17話 自分の身は自分で守れ
その日の夕食は野菜炒めにたくあんの漬物、根菜の味噌汁だった。食材として使った野菜は全て家の隣にある畑で取れたものだった。
「とりあえず、基礎体力を付けてもらうところから始めないとダメじゃろなぁ」
「それは私も賛成だけど、銃火器の扱いもすぐに覚えさせないとダメよ」
「それはまだ早いじゃろ・・・銃火器を扱うのにも体力がいる。扱いが悪すぎると最悪自分の命も危ないじゃろ」
「そんなことないわ。最初のうちに触って慣れさせる教育になるし、何よりPを甘えさせてしまうわ」
ちゃぶ台を囲んで夕食を取りながら、桃子の教育方針を白熱させながら話し合っていた。明日からすぐにでも桃子に訓練を実施する予定のようだったが、コウジとケイコの教育方針がぶつかっているようで一向に話しが進まなかった。
「とりあえず、最初は体力をつけるためにも熊のいる山の中で50kmほど走ってもらう方がええんじゃないかのぉ・・・」
「それも大事だけど、先に爆発物や毒薬の扱いを教えるべきだわ。体力は積み重ねないとすぐに付かないし」
「お、お前・・・毒薬が体に入るかもしれんじゃろ。爆発物もじゃ。もし誤爆したらどうするんじゃ?」
「あら、あなただって熊と遭遇したらどうするのよ?訓練が危険じゃないものは訓練とは呼ばないわよ」
「それ・・・ワシが昔言ったセリフじゃな」
お互いに意見を譲らず、口喧嘩になりつつあった。
「(冗談でしょ・・・本当に今言ったことする訳じゃないよね?)」
2人の会話がどんどん過激になって行ってるように聞こえ、不安になっていった。
「ほれ、ケイコのせいで桃子の顔が青くなっておるじゃろ」
「あなたの教育に不安を感じているのよ。そうでしょ?P」
「お前・・・そもそもコードネームなんて要らんじゃろ。依頼を実際に受けたわけでもないんじゃから」
「あら、自分の命を守りきるのも立派な任務よ」
お互い譲らない姿勢をとっていた。どうやらお互い一流の殺し屋なだけあるのか、各々で理想の教育方針があり、そこにも仕事としてのこだわりやプライドもあるようだった。
「あ、あの・・・」
2人の白熱した話し合いに割り込むように桃子は手を挙げた。
「どうしたんじゃ桃子?」
「その・・・2人のお話なんですけど・・・」
桃子が申し訳なさそうに口を開いた。
「お、まさかワシの方針の方が良いってことかのぉ?なら遠慮なくこっちがいいって言ってええぞ!」
「何言ってるのよ・・・私の合理的な考えに共感したのよ。そうでしょ?P」
2人が自分自身の考えが正しいことに自信を持っているような口ぶりだった。
「あ、いえ・・・ずっと気になっていたんですけど、どうして私、殺し屋の訓練をしないとダメなんでしょうか?私・・・殺し屋に転職しようとは思っていなくて」
昨日の車の中でしていた会話からずっと疑問に思っていた。どうして殺し屋としてスパルタ特訓を受けないといけないのかが自分自身理解していなかった。
「お主・・・まさかそれも分かってなかったのか」
「はぁ・・・あなた言ってなかったの?PもPよ・・・数日の流れで薄々理解はしてると思ってたわ」
ケイコはコウジに呆れたのか、桃子に呆れたのか分からないが、少々イライラしたようにたくあんをポリポリと食べていた。
「あ、あの・・・とりあえず自分が命を狙われているのは分かったんですけど私、殺し屋になりたいなんて言ってないので・・・」
「そんなことはワシ達も分かっておる。引退したワシ達がお主に殺し屋稼業を継がせようなんてことは考えておらんよ・・・ケイコ、おかわり」
「あくまで殺し屋としての特訓はお仕事ではなく、自分の命を守るための力を身に付けるためよ・・・はい、あなた」
ケイコがご飯を持ったお椀をコウジに渡した。
「自分で守る・・・?」
「そうよ。まさか私達に守ってもらおうなんて考えていたのかしら?」
「自分の命は自分で守る。この業界では常識中の常識じゃよ。ビルでは確かに助けてあげたが、これからはお主もワシ達と同じ住人なんじゃから。立派に強くなって頑張るんじゃぞ」
「え?え?え?」
口をパクパクさせながら困惑していた。2人の言葉を受け入れられなかった。
てっきりこの2人が自分を保護してくれたと思っていたため、こんな目に遭っていても多少安心をしていた。
しかし、そうではなく、自分でなんとかしろと突っぱねられ、どんどん不安が込み上げてきた。
「これはワシ達家族のルールでもあり、うちの方針なんじゃ。たとえそれが血の繋がった実の子供相手でものぉ」
「(め、目眩が・・・)」
桃子は床に座っていたのにも関わらず、立ちくらみのような感覚になっていた。




