第九十二話 新しい家に新しい仕事
今日は陽射しがサンサンと降り注ぐ日。
空を見上げるのが眩しいほどの天気。
王都で騒ぎがあったとか噂程度しか流れていないベスタ公国はいつもと変わらぬ日常だ。
その日常に変化が起きた。
こんな気分のいい日にベスタ公国の第三城壁区画でアプフェル商会の面々が集まり。
ザッと50名ほどの大人数が一か所に集結している。
皆何かを待ちわびているようにある物を見ていた。
みんなが待ちわびていた物。
そう、アプフェル商会に念願の本店となる家が決まり購入したのだ。
商店として使用できるように中を改装したことで、立派な店となった家がみんなの前に立っていた。
「看板をもう少し右にお願い」
「了解っす!」
灰色で少し黒味を帯びた腰近くまで伸びている髪をなびかせ。
キリッとした顔立ちの美人という言葉が良く似合う少女が指示を飛ばす。
アプフェル商会の代表であるアズラが最後の仕上げである看板の設置を見守っていた。
大きく書かれたアプフェル商会の文字とかわいいリンゴマークが目印の看板が取り付けられ。
アプフェル商会の本店が完成だ。
「取りつけOKっす!」
「ありがとう、ご苦労様」
アズラが改装を頑張ってくれたみんなに労いの言葉を送り、見守っていたアプフェル商会の面々の方に振り返る。
目を閉じ、一度、深呼吸をして。
元気よく彼女は叫ぶ。
「アプフェル商会本店、完成です!!」
「「「オオオオオ!!」」」
遂に自分たちの拠点が完成した。
もう野宿とはおさらばだと喜ぶ者。
安定職に就けたと頷く者と皆それぞれの反応だ。
商会の幹部たちも満足そうに見ている。特にリーリエが嬉しそうだ。
自分が店を切り盛りしている姿が彼女の目には浮かんでいる。
たくさんの商品が棚いっぱいに並び、溢れんばかりのお客さんが店に訪れている光景。
早く仕事に取り掛かりたいとルンルン状態だ。
「それじゃあ、早速荷物を中に入れていくわ。みんな準備して」
アズラは早速本店の中に、木箱などを次々と入れていく指示を出す。
内装は後で整えるのだろう。
とりあえず放り込めと本店の玄関周りがあっという間に荷物で埋もれていき、改装したての家が生活感に溢れてくる。
何でもいいからとりあえず使いたいのだ。
アズラたちが仕事に張り切っている最中。
セトは自分の仕事の準備をしていた。
セトの仕事。
久々のジグラットからの神託。
にぎやかな声を背に遠出の準備をしていく。
ここしばらく連絡が無かったからセトも神託のことを忘れていたほどだが、内容は悪くないものだった。
ヒギエア公国の公爵に親書を届けるというものだ。
ベスタ公国にも神託の仕事で親書を届けに来たのが始まりなので、親書を預かるのは二回目と言った所か。
アズラもヒギエア公国に行くのなら商会の宣伝をして欲しいと、エリウとランツェを同行させてくれた。
セトも二人がいてくれたら心強い。人手がいるのに自分の心配をしてくれる姉に感謝しつつリュックに荷物を詰め込む。
出発は今日の昼過ぎ。
あまりのんびりしている時間もないので、テキパキと急いでいると。
「むー・・・。また、わたしをおいていく気だ。パクッ、ムシャッ!」
「ご、ごめんね、リーちゃん仕事だから。一月ぐらいで帰れると思う」
「むー・・・。また独りぼっち・・・。パクッ、ムシャッ!」
仕事に行こうとしているセトをリーベがもの凄く不機嫌な顔で見つめていた。
セトたちが王都に行くときに連れて行ってもらえず、今回も置いてきぼりなのだ。
ムシャムシャとお菓子を方張りながら、お菓子のカスを口にいっぱいつけてセトを睨んでいる。
「アズ姉がいるから、独りぼっちじゃないよ」
「パクッ、ムシャッ!」
「あ! リーちゃんが好きそうなお菓子のお土産も買ってくるから」
「・・・・・・・・・パクッ、ムシャッ! パクッ、ムシャッ!」
聞く耳持たん! とバリバリお菓子に食らいつく。
どうやら置いていかれたことがそうとう寂しかったようだ。
カゴに沢山入っているはずのお菓子が見る見るうちに無くなっていってしまう。
たまらずセトがリーベに許しを請うが。
「リーちゃんそんなに怒らないで」
「むー」
「仕事が落ち付いたら、また一緒に旅も出来るから」
セトがリーベの気持ちをちゃんと聞いてあげていることでリーベの怒りが少し和らいだ。
寂しいだけなんだとセトも分かっている。
