11話 人生、練習とアドリブ
「あー今終わったわい。これから合流地点Aに向かう」
電話越しの報告をしていた。おそらく相手は老人の「妻」であろう。
「・・・」
「よ、よく見ておるのぉ・・・確かに1人逃げられたわい。じゃあ処理はお願いするぞい」
「・・・」
「べ、別に遊んでなんかないぞい!真剣に任務してたわい!」
明らかに桃子から見たら真剣に戦っているようには見えなかったが、特に何も言わずに目の前のやり取りを見ていた。
「(あの戦っていた時の様子・・・恐怖を感じていたけど、私を心配してくれたり、戦いを説明していたのは何だったの?まるで子供が遊んでいるかのような光景にも見えたけど・・・)」
桃子は電話をしている老人の様子を見て、不思議そうにそう考えていた。
ピッ!
「じゃあビルから脱出するぞい」
いつの間にか電話が終わっていたようで、ケータイをポケットにしまった。そして、桃子の体を起こすために手を差し伸ばしていた。
「あ、ありがとう・・・」
腰を抜かして床に座っていたが、時間が経過したおかげか、体の震えも収まっており、老人の手を借りることなく自力で立てるようになっていた。
というよりも、まだ得たいの知れない老人の手を触ることに対して、命を救ってくれた事実を鑑みたとしても抵抗があった。
ガチャ!
桃子が歩くと、床に落ちている何かを踏んだ音がした。目を凝らして見ると、そこにはナイフがあった。その時、自分は先ほど男に投げつけられた物がナイフであることをここでようやく知った。
「ウソ!こ、こんな危ない物を投げられていたの・・・⁈」
そう考えていると身がすくみ始めていた。
「靴はどこじゃ・・・」
そして、老人はナイフを撃ち落とした片方の靴を拾っては履き直していた。
「ナイフ・・・刺さらなくて良かったのぉ」
「そ、そうね・・・助かったわ・・・」
「正直、あんなことやったことなかったから、ちゃんとナイフに当たってラッキーじゃったわい」
「そうなのね・・・えっ?ラッキー??」
老人の言葉を聞いて、大きな声が出して驚いた。
「そりゃそうじゃ。格闘や銃の扱いは訓練するが、靴を飛ばす訓練なんて普通はやらんわい」
「えっ!じゃ、じゃあ下手したら死んでたの⁈私・・・」
「まあ、下手したら死んでたかものぉ・・・ただ急所には当たらないように靴を飛ばしたつもりじゃから、悪くても手足にナイフが刺さる程度じゃと思うがのぉ・・・」
「・・・っ!」
老人のその言葉に背筋が凍っていた。改めて冷静になったことで、自分の命が危なかったこと徐々にまた思い出していた。
「桃子や。生きてれば正義なんじゃ。たとえどんなに怪我をしててものぅ。そして本番は基本アドリブ何じゃよ」
「あ、アドリブ?」
「そう、アドリブじゃ。どんなに格闘の訓練をしても、本番になったらさっきの靴を飛ばすみたいな行動が吉となることもある。訓練は大事じゃが、常に想定外をなことが起こるつもりで何事も挑まないとのぉ」
そう言うと、Barの扉を開けて廊下に出た。




