第31話 愛斗さんの彼女の正体
大学から帰る時も愛斗さんと一緒だったので私は天飛さんにデート場所はМパークがいいと言う前に愛斗さんの意見を訊いてみることにした。
「あの、愛斗さん」
「何ですか? 凛子さん」
「実は天飛さんとのデート先にМパークを考えているんですが、愛斗さんの意見を聞いておきたくて」
「Мパーク……ですか」
愛斗さんは少し考えるような素振りを見せたがいつものごとく指でメガネをクイっと上げる動作をした。
「МパークというのはS海岸に近い場所に最近できたやつですよね?」
「そうです。水族館ではイルカショーをやってるんです。私、イルカが好きなんでそこがいいかなと」
「S海岸に近い場所なら私はかまわないと思います。S海岸付近は私のグループの黒水炎虎の縄張りですから」
おっと、愛斗さんが総長をやっている暴走族の縄張りはS海岸だったんですか。
普通のイケメン大学生に見えても愛斗さんは暴走族の総長なんだよね。
愛斗さんはどうして暴走族の総長なんてやってるんだろう。
以前、天飛さんは愛斗さんには好きなことをやらせていると言ってたけど本当に愛斗さんは好きで暴走族の総長になっているんだろうか。
「愛斗さんはなぜ暴走族の総長をやっているんですか? 天飛さんからは愛斗さんは好きで暴走族の総長をやっていると聞いたんですけどやっぱり好きだからですか?」
「……始めに誤解があるようなので訂正しますが、私が好きなのはバイクで誰よりも速く走ることです。暴走族に入ったのは自分の彼女と思いっ切り海岸線を走りたかったのが理由です。総長になったのは喧嘩が強かったので必然的になってしまったというのが正しいでしょうか」
彼女と思いっ切り海岸線をバイクで走りたかったからなのか。
ということは、愛斗さんの彼女さんは先に暴走族に入っていたのかな。
「愛斗さんの彼女さんって愛斗さんより先に暴走族に入っていたんですか?」
「え? ああ、そこも誤解があるようですね。私の彼女というのは私が乗っているバイクのことです」
「バイク?」
「はい。私は自分のバイクを自分の彼女のように扱っています。彼女と一体になって風を切って走る快感は最高ですよ」
なんと! 愛斗さんの彼女とはバイクのことだったとは。
バイクを彼女と言い切る愛斗さんのバイク愛はすごいな。
「じゃ、じゃあ、人間の彼女さんはいないんですか?」
「……最近、気になる人はおりましたが、その人にはどうやら想い人がいるようなので諦めてその人の恋を応援しようと思っています」
私を見つめる愛斗さんのメガネの奥の瞳が僅かに揺れたような気がした。
そうか。愛斗さんの恋は実らなかったのか。
自分の恋が実らなくてもその相手の恋が実るように応援するなんて愛斗さんって大人だな。
「自分の想いが通じなかったのにその人を応援するなんて愛斗さんは大人ですね」
「いえ、その人が想う相手が私がこの世で一番尊敬する人だったので諦めただけです。私にとってその人以上に尊敬する人はいないので。だからその二人の恋がうまくいってくれることを願っていますよ」
愛斗さんがこの世で一番尊敬する人が恋敵だったから諦めたのか。
二人の恋がうまくいくことを願うなんてやっぱり愛斗さんって大人だな。
「そう思える愛斗さんはやっぱり大人だと思います。愛斗さんの願いが叶うといいですね」
「……では、凛子さん。天飛兄さんと恋人になって私の願いを叶えてくださいね」
「へ?」
「私の気になっていた方は凛子さんです。そして私がこの世で一番尊敬するのは天飛兄さんです。二人が恋人になることが私の願い。ですがもし凛子さんが天飛兄さん以外を選んだりしたら、その時は……賢い凛子さんなら分かってくださいますよね?」
メガネの奥の愛斗さんの瞳がギラリと光る。
その瞬間、私は自分が愛斗さんに食べられてしまう感覚になった。
う! 愛斗さんの暴走族の総長は伊達じゃなさそう。
でも愛斗さんが気になっていたのが私ってのはびっくりしたな。
これって愛斗さんからの告白って言っていいかもだけど愛斗さんのことを恋人にとは思えないからごめんなさいとしか言えないな。
愛斗さんの言う通り私は天飛さんのことが気になっているし。
だけど天飛さんと無事に本当の恋人になれる保証なんてないよ。
もし天飛さんと恋人になれなかったら、私、愛斗さんに何をされるんだろう。
うう! 愛斗さん、変なプレッシャーかけないでーっ!!




