第八十話 始まる殺し合い
日が昇り、宿の一室に王位継承者斬殺事件に挑む面々が次々と集まっていた。
大事な人を助けるため。
主君を守るため。
恩を返すために、志を一つにしたみんなが集う。
部屋にはそうそうたる顔触れが揃っている。何も知らない人が見たら腰を抜かすほどの顔ぶれだ。
まずは、作戦を立案したライブラ第十六王子。
集まった中では最も身分の高い人物のはずなのだが、年齢のせいか他のみんなが凄いのかちびっ子代表みたいな状態だ。
その隣にいるのは、ライブラの護衛ファルシュ。今は完全に甲冑を着こんでいるせいで顔が見えないが只者ではない雰囲気が漏れ出ている。
彼の所為でライブラの存在感が薄くなっているのは否めない。
そして、アプフェル商会の統括役ルフタ、トカゲ顔の亜人として存在感は抜群だ。
鎧の騎士団総隊長リューベも頬にある大きな傷跡から歴戦の戦士だと感じさせる。
だが、最も存在感のある人物は彼、神官ヴェヒターだろう。
腰まで伸びる長い白髪に女性と見違えるほどの美貌を持つ男。存在感の桁が一つ飛び抜けている。
そんな強者共の中にちょこんと場違いな二人がいる。
セトとエリウだ。
張り切って来たものの、周りのオーラに押されて完全に委縮してしまっていた。
二人仲良く肩を縮こませて小さく丸まっているようだ。
縮こまりながらひそひそと感想を言い合う。
「エリウ、すごいことになってきたよ」
「ニャ、これはあちしらのおかげニャのニャ。きっと御馳走が待っているんに違いニャい」
じゅるりとヨダレを拭きながらきっとあるであろう褒美に目をキラキラとさせるエリウ。
御馳走と聞いたセトは、そんな欲望には負けずに。
「御馳走が出たらアズ姉にいっぱい食べさせてあげたいな」
と心優しい弟を披露する。ひそひそ話をしているとライブラが立ち上がった。
「始まるニャ」
「うん」
ライブラが一歩前に出て両手を軽く広げる。
まだまだ迫力はないが王族の演説などによく用いられる姿勢。
語気を強めて作戦内容を伝えていく。
「今回、お前たちに集まって貰ったのは他でもない。王国に牙を剥き、王都を恐怖に陥れている逆族を打ち倒すため、皆の力を一つにするために来てもらったのです」
すでに6名もの王位継承者を殺害している逆族。
鉄仮面の術式使い。
この強敵を倒すために集まったのだ。
「まだ、若輩の身ですがそれでも王国を思う気持ちは誰にも負けない。この戦いは名誉も褒美も出ないかもしれない。けど、大切な人を命を守ってくれた人を助ける戦いだと思う。その戦いに皆の力を貸してください」
ライブラは望む。
共に戦おうと。
もちろん、そのために来たのだからルフタやヴェヒターは快く承諾していく。
このライブラの宣言は儀式だ。必ず勝つという誓い。
それが成されたのだ。
「大まかな内容は、騎士リューベに用意してもらっています。騎士リューベ説明を」
「ハッ! まず、今回の敵は術式使いであることが判明している。基本戦術としては対術式部隊による無力化だが、敵は上位騎士を凌駕する実力を備えているのが問題となる」
皆の顔が険しくなる。そう、今回の敵は本来出てくれば必ず勝てるはずの上位騎士を実力で上回っている。
中位騎士がいくら束になっても敵わない力の差が存在するのだ。
自身も中位騎士であるリューベもそのことを嫌というほど理解して話を続ける。
「そこで、我らが用意した物が対術式防壁の一部使用権限だ」
「その対術式防壁とやらは、どういった物なのだ?」
「対術式防壁は、元々王宮内での術式使用を不可能にする目的で開発された。巨大王城全体を魔力の貯蔵庫に見立て循環型術式として機能し、指定範囲内での術式を完全に発動できなくする。この機能を一部使用するという訳だ」
「つまり、術式を使えなくすると」
「その通り。たとえどれ程、強大な術式使いであってもこの対術式防壁から逃れることはできない。そこを我ら鎧の騎士団と」
「吾輩たちが仕留めるというわけだな」
これが、ライブラが用意した切り札。
術式使いとの戦いにこれ程ピッタリな物はないだろう。
王族だからこそ用意できた激レアアイテムと言っても間違いではない。
普通は対処をどうするかで、使えなくするという発想にはいきなりならないが、今回はそれができるのだ。ライブラは存分に使っていくつもりだ。
「今回の作戦はこの対術式防壁を中心に、敵の捕捉、誘導役と攻撃役の二班に分かれて行う。捕捉、誘導は我ら鎧の騎士団に任せて貰いたい」
「では、鉄仮面の撃破は吾輩たちに任せて貰おう」
鎧の騎士団により鉄仮面をおびき出し戦闘経験のあるルフタたちが戦う。
適材適所といったところか。
そこへ、黙って話を聞いていたヴェヒターが会話に参加する。
「一つよろしいでしょうか?」
「何か」
いきなり口を開いたヴェヒターにリューベは少し身構える。
身構えさせるほどの強さがヴェヒターから感じ取れるのだ。
「この作戦、罠を張った場所に敵を誘導することになりますが、こちらから強襲できないでしょうか」
「それは出来れば良いが敵の居場所が不明なのだ。まさか、心当たりでも?」
「いえ、私も居場所は知りません。ですが、アズラは居場所を捕捉し強襲を仕掛けたと聞いていますが」
「ッ! 確かにそうだ。騎士アズラは敵の居場所を掴んでいた」
あの時、最初に鉄仮面の攻撃を受けた時アズラは真っ先に敵の居場所に向かっていった。
魔力を広範囲に広げて何かしていたようだが。
リューベはアズラが何をして鉄仮面の居場所を特定したのかが分からない。
魔力を広げたら分かるのか?
その理由は。
「ハッ敵の使用術式を逆手に取るのか!」
「そうです。今回の術式使いは魔力を分解する独自の術式を用いている。そして、その術式はあらゆる魔力を分解しているとしたら」
「魔力の薄い所に奴はいる」
作戦の方針が変更となる。
誘導包囲から強襲へと変わり、より攻撃的なものへと変化した。
「鉄仮面が常に術式を使っているとは限らんのでは?」
ルフタが疑問を漏らす。だが、その心配は無用だ。
「心配いりません。敵は術式の索敵から身を隠すために常に使用しているはずです。そうですね総隊長殿?」
「神官殿の言う通りだ。敵を索敵術式が捉えたことはない」
「なるほど、種が割れればどうということはないのであるな」
敵の手の内を暴くのが戦いにおいてどれほど重要であるか。
ヴェヒターはそれをここで証明するかのように話を進める。
「ライブラ王子殿下、対術式防壁の区画設定と発動にかかる時間はどれほどでしょうか?」
「10分もいらないと思う。ただ、注意しないといけないのは再設定には30分は掛かるということです」
「10分・・・、10分間、奴を抑え込めれば」
「勝てる」
作戦が勝利に繋がるイメージが湧いてくる。
10分。
たった10分の死闘を制すれば確実に勝てる。
それぞれの役割も変更された。
鉄仮面を強襲後、鎧の騎士団は包囲と足止めに徹し、ルフタたちが可能な限り時間を稼ぐ。
決行はアズラの処置が終わり次第、すぐだ。
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魔力の分解を阻害する処置が施され、アズラを蝕んでいた破壊因子の発生が抑え込まれる。
彼女の体がようやく体内を破壊する毒から解放され、食事を取る元気も出てきたようだ。
アズラは一口、水を飲み。
喉の渇きを潤す。
「ヴェヒター様ありがとうございます」
「礼には及びません。それより、セトに会ってあげなさい。君のために敵と戦うのですから」
「はい」
ヴェヒターが部屋を出ていき、入れ違いでセトが入って来た。
その顔はアズラの容体が安定したことで嬉しさいっぱいの顔だ。
「アズ姉!」
喜びの声が部屋全体を包む。
セトが見たかったアズラの元気な姿だ。
「ごめんねセト。私がセトを危険な目に遭わせてしまうなんて・・・」
「ううん。違うよアズ姉。僕はアズ姉を助けに行くんだ。そこにちょっと強い奴がいるくらいだよ」
セトはアズラを励ますように言うが。アズラは心配で堪らない。
自分が敵わなっかった奴とセトが戦うことが受け入れられないほど、辛い現実として彼女の心にのしかかる。
その気持ちが。
行かせたくないという思いが分かるから。
セトは彼女を安心させるように。
「アズ姉、僕を信じて。必ず勝って戻って来るから」
信じてと。
心配と不信が同義なら、きっとその反対は信じること。
アズラは心配を胸の奥に押し込んでセトの言葉を信じる。
「・・・うん」
アズラがセトに抱き着き、失いたくない者をしっかりと感じ取る。
セトも守りたい人をその胸に受け止めた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
アズラが手を放すとセトは部屋を出ていく。
彼女を残し作戦が決行された。
宿の表でセトを待っていた面々が移動を開始する。
鎧の騎士団が魔力による索敵を広範囲で展開し鉄仮面の居場所を絞り込んでいく。
その間に、セトたちは武器やフォーメーションの確認だ。
「セト、お前さん二刀流ができるのか? 慣れている剣術の方がいいと思うが」
「大丈夫。基本はダガーでカウンターを狙うよ。こっちはカウンターじゃどうしようもなくなった時に」
そう言って、標準的な片手剣を構えた。
片手で持つにはセトには少々大きい。
それを鞘にしまい背中に背負う。
セトの装備はいつもの、一式。
全体的に少し赤みを帯びた色合いの生地に黒い防具が手先や足を包んでいる。
エリウもハトゥール族用に作られた防具に身を包む。
身軽で機動力の高い彼女を考慮して、軽量化に特化した装備。
オレンジ色の胸当てに、手足の先を守る鎧。
足と腕は丸出しだが、この方が動きやすい。
ホットパンツのような腰の防具が彼女を引き立てている。
ルフタはいつも通り戦闘用神官服を着て、準備完了だ。
「準備はいいか」
「うん」
「バッチリだニャ」
セトたちの準備が完了すると同時に鎧の騎士団から連絡が来る。
「敵、術式使いと思しき反応捉えました。皆さん準備を」
セトたちが武器を取り立ち上がる。
遂にその時が来た。
セトを中心にアプフェル商会の護衛担当全員、鎧の騎士団40名の精鋭。
そして、神官ヴェヒターに上位騎士ファルシュ。
たった一人相手に50人弱の大部隊で挑む。
「僕も行きます。王子である僕がいれば対術式防壁の精度も上がるはずです」
「王子殿下。申し上げますが危険です。もう6名も」
「分かっている。でも見届けたいんです」
「ライブラ王子はワタシが死守する。キサマたちは敵の撃破に集中すればいい」
ファルシュの一言で騎士が頷き引き下がる。彼はライブラ王子の親衛隊。
つまりは上位騎士。
自分たちが負けない限り王子の防御は完璧だと言わなくても分かる。
「では出発する! 敵はすぐそこです」
ライブラ王子の号令で移動を開始した。
目指すは鉄仮面が潜んでいると思しき城壁の裏側。
逃げ道の少ない閉じられた空間だ。
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高い城壁に夕日の光が遮られ、薄暗いものがより薄暗く際立つ。
そんな所に、鉄仮面は腰を下ろし身を休めていた。
1日経ったとはいえダメージはまだ残っている。
王都内での術式使用は騎士団にその居場所が特定されるので、易々と癒呪術式も使用できない。
ダメージを受けずに暗殺を繰り返してきたが、うかつにもライブラ王子暗殺で失敗した。
こちら側に引き込んだ騎士を使って、対立派閥の王族の命令を利用し仕掛けたが魔力量が互角の者がいるのは彼にとって予想外だった。
姿を見られ、手の内を知られた。
いずれ対策を講じられるだろう。
「こチらカら仕掛ケル」
立ち上がり魔力を解放していく。
王子たちの居場所は分かっている。
何も躊躇することはない。強襲し殺し、今までのように王族を暗殺する日々に戻すのだ。
彼には大義がある。
そう、王族を殺すことで成される大義が。
それを成すまで彼は止まらない。止められてなるものか。
「ソウだ。もうスぐ届く、奴の喉元ニこの剣ガ届ク」
鉄仮面が剣を抜き、風景に滲んでいくように姿が消えていく。
彼の絶対の自信を持つ術式。
騎士の索敵術式などまるで役に立たない完璧なステルス効果を生み出す代物。
それを展開しライブラ王子とアズラを抹殺する準備に入ろうとした。
その時。
「ッ!!?」
鉄仮面の首筋を鋭い刃が通り過ぎる。間一髪で首を振りかわすが肉が切れ血が流れ落ちた。
圧倒的な速さ。
人外の動き。
それは青白い人の顔で作られたような鎧を身に纏った騎士。
ヴェヒターが契約したセフィラ。
ラツェル。
鉄仮面の前にセトたちが姿を現す。
「ラツェルの一閃をかわしますか。・・・いいだろう。私の全力を持って相手をしよう」
ヴェヒターが戦闘態勢に入る。続いてセトたちが、鎧の騎士団も包囲網を形成する。
包囲された鉄仮面はヴェヒターを睨み、その魔力を高ぶらせていく。
「ク、クク、クハハハハ。ソウか、仕掛けラレたのは、ワタシだっタカ。・・・それで勝テルと?」
鉄仮面の周囲に半透明な刃が数十本と出現する。
それは空間へと姿を消しながら広がり死の刃を展開する。
次の瞬間。
包囲していた騎士たちの首が一斉に跳ね飛ばされた。
一瞬にして10人。10人の騎士が散る。
「サァ、始めヨウ。殺シ合イを!!」
セトたちは改めて、自分たちが何と戦おうとしているのかを思い知る。
10分。
その長い時間の中この猛攻を耐え抜かなければならない。




