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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
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第九十三話 赤毛のイタズラっ子

ベスタ公国の首都ウェスタの城門前でセト、エリウ、ランツェの三人が見送られる。

向かうはヒギエア公国。

鉱山資源が豊富な国で宝石などの原石も採掘されている。

属国の中ではかなり豊かな国だ。


今回はそのヒギエア公国にジグラットからの親書を届けるのが仕事となる。

大事な親書を懐にしまい込みセトが馬車に乗り込んだ。

見送りに来たアズラとルフタ、ちょっと不貞腐れているリーベに出発すると告げる。


「それじゃ行ってきます」


「気を付けて」


「向こうで何か困ったことがあったらジグラット支部に顔を出すといい。吾輩の名を出せば力になってくれるはずである」


「うん。何かあったら顔を出すよ」


セトたちを乗せた馬車が城門から遠ざかっていく。セトとエリウがアズラたちに手を振り続け一時の別れが来る。

もうセトたちが行ってしまうのに、リーベはアズラの後ろに隠れてしまって、まだ見送りの言葉を言えていない。


「リーちゃん、セト行っちゃうわよ? いいの?」


アズラがリーベを促した。

別にリーベは見送るのを嫌がっているのではない。

少しの間でも離れ離れになるのが嫌なだけ。

だから出かけてしまうセトに不貞腐れた態度で当たってしまう。

自分に寂しい思いをさせるお兄ちゃんの仕事が嫌なのだ。


「・・・ヤダ」


「じゃあ、ちゃんと言わなきゃ・・・ね」


「うん」


ちょっぴり勇気を出して大好きなセトに見送りの言葉を送るため、隠れていた顔をヒョコっと出し馬車の方を見る。

馬車は少しの間にもうかなり離れていた。

今言わないともう帰ってくるまで伝えれなくなる。

だから。


「セト!」


リーベは駆けだした。

少しでも近くに駆け寄る。少しでも声が届く様に。


「セトッ!」


「! リーちゃん!」


リーベの声にセトが気付いた。

手を振りリーベに応える。

セトが気付いたのを確認したリーベは見送りの言葉を思いっきり叫んだ。


「行ってらっしゃい! わたしもすぐ行くよ!」


「うん! 待ってる!」


リーベの元気いっぱいな声と思いを受け取り、セトたちに笑顔が溢れてくる。

誰だってかわいい妹に見送られたら仕事も捗るものだ。

そんなかわいい妹に見送られたセトは、だらしなくニヤついていた。

嫌われたかもと思っていたから、よけいに嬉しかったのだろう。

そんなセトをエリウが面白いものを見つけたとからかい。


「ニャにニヤついてるニャ~?」


「ニ、二ヤついてない!」


「正直に言うニャ。嬉しかったって」


「うん・・・、嬉しかった」


ちょっと恥ずかしそうにセトが素直に答えちゃう。

セトは自分の発言をあまり深くは考えない子なのだ。

でも、エリウは違う。考えちゃう。


「やっぱりー!」


「か、からかわないでよ!」


エリウが君の秘密を見ちゃったと悪い笑顔を浮かべ。

セトは恥ずかしくて赤面してしまう。

それが余計にエリウの興味をくすぐってしまうのだが。

セトにそこまで頭を回す余裕はないのだった。



----------



セトたちを見送ったアズラは商会の仕事に戻る。

やることは山済みなのだ。

本店の立ち上げに、商品の仕入れ先の確保。

王都支部との連携もうまく取らないといけない。

一人ではうまく出来ないだろう。

だけど、アズラにはアプフェル商会の仲間たちがいるからそれほど心配はいらない。


「まずは、本店を営業できるようにしないといけないわね」


「先に店の部分だけ整えてしまうのはどうであるか? ピント殿から買った商品も在庫としてある。形さえ整えば明日からでも店を開ける」


「そうね。居住スペースは同時並行で進めるわ」


本店を開くことを最優先として動く事となった。

ピント商会からまとめ買いした商品は、たしかフローラに預けてある。

早速引き取りに行かせ、アズラは本店の方に集中だ。

本店まで戻って来たアズラは、リーリエを呼びこれからのことを伝えた。


「分かりました。それでは明日開店できるように準備をしていきますね」


「ええ、お願い。何か必要なものがあったら言って頂戴」


アズラに必要なものを聞かれたリーリエは少し考えてすぐにある必要なものを思いついた。

それは商売で絶対に必要なもの。


「そーですね。王国銀貨が大量にいります」


「王国銀貨が?」


「はい。商品を買われたお客様にお釣りをお渡しする必要があるって思うので」


そう、お釣りだ。

支払われたお金の差分をちゃんと渡せるだけのお釣りの準備が必要なのだ。


「ああ! そうよね。ピッタリの値段で買う方が珍しいわよね。分かったわ。王国銀貨の用意は任せて」


「こっちも任せてください」


リーリエに店の準備を任せてアズラは王国銀貨の調達に向かう。

普通は資金を集めてから店を構えるのだが、アズラたちは資金より先に店を構えたので、何かをしようにもお金が足りないのだ。

自分たちが暮らす分のお金はあるが、店を運営する資金はない。

ならば借りてくるしかない。

そして、幸いにもアズラには当てがあった。

公女フローラと商人ピントの二人。

フローラから借りたら要らぬ心配と援助を申し出てしまいそうなので。

今回は、お店の資金調達なので同じ商人のピントに借りる方がいいだろう。


「ピントさんそろそろ戻って来ているはずだけど・・・」


第三城壁区画の町中の一画にある館まで足を運び門の前に立つ。

アズラたちが購入した家よりさらに大きいピントの館。

門を潜り、使用人にピントを呼んでもらおうとするが。


「申し訳ありませんアズラ様。旦那様は外出中でして夕方頃戻られると思います」


「そうですか。また改めて来ますとお伝えください」


残念ながらピントは外出中だった。

連絡もなしにいきなり来るのは少々無茶だったか。

夕方に出直すためアズラは一旦退き返していった。


同じころ。

ルフタは約束通りにリーベと遊ぶため城門の外まで来ていた。

セトたちを見送った後の岩肌が広がる外。

魔獣などが潜んでいるため離れて遊ぶのは危険だが、城門の側なら大丈夫だ。

木の玉に皮を貼りつけたボールを投げ合い、キャッチボールをしようとする二人。

こういう遊びは男の子の方が喜びそうだがリーベはかなり喜んでくれていた。


「ではいくぞー! しっかりキャッチするのだ!」


「はーい」


ボールを下から上にフワッと投げる。

リーベが取りやすい様に最適な軌道で彼女の胸元に一直線に落ちていきリーベが一発でキャッチに成功だ。

我ながらコントロールがいいと満足げなルフタと、パシッ!とボールを掴めとれて喜ぶリーベ。

さぁ、次はリーベの番。

どんなボールを投げてくるのか。

ルフタはどこに投げられてもいいように、腰を落として構える。


「えいっ!」


上段から振りかぶり思いっきり腕を振りぬかれたボールは、真っすぐではなくなぜか真上に飛んだ。

ボールの軌道に瞬時に反応しルフタが前に全力疾走する。

ボールの落下地点に走り難なくキャッチに成功だ。


「わーい!」


「いい投げっぷりだったであるな。今度は下から投げてみるといいぞ」


「うん!」


リーベにボールを渡し、少し距離をあける。


「いいである!」


ルフタの準備が完了した。すぐにリーベは遠慮なくボールを投げる。


「それっ!」


リーベンの持つボールは下から上へ腕が振られ。

なぜか一回転し、勢いがついた状態で手から解き放たれた。

ビックリするぐらいの速度で真っすぐにルフタにボールが突っ込んでくる。


「!!?」


ルフタの顔面に迫ったボールは、咄嗟に構えた彼の手に綺麗に収まっていた。

見たこともない投げ方で、とんでもない速度のボールを投げたリーベを驚きながら称賛する。


「す、すごいボールだったである・・・」


「やった! 真っすぐ投げれたよ!」


リーベは想像した通りにボールを投げれてご満悦のようだ。ルフタはちょっと想像と違うキャッチボールに戸惑っているが、まぁいいかとボールを投げ返す。

自分の投げたボールをリーベが一生懸命取りに行くのを想像していたのだが。

彼女はキャッチボールの才能があったようだ。


「投げるよー」


「さぁ、来るのだ!」


ドンッと腰を下ろし手を前に構え、どんなに速いボールが来ても受け止めれる姿勢をルフタは取った。

それを見ていたリーベがニコッと微笑んだかと思ったその時。

ルフタがすぐに対処できない横にそれた方向にボールを思いっきり投げたのだ。


「あ、間違えた」


「なん!」


明らかにワザと間違った方向に投げた。

そんなことをされるとは全く思っていなかったため、ルフタはボールを追いかける。

リーベに背を向け彼女から離れていきボールを必死に追いかけていると。

後ろから青白い光が広がった。

いきなり世界に穴が空くような違和感がなだれ込む。

それが何なのか。

ルフタはよく知っていた。

そう、これは。


「セフィラを召喚!?」


慌てて振り返ると、そこにはリーベが召喚したセフィラが降臨してきていた。

美しい純白の六対の翼に、透き通る白い肌の女性を思わせる体。

上位セフィラの中でも更に特別な、最上位に次ぐ存在。


イェホバ・エロヒム


目や口、鼻のないのっぺらな顔をしているアレが、何をしようとしているのかはすぐに分かった。

空間に穿たれた穴にリーベを抱えて吸い込まれていく。

あの穴は別の位相の世界に通じる穴。

セフィラ界と自分たちが呼んでいる世界へ行くもの。

別の位相の世界を挟むことではるか遠い場所まで瞬時に移動できる奇跡の技。

転移の神術。


「リーベどこに行くのだ! 今すぐやめるなさい。いい子だから!!」


「ごめんなさい。でもセトの所に行ってくる!」


「コラ! リーベ!!」


ルフタが手を伸ばした時には、時すでに遅し。

リーベは穴に吸い込まれて消えてしまった後だった。



----------



リーベが家出? したとは露知らずにアズラは本店の準備を進めていた。

商品を置く棚や値札などの準備は完了だ。

後は、飾りつけをして商品を配置していくだけ。

商品の置き方で店の雰囲気も決まって来るのでよく考えないといけない。

アクセサリー類を前面に配置してオシャレなイメージで行くべきか、小道具を置いて便利屋さんで行くべきか。


「うーん・・・、私はオシャレなイメージにしたいかな」


「私もオシャレな方が好きです」


「じゃあオシャレなお店で決定!」


アズラとリーリエの二人の意見により本店のイメージが決定した。

アクセサリー類を前面に配置して、店に入ったらすぐに見えるように置き。

小道具や武具類を後ろに配置。

そうと決まればすぐに商品を配置していく準備に入る。


「重い物から置いていって、高価なものは一個だけ置いて残りは倉庫にお願いします」


リーリエの適格な指示が飛ぶ。

この分ならアズラは夕方までのんびりとしてられそうだ。

ピントから王国銀貨を借りれなかった場合なんて考えてもいないが、その時はその時だ。

フローラから借りることになるだろう。

信頼できる人がいるから頼ってしまっているが、それぐらいはいいだろうとアズラは思う。

今もリーリエを信頼して店の準備を全て任せているのだから。

任せているアズラはあることを思い出す。

そうアプフェル商会の当初の目的。

ベスタ公国の首都ウェスタと王都アプスを結ぶ安全な貿易網の確立。

それをどう実現するのかをふと考えた。


「リーリエ、安全な貿易網の確立だけど、やっぱり護衛を増やして人や荷物の安全を確保するのがいいのかな?」


「あ、それなら一つ進めている計画がありますよ」


「計画? 私まだ聞いてないわよね」


「はい、まだ上手くいくか分からないから実験的な意味合いが強いんですけど」


「どんな計画なの? 興味あるんだけど」


自分の知らぬところで自発的に勧められていた計画にアズラは興味津々だ。

リーリエは掻い摘んで簡単に説明する。


「えっと、やることって簡単なんです。今まで一人一人から依頼を受けていた荷物の運搬を町単位で行えないかという計画で」


「ふんふん」


「旅人がよく利用する乗合馬車のマネっこみたいな感じです。ある決められた時刻表に従って荷物を集めてまとめて運搬するんです。護衛も依頼者の人数じゃなくて荷物の量で決まるので効率的な運搬になると思います。依頼者も普通より安くて安全な運搬を利用できるって計画なんですが、どうでしょう?」


「荷物の運搬を専門に行う商売か・・・」


自分たちの都合ではなく、相手の都合で利益が生まれる商売。

送る人と受け取る人がいるからできる商売だ。

その両者の間を受け持つということは責任もまた大きい仕事ということ。

やりがいのある仕事だ。


「いいわね。やってみましょう!」


「はい! ありがとうございます」


ここに一つ新たなチャレンジが始まった。

確実な貿易網が無いのに多数の人物から荷物を預かり運搬するのはリスクの高い仕事だ。

一度でも失敗すればその全員に弁償しないといけない可能性もある。

そのため、馬車があっても荷物の運搬は責任の取れる範囲で済まそうと個人の分だけ運搬されていた。

魔獣や盗賊、災害が多発するこの時代に一度に多数の荷物を運ぶことは危険だったのだ。

そんなことができるのは国や力のある商人だけ。

ただの一般人や商人にはできない仕事。

アズラたちはそれに挑戦する。


「計画を進めるには新しく人を雇う必要があるわね。本店が落ち着いたら募集してみるのもいいかしら」


アズラが今後の計画の進め方を考えていると。


「ん?」


表が騒がしくなった。

誰かが大声を上げながら走っているようだ。

何事かと店の外に出ると。

トカゲ顔の亜人、ツァーヴ族の男が必死の形相でこっちに向かって走ってきていた。

あれは、リーベの相手をしていたルフタだ。


「ルフタ! どうしたの!?」


「ア、ぜぇ、アズラ! ぜぇ・・・」


「落ち着いて、深呼吸、深呼吸・・・」


「スー・・・ハー・・・、・・・。リーベがセトの所に行ってしまったのである!!」


「ええ!!?」


アズラの耳にようやくリーベのことが伝えられた。

そんな間に転移できるリーベはどこまで行ってしまったのか。

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