27話 成功率100%
「ほう・・・」
そうきたかと思いながら、コウジがそう反応をしていた。
「お、お願いします・・・!私にとっての唯一の家族なんです・・・!」
桃子にとって2人の協力が唯一の希望であったため、その希望を逃さないようにと全力で泣きながら懇願していた。
「桃子よ・・・お仕事としてワシ達に依頼をするのならお金は払えるかのぉ・・・?」
「い、いくらになりますか・・・?貯金でしたら全部で150万くらいしかないです・・・」
桃子が自信なさげに言った。
「ワシ達が現役の頃にもらってた依頼料は最低でも5000万からじゃ。ケイコも付くと倍の1億。それを一括払いで請け負っている」
「い、1・・・億・・・」
桃子は途方も無い反応をしていた。そんな大金を一括で払えるわけがないと思っていた。
「裏業界の中でもかなり高い相場じゃが、それで普段はやっていた。そうせんと依頼が殺到してやってられんかったわ」
その話を聞いて、2人は改めて裏業界の中でも信用信頼をされている凄腕の殺し屋なのかと思っていた。
「ごめんなさい・・・どうか分割で払うことはできませんでしょうか・・・?」
呻き声をあげながら。それでも諦めずに変わらず2人に懇願していた。
「まず、ルールとして1件5000万円と言うのはまけることはできん。一度まけると業界中にも知れ渡り厄介になる。Rみたいに情報収集力のあるやつもおるからのぉ」
「うぅ・・・」
普段はひょうきんなコウジも、仕事の話だからなのかいつもの甘さはなかった。そのせいで、もはや心が折れかけていた。
「そう・・・そこでどうじゃ?ここで一つ取引をせんか?桃子・・・」
諦めかけたその時、コウジが桃子の方を向き人差し指を上に向け、「ここだけの話じゃ」と小声で呟きながら、にやっと微笑んだ。
「と、取引ですか・・・?」
「そう・・・あくまで母親を助けに行くのは桃子がする。ワシ達は桃子と一緒に救助へ行ってサポートをする。これでよければ報酬を下げることはできんが・・・まぁ分割払いで請け負おう」
「い、一緒に救助・・・?さ、サポート・・・?」
条件付きでなんとか請け負ってくれるとのことで喜びかけたが、条件部分に引っ掛かり、同じ言葉を呟いた。
「今回の依頼はケイコ抜きの5000万円でワシだけ救出現場に行くが、相手がRである状態から母親を背負いながら戦闘をするのは流石に危険じゃ。だから母親を背負う役として桃子も一緒に救出現場についてくること。それが最低条件じゃ」
その話を聞き、徐々に不安な顔色に変わっていった。
「だ、大丈夫ですか?私・・・さっきもそうだったけど弱いから足手まといになるんじゃ・・・」
事実、男たちにすぐに囲まれて拘束されたため、とてもじゃないがコウジの迷惑になるイメージしか浮かばなかった。
「もちろん、桃子自身が今よりも強くなってもらわないとダメじゃから、ワシ達が桃子1人でも戦えるように鍛える手伝いもする。分かるか?」
「・・・」
桃子は黙っていた。先ほどまで武装した男達に怯えていた自分なんかが、果たして母親を助けに行くことができるのだろうかと考え込んでいた。
「悪いが・・・これ以上はもうサービスできんぞ?」
鉄の意思を感じるような真剣な表情をしながら、はっきりと桃子へ伝えた。
「母は・・・」
桃子がゆっくりと口を開いた。
「末期がんで・・・余命があと1年だと言われています」
「・・・」
桃子の母親ががんであることを2人とも知らなかったみたいで、少し動揺した様子だった。
「いつも喧嘩してばかりで口うるさい母ですが・・・元々母が持病で長くないのも分かってました。だから・・・最後に良い思い出が作れたらと思っていたところだったんです」
桃子の苦しそうにしながら言葉を一つ一つ紡ぎだすように言い、その言葉をコウジとケイコがただ黙って聞いていた。
「いつも迷惑をかけていたけど・・・次は私が母の助けになれるよう頑張ります・・・だ、だから・・・」
一呼吸を置き、勇気を出して最後の言葉を言おうとした。
「どうかその条件でお願いします・・・」
か細いながらも力強さを感じる言葉を吐き出し、桃子はまた改めて俯くようにして2人に頭を下げた。
「そのようじゃ、ケイコ・・・ええかのぉ?」
「良いも何も・・・あなたがそう言うなら私は止めないわ」
ケイコが相変わらず淡々とした口調で言っていた。
「あ、ありがとうございます・・・ありがとうございます・・・」
桃子は感謝の言葉を繰り返していた。一度諦めかけていたからこそ、コウジの譲ってくれたことで救われたような気がしていた。
「一応、Pの母親の安全のためにも念のため、Rの依頼も進めるわけでしょ?そっちの案件は私が勝手にやるわよ?」
「構わんよ・・・Rの組織のアジト情報だけでも調べておいてくれんか?桃子の依頼はワシ中心でやるわい」
「・・・分かったわ」
2人は今後の動きについて打ち合わせをしていた。
「それにしても桃子は中々良い判断をしたのぉ・・・」
「良い判断・・・?何がですか・・・?」
桃子は不思議そうにそう聞き返した。
「ワシ達はこの業界でも、それなりに有名人なんじゃ。なんで有名か分かるかのぉ・・・?」
「え・・・?」
それは先ほどの2人の依頼料を聞いた限り、理解をしていたつもりだったが、そう聞かれると言葉に詰まってしまっていた。
「そ、それは強いから・・・ですか?」
「それもあるけど、強いだけならこの業界にいくらでもいるわ。強さ以外に重要なことはたくさんあるのよ」
ケイコがそう意味ありげに桃子に言った。
「私達がどうして有名なのか・・・それは依頼の達成率よ」
「た、達成率・・・」
「ええ。一度依頼をしくじると裏業界では生きていけなくなるの。失敗した報復で殺されるわ。だけど私達はこの歳になってもまだ生きている」
「つまり、ワシ達の依頼の達成率・・・100%なんじゃ。だから桃子は良い買い物したのぉ・・・」
そう言うと少しワクワクしたような、腕が奮えることへの喜びを感じるような声色をしていた。
車の窓には「ようこそ長野県へ」の看板が見えた。数日前にこの看板を見た時のことを思い出したが、今はその頃とは違う看板に見えた。
なぜなら、数日前の精神状況と違い、今ここで起きていることは夢でもなく、紛れもない現実であるということを確信持って言えるからだった。




