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嫌われ者の令嬢は、私が愛しましょう。【コミックス⑤巻7/30発売予定】  作者: 暮田呉子
番外編Ⅲ【海辺の婚前旅行】

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番外編Ⅲ-①

 盛大に催された王宮舞踏会──。

 幾千もの灯りを宿したシャンデリアがきらめき、ホールには新たに社交界へ踏み出した若い男女が初々しく舞っていた。

 祝福に満ちたその空間で、私はワイングラスを手に、少し離れた一角から目を逸らせずにいた。

 ――婚約者が、大勢の令嬢たちに囲まれている。

 彼は昔から人当たりがよく、誰にでも気さくだ。

 それを嫌というほど分かっているのに、他の女性へ向けられる笑顔を見るたび、胸の奥がざわつく。


「……なによ、楽しそうにしちゃって」


 何を話しているのかは分からない。

 けれど、あの笑顔を見ていると、まるで自分の居場所を取られたようで落ち着かない。

 気持ちを誤魔化すように、私はワインをぐいと飲み干した。

 そのとき、背後から穏やかな声がした。


「――あれは、リオネルかな?」


 その声に振り向けば、オーティスが近づいてきた。

 私は思わず背筋を伸ばし、反射的にスカートの裾をつまんで一礼した。


「王国の若き太陽にご挨拶申し上げます、王太子殿下」

「そんなに畏まらないでくれ。先ほども、我が親友を伴って挨拶に来てくれたじゃないか」


 そう言って彼は、自然な仕草で私の隣に並んだ。

 昔と変わらない距離感で、優しい笑みを浮かべたままホールを眺める。


「賢い君がリオネルの伴侶になってくれたら、私も安心するよ。……結婚式には呼んでくれるよね」


 穏やかな声音なのに、心臓がひときわ強く鳴った。

 彼の記憶からは、あの忌まわしい出来事も、イザベルへの想いも消えている。なのに、目の前の優しい笑みがどこか痛々しく感じられた。


「もちろんです。王太子殿下が直接祝ってくだされば、彼もきっと喜びます」

「……そうか。なら、良かった」


 ふっと目を細めるオーティスは、もはや別人のように落ち着いていた。

 レイリンの術によって記憶を封じられた今、彼は以前とは違う新しい時間を生きている。

 もう──何も覚えていない。


「それでね、イザベル。後日、少し時間をもらえるかな? その……レイリン王女殿下に手紙を書いたんだけど、ウ・ランカ語は自信がなくてね。間違ってないか確認してほしいんだ」

「……分かりました。私でよろしければ」

「助かるよ。あと、彼女に贈るプレゼントも一緒に見てほしいんだ」


 彼の嬉しそうに弾ける笑顔に頷いた、その瞬間――会場の反対側から、強い視線を感じた。

 振り向けば、令嬢たちの輪を抜けたリオネルがこちらを見ていた。

 眉間に皺を寄せ、目の奥に嫉妬の色を宿して。

 ……なによ、自分だって囲まれていたくせに。

 そう思って視線を逸らすと、リオネルは真っ直ぐこちらへ歩いてきた。


「……ずいぶん楽しそうだな、二人とも」

「やぁ、リオネル。向こうのご令嬢たちはいいのかい?」

「婚約祝いの言葉をもらっていただけだ。それよりオーティス、俺の婚約者だからといってあまり親しげに近づくな。誤解されたら困る」


 怒りを含んだ声色に、オーティスは少し驚いたように目を瞬かせた。

 ──恋敵でなくなった今、リオネルが彼に警戒する必要はないのに。案の定、オーティスは嫉妬する親友を見て、堪えきれず笑い出した。


「あはは、あのリオネルが嫉妬を! よほどイザベルのことが大切なんだね」

「……うるさい」


 赤くなった頬を隠すように、リオネルは私の手を取った。


「行くぞ、ベル」


 強く握られた手の温もりに、胸の奥がじんわりと満たされる。つい先ほどまで、令嬢たちに嫉妬していた自分が馬鹿みたいだ。

 私たちはホールを抜け、夜風の吹き込むバルコニーへと出た。

 星の瞬く静寂の中、リオネルが息を吐いた。


「……オーティスには近づくなって言っただろ」

「向こうから近づいてきたのよ。それに記憶は封じたから平気よ。今は以前のイザベルのことなんか眼中にないわ」

「それでも、だ。……何が起きるか分からないだろ」


 そうやって私のことになると、なりふり構わず心配してくれる彼に、愛しさがこみ上がる。

 私は口元を緩め、リオネルの肩に寄りかかった。

 夜風が、花の香りを運んでくる。

 舞踏会の熱気が遠のくにつれ、ひんやりとした空気が肌に心地いい。

 その中で、リオネルの手が私の指を包む。どちらからともなく距離が縮まり、額が触れそうなほど近くなった。


「……お前を一人にするんじゃなかった」


 その低く甘い声に、体の芯が震えた。

 彼の手が私の背中をなぞり、首筋に唇を押し付けられると思わず息が漏れる。


「リ、リオネル……っ、ここ外よ……!」

「誰も来ない」

「そんなこと言って……!」

「愛してる、ベル」


 さっきまで嫉妬で顔を曇らせていた人とは思えない。

 金色の髪が月の光を受けて輝き、私の視界を埋め尽くした。その美しさに見惚れていると、不意に笑みがこぼれる。


「……なんで笑うんだ」

「子供みたいに拗ねてたくせに、もう調子に乗ってるからよ」


 言葉を交わすたび、私たちの距離が近づく。

 唇が軽く触れて離れると、リオネルがふいに目を細めて囁いてきた。


「……やっと、許可が下りたんだ」

「え?」

「前に話してただろ、婚前旅行のこと。グラント公爵がようやく許してくれた」


 一瞬、時間が止まったように感じた。

 何のことか思い出そうとして、自分だけが忘れていたことに気づく。それなのに、リオネルはずっと許可を取り続けてくれていたのだ。私の父から。


「でも、リオネルの方が忙しいのに……」

「忙しくても行くさ。ベルと一緒なら、何よりも優先したい」


 私よりずっと忙しく駆け回っているのに、偽りのないまっすぐな眼差しに嬉しくなる。


「だから、もう少しだけ……こうしていていいか?」

「……ええ」


 寄り添うようにして、今度は私の肩にリオネルが頭を預けてくる。

 恋人同士という言葉だけでは足りない、深い絆がそこにあった。


「やっとお前を独り占めできる」

「それは、私も──」


 すべてを言い終わらないうちに、唇が塞がれる。

 月明りの下で触れたその口づけは、誓いそのもののようで熱かった。


皆さんお忘れでしょうが、コミックス⑤巻は本日発売です!!

累計23万部突破、ありがとうございます!

皆様のおかげです~感謝!まだまだ続けられるように頑張ります。

原作より糖度のあるコミカライズをどうぞよろしくお願いします。

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★コミックス④巻 2026/1/30発売★
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▲公式サイト
漫画担当:藍原ナツキ先生
配信:講談社マンガアプリPalcy(パルシィ)・pixivコミック
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