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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第四章 王位継承者
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第六十四話 撒かれた餌

奴隷市場の奥。

その薄汚い欲望が沈殿した場所にディアは久々に戻って来ていた。

同業者たちからは、フェアに消されただの、騎士アズラの奴隷になっただの言いたい放題いわれていたようだが、顔を出してみればいつも通りに絡んでくる。


「よーう、ディアか。なんだ生きてたのか?」


「おかげ様でね」


「お前、フェアを売ってアズラとかいう女騎士の軍門に下ったんだって? あのアプフェル商会の代表だろ俺にも一枚かませろよ」


「嫌なこった」


いつも通りディアは適当にあしらい奥に進んでいく。

ここは、暗殺や密売など仲介する者や密輸された武器、麻薬などが売られる闇の市場だ。

表の奴隷市場はフェイク。

稼ぎ場所はこちらということだ。

奥には、プカプカと葉巻から煙を出す男が一人座っていた。


「今度は、あんたが頭か。まぁ、フェアよりマシだな」


「黙れディア。その汚ねぇ口を閉じろ」


ディアは肩をすくめて分かったと告げる。

男は、葉巻を外し灰皿に押し付ける。

すぐに、新しいのを取り出し口にくわえた。

ディアは何も言わずに火の術式で葉巻に火を付けてやった。


「スー・・・、ハァー・・・。で? 何の用だ?」


「王子様を殺した犯人が知りたい」


王国金貨が入った袋をドンッと男の前に置いた。

男はディアを鋭い目で睨み、奥へと消えていく。

戻って来た彼の手には数枚の書類が握られていた。


「死ぬかもしれんが、構わんのか?」


「ご主人様のご命令でね」


「誰の下についてもお前は運がないのかもしれないな」


「自覚しているよ」


ディアは書類を受け取り、目を通していく。

内容は、今回の事件の詳細と今まで殺された王位継承者の情報だ。

やはり情報規制がされているせいか、一番新しい事件以外は目ぼしい情報はない。

読み終えた書類を男に返し、ディアは背を向けて歩き出す。


「その件には関わらない方がいい。これは警告だ。下手すりゃ王族も敵に回すことになるぞ」


「分かってる。だがよ、俺のご主人様は最強らしいじゃないか? それに懸けるさ」


ディアは冗談をいいながら手を振って立ち去る。

そう、この件には関わらない方がいい。

ディアも同意見だ。

だが、アズラのあの反応はこの件にすでに関わっている可能性がある。

だとすると、関わらないという選択しは自分には最初からない。

自分はその関わっているかもしれない者の手下なのだ。

なら、アズラが優位に動けるようにするのがディアの仕事だろう。


「頼むぜご主人様よ。俺はこんな所で死にたくないんでね」


ディアは自分一番な人間だ。

他人よりも自分を優先する。

今回もそのつもりだ。



----------



遅い!

とアズラはご立腹になっていた。

ディアが遅いのは分かるが、何故、セトとエリウまでいなくなっているのだとプンプンだ。

もうすぐお昼になる。

今の王都は危険なのだ。

セトたちには早く戻って来てほしいのだが、どこにいるか分からない。


「私探してくる」


「落ち着くのだアズラ。どうもお前さん焦ってるように見えるな。吾輩が悩みを聞いてやろう言ってみるのだ」


「・・・大丈夫よ。そんなことないわ」


アズラは焦りが漏れ出てしまっていることにルフタからの指摘で気付くが、それでも、相談しようとはしなかった。

彼女がこれだけ焦るのも無理はない。

誰にもバレずにひっそりと片付ける予定だった任務が、相手から挑発してきたのだ。

誰に向けての挑発かはまだバレていないが、アズラがその一人だと知られたらセトは手伝おうとするだろう。

断っても付いてきてしまう。

他の者たちもだ。

だから焦ってしまう。大切な人が仲間が敵に知られる危険がある。

守るものが増えるのは大切なものが増えるという幸せな事でもあるが、失う辛さも増えていくということだ。

そう、アズラは失うことを恐れている。


「ならいいのであるが。アズラ、本当にどうしようもなくなったら立場もプライドも捨てて助けを求めるのだぞ?」


「ありがとうルフタ。いつも気にかけてくれて」


アズラはルフタに感謝の言葉を告げた。

いつもルフタはみんなの気持ちを考えてくれている。

悩んでいる人の声を聞き、一緒に悩んでくれる。それは、彼が神官だった時の名残かもしれないが彼の優しい本心でもあるのだ。

今は、その優しさに甘えさせてもらおう。

もの凄く心配をかけるだろうが、今だけは許してとアズラは心の中でルフタに謝るのだった。

アズラたちのいる宿の部屋の扉が開く。

ディアが戻って来たのだ。


「戻ったぜ。あまりいい成果じゃないが構わないよな?」


「ええ、聞かせてくれる」


早速、彼は入手した情報をアズラに伝えていく。


「まず、分かったことは王位継承者は今回のも含めて6名が犠牲になっている。確証はないが同一犯によるものだな。全員が剣で斬り殺されているとなってるんだが、今回、死んだ王子様の死体が少し妙なんだ」


