↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第四章 王位継承者
95/326

第九十一話 予兆

宮廷に白い花が飾られて、中庭を白く染め上げている。

それはこれから別れを告げる人を曇りない世界に送ってあげるための色。

親しい人の涙が見える色だ。


別れを告げる花を一本だけ手に持ちその人の棺の中に入れていく。

花で満たされていくキャンサー王子はまるで眠るように静かに別れを告げていた。

ライブラとその母が花を持ちキャンサーの前に脚を進めていく。

息子を失った悲しみに押しつぶされそうな母をライブラが支え、別れを口にした。


「安らかに、兄上・・・」


その言葉と共に、母は泣き崩れ膝を着く。

ライブラの母、つまり第十二王妃は王族の中でも立場の弱い存在だ。

そんな母を家族を守っていたのがキャンサーだ。

彼の第16位という王位継承権の順位はライブラたちを守る象徴だった。

それを失ってしまった。

最愛の息子と共に。


もう自分たちを守れる者はいない。守ってあげることもできない。

それが王妃の心に更なる悲しみを与えていた。

そのことをライブラは幼いながら理解している。

自分の立場では、他の王位継承者たちと渡り合えない。

彼は最弱のカラグヴァナ。

王位継承権第30位の第十六王子。


だから、彼は誓う。


「母上は僕が守ります。今まで兄上に守ってもらった分まで。僕が王になって守ってみせます。だから、・・・見守っていてください」


目指す地は遠い。

道は険しく、幼い彼を容赦なく叩きのめすだろう。

それでも、ライブラはこの道を行くと誓う。

自身の誓いのため。

そして、友との約束のため。

全てを果たすにはこの道しかないと、ライブラは目指すその地を見上げる。蒼穹にそびえる王宮べヘアシャーを。


自分たちの悲しみなどこの青い蒼穹の前では霞んで消えてしまうものなのかもしれない。

そこにたどり着けば見えなくなるのかもしれない。

全ての悲しみを溶かしてしまうほど青く澄んでいる空を見上げる。


ポツ、ポツ、と蒼穹の空から雨が零れ落ちてくる。

ライブラは、それはきっと王国が泣いているのだと思えた。

晴天の空から零れる雨が、陽の光に当たり、虹を浮かび上がらせて。

まるで兄の死を世界が悲しんでくれているかのように冷たい雨がライブラの顔に落ちていた。


その様子をセトたちは招かれた貴族たちの中から眺めていた。

冷たい雨はすぐに止み、温かい陽射しがライブラを包んでいる。濡れた彼の体を温かく包み、滴がキラキラと輝く。

その姿はまさに、家族に先立たれた子供に天の慈悲が降り注ぐ光景。

貴族たちは次々に涙し、顔を押さえていく。

セトも、耳と尻尾を隠して招いてもらったエリウも涙が溢れてくる。

会って言葉を交わしたの数回だけ。

それでも、キャンサーが良い奴だったぐらいは分かるつもりだ。


ライブラと王妃の横に、一人の男が近づく。

彼がアクエリアス・シュピルナ・カラグヴァナ第六王子。

ライブラたちの属する派閥のリーダー。

今回の件で大幅に勢力を削られた人物だ。

セトたちのいる所からは聞こえないがライブラと二言ほど話をして、騎士たちに指示を出した。


キャンサーの眠る棺が抱えられ。

彼が永遠に眠る場所になる所へと運ばれていく。

続いて、彼と共に戦った鎧の騎士団の者たちが運ばれていく。

リューベの入っているはずだった棺と部下の騎士たち。

そして、アプフェル商会の仲間たちが運ばれていった。

ライブラの計らいで特別に王都の地に埋葬してもらえることとなり、手厚く運ばれていく。

それを見たエリウは、耐えられずに声を出して泣き出した。

セトの胸を借りて顔を覆い隠す。それでも溢れる涙と声がセトの服を濡らしていく。


