呪われ王子と異国の姫⑨
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「一番の問題は、両国間で行き来するには必ずウォルテア国か、モンタイト国を通らなければ行けないということです。この二国はガロム連峰に隔てられていますが、とても仲が悪いです」
「穏やかな海に面したウォルテアは交易に栄え、大陸一の港町がある。一方のモンタイトは、荒波の海に面して交易は栄えず、代わりに農業が盛んで、大陸一の農業地帯を誇っている」
「仲が悪いってどのぐらい?」
他国と国交を結ぶ上で、避けては通れないのが他の国との関係性だ。
ウ・ランカ国は隣接した国から国と認められていない以上、レクラム国がひとつの国と認めて国交を結ぶことになれば、他の三国が黙っていないはずだ。
「そうだな、きのこ派とたけのこ派ってところか」
「……それは、相容れないわね」
リオネルに尋ねると、私が最も理解できる品物に例えて答えてくれた。それで分かってしまうのだから、日本人はすごい。ダミアンは「何の話ですか?」という感じで、首を傾げていた。
「だから、うちの国はどちらの肩も持たないように中立っていうわけだ。どこかの国で紛争や戦争が起きても、参入することは禁じられている」
「ええ、ですからレクラム国では年の終わりに、国の最高指導者を招いてパーティーが開かれます。毎年のことながら、犬猿の仲である二国には精神を削られますね……」
なるべく顔を合わせないように、宿泊施設や護衛には頭を悩ませると話すリオネルとダミアンに、同情を禁じ得ない。それでも、これまでは王太子であるオーティスが国王のサポート役に徹して動いていたから何とかなっていたようだ。
しかし、今年は……と言いかけて、私たちは計画に引き戻された。やはり、この計画を成功させるほかないのだ。
「どちらの国を通るにせよ、ウ・ランカ国の使節団がどのような扱いを受けるか、それが心配ですね」
「こちらが招いたのに襲われでもしたら、俺たちが裏切ったと疑われかねないしな」
私はリオネルとダミアンの会話も、その場にいた蕾玲と昊然に通訳した。二人も納得したように頷くのを見て、この国では使節団が襲われても不思議ではないということだ。前世の世界とは、やはり違う。
「……それなら、そのウォルテアとモンタイトに競争心を持たせたらどうかしら」
「どういうことだ?」
「仲が悪いというより、自分たちが持っていないもので相手が栄えているのが面白くないのよね。それなら、ウ・ランカ国にはレクラム国の公爵令嬢が愛してやまない代物があると、噂を流すのはどうかしら。そのために、こちらが費用を負担してでもかの国から使節団を招くつもりだと」
「……公爵令嬢は姉上しかいませんが」
「この国で最も高貴な女性、という立場を利用するのよ。他国には、私がまだ我儘姫で通っているでしょうし」
実際この計画には、蕾玲を国賓として招く以外にも「米が欲しい」という私情が含まれている。
何ら問題はないはずだ。
けれど、通訳までして計画を知らせたのに、リオネルとダミアンはため息をつき、蕾玲は戸惑い、昊然は腹を抱えて笑っていた。
『やっぱ悪女だな、アンタ』
『誉め言葉としてもらっておくわ』
私の返しが気に入ったのか、昊然は「アハッ」と短く笑って目を細めた。値踏みするような視線に、今度は私を連れて行くと言い出しそうで睨んでおいた。
『でも、それでは何かあったとき公女様が責められてしまいます』
『そうかもしれませんが、本来の目的を隠すには仕方ありません。私たちが行おうとしているのは、反逆で捕らえてしまうような裏取引ですから……』
国の王太子を治療するといっても、やはり洗脳に近いことだ。
国王の許しを得たとしても、すべての貴族が同意してくれるような行為ではない。場合によっては、告発されてしまうような行いだ。
だから、必ず成功させなければいけないのだ。
「こちらから使者を派遣するとき、二国に対してそれぞれ外交するのよ。そこで「向こうの国はウ・ランカ国と交流する動きが出ている」と噂を流すの。噂は、あくまで噂だから。そうすれば使節団が襲われる可能性は下がるし、実際どのような待遇を受けたのか大げさに報告するのもいいわ」
二国同士で、競い合うようにウ・ランカ国の使節団をもてなしてくれたら最高だ。
そのために過剰すぎる噂ではいけないし、かと言って上層部に報告が上がらないような小さな噂ではいけない。
この世界では情報がすぐに届くような便利道具がないのが救いだ。遅れて噂や報告が届くため、情報操作がしやすい。
それでも完璧ではない以上、危険を伴うことは覚悟しなければいけない。
一通りウ・ランカ語に訳して説明した私は、不安から自然にリオネルを見た。すると、絶対に守ると言うように力強く頷く彼を見て、心が軽くなった。
王都へ戻ってきた私たちは、すぐに計画に沿って動きだした。
まず、ウ・ランカ国へ使者を送るため、父であるグラント公爵に協力を求めた。公爵には、私たちが話し合った内容をそのまま伝えた。彼には、隠し事をしたところですぐにバレてしまうからだ。
「ウ・ランカ国との国交に、禁術を使った王太子殿下の治療か……。どちらにせよ、今の王室は両公爵家の機嫌を窺わなければいけない立場だ。使節団を受け入れる代わりに、王室へ莫大な支援を申し出れば嫌でも了承するしかない」
「では──……」
「ああ、我が娘が『コメ』なるものを欲しがっているのだから、娘を溺愛する父親が動いても問題あるまい。あちらの公爵家も、義理の娘を迎えるために奮闘してくれるだろう」
無謀とも思える計画なのに、私は公爵の言葉に嬉しさと罪悪感を覚えながら「感謝します」と頭を下げた。
心から笑うには程遠いけど、少しずつ家族になっている。
──私のお願いを、真剣に聞いてくれた。
以前の親には話を聞いてもらうことすら拒絶されたのに、今は違う。
私と向き合い、話に耳を傾け、一緒に考えて答えをくれる。それが、どれほど嬉しいか。初めてのことに、胸がいっぱいになる。
これが、家族の温もり。
私がずっと求めていたもの。
「ありがとうございます、お父様──」
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