「おかしな点があるの?」


「ああ、確かに死体は四肢が斬られ、顎も無くなっていたが、斬り落とされた肉片が見つかってないんだ。斬った時の血しぶきも確認できない。まるで手足が消えたみたいだろ?」


「斬ったのではなく、手足を何らかの方法で消したということ? 術式でもそんなことは・・・」


「消すのは四大系じゃ無理だな、三導系でも難しい。独自の属性を持った術式ならあるかもしれないが術式の研究者でもない限り使わないわな」


犯人の殺害手段が剣以外の可能性が出てきたが、今欲しいのはこの情報ではない。

欲しいのは犯人に繋がる手がかりだ。


「他にはある?」


「後は、王子たちの関係だ。カラグヴァナの王族たちはそれぞれ自分の派閥を持っている。第一王子派、第二王子派みたいにな。王位継承権を持っている奴らは30人もいるが上位10位までが候補として扱われるようだ。下の奴らは上位の奴の子分といった所か。で、今回殺されたのは全員が第六王子の派閥だ」


「・・・何かありそうね」


「そうだろ? 絶対何か意図がある。第六王子を貶めようとしている連中がいるとか、・・・いいね。俺の好きな展開だ」


ディアは何だか嬉しそうだが、相手にしている暇はない。

アズラはこの事件の裏側を探っていく。

この情報だけなら王族同士の派閥争いに見えるが。

だが、そうではない気がする。

犯人は王位継承者の死体を晒した。それは、王室の怒りを買う行為だ。

王族に雇われたのならそんなことするだろうか?