「うぅぅッ・・・、みんニャ、いいヤツだったんだニャ・・・。みんニャ・・・」


エリウは彼らと同じ護衛担当だった。セトよりも同じ仕事をし飯を食べ、ケンカもしたのだろう。

多くの時間を共に過ごした。

そんな彼らを失った。

セトはエリウをそっと抱きしめる。

そして、送られていく者たちをその目に焼き付けていた。



----------



王都の墓地の中でも王族や国に尽くした者が埋葬される場所。

それは、青い蒼穹に浮かぶ孤島のように空へとせり出した場所にあった。

そこにキャンサーたちは埋葬され。

家族や親しい者たちに見送られ、その人生に幕を閉じる。

キャンサーが王族の墓に埋葬されていき、家族と別れを告げた。


王妃はすがりつくようにライブラを抱きしめている。ライブラもそんな母をその小さな体で精一杯支えた。

別れを終え、徐々に人々が姿を消していく。

後に残っていたのは、ライブラたちとセトたちだけ。

アクエリアス王子もライブラと王妃に一言告げ去っていった。


ライブラが王妃から離れ、セトたちの所に顔を出す。

その目には涙ではなく、決意を宿らせていた。


「セト、エリウ。本当にありがとう。お前たちと出会わなければ、僕も母上も、みんな殺されていました」


「うぅぅ・・・、ぐす・・・、でも、助からニャかった人がいっぱいいるニャ。いっぱい死んじゃったニャ・・・」


エリウがもう会えない者たちのことを悲しんでいく。

その気持ちはライブラも痛いほど分かる。

でも、今は涙ではなく。感謝を伝えたかった。

セトたちに出会えたことへの感謝を。


「・・・エリウ、お前は優しい亜人です。初めて会った時、僕はお前と他の亜人の区別もついていませんでした。いつも見ていた亜人たちの一人だと。お前のことを知ろうともしていなかった。でも、今ならお前が、エリウがこの目に見えています。どんなに大勢の中からでもお前を探し出せます」


ライブラは、涙と鼻水でグチョグチョになっているエリウの顔を見上げる。

目に映るのは、他者のために涙を流せる心優しき亜人だ。

その横にはセトが彼女を支えるようについている。

ライブラはセトに顔を向け。


「セト、お前も。ただの人でも、友でも。そんな大勢の者ではない。僕にとってお前たちは薄暗い道の中で巡り合えた真の友です」


「うん。僕も、ライブラ王子殿下と会えてよかった。こうやって友達だと言ってもらえるのも出会わなければ、絶対に訪れないことだから」


「そう、言ってくれると嬉しいです」


「あちしも、ライブラ王子殿下と出会えてよかったニャ。きっと、いい王様にニャるニャ」


エリウが涙を拭き、ライブラの気持ちを受け取る。

彼女のその目はもう泣き悲しむだけの者の目ではない。

そして、彼女の言った言葉。

いい王様になる。

その言葉を本当の意味でライブラは聞く。


「いい王様になる・・・、そうです。セト、エリウ。僕はいい王様になります。そう決めました。何年かかるか分からない。今の僕じゃなくなるかも知れない」


そうシュピーゲル王のように誰も信じなくなるかもしれない。

セトたちの知るライブラじゃなくなるかも知れない。

それでも、この道を行くと決めた。

だから、二人に聞いておきたかった。

変わる前の自分で聞いておきたいことがあった。


「それでも、・・・僕と、・・・・・・友達でいてくれますか?」


その問いにセトとエリウは即答する。

答えは初めから決まっている。


「「もちろん」ニャ」


言って欲しい言葉がすぐに返ってきた。

その温かい言葉にライブラは勇気づけられる。

二人が友でいてくれるならどんな道も怖くないと。


「・・・ありがとう二人とも。・・・これは約束です。僕が王になった時、お前たち二人を近衛騎士として迎え入れます。必ず二人を迎え入れることができる王国にして見せます」