かわいい妹に言い聞かせ、ちょっとお兄ちゃんになれたとセトが満足げに思っていると。
リーちゃんが一言。
「仕事を辞めよう」
「いや、それは無理・・・」
「パクパクパクパクパクパクパクパクッ!」
「ほ、本当に無理だし、食べ過ぎると太っちゃうよ!」
「パ・・・」
セトからの乙女への強烈な一言が返された。
乙女の天敵を突き付けられリーベの動きが止まる。
口をへの字に結び、プンプンと怒ったまま何処かに行ってしまった。
独り残されたセトの周りに何だか寂しさが広がる。
かまってちゃんがいきなり居なくなり今度はセトが寂しくなってきた。
「・・・どうしよう。嫌われちゃったかも」
寂しかったのはリーベだけではないようだ。
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寂しがり屋のお転婆娘リーベが今日も西へ東へと走り回る。
その手に大好きなお菓子が入ったカゴを抱えて、かまってくれる人を探してウロチョロと動き回っていた。
おっと、あそこに見えるのはみんなのお父さんルフタだ。
リーベはヒョコヒョコと小走りで駆け寄る。
「お父ーさん」
「ん? おお、リーベか。どうしたのだ?」
「あ・そ・ぼ」
パチンとウインクをして腰を少し捻り、エリウに教えてもらった必殺のポーズを決める。
どんな男もイチコロだと言っていたのだ。ルフタも仕事を止めて遊んでくれるに・・・。
「・・・リーベ。それは誰に教えてもらったんだ?」
「エリウだよ」
「そうか。リーベはいい子だからそのポーズはもうしたらダメだぞ。ルフタ父さんとの約束だ」
「うん!」
リーベの返事に満面の笑顔を浮かべるルフタは、ワシワシとリーベの頭を撫でる。
大雑把に撫でられている感覚だが、この力強さと包み込んでくれる優しさがリーベは大好きだ。
ついでに食べ物もカゴの中に放り込んでくれた。
ルフタが食べていた物だから酒のつまみだが味は悪くない。
油で揚げた豆に塩を振った物に、肉の薫製などなど。
リーベもむしろ好きな方の味だ。
「セトたちを見送ってから遊ぼうか」
「うん!」
遊ぶ約束をしてもらいリーベは一気に上機嫌になる。
今ならセトも許してあげるとまだ作業中の本店に向かっていった。
「さて、エリウはどこだ・・・」
代わりにルフタが不機嫌になった。
本店の方は荷物を入れるのが終わり、大雑把に内装を整えている所だ。
机や棚などを決めていた位置に配置していく。
小物類は全部後回し。
使える部屋を今日中に用意したいと作業をしているみんなが思っているのだ。
そんな所にリーベが参上だ。
上機嫌で来たもののみんな忙しそうだと、リーベは本店となる家の中を見て回る。
二階建ての大きな家。
まるで屋敷のようだ。
二つの家が繋がったような構造のため、中央に庭がありそこは馬車置き場になる予定だ。
一回左側は、商品を売るためのスペースに。右側が倉庫だ。
生活スペースは二階になる。
今はその二階を使えるようにと荷物が運び込まれている最中だ。
邪魔をしないようにとリーベが一階に運び込まれた椅子に座っていると。
「あの部屋はあちしが使いたいニャ」
「あそこは俺が使うって言っただろ? 情報収集の拠点にするのさ。分かったら向こうに行け、シッシ!」
「ニャー! あちしをバカにしてる!」
「どうしたの?」
エリウがディアと部屋を巡って揉めているようだ。
まぁ、エリウが悪い。
「リーベ聞くニャ! あちしが使いたい部屋をディアが横取りするニャ」
「おいおい、事前に話し合って決まったって言ったろ? 決定には従えよ」
「あちし参加してニャい」
「幹部じゃないからな」
「ニャう」
エリウが幹部ではないの一言に悔しそうな顔をした。
その顔はなんで認められないんだという焦りの顔。
それを見たリーベは。
「ディア、女の子には優しくしないとダメ!」
「リーベさん、それは分かるが甘やかしてもダメなんだぜ? 特にこいつは」
「プーー!」
「お、怒るなよ。一回、アズラさんに相談するからさ・・・」
ディアは自分の後ろに立つ気配を感じ取り、一瞬にして優雅に振り向き跪いた。
「私に何を相談するって?」
「いつもお美しいですアズラさん、グホォ!」
跪くディアの腹につま先がねじ込まれた。
アズラが蹴った理由は特にない。
強いて言えばリーベを怒らせたことか。
最近、アズラのディアへの当たりが結構厳しいものがある。
何だろうか? 調教か?