王族の一人がクーデターでも企てているのか、いや、それはないだろう。

まだ、犯人の情報はないが次に狙われそうな人物は絞り込めそうだ。


「ありがとう。しばらく休んで」


「了解だ」


ディアは奥に引っ込んでいく。

アズラはセトたちの帰りを待ちつつ計画を立てていき、任務を開始するタイミングを計る。

動くなら早い方がいいだろう。

なら、今夜だ。



----------



セトたちはライブラ王子を連れて宿へと向かっていた。

ライブラの身長は120cm位と同年代と比べても小柄な方だ。

少し白みがかった金髪で澄んだ薄い青色の瞳をしていた。

一瞬、華奢な女の子かと見間違うかもしれない。

青い高貴な服に金色の刺繍が施され、帽子に王家の紋章が付けられている。


臣民たちはライブラを見ても彼だとは気づかないが帽子に描かれた紋章で王族と一目で分かるので一礼をして去っていく。

ライブラもそのことには慣れているのか、笑顔で手を振りその礼に応えていた。


「セト、その亜人はお前の奴隷なのですか?」


「ち、違うよ。友達だよ」


「亜人が友なの? 奴隷なのにですか?」


「ニャんだこのガキ! 喧嘩売ってんのかニャ!」


「エリウ抑えて。えっとね。亜人にも奴隷じゃない人もいて、人より偉い亜人もいるんだよ」


「そんな国があるの? 知らなかった」


どうやら、ライブラは世間のことはあまり知らないようだ。価値観もカラグヴァナ王国のものしか持ち合わせていない。

亜人は奴隷とイコールで結びついている。

ディユング帝国に行けば彼の中の世界はひっくり返るかもしれない。


「では、エリウといいましたか、お前は何をして暮らしているの?」


「ニャにって昔は傭兵で雇われて金を稼いでたニャ。今はセトに雇われてるニャ」


「雇われて生活しているのですか! では冒険もいっぱいしたのですね!」


「ま、まぁ、いろいろ周ったニャ」


「王都の外はどうなっているのですか? 他の国は我が国の属国というのは本当なのですか? それから・・・」


「ニャ! ニャニャ! お、落ち着くニャ。一個づつ聞くニャ」


ライブラは好奇心旺盛でもあるようだ。

きっと箱入りで育てられたのだろう。

この王都以外を知らない。カラグヴァナ王国の話しか知らない。

そんな偏った情報だけでは彼の知識欲を満たすことはできなかったようだ。


エリウは彼の知りたいことに一つずつ応えていく。

王都の外は広い広い荒野が広がっていること。そこは乾いた大地と魔獣が跋扈する危険な世界であること。

それを退治して回っているのがカラグヴァナの騎士団だと。

他にも、カラグヴァナ王国以外にディユング帝国と天主国アマテラスという強大な国家があること。

カラグヴァナ王国は属国もたくさん従えていることを話していく。

ライブラは目をキラキラと輝かせて聞いていた。面白い絵本でも読み聞かせてもらった子供みたいに喜んでいる。


「それで! それで! その三国で一番強いのはどこなんですか! カラグヴァナ王国ですよね」


「ニャー、たぶん天主ッぐほぉ!!」


「そうだよ。カラグヴァナ王国が一番強いんだ」


「そうなんだッ!」


ライブラは自分の国が一番強いと聞いて飛び跳ねるように喜ぶ。

強さにこだわる所は歳相応の男の子といった感じだ。

ニャんで脇腹を突いたニャ! とエリウが涙目で訴えてくるがセトは後でなでなでしてあげようと思うのだった。


そろそろ、泊っている宿が見えてくる頃と思っていると宿が見えてきた。

入口では、馬車の整理をしている人がいる。アプフェル商会の者だ。


「さぁ、着いたよ」


「? 馬小屋ですか?」


「質素で悪かったニャ!」


「エリウ抑えて・・・、抑えて・・・」


エリウが騒いだのでみんなが戻って来たことに気付いたようだ。

リーリエが宿の中に入って行くのが見える。

セトたちもライブラを連れて宿に入って行った。


「セトお帰り。遅いじゃない。心配したんだから」


アズラがセトたちを出迎える。

余程心配していたのかセトの顔を見てホッとするアズラ。

そして、セトが連れて来たライブラとその帽子にある紋章を見て顔色を変えた。


「セト! その子は! いえ、その方はどういった経緯でここに!?」


「裏路地でローブ姿の男に追われていたんだ。アズ姉お願い、ライブラを助けてあげて」


「セトその方は王子よ。口の利き方には気を付けて」


「う、うん。ごめん」


「それと、助けるのはいいけど王都で王位継承者斬殺事件が起きているのは分かっているわね?」


「うん」


「・・・分かったわ。ライブラ殿下、私はベスタ公国フローラ公女の直属護衛騎士アズラです。殿下の身は私がお守り致します」


「上位騎士! よかった。これで兄上の所に戻れる」


ライブラはアズラが上位騎士と分かると安心したようだ。

王族にとって上位騎士はそれだけ信頼できる存在。

安心して力が抜けたのかその場にペタンと座り込んでしまった。


「あ、あれ? 動けない・・・」


「お疲れのようですね。今日はもう休みましょう。リーリエ、私の部屋で休ませてあげて」


「はいぃッ!」


リーリエも王族の世話となると緊張するようだ。

返事をした声が上ずっている。

彼女はすぐにライブラを部屋に案内した。


「セトとエリウも疲れたでしょ? 今日は休んでいいわよ」


「いいの? ありがとうアズ姉」


「さすが姉御ニャ。・・・」


エリウはセトをツンツンと叩いて何やらモジモジしている。

セトは後でねと部屋に戻っていった。

みんながいなくなってから、アズラはディアを呼ぶ。


「呼ばれると思ってたよ」


「ディア、単刀直入に聞くわ。ライブラ殿下は?」


「第六王子の派閥だ。それはもう、ものの見事に」


「みんなに出発の準備をさせて、王都支部に移動して私の指示を待って」


「アズラさんはどうすんだよ! まさか迎え撃つつもりじゃないだろな?」


「・・・」


アズラはそのつもりのようだ。

犯人の獲物が自分の所に舞い込んできた。

セトたちを巻き込んでしまうピンチであると同時に、犯人を捕まえるチャンスでもある。

というより、もう犯人が来る可能性が高い。


「だぁーっ。うちのご主人様は無鉄砲者のようで、了解だ。ルフタさんに伝えて準備を進めるよ」


「助かるわ」


ディアはわがままを聞いてくれたようだ。

彼は彼なりに心配してくれている。

アズラがそう思っていると、入口からルフタが飛び込んできた。

慌てて扉を閉めるとトトトトッと矢の刺さる音が響く。


「アズラ逃げるのだ! 包囲されるぞ!」


「え!?」


「アズラさん!! 何してんだ逃げるぞ!」


ガチャガチャ! と鎧の擦れる音が鳴っていくのが聞こえる。

宿が包囲されていく。

周りから悲鳴と足音が増えていく。


「ッ! 外に出るわ。ルフタ、ディア、力を貸して!」


ライブラ王子を中心に一気に事態が動く。

それは、アズラの予期せぬ事態になりつつあった。

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