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嫌われ者の令嬢は、私が愛しましょう。【コミックス⑤巻7/30発売予定】  作者: 暮田呉子
第二章

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呪われ王子と異国の姫⑭

 ──……誰でもいい。

 この悪夢から救ってくれるのなら、何者でも構わない。


「……、ん──」


 重く沈んでいた意識が、かすかな声に引き上げられていく。

 薄く目を開くと、眩しい光に視界が揺れた。


「目ガ、覚メマシタカ?」

「……長い間、悪い夢を見ていたような……」


 喉がひどく乾いているせいか、言葉が続かなかった。

 頭の奥が、霞がかったようにぼんやりしている。思考の端に何かが引っかかっている気がするのに、それが何なのか思い出せない。

 それなのに、どこか別の世界に生まれ変わったような感覚があった。


『まだ夢の残滓が残っているのでしょう。もう少しだけお休みください。次に目覚められた時は、さらに楽になっているはずです』


 異国の言葉なのに、その響きは優しく、沈んだ心を撫でていった。


「……そうか。……君が、私を救ってくれたのか」


 胸の奥に、奇妙な静けさが広がっている。

 痛みも、怒りも、悲しみもない。

 まるで、すべてを流し去ったあとの清々しさだけが、そこに残っていた。

 それでも、自然と涙が滲んだ。


「……貴女の名を、訊いても?」

「……蕾玲レイリン蕾玲レイリン、デス……オーティス殿下」


 唇からこぼれたその響きは、どこか懐かしい温もりを帯びていた。

 遠い夢の中で、一度だけ呼んだことのある名のように。


蕾玲レイリン……」


 オーティスは彼女の名前を胸に刻むように一度口にしてから、そっと目を閉じた。

 ──忘れてしまっても、確かに感じる。

 何かを失った痛みと、その代わりに得た穏やかな安らぎを。

 朝の光が静かに差し込み、彼の頬を照らす。

 涙の跡をきらめかせながら、オーティスは静かに眠りへと戻っていった。



 ★★


『いやぁ、どうなるかと思ったけど、うまくいって良かったなー』


 気を失ったオーティスは護衛騎士に運ばれ、部屋へ戻された。蕾玲レイリンは彼に付き添い、疲れた体を引きずるようにして後に続いた。

 彼女の護衛はというと、蕾玲レイリンにはついていかず、用意された軽食を頬張っていた。彼曰く、蕾玲レイリンについていくのは「野暮」だという。

 詳しいことは分からないが、呪術の効果を確かめるのは蕾玲レイリンのほうが適任だろう。

 私は泣き疲れてしまって、動く気力もなかった。

 一方リオネルは、私の腕に握られた手の痕や引っ掻かれて滲む血の跡を見て騒ぎ、彼自ら治療にあたってくれた。騎士の訓練で慣れているのか、傷薬の塗り方も包帯の巻き方も手際が良かった。


「でも、本当によかったのか……? イザベルのことを忘れたってことは、あいつがイザベルにしてきた仕打ちも、全部忘れたってことだ」

「……いいのよ。あの歪んだ感情のまま、イザベルのことを想い続けてほしくなかったの」


 精神的に消耗した私は、リオネルの肩にもたれた。

 やはり、彼の隣が一番落ち着く。


「でも、リオネルを刺した記憶も消えてしまったわね」

「お前がそれでいいなら、俺は気にしない。それより、ベルに怪我をさせた恨み、これからじっくりと復讐してやるさ」


 リオネルは不敵な笑みを浮かべ、これからオーティスをじわじわといたぶるつもりのようだ。それについては、目をつぶることにした。

 少し休んでいると、目の前で私の軽食まで平らげている昊然コウゼンが目に留まり、つい声をかける。


『……それより昊然コウゼン、食べ過ぎじゃない?』

『その分、動いて消費してるんだよ。心配なら、ベルも俺に付き合うか?』

『私、剣術は習ったことがないから、手合わせは無理よ?』

『ちげーよ。ほかにもっと、やれることがあるだろ? 俺なら足腰立たなくなるまで夜の相手してやれるぜ?』

『なっ……バ、バカじゃないの!?』


 誤解を受けるようなことを平然と言ってくる昊然コウゼンに、私は顔を真っ赤にして怒鳴った。

 昊然コウゼンはケラケラと笑ったが、隣では婚約者が怒りで全身を震わせていた。


「オーティスのことだけでも怒り狂いそうなのに。──ベル、なんでこいつに愛称で呼ばせてんだ?」

「……そのほうが呼びやすいっていうから」

「だからってお前まで呼び捨てで呼ぶ必要があるのか?」

「ウ・ランカ国では、それが普通みたいで……あの、リオネル、さん?」


 焦る私に、リオネルはスッと立ち上がったかと思うと──


『今すぐ決闘しろ、昊然コウゼン!』

『ハハ、望むところだ!』


 止める間もなく、リオネルと昊然コウゼンは剣を手にして部屋を飛び出していった。

 呆れたように息を吐きながら、私はぽつりと呟く。


「自分だって呼び捨てで呼んでるくせに、私より仲良しじゃない」


 すると、振り返ってきたリオネルと視線が合う。びしっと指を差されて「後で、詳しく、訊くからな」と言い放ったように感じ、私は思わず苦笑した。

 さて、今のうちに逃げるべきか。

 ……と思ったけれど、疲れていたのでその場に留まって休むことにした。


 私が眠りについたその頃、どこかでは友情が芽吹き、どこかでは新しい恋が始まり、そしてどこかでは、まだ誰も知らぬ出来事が動き出していた。

 そうして物語は、知らないところで紡がれてゆく──。



【END】


第二章完結!読んでくださりありがとうございました~

漫画ではリオネルとイザベルのイチャイチャシーンを盛り盛りで描いてもらっています!

本編は完結しましたが、二人の婚前旅行などの番外編も更新していきます~


コミカライズ・講談社マンガアプリPalcy(火曜日更新)▼

https://palcy.jp/comics/2261


pixivコミック(水曜日更新)▼

https://comic.pixiv.net/works/10909

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★コミックス④巻 2026/1/30発売★
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▲公式サイト
漫画担当:藍原ナツキ先生
配信:講談社マンガアプリPalcy(パルシィ)・pixivコミック
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