第六十五話 押し通す正義
セトたちのいる宿を何者かが包囲していく。
その洗練された動きは素人のそれではない。
外に出ていたアプフェル商会の仲間たちが悲鳴を上げ、逃げることも叶わない。
仲間の悲鳴が聞こえたセトとエリウが、そして、ランツェ率いる護衛たちが武器を取る。
「エリウこれって!」
「多分、あちしたちのせいニャ。あの逃げた腰抜け野郎が仲間を呼んだんだニャ」
「ライブラ王子を助けようとしただけなのに」
「世の中そんなもんニャ。だけど、自分のヘマをそのままには出来ニャいニャ!」
エリウは部屋を飛び出し、窓の方に移動する。
狭い廊下を進み外の様子を見ようとすると。
赤い影が窓を覆いエリウの視界を塞いだ。
そして、そのまま窓を突き破ってエリウを吹き飛ばす。
「ニャッ! つッー!」
赤黒い鎧を着た騎士が乗り込んできた。
その手に剣を構え、エリウとセトを交互に見る。その目は獲物を探すハンターの目そのものだった。
「やるニャらぶちのめしてやるニャ!」
「あいつら本当に騎士だったんだ」
セトは自分たちの立場が非常にまずい状態に陥っていることに気付いた。
この赤黒い鎧を着た騎士は、カラグヴァナ王国の騎士団の者だ。
それと敵対するということは、カラグヴァナ王国と敵対することに他ならない。
自分たちの行動如何によっては、即刻極刑もあり得る。
「エリウ! ダメ!! 逆らっちゃダメだ!!」
「ニャんでニャ! こいつ、王子を殺そうとした奴の仲間じゃニャいのか!?」
「そこの亜人! ライブラ王子殿下について知っているのか!」
エリウは自分から騎士に目を付けられる行動をしてしまった。
騎士が剣を突き付けながら近づいてくる。
他の通路からも窓が割れ騎士が乗り込む音が聞こえる。
包囲され始めたと気付いてから1分もしない内に攻め込まれた。
これでは、逃げることもできない。
「ライブラ王子殿下はどこにおられる! 貴様たちがこの件の首謀者か!」
「ち、違います! 話を聞いてください!」
「まずは、ライブラ王子殿下の安全を確認させてもらう。貴様たちの弁明はその後だ」
ジリジリと騎士との距離が狭まる。
セトとエリウは互いを庇う様に構えるがどんどん追い詰められていく。
セトたちの背中に壁が当たり騎士の剣がエリウの喉元に突きつけられる。
「し、信じてください。僕たちは・・・」
「仲間に傷一つでも付けてみろ! 八つ裂きにしてやるニャ!!」
エリウが騎士を睨み付け威嚇するが、騎士は全くうろたえない。
冷静にこちらの様子を窺ってくる。
その様子にセトはあることに気付く。
騎士は反抗的なエリウを警戒しているのであって、こちらに敵意や殺意はない。
疑惑は持たれているようだが、まだ、話し合える。
「エリウ! ここは堪えて、お願い! 僕たちは悪いことはしてないんだ。だから大丈夫だよ」
「でも!」
「エリウ僕を信じて」
「・・・ニャァ、分かったニャ」
エリウが爪を引っ込める。
騎士は喉元に突きつけた剣を少しだけ下げた。
だが、警戒は解かずに辺りの様子を窺っていく。
騎士は王位継承者斬殺事件の犯人と狙われたと思われるライブラを探している。
「では、ライブラ王子殿下の下に案内してもらおう」
「・・・」
「どうした? 早くするんだ」
セトはライブラの居場所を言うのに躊躇していた。
本当に目の前の騎士は、ライブラの味方なのかと。
王族の中には派閥があり王族同士で争っている。朝方のように騎士がライブラに危害を加えようとしていたのだ。
目の前の騎士はどの派閥の者なのか。
ライブラの敵か? 味方か?
