なんとか自分の体にムチを打つように動かした。図鑑を見ながら小さい木の実や、雑草の中に紛れて生えていた食用の山菜をなんとか集めたが、気づいた時には夕陽が辺りを赤く染めていた。
「ま、マズい・・・17時は過ぎてるかな・・・」
もっと食料が見つかると思っていたが、最終的には両手で収まる程度の量しか集めることができなかった。
「そろそろ火をつけよう・・・」
時期に辺りが暗闇になるのを考えて、焚き火を作ろうとした。焚き火の作り方は昨日、コウジが目の前でしていたので、そのやり方を見様見真似した。
「たしか・・・木の棒で下にある木の溝に擦って・・・小さい火種を作る感じだったはず」
うろ覚えの中で木の棒を持ち、擦り続けていたが思ったようにうまくできずにいた。
「全然煙が出ない・・・コウジさんがやってた時は10分くらいで火はついてたのに・・・」
やり始めて30分は経過していたと思うが、いまだに煙が出ていなかった。
「煙が出そうにもない・・・このままだと夜になっちゃう・・・」
今の時期はまだ気温が夜でも高いため、防寒対策としてはそこまで必要ではなかったが、暗闇の中で虫の鳴き声に混ざって聞こえる動物の鳴き声に不気味さを感じていた。また、動物の鳴き声を聞くたびに、山に入る前に目撃した「熊注意!」と書かれた看板を思い出していた。
「・・・いたっ!」
手の平に痛みを感じたため見てみると、所々にマメができており出血している箇所もあった。その時、集中していたようで相当な時間が経過していたことに気づいた。
「・・・はぁ」
手が痛みでこれ以上出来ないと断念し、火をつけるのを諦めた。そして、そのまま屋根しかない拠点の中で横になっていた。
今日採取した木の実だけは食べたが、山菜は生で食べるわけにはいかないと思い、手を付けなかった。水も空き缶で火にかけて沸騰させてから飲む予定だったが、火がつかなかったため、結局我慢も出来ずにそのまま火にかけないで飲んでしまった。とにかく喉が渇いてしょうがなかった。
「昨日気付かなかったけど、夜の山ってこんなにうるさいのね・・・」
辺りは暗闇に包まれており、日中とは比べ物にならないほどの虫の鳴き声と、動物の鳴き声が聞こえた。それはさながら真夜中のオーケストラだった。
「明かりがないってこんなに寂しいなんて・・・」
まだ20時にもなっていないはずであるが、火が付かない以上は明かりもないため横になることしかできなかった。暇というよりは空腹による心細さが勝っており、横になって何もしていない状態が、体を動かしている状態よりも空腹状態を気にさせていた。
「昨日のヘビ・・・食べておいてよかった・・・」
体を横にし、次第に疲労感が出て始め、そのまま目を閉じた。