「僕も、何かあったらすぐにライブラの下に駆け付けるよ。ライブラの騎士として恥ずかしくないくらい強くなって駆け付ける!」


「あちしだって強くニャるニャ。ハトゥール族一番の戦士にニャって一族総出で出迎えてやるニャ。きっとライブラ王子殿下は腰を抜かすニャ」


「しっかり聞きましたよエリウ。一族総出ですね? 楽しみにしています」


「ニャ! 今のは無しニャ! 一族総出は無理ニャ。せめて一番の戦士で許してニャ」


ちょっと盛り過ぎたとエリウが慌て。

セトとライブラに笑顔が戻る。

これはきっと、遠い未来に果たされる約束。

果たされる時には忘れているかもしれない約束だ。


3人の約束。

未来を変えれる出来事。



----------



王都より遥か南東。

戦火が広がるその地でその情報はすぐに把握された。

100年も前に滅んだ王国の名を刻んだ鎧を身に着け。一人の騎士が部屋に入る。


「報告致します。術導師ファルシュ様の反応が途絶。カラグヴァナ王の暗殺に失敗した模様です」


騎士は全身を切り刻まれるような感覚を覚えながら報告していく。

自分の主は静かにその報告を聞いていく。

目があえば確実に殺される殺気を放ちながら。


「分かった。下がってください」


「ハッ!」


騎士はすぐに部屋を去っていく。

彼には。

彼らには。

決して逆らってはならない。そう騎士の本能が叫ぶ。

人ならざる力を持った彼らは、そうカラグヴァナを滅ぼす者たち。


アーデリ王国の最高権力者。


その一人が手でこめかみを押さえ、椅子に座りながらどうしたものかと思案する。


「ふーむ。困りましたね・・・。彼がいないと兵力不足の問題を解消できないというのに」


悩む彼をからかう様に小柄で華奢な白い少女が、額から角を生やした少女が笑った。


「イシシシシッ! 頭でっかちのくせに出しゃばるからだゾ」


さらに、もう一人の角を生やした黒い少女が笑った相方を嗜める。


「ダーメだよラバン。ファルシュ、頑張り屋さんだよー」


明らかに人間ではない少女たちはヒソヒソ話でもするかのようにクスクスと笑う。

肌が白く黒髪がラバン。

肌が黒く白髪がシャホル。

外見は角を除けばただの15歳ぐらいの少女たち。

だが、その華奢な体からは想像もできないパワーとスピードを宿している化物。


亜人の上位種族、エール族。


鬼人と呼ばれ、人との邂逅以来ただの一人として敗れたことのない一族。

そう一度も奴隷という屈辱を受けていない亜人たち。

亜人の中でも最強の戦闘集団。

一枚のブカブカな服を纏い、羽衣のような布を手首につけて、ヒラヒラとその布をひらめかせる。

そのエール族の少女ラバンは楽しい事が始まったとばかりに笑いが止まらない。


「イシッ! イシシシッ! 計画が狂ったなら、とっとと攻め込むゾ?」


「あー、少し攻め込むのは待ちましょう。そうしましょう」


「イヤだゾ」


「ふーむ・・・」


エール族の少女と対等に話すこの男は、人間。

ただの人間にして、エール族に認められた者。


元エウノミア公国の公爵、ジュゼッペ・パレルナ・ピアッツィ。


この戦争を引き起こした元凶だ。

先ほど周囲に当たり散らすほどの殺気を出していた彼は、今はとても紳士的に振る舞っている。

そして、紳士的に解決案が浮かんだ。


「ラバン姫、実は甘ーいお菓子を用意してまして」


「うまいのか!」


「わたしもちょーだい?」


「勿論ですとも。さぁ、姫方こちらに」


ジュゼッペは、勝手に王都に攻め込みそうな姫たちをお菓子でなだめていく。

彼女たちはいつも勝手に戦場に出て行ってしまう。

まぁ、圧勝してくるから文句はないのだが、やり過ぎるとカラグヴァナの本軍が来てしまう。

それは困ると、定期的にお菓子でなだめていた。

