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22話 これはそう、ドッキリなのよ


「・・・・ハッ!」

気が付くと電話BOXの中に立っていた。受話器越しの先はすでに切れており、「ツーツー」と電子音が聞こえた。


「・・・」

頭の中がふわふわしているような感覚になっていた。意識がまだ戻りきっていないような、夢の中に未だにいるような感覚だった。

母に対する事情説明をするために、こうなった出来事を思い出していたら、そのまま学生時代の頃まで思い出していたようで、妙な感覚になっていた。


「この感覚・・・いつだったか前にもあったような気がする・・・」

この不思議な感覚は初めてではなかった。思い出そうとしたその時、あまり時間もかからず、すぐにその時のことを思い出した。


「Barだ・・・コウジさんがバーテンダーを返り討ちにして、自分も殺されるから一緒に脱出しようと言った時だ・・・」

あの時、自分は何を考えて、どう思っていたかもなんとなく思い出そうとしていた。


「たしか・・・現実だと思えなくて夢だと思ってたような・・・会社のイタズラだと思って怒っていたような・・・」

ブツブツと小声で自分自身と会話をしていた。


「そうだ・・・!会社のドッキリなんじゃないかと思ったんだ!よくよく考えたら、新人の私に会社のVIPの接待なんて重要な仕事を、しかもメールなんかで依頼するなんてありえないわ!」

桃子の勤めている会社は日本有数の商社でもあったため、その割には雑な仕事と感じており、多少の違和感はあった。しかし、早く出世がしたいという気持ちが先行していたせいで、余計なことを考えるのをやめようと、その時は思っていた。


「はぁ・・・何これ?もしかしてこれもドッキリなの?まだ続いてるの⁈ねぇ‼︎」

もしかしたらこの様子も隠しカメラか何かで監視しているのではと考えた途端、沸々とした怒りがこみ上げてきていた。

そして、こちらを監視しているであろう人物に大きな怒り声をぶつけていた。


「・・・」

しばらく返事を待つも、誰も返事はしなかった。


「はぁ・・・実家に帰ろう・・・」

そう言いながら、電話BOXの扉を開いて外に出た。


「コウジさんとケイコさんも多分、ドッキリのエキストラなのよね・・・」

よくよく考えたら高齢に見える老人と、その妻が凄腕の殺し屋なんてことは現実離れがしているにもほどがあると思い、ここまで騙されていた自分に心底嫌気がさしていた。


「このまま黙って実家に帰ろう・・・」

コウジとケイコがドッキリのエキストラだと思っているものの、あの2人には特有の底知れない不気味さがあった。ただ、その不気味さがあったからこそ、ここまで騙されていたとも思えていたが、とにかくもう関わらない方がいいと本能的に感じていた。


「ここからどうやって帰ろう・・・」

そう言いながら周りを見渡していた。

ケータイがあれば帰路を調べることができるが没収されている。ケータイを取りに戻るのはもちろん避けたかった。


「しょうがない・・・人に聞くしかないか・・・」

そう言うと、商店街の中で人気がありそうな場所を探したところ、目の前で魚屋さんが大きな声で客引きをしており、たまたまその魚屋さんの大将と目が合った。


「へいらっしゃい!お嬢ちゃんお買い物かい?普段見かけないけど実家に帰省中かい?」

魚屋の大将が初対面にも拘らず、慣れたように馴れ馴れしくそう声をかけた。


「は、はぁ・・・そうですね・・・」

東京ではここまで初対面相手に声をかけるのは、ナンパか居酒屋のキャッチくらいなものだったため、困惑しながら回答した。


「あ、そういえば昨日ケイコさんと一緒に商店街に来てたね!ケイコさんの娘さんかぁ〜!目元が似てると思ったぜぇ〜!」


「うっ・・・!」

どうやらケイコと買い物している様子を目撃されていたようだった。勝手にケイコの娘だと思っているようで、勝手に納得していたが、桃子にとってコウジとケイコの名前は今や聞きたくなかった。


「そ、そんなに似てますか・・・?」

愛想笑いを浮かべながらも怪しまれないように魚屋の大将の雑談に合わせた。


「似てる似てる!ケイコさんも美人だよなぁー!普通に話してると笑顔なんだけど、ただ普通に歩いている時のあのキリッとした横長の目つきなんて・・・カァ〜堪らねえぜぇ!お嬢ちゃんと瓜二つだよぉ〜!」


「あははは・・・(絶対に似てない)」

お世辞のつもりなのか分からないが、商品を買ってもらいたいがための常套句だと思い、話半分に聞き流していた。


「ところで今日は何を買いに来たんだい?」


「あ、今日はその・・・」

魚屋の大将のペースに合わせていたため、言葉が詰まってしまっていた。


「ん?どうしたんだい・・・?何か困ったことでもあるのかい?」


「あ、いえ・・・実は急遽東京に戻らないと行けなくなりまして・・・」

他に気の利いた会話が思いつかなかったため、そのまま自分のこれからの行動を素直に伝えた。


「そうなのー?かーっ!東京で働くってやっぱり大変なんだねぇー!お休みの日でもこうやって呼ばれるなんてねぇー!」


「はぁ・・・ただケータイが壊れてしまったので、帰り方が分からなくて困ってたんですよね・・・」


「あーだから困った顔してたんだねぇ!よし、おっちゃんが教えてやるよ!紙に書いてあげる!」


「えっ!本当ですか⁈」

魚屋の大将から、まさかの助け船が出たことに驚いていた。


「そんくらいお安い御用よ!あ、ただ一つだけお嬢ちゃんにお願いしてもいいかい?」


「・・・え?な、なんですか?」

先ほどまで陽気だった大将の表情が急に真顔になっていた。


「あ、いや・・・別にたいした事じゃないんだけどもよぉ・・・」

真剣な真顔の表情とは裏腹に、先ほどまでの大きな声が小さくなっていった。そんな大将の急な変化に嫌な予感がした。


「は、はい・・・なんでしょうか・・・?」

恐る恐る大将の要望を尋ねた。


「そ、そのよう・・・ケイコさん・・・今度俺っちに紹介してくれないかい?」


「・・・はい?」

桃子の目が点になった。


「あ、いやいやいやいや!そういうわけじゃないんだよ!俺っちにも奥さんがいるし他人の奥さんを狙おうなって思っちゃいねーよ!たまにうちで買い物してはくれるんだけどさぁ!ちゃんと会話したことがないからよぉ!なんだか恥ずかしくて恥ずかしくて!別に変な意味じゃないぜお嬢ちゃん!本当だ!」

さっきまでの小声が吹っ飛ぶような大きな声と唾がマシンガンのように桃子に飛んできたため、驚いて飛び跳ねてしまった。


「わ、わかりましたから・・・!母に伝えておきますから・・・!」

だからお願いだから声量を下げてくれと、お願いするように桃子は大将に両手を広げてストップのジェスチャーを示した。


「あぁわりぃわりぃお嬢ちゃん!つい興奮すると大きな声が出ちゃうんでついつい!」


「あぁ・・・いえいえ・・・」

大将が桃子に謝りながら東京へ行くためのメモを書いて、それを手渡した。


「じゃあ帰ってきたら今度こそウチで買い物しにきてくれよぉ!」


「は、はいこちらこそ・・・メモ紙ありがとうございます・・・」

そう言うと桃子はメモ紙に書かれている道に向かった。まずはバス停へ向かい、そこから鉄道駅へ行けるようだった。


「あ、そうだ魚屋のおじさん!」

桃子は思い出したかのようにくるりと振り返り声を出した。


「ん?どうしたんだい?」


「あの・・・母には今から東京へ行くのは内緒でお願いします」


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