↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
99/326

第九十四話 神話の地で待ちぼうけ

岩場を切り開く様に生い茂る森の中に青白い光が広がる。

異なる世界に通じる穴より一人の少女とセフィラが姿を現した。

赤毛と青い瞳の少女と美しい純白の六対の翼に、透き通る白い肌の女性を思わせるセフィラ。

リーベたちがベスタ公国領の森に転移していた。


「ここどこ?」


(対象。接触地点)


彼女と契約したセフィラ。

イェホバ・エロヒムが答える。

リーベを直接馬車ではなく通過ルートの途中に転移させたようだ。

移動中の馬車に転移するのは危険だったのだろう。

だがその結果、森の中に転移してしまったのだが。


「ここで待ってればセトと会えるの?」


(接触。可)


「喋り方もっとかわいい方がいいな・・・」


(拒否。意思疎通。問題なし)


リーベはイェホバ・エロヒムの言う通りに待つことにする。

知らない土地ではむやみに動かずに、確実に来る知り合いを待つ方が賢明だろう。

懸命なのだが。

知らない土地はリーベにとって冒険の始まりでもあったのだ。

その好奇心を押さえられずにリーベは動き出す。

ちょっとだけと思いながら森の奥にへと目が行ってしまう。


「ちょっとだけ・・・」


(非推奨。危険)


「イェホバがなんとかしてくれるんでしょ」


(対処。了承)


「じゃあ行こう!」


相方を無理矢理納得させてリーベは森の奥にへと入っていく。

ここは、岩肌を突き破るような形で亀裂から木々が高くそびえ立っており。

岩肌の大きな亀裂に森が造られいるのだ。その亀裂は岩の外にまで続き道となっている。

この亀裂の間にある森はベスタ公国からヒギエア公国の首都に向かうなら必ず通るルート。

小型の魔獣が多数生息しているが、大型の魔獣は狭くて入れない地形だ。

イェホバ・エロヒムはリーベが比較的安全にセトを待てる地点を選んで転移したのだ。


森の中をズンズン進んでいくリーベ。

その行動は旅人や傭兵が見たら止めたくなる行為なのだが、今は誰も止める人がいないのだ。

ふとリーベが上を見上げると、森の中に赤い木の実が生っているのを見つけた。

もちろん食べたくなる。


「イェホバ。あれ、おいしそう」


(同意。おいしそう)


リーベが目を輝かせ、にへへ~と口が緩む。ヨダレがただれそうだ。

彼女にはちょっと高い位置に木の実があるのでイェホバ・エロヒムが代わりに取りに行ってあげる。

木の実をつかみ取り、嫌がる枝を払いのけ木の実を毟り取った。

痛かったのか枝が暴れて木が呻っている。


・・・木が暴れている。


「・・・・・・。イェホバ! 動く木だよ!」


(危険。魔獣)


木の実を毟り取られたその魔獣は、シュタッヘルの成体。

種の形態から完全に木の形態に変異した姿をしており、普通の木と同じく水と日光で成長する。

種の時とは異なりテリトリーに入らなければ無害な魔獣なのだが。

そのおとなしいシュタッヘルを怒らせてしまった。


「クォォォオォォオオ・・・!」


空気の漏れるような声を上げ、リーベたちに襲い掛かるが、イェホバ・エロヒムはただ機械的にそれを行使した。

六対の翼による斬撃を。

シュタッヘルの枝を斬り落とし、木と同じくその大きな巨体を弾き飛ばした。

ズズゥン! と巨体が倒れ森の中から土煙が上がり、小鳥たちが逃げ出していく。

イェホバ・エロヒムがそのまま止めを刺そうとすると。


「ダメ! かわいそう」


(拒否。危険性。排除)


「むー・・・、わたしたちが悪いのに・・・」


リーベがムッとした表情になり一気に不機嫌になった。

それを見たイェホバ・エロヒムはちょっと戸惑って、リーベのご機嫌を取る。


(選択肢。検討。・・・逃走)


「うん」


リーベの合意を得たイェホバ・エロヒムは彼女を抱えてその場を離れていく。

イェホバ・エロヒムは思う。あまりリーベを自由にさせない方がいいようだ。



----------



ベスタ公国の首都ウェスタを出発してからかなりの時間が経った。

もうすぐ日が落ちる。

人通りが少なくなる街道をセトたちを乗せた馬車はのんびりと旅をしていた。


セトは馬車の中でのんびりと本を読んでいる。アズラからもらった本だ。

内容は商人にして冒険者の人物の半生の物語が綴られたもの。丁度、セトたちと同じように帝国出身で神託をこなしながら商売にも手を出していく話だ。

境遇が似ているためかセトはこの本の主人公にかなり共感していた。

実在する人物なら会ってみたいとセトは思っている。


エリウは馬車の屋根で昼寝中だ。

見張りをしているはずなのだが、サボっている。

セトたちも気付いているがいつものことなのでほったらかしにしていた。


そして、ランツェは馬車の御者を務め旅のペースを決めていた。セトたちの中で馬車を操作できるのは彼だけなので必然とこうなったのだ。

初めて旅をした時は徒歩だったというのに、今では自分の馬車があるのだ。

なんとも贅沢になった。

準備するのも大変だった食料も最初から必要量以上に用意されている。

こうも豊かになってくると堕落していくような気もするとちょっぴりセトたちは思うのだった。


さて、そんな順調な旅の滑り出しを決めたセトたちに通信用魔晶石から連絡が来た。


「ん? なんだろ。忘れ物かな?」


セトが魔晶石を取り出し内容を確認する。

まだ、点滅信号をスムーズに読み取れないセトは翻訳が書かれた紙が手放せない。

そして、解読した内容はもちろん。


「リー・・・ベが、セトの、方に、・・・向かった。至急、保護を・・・、・・・。リーちゃんが僕の所に!?」


セトの大声に馬が驚き馬車が止まる。


「ニャ? ニャニャ!? ニャー!」


急に止まったものだからエリウが屋根から落ちてしまった。

痛そうにお尻を撫でている。


「どうした?」


ランツェが馬車の中を覗き込んで様子を見る。

セトは驚愕した状態で魔晶石の点滅を眺めていた。

その点滅パターンからランツェはセトが驚いた内容を理解した。


「すぐに保護に向かう」


「う、うん! リーちゃんを助けないと」


セトたちはすぐにリーベを探しに行こうとするも、一つ問題があった。


「でも、どこにいるか分からないよ」


そう、居場所が分からないのだ。

魔晶石の通信より、転移してこちらに向かったとのことだが、どこに転移したのか。

できれば町や村に転移していて欲しいが、平原にポツンと転移されては見つけ出すのも困難だ。


「目印になる場所に転移したのでは?」


「どうしたニャ?」


エリウも馬車の中に入り話を聞こうとするが、二人にエリウに説明している暇はない。


「そっか! 目立場所なら僕たちと合流しやすい」


「何の話ニャ?」


首を傾げて話の内容を聞くが、セトたちはエリウの質問を後回しだ。


「ここからのルートなら、亀裂の森を通った先に町がある」


「よし、まずはそこに向かおう」


行先は決定した。

後は急ぐだけなのだが。


「ニャー! 無視するニャー!」


耐えきれなくなったエリウが怒り出してしまった。


「ゴメン! 今からリーちゃんを助けに行くんだ」


「ニャ? リーベを? そういうことニャら早くいうニャ」


エリウも事態を把握し三人は急いで亀裂の森に馬車を向かわせたのだった。



----------



亀裂の森と呼ばれる場所で鳥たちが逃げ出し、木々が騒がしく揺れていた。

森の中を逃げ回るリーベと追いかけるシュタッヘルたち。

いつの間にかシュタッヘルの数が増えていて、森全体を巻き込んでの追いかけっこになっていた。

そんな状態になってもリーベは全然怖がっていない。

むしろこの状況を楽しんでいた。

イェホバ・エロヒムがリーベを抱えたまま飛び回り、森の中を高速で動き回る。

まるでジェットコースターに乗っているような楽しさをリーベは味わっていたのだ。


「キャーッ!」


木の間を滑り込むように通り過ぎ、森の中を突っ切っていく。

リーベが余りの速度に顔をクシャッと歪めながら声を上げ、キャッキャッと喜びの声を上げる。


後ろからシュタッヘルが壁のように押し寄せてきてまるで森が移動しているようだ。

種の時と同じくシュタッヘルは群れをなして襲ってくるのだが、成体となると一体、一体の大きさが桁違いになる。

確実に討伐対象個体。今の群れの状態だと特別指定個体に届くかもしれない。


ある村では森に火を放ってはいけないと言い伝えられている。

火を放とうものなら森の怒りが全てを呑み込むと。

それは火に驚いたシュタッヘルの群れが大群を成して移動したことから言い伝えられたことだ。

シュタッヘルの群れの先にあるものは全て蹂躙される。

種の時も木になってもシュタッヘルは全てを破壊する魔獣なのだ。


そんな魔獣。

シュタッヘルを怒らせたとは知りもしないでリーベは森の中を逃げ回る。

それが他のシュタッヘルも叩き起こしているのだが、まったく気づかない。


「イェホバ! もっと速く!」


(非推奨。負荷増大)


「いいの! 動く木さんたちを振りきっちゃえ!」


(了承。形状最適化)


より速さを求められたイェホバ・エロヒムは純白の身を包んでいた翼を大きく広げ、一振り羽ばたかせる。

次の瞬間、速度が跳ね上がりシュタッヘルたちをグングン引き離す。

リーベもあまりの速度に加速度が衝撃となって体に叩き付けられる。その顔から笑顔が消えた。

その幼い体では衝撃に耐えるだけで精一杯だ。

ギュッと目を瞑り衝撃に耐えていると、いきなりイェホバ・エロヒムが止まり、リーベの身体が圧から解放される。


「う、うーん・・・」


(負荷限界。休息)


イェホバ・エロヒムが止まった場所は、森を見渡せる崖の上。

つまり亀裂の上だ。

ここなら、シュタッヘルたちも追って来れない。

下では何とかリーベを追いかけようと動き回るシュタッヘルたちが見えるが、追いかけられないと分かるとすぐに群れは霧散していった。

木の実一つでこの騒ぎ。

普通はここまでには発展しないのだが、これもまたリーベの才能なのか?


「むー・・・、気持ち悪い」


リーベは最後の速度アップで酔ってしまったようだ。

三半規管がかき回されたのだろう。言うことを聞かないからこうなるのだ。


(待機。対象と合流)


「うーん・・・。分かった」


リーベは崖の上から森の入口を眺め、セトが来るのを待つことにする。

高い場所から眺めることでリーベはあることに気付いた。

この岩肌に大きな亀裂がある地形は地平線の彼方まで続いており、その亀裂が一つの大きな穴から発生しているのが分かったのだ。

穴というよりは何か、とても凄まじい威力を持った何かが地面を抉った跡。


巨大なクレーターがぽっかりと地面に顔を出していたのだ。

大きすぎてその場にいても気付けないほどの規模。

クレーターが抉りもり上がった地面が山になるほどなのだ。

中心には湖もある。

リーベが見ているこのクレーターの中こそがセトたちの目指すべき国。ヒギエア公国だ。

見る分には近くに感じるが、馬車で行くにはかなり掛かる。

そうとは知らずにリーベは世界の広さを感じていた。


リーベが興味津々でクレーターを見ているとイェホバ・エロヒムがその興味に応えてくれた。


(観測地形。発生原因。異神)


「神様が作ったの?」


(肯定。異神。ヤルダバオト攻撃)


「ヤルダバオト? その子もセフィラなの?」


(肯定。原初のセフィラ。主の子)


「異神とセフィラって仲が悪かったんだ」


リーベは神話の時代の存在がいがみ合っていたことに悲しくなる。

今は美しく見えるが、かつては大地を裂く破壊の痕だ。

悲しくなると同時に一つ疑問が浮かんだ。


「異神って今どこにいるの? あなたたちの所?」


(否定。主の位相。殻のみ存在)


「??? いないの?」


(肯定。異神。接触不可)


「そうなんだ・・・。でも、また会えるかもしれないね」


(希望。極小。会いたい)


イェホバ・エロヒムが自分の思いを口にする。

異神に会いたい。

かつて自分たちの主、アイン・ソフと語り合い、世界を巡った神に会いたいと。

そして、イェホバ・エロヒムにある自我がこう思いを吐き出す。


(謝りたい)


その声は親とケンカして出ていったきり会えなくなった子供のような声。

ちゃんと会って自分の思いを伝えたい、謝りたいと呟く。

そんなイェホバ・エロヒムの頭をリーベはやさしく撫でてあげた。

落ち込んでいる子をやさしく励ましてあげる。


「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。また、会えるよ」


(・・・。リーベ。異神に会いたい?)


リーベに頭を撫でられながらイェホバ・エロヒムは問う。

神様に会いたい? と。


「わたし? うーん、会ったこと無いし、覚えてないから」


(否定。リーベ。接触済み)


「わたし神様と会ってるの?」


(肯定。人型。以前。セフィラ形態で接触)


「わたし神様と会ってるんだ・・・」


意外な所でリーベの過去が垣間見える。

彼女が記憶をなくす前に誰と会っていたのか。

だが、この情報は彼女が誰なのかをより分からなくしてしまうものだろう。

神様と会っていたなんて、普通はあり得ないことだ。


リーベは自分が何者かをあまり考えないようにしている。

でも、イェホバ・エロヒムから時折、神話の時代の話を聞かされると自分が何だったのか何処から来たのかだんだんと想像できてしまう。

セフィラは嘘をつかない。そんな非合理的意思疎通は行わない。

それを知っているから、なぜか知っているから分かってしまう。


リーベが自分の過去を記憶を考えていると。


(対象。捕捉)


「セトだ!」


ようやくセトたちの馬車がやってきた。

ちょっとずつこの物語の秘密を明かしていきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。