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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第三章 王都市場参入
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第四十八話 互いに準備が終わり

王都アプスを出発して7日目。

アズラたちはベスタ公国の首都ウェスタに到着した。

かなり早くたどり着くことができたようだ。

アズラたちは市場などには目もくれずにシェレグ城に向かう。

フローラに商品をプレゼントし公女殿下が欲しがっていた商品というレッテルを頂くのだ。

そのためにわざわざ王都から戻って来たのだから。


「久しぶりに戻ったのに昨日まだいたような感じがする」


「まだ、仕事の途中であるからな。終わってから戻れば懐かしく感じるのである」


「そういうものかしら?」


「そういうものである」


「あ、今のうちにフローラに見せる商品を出しておきましょう。部屋に持っていくから小物がいいかしら」


「貴族は芸術に目が無いと聞く。装飾品などが良いのではないか」


アズラとルフタはそんなことを話しながら馬車を進める。

第五の城門が見えてきた。

公女直属護衛騎士となったおかげで、中に入るための諸々の手続きがパス出来るのはアズラにとってありがたいことだった。

面倒だったのもあるが、何より今は時間が欲しいのだ。

一分一秒も無駄にしたくない。

出迎えた騎士がアズラに敬礼し城門を解放する。


アズラへのベスタ公国騎士たちの対応を見た商人たちは、彼女が騎士であると完全に納得したようだ。

今まで口でいうだけで彼らが