31話 未知の味
「はぁ・・・はぁ・・・」
息を切らしながら枝や葉っぱを同じ場所にかき集めていた。他のことを考える余裕もなく、減っていく体力と戦いながら、なんとか気力を保たせていた。
「はぁ・・・はぁ・・・こんなに体を動かしたの初めてかも・・・これなら運動部に入っておけばよかったかな・・・」
勉強ばかりをしていた学生時代を思い出していた。元々中学の頃にバスケットボール部の主将をしていたくらい運動は好きだったが、高校に入ってからは帰宅部を選んでいた。その理由は学業に専念するためだった。
「はぁ・・・はぁ・・・今と勉強していたあの頃、どっちが大変だったかなぁ・・・」
独り言をブツブツと言いながらも、疲労により意識が朦朧となっていた。そのせいで足元も不安定だったためよろけて、転びそうになっていたその時だった。
ヒュンッ!カン!
「えっ?」
急に顔の真横を高速で通過したように見え、朦朧としていた意識を起こすかのように目を見開いて確認をした。
飛んできた方向を見ると、鋭い眼光でコウジが何かを投げたような姿勢を取っていた。後ろをゆっくりと振り向いて、顔の横を通過したものの正体を確認した。
「・・・うっ!これって・・・ヘビ⁈」
ヘビが近くの木に巻き付いており、その頭にはコウジが投げたナイフが刺さっていた。ナイフは強い力で投げられたからか、未だに弓矢から打ち出された矢のように「ビィーン」と音を鳴らして揺れていた。
「もう少しで噛もうとしてたぞぉ・・・ヘビが首元を・・・」
「な、ナイフが顔の横に・・・」
ヘビに噛まれそうになったことよりも、ナイフが顔付近に飛んできたことに対して驚いていた。ナイフの位置が数cmずれていたら顔に刺さっていたことを想像すると、腰が抜けてそのまま地面に座り込んでいた。
「何をビビっておるんじゃ・・・ワシがナイフ投げを外すわけないじゃろ?」
「は・・・はは・・・そうですね・・・はは・・・」
力のない笑いが込み上げてきていた。
「・・・流石にサバイバル生活初日で、お漏らしはせん方がええぞ」
「だ、大丈夫・・・ちょっとしか漏らしてないから・・・はは」
「それはまた・・・出会った日よりも成長したのぉ」
そうコウジが言うと、ヘビに近づいた。
「それにしても初日にタンパク質が手に入ってラッキーじゃな!こんな感じで拠点作りをしながら食料も調達できることもあるから、ちゃんと集中しながらやらんとのぉ」
「・・・え?まさかこれを食べるの・・・⁈」
コウジの言葉に耳を疑った。目の前でヘビが血を流しながらも刺さったナイフの下でピクピクとまだ体を動かしていた。
「当たり前じゃろ・・・ヘビって美味いんじゃぞ〜!」
「む、ムリムリムリ‼わ、私・・・ヘビとかカエルとかそういう爬虫類系はちょっと本当に!ずっと我慢してたけど、今にも叫び声が上がりそうで・・・」
「なんか、今までで一番ビビっとりゃせんか?」
コウジが不思議そうな表情をしながら、ナイフとヘビを持ち上げた。
「ヘビやカエルが苦手なら虫でも食うか?今ならバッタやカブトムシの幼虫もすぐに見つかるはずじゃぞ?」
「い、イヤぁあ゛ぁあ゛ぁ゛・・・!」
森の中に叫び声が響き渡り、鳥達がその声に驚いてバサバサと飛び去っていった。生理的に体が拒否反応を起こしており、背筋がざわざわするような感覚になっていた。
「なんじゃ・・・まだ叫ぶほどの体力があるんじゃな。ほれ、早く拠点を作らんと日が沈んでしまうぞ!」
そう言うと安心した顔になり、パンパンと両手を叩いて桃子に発破をかけていた。
数時間後、コウジの言う通り太陽が沈みかけており、目の前には焚き火が作られていた。
「ええか?火の付け方はこうやってやるんじゃ。明日からは自分でやるんじゃぞ?」
目の前で火種の作り方を実演して見せてもらっていた。手際がよくやっていたが、じっくりやれば自分でもなんとか出来そうに見えるような単純な作業だった。
「こんなこと・・・映画やドラマでしか見たことなかった・・・」
「今はライターやマッチがある時代じゃが・・・今回は道具が無いからこういった時のためにも覚えておいて損はないぞ?」
そう言うと、皮を剥がして木の枝をナイフで削っただけの串をヘビに突き刺し、それを土に埋め、燃やした藁を上に積み重ねた。土を高温にして蒸し焼きにするようだった。
「さて、明日からは本格的に1人でやってもらうが、この辺りは川も少し歩いたところにある。この当たりの川の水なら沸騰させれば蒸留水にせずとも、十分綺麗な水になる」
「・・・蒸留水?」
「蒸留水とは水を蒸発させて、蒸気からまた新たに水を作ることじゃ・・・どんな水分からも水を作ることができるから、これをすればお腹を壊すこともない」
そう言うと燃やした藁の上には、先ほど拾った空き缶に川の水を入れて火にかけた。
「これであとは拠点を作れば最初に必要な4つが揃うわな。これを毎日継続して確保すれば立派に生活できるぞい」
「こ、これを毎日・・・」
初日でこれだけ動いたのを考えると、これを毎日継続するとなると想像以上の労働だった。そんな労働を律儀に毎日こなしている自分を想像することができなかった。
「安心せい・・・こう言うのはなんでも初日が一番大変なんじゃよ。拠点も最初に良いものを作れば後に困ることはないし、水も水源を先に見つければ毎回水を探すこともない」
「う〜ん、ちゃんと出来るかなぁ・・・」
「出来るかどうかじゃない。やるしか無いんじゃ。なぁに、あまり難しく考えんでいいぞ。桃子は意識していないが現実世界で無意識にやっておる・・・ご飯を食べて水を飲んで体を温めて家で生活をしておる・・・これをここでやるだけじゃ」
「・・・そんなこと考えながら生活をしたことなかったな・・・」
今までしていた普段の生活を思い出しても、この山で用意しないといけない物は苦労せずに手に入れることが出来ていたため、やはりコウジの言葉を聞いてもピンと来てはいなかった。
「それでも今の状況よりも贅沢な環境を知っておる・・・それが大事なんじゃよ。イメージができるからのぉ。あとはそのイメージを目指して生活をするだけじゃ」
そう言いながら、焚き火の下に埋めていたヘビを掘り起こし、パリパリになっていた皮を手際よく剥いでいた。
「よし・・・いい感じに焼けておるな」
ヘビの体は真っ黒に焦げているように見えたが、直火で焼いたわけではないためススがついてるような状態だった。ススと焼けた土を手でほろうと白い肉身部分が出てきた。そして、それを思いきりコウジが噛み付いた。
「いやー・・・うまいの〜ヘビは!」
「うえぇ〜〜・・・!」
爬虫類が苦手なだけに、それを食べている様子にどうしても気色悪さを感じていた。
「苦手でも明日を考えて食べた方がええぞ・・・」
そう言うと、ヘビが刺さった串をこちらに押し付けた。
「わ、私・・・」
体が拒否していたため、そのままコウジに押し付けるように返そうとした。
「桃子・・・今日だけでもたくさんの挑戦をして成功したじゃろ・・・」
「・・・え?何のこと?」
「虫に刺されながら山に入って、拠点作りをして、川の水を飲んで、今ここで野宿をしようとしておる。今日だけでもすごく成長したんじゃよ・・・過去の桃子ならともかく、今の桃子なら食べれる」
そうコウジが言うと、こちらが突き返した串をまたこちらに押し付けられた。
「うぅ〜・・・」
体は相変わらず拒否をしており、唸り声を出していたが、朝から何も食べていない状態だったため、空腹を我慢する限界を感じたのと、コウジの期待する目線に居た堪れなくなり、思い切ってヘビの体に噛み付いた。
「うぅ・・・!」
口に入れた状態からそのまま動かせないでいたが、ヘビが口にある状態に慣れるとゆっくり顎を上下に動かし咀嚼をした。
「・・・どうじゃ?うまいか?」
「・・・」
しばらく無言になりながら咀嚼をし続けていた。
「・・・うぅ」
ヘビを食べながら自然と涙が溢れ出てきていた。
「なんじゃ・・・もしかしてマズかったか?」
コウジが心配そうに気を遣いながらこちらに話しかけた。
「ううん、違うの・・・なんか分からないけど、なぜか勝手に自然と涙が出てきて・・・」
「・・・そうか」
コウジがぽつりとだけ言うと、ただ黙って焚き火を見ていた。
「前にも言ったが、桃子はワシ達の依頼主なんじゃから。もっと大船に乗ったつもりでいなさい・・・どんな困難が来ても乗り越えられる人間にしてやるからのぉ」
コウジの言葉を聞いて揺れている焚き火を見ながら「うん」とゆっくりと頷いた。
「ヘビ・・・美味しいね」
涙を拭きながらコウジに先ほどの質問された、ヘビの味を答えた。




