32話 桃子の御守り
「なぁ桃子・・・さっき見せてくれた御守りをもう一度見せてくれんか?」
「えっ?・・・別にいいけども・・・」
焚き火を消して就寝しようとしたところ、急にコウジにお願いをされ、リュックを手渡した。
「・・・この御守りは親からもらったと言うとったが」
「うん、私の名前が書いてあって・・・それを御守り袋に入れてあるの」
「御守りの中身を見ていいかの?」
そうコウジが聞くと小さく頷いて返事をした。
「これは英語じゃな・・・」
御守りの中にあるメモに書かれているような紙を取り出した。そのメモには「your name Peach」(あなたの名前は桃)と書かれていた。
かなりボロボロでススのよう黒い汚れもあったため、読むのがやっとだった。
「よくわからないけどお母さんから渡されたんだけど、なんで英語なんだろうって。しかもすごくメモ紙だけ汚れてるし・・・だけど、妙に捨てきれなくて持ってたの」
桃子も詳しくは母親から聞いていなかったため、イマイチこの紙の意味を分かってはいなかった。
「そういえば、コウジさんの親はいないの?」
ふと、そう思い尋ねた。
「・・・ワシの両親は小さい頃に殺されたよ」
「えっ!?」
反射的に口を隠していた。
「気にせんでええ。紛争地帯じゃったからのぉ・・・テロ組織に両親が殺されて、小さい頃にそのまま攫われた後はテロ組織の兵隊として銃を持って生活しておったよ」
コウジの幼少期のお話を聞いてさらに口を反射的に隠してしまった。
「ひ、酷い・・・」
いわゆる「チャイルドソルジャー」という、身寄りのない子供を利用することであり、ネットや映画などで見聞きしたことがあったが、本当にそのような被人道的な行為があるのかと、言葉が出なかった。
「たしかに酷い話かもしれんが、そんな話は昔からよくあることじゃ。日本は平和じゃが海外の地域によっては相手を殺さんと、生き残ることができない。だからワシは仕事のためではなく、生きるために兵隊として生き、そこから裏の世界で殺し屋として生きてきた」
遠くを見つめながら過去を思い出すように耽りながら語っていた。
「桃子には知って欲しいのは、殺し屋の修行をするとは言ったが、その修行は人を殺すためではなく、平和のために使って欲しいんじゃ」
「平和・・・?」
「そうじゃ・・・どんなに自分が争いを避けても必ずどこかで避けきれない時が来る。その時に力がなければ自分や大切な人の平和を守ることはできん。だからそのためにもワシ達がお主を育ててやる」
そのコウジの言葉を聞いて、家にある「平和」と墨で書かれている和紙を思い出した。
コウジ達は自分たちの平和を守るために殺し屋をしていることを心から理解することがやっとできた気がした。
「この財布は今回は必要ないからワシが無くさんよう預かっておく・・・」
そう言うと、コウジが背負ってるリュックに財布を入れた。
「・・・どうしてなんですか?」
「何がじゃ?」
「・・・どうして私に対してここまでしてくれるんですか?」
なぜコウジ達がここまで自分に対して時間と労力を使ってまで見てくれているのかが、ふと疑問に思っていた。
「言ったじゃろ?お主はワシ達の依頼人じゃ」
「で、でも・・・5000万円・・・一括で払うのが普通なんですよね?一括で支払っていないですよ・・・私」
そう言うとコウジは「ふぅー」と深いため息を吐いた。
「ワシも正直悩んでおる・・・」
「悩んでる・・・何にですか?」
「将来じゃよ」
「今までワシは自分の平和を守るために依頼をこなして報酬を受け取っていた。それから、いい歳までここまで生きてこれたから、これからは身の安全のために隠れて生活しようと思っておったが・・・」
「・・・が?」
コウジが言葉を詰まらせながら、考えながら話をしていた。いつもおどけたように話をしている様子とは違う雰囲気だった。
「今は自分の平和と安全のために生きるか、他人の平和のために生きるか悩んでおる。これまで自分のしたいこととして、日本に来てからは畑を耕したり、読書や映画も見た・・・まあそこまで好き勝手にできたのもケイコのおかげなんじゃが」
「ケイコさん・・・ですか?」
「ああ・・・あとそれに・・・」
再び言葉を詰まらせるようにしながらも、考えて話をしていた。
「いやなんでも・・・桃子はワシと違ってせっかく親がいるんじゃから。老後の趣味として助ける手伝いでもしてやろうと思っただけじゃ。そんな深い理由はない・・・」
一度言いかけた言葉を引っ込め、そう説明をした。
「そういえばヘビ・・・どんな味がしたかの?うまいじゃろ、あれ」
「あ、ああ・・・ササミみたいなさっぱりしてて美味しかったです・・・」
「そうじゃろ・・・ただ、あまり狙って捕獲するのは控えるんじゃぞ?」
「え?なんでですか?美味しいからまた食べたいです!もう大好きになっちゃいましたよぉ〜」
先ほどまで苦手意識が強かったヘビが美味しかったため、今はまた食べたい気持ちでいっぱいだった。
「あれはマムシといって、猛毒を持っておるから噛まれたら死ぬぞ。湿った場所におるから岩の裏や沼地とかには気をつけるんじゃぞ」
「ま、マムシ・・・?猛毒・・・?」
そう言われると背中がゾワゾワし、再びヘビに対して苦手意識が復活してきていた。