アーデリ王国内でジュゼッペは唯一、彼女らに言うことを聞かせられる立場なのだ。


「さて、ではバカが来ない内に・・・」


フラグが立った。

扉が吹き飛び、壁が崩れそれは来た。


「導師ィィィィイイイイイッ!! 今すぐッ! 王都に攻め込もうぞ!! 同胞ファルシュを救い出し、ヤ・ツ・ラを血の海に沈めるのだァァアアアアッ!! ・・・む?」


吹き飛んだ扉と壁の破片が姫たちに直撃し、二人は怒り心頭になっていた。

ジュゼッペも扉の下敷きになりぶっ倒れてしまっている。


「な! これは何があった? 敵襲かッ!!」


「お前の所為だゾ!! このバカゼヴッ!!」


「あり得ないしー。酷いしー。ジュゼッペ死んじゃったよー」


姫たちはプンプンだ。瓦礫を掴んでは部屋に突っ込んできたバカに投げつける。

投げつけられている彼は、亜人ゼヴ族の男。


名はゼヴ。

ゼヴ族のゼヴ。亜人の始祖が一人。


エール族と同じく上位種族であり、ケレヴ族やハトゥール族の始まりの存在。

3、4mはある大きな肉体にツヤのある綺麗な毛並みをしていて狼の顔を持つ。

青い毛の亜人。

その姿はもう亜人とは思えない規格外の姿だ。


そんな、上位種族である彼らの会話を扉の下で聞きながら。

ジュゼッペは救援を求める。


「い、いえ、生きてますよ。できれば助けてほしいのですが・・・。その、・・・ゼヴ殿以外で」


「いや! このゼヴがお助けしよう」


「いや、結構ですので・・・」


「フンッ!」


グシャッ! と嫌な音が鳴った。

ゼヴは恐る恐る扉を掴んで放り投げた手の平を見る。


「ほっ・・・」


よかった。ジュゼッペはいない。

それはそうだ。放り投げたのだから。

壁に叩き付けられたジュゼッペはシャホルにひっぺ剥され抱えられる。

ジュゼッペの体から血が流れ落ち、その血を見たシャホルの目が赤く染まった。

目の全てが赤く染まり。

そして、首筋に噛みつく。


グビリッと大きく喉を鳴らすと。

ジュゼッペの体が大きく痙攣し飛び起きる。

まるで怪我など無かったかのように立ち上がり。

その高価な服を血で汚してしまいジュゼッペはため息をついた。


「ハァ・・・。いつもすいませんねシャホル姫」


「いいよー。ジュゼッペお菓子くれるしー。あ、ゼヴはダメー。おすわり」


「・・・しゅん」


「イヒャヒャヒャヒャッ!! バカでかい図体でしゅんっだゾッ! イヒャヒャヒャヒャッ!!」


落ち込みおすわりしているゼヴをラバンは爆笑しながらゲシゲシと蹴り続ける。

そんなゼヴはあること奇跡的に思い出した。


「ん? そういえば導師は何処に?」


「ああ、導師様は、ヌアダ様と共にゲフィオンに向かわれました。まもなく陥落するでしょう」


「このゼヴを措いて!? ・・・しゅん」


ジュゼッペはいつも彼らをなだめる。

導師の邪魔にならないように。

彼は忠実にその役目を全うしていた。



----------



そして、焔に染まるケレス公国の首都ゲフィオンを高台から二人の人物が眺める。

ローブに身を包んでいるため、その顔も姿も分からないが。

一人は外観で分かった。

大きな黒銀の翼を持ったその者は、明らかに亜人。

もう一人は導師と呼ばれる者。

導師が声を出した。女の声。甘い声。


「ようやくここまできたね」


黒銀の翼を持った亜人も答える。


「ああ、我らを縛る楔が一つ砕かれた。もうまもなくだ」


黒銀の翼を持った亜人は、劫火に焼かれるケレスの人々を見ながら告げる。


「王都侵攻が始まる」

第4章終了です。

やっと敵勢力が登場しました。いや、ちょこちょこ匂わせてはいましたが、ようやく表舞台に出てきました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。