「黙秘するか、それもいいだろう。だが、一つ教えておこうか少年。黙秘は騎士団への反逆行為の一つだ」
「・・・!」
騎士の剣がセトに向けられる。
喉元に突きつけられセトは堪らず目を閉じた。
額から汗が流れ出る。
「セトは知らニャいだけニャ! あちしが案内するから剣を退けるニャ!」
「そうか、なら案内してもらおう」
エリウが騎士の案内を始める。
他の者たちも騎士に抵抗せず降伏したようだ。
すれ違うみんなの目は、セトたちへの心配と自分への不安で満ちていた。
「ここニャ」
「開けろ」
騎士の指示に従いエリウが扉を開く。
扉の先にはベッドに腰かけたライブラと壺を持ち上げたリーリエがいて。
「やぁーー!!」
「わー!! リーリエ、ダメッ!!」
「フン!」
ゾンッ! と壺が真っ二つにされ、リーリエに剣を突き付ける。
リーリエはヘナヘナと座り込み降伏した。
それを見ていたライブラの顔が険しくなり。
「無礼者! 僕の恩人たちに何をするんだ!」
「は? ! ハッ! これはご無礼を! お許しください立てますか?」
一瞬で騎士の態度が紳士的になり、リーリエに手を差し伸べる。
ライブラのおかげで誤解が説けそうだ。
セトとエリウは騎士への説明をライブラにしてもらおうと考えていくが、突如、宿に激しい揺れが襲い掛かる。
宿の表通りで爆発が起きたのだ。窓から爆炎が上がるのが確認できる。
騎士はライブラを守る姿勢を取り、通信用魔晶石で連絡取り始めた。
一体何が起きたのか、それはすぐに判明する。
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扉をぶち破り、アズラが騎士団の前に姿を晒す。
魔力を解放にしていき、その拳を必殺の武器に変化させる。
続いて、ルフタとディアが前に出る。
アズラの左右に立ち騎士団と対峙した。
「王国騎士団!? マジかよ」
「騎士団が吾輩らに何用なのであるか」
アズラたちの目の前に立ちはだかるのは王都の治安を司る鎧の騎士団。
総隊長リューベに率いられた40名の精鋭部隊だった。
リューベは表に出てきたアズラたちを確認するとすぐさま拘束の指示を下す。
騎士団が動く。
一糸乱れぬ動きで、アズラたちの左右を壁を作るように包囲した。
盾を重ねてまさしく壁を展開する。
真正面に騎士が5人並んで槍を構える。槍騎士、騎士団の中で最も突破力を持つ騎士だ。
逃げ道を断ち、その圧倒的突破力で一網打尽にしようとしている。
だが、アズラはその包囲を見ても微動だにしない。
逆に騎士たちを威圧するように構え。
「私の名はアズラ!! ベスタ公国フローラ公女の直属護衛騎士アズラ・アプフェル!! フローラ公女の剣である私にこのような仕打ちをするとは、お前たちの行動如何によっては王国とベスタ公国の結束を汚すと知れ!!」
所属を名乗り騎士団を威圧する。
フローラ公女の騎士と分かれば下手に手出しできないはずだとアズラは考えた。
相手も騎士、事情を話せば分かってくれるはず。
しかし、アズラの名を聞いた騎士団の反応は鈍い。
騎士たちは一瞬、顔を動かしたがすぐに元に戻り、アズラの話など気にもしない。
リューベが無言で手を上げる。そして。
「容疑者を拘束しろ」
手が振り下ろされ、槍騎士が突っ込んでくる。
アズラの話は無視され、騎士団は任務を遂行する一つのシステムと化す。
そのシステムに容疑者の言葉を聞く機能は無い。
「人の、話を、聞けッッッ!!」
対するアズラも実力行使に出た。
両手に集まった魔力で火と風の術式を展開し、高熱、高圧のエネルギーを槍騎士たちに向けて解き放つ。
音速に迫る速度で叩き込まれ、槍騎士を吹き飛ばした。
衝撃で爆発が起こり砂埃と煙が舞い上がる。周囲に衝撃が走りその威力を見せしめていく。
だが、槍騎士たちはすぐさま立ち上がり隊列を組み直す。
再度、突撃を仕掛けようと槍をアズラたちに向けた。
「訳も言わずに容疑者扱いなんて失礼だと思わないの? 何とか言って欲しいわね」
「突撃隊形維持、対術式部隊前へ」
リューベはアズラの問に答えず指示を出し続ける。
杖を構えた騎士が5人、槍騎士の後ろに出てきた。
「「「スタンドアップ・コード・P.D.M.S・セットアップ・クレスト・ホシェフ・エリアコード・B」」」
白い魔力が騎士の術式で黒色に変わっていく。アズラがまだ知らない術式の一つだ。
アズラもすぐさま土の術式を展開し防御しようとする。
しかし、術式で盛り上がった土がすぐにひび割れ崩れ落ちた。
何度、試しても結果は同じ。
アズラは術式を唱え続ける騎士を睨み付ける。
「こいつ!」
三導系の一つ闇の術式。
その術式は対術式用に生み出された属性だ。
術式の発動の妨害、魔力の暴走の誘発。
術式使いにとって最も使われたくない属性の術式。
それは、術式使いが抑えていて当然の術式でもある。
アズラは、まだ三導系の内、癒呪属性しか習得していない。
つまり、同じ術式使いとして圧倒的に不利な状態で戦わないといけないのだ。
「アズラ、吾輩の後ろに下がるのだ!」
ルフタが神術を発動させながら前に出る。
術式がダメなら、魔力を用いない神術で対抗するまで。
槍騎士が突撃を開始し、ルフタ目掛けて槍を突き立てようと迫り。
「御免!!」
手の平を騎士の眼前にかざし、青白い光が波紋のように広がった。
ブォッン! と重低音が鳴り渡る。
槍騎士たちの鎧を通り越し体全体に衝撃が襲い掛かる。
まるで、全身均等に同一のダメージを受けたかのように、防御を突破された騎士たちが崩れ落ちた。
この防御困難な攻撃、衝撃の神術と命名されているこの技はジグラットに伝わる独自の技術だ。
セフィラを構成する青白い光を衝撃による攻撃手段に変換したもの。
魔力ではないため闇の術式による干渉を受け付けない。
(亜人がジグラットの秘儀を!?)
リューベがルフタの神術に反応する。
だが、その驚愕も内面に押し殺しアズラたちに悟らせない。
「包囲陣第二段階、波状攻撃開始」
アズラたちの左右に展開された騎士の壁がその形を変え始める。
重ねられた盾を動かし隙間から槍をアズラたちに向けてきた。
さらに、5人の騎士が剣を抜きアズラたちを包囲する。
一点からの集中攻撃から波状攻撃にその陣形の形態が変わった。
見事な手際。
反撃の機会を与えずに確実に追い詰めていっている。
アズラは自分たちを包囲する騎士を見ながら突破口を探す。
術式が使えないとなると、ルフタの神術が頼りだ。
だが、それは騎士団の連中も分かっている。
分かっているから接近戦による波状攻撃でこちらの連携を崩し個々に対処せざるを得ないように仕向けて来ている。
ならば、どうするか。
こちらは、術式を封じられた2名と神術が使用できる1名。
対する騎士団は、5名の騎士と対術式に5名、そして、20名の重騎士たち。さらにまだ戦力が控えている。
「何としても話は聞いてもらうわ。ディア! 術式を唱えれるだけ唱えて!」
「そんなことして何に」
「いいから!」
「ーーっ」
ディアは半分やけくそ気味に風の術式を唱えていく。
アズラほど術式の才能が無いディアは3つの魔晶石を配置して他の3属性も織り交ぜ、その威力を高めようとする。
ディアの術式発動を阻止しようと騎士たちが闇の術式の効力を高めた。
それに連動するように剣を構えた騎士が襲い掛かる。
「させん!」
ルフタが騎士たちの攻撃を止めるべく、新たに神術を発動させる。
薄い青白い壁がアズラたちを包み騎士の剣撃を弾き飛ばす。
障壁の神術。
セフィラを構成する青白い光を防御に変換したもの。
術式や剣などの物理攻撃を弾くがそう長くは持たない。
青白い壁に亀裂が走り、騎士の剣を弾けなくなっていっている。
だけど、これだけ時間が稼げれば十分だ。
アズラを抑えていた闇の術式の効力が一部ディアに変わり、彼女を縛っていた拘束が緩む。
その瞬間を彼女は待っていた。
魔力を全開で解き放ち、自身を縛る闇の術式を強引に突破する。
術式の効力以上の魔力を解き放たれ、騎士たちが術式を制御できずに膝を着いた。
リューベから驚愕の表情が僅かに顔に現れる。
「五層対術式による拘束を突破しただと!!」
アズラが足に魔力を込める。
そして、地面を蹴りあげ一気に騎士の包囲を突破した。
狙いは指揮官のリューベ。
アズラが拳を握り、目前と迫って。
「待て!! そうか分かった。包囲陣を解除、ライブラ王子殿下の無事が確認された」
通信用魔晶石よりライブラ王子が無事である報告を受けたリューベはすぐさま包囲を解き。
騎士たちが武器を下ろしていく。
「我らが誤解をしていたようだ。ライブラ王子殿下を保護していただき感謝を申し上げる。鎧の騎士団による無礼、許していただきたい」
アズラも拳を下ろし。
「フゥ・・・。やっと、話を聞いてくれるのね」
アズラたちは、何とか窮地を脱した。
何故、自分たちが王位継承者斬殺事件の容疑者となったのか詳しく聞く必要があるだろう。