「リーちゃん、こいつが何かしたの?」
「ディアがエリウに優しくしないの」
「お、俺の言い分を・・・」
ディアが呻くように声を出すがアズラはスルーする。
調教だな。
「そうニャ、あちしが使いたい部屋を無理矢理」
「ああ、大丈夫よ。エリウの部屋は決まっているわ」
「ニャ? そうニャの?」
「案内してあげる」
まだ作業の途中である二階に上がり、自分の住むことになる部屋に案内された。
まだ、何も置かれていないがだいたい十二畳ほどの部屋。
窓もあり陽射しが床を照らしている。
それなりの広さにエリウは思わず部屋の中に飛び込んだ。
「この部屋使っていいのニャ?」
「ええ」
「ありがとニャ、アズラ! あちしこの部屋でいいニャ。あの部屋はディアに譲るニャ」
「よかったねエリウ」
嬉しさのあまりエリウは部屋でピョンと一回転。
どう使おうかと目を輝かせていると。
「じゃあみんなで仲良く使ってね」
「分かっ・・・。みんニャで? この部屋あちしだけのじゃニャいの!?」
「当たり前でしょ? 部屋少ないんだから。私の部屋もセトとリーちゃんの3人で使うのよ」
「・・・。ニャハハハハ! そうニャのか、勘違いしてたニャ。ニャう」
「あ、そうそう。ルフタがあんたのこと探してたわよ。出発前に顔出しといて」
「ハァー・・・、分かったニャ」
ちょっと落ち込んでしまったエリウはトボトボと部屋を出ていった。
部屋にはリーベとアズラの二人だけ。
リーベが遊んでほしいと目で訴えていると。
「リーちゃん一緒に部屋の片づけしようか」
「片付け?」
「部屋に好きな物、置いていいよ」
「うん! 片付けやる!」
ついにリーちゃんも仕事をゲットだ。
お菓子入れのカゴを手にまだ何もない自分の部屋に入っていった。
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荷物の準備が終わり、ヒギエア公国に向かう準備が完了した。
セトに同行するランツェは先に馬車の準備をしてくれていたようだ。
もう荷物が積み込まれている。
「ランツェさん、ヒギエア公国までよろしくお願いします」
「ああ」
「エリウは来てますか」
「エリウはまだだ」
「アズ姉たちを手伝ってるのかな?」
一人遅れているエリウを心配するセト。
彼女は心配しなくても大丈夫だろう。丁度、ルフタとあっている頃だ。
セトは馬車に腰かけ、みんなの準備が出来るのを待つことにした。
「ランツェさんってヒギエア公国に行ったことありますか?」
「いや、初めてだ」
「そっか、エリウなら行ったことあるのかな」
「ヒギエア公国出身の亜人は多いと聞く」
「そうなんだ・・・」
まだ見ぬ場所の思いを膨らませていき、セトはヒギエア公国に行くのが楽しみになっていく。
足をブラつかせていると、遅れていたエリウがやってきた。
「エリウー! もう準備出来てるよー!」
セトが大きく手を振り呼びかける。
対するエリウは何だかショボンとしていた。
「ニャう。今行くニャー!」
ションボリした気持ちを吹き飛ばすように大声を上げエリウが馬車に駆け寄る。
新たな国への出発の時間だ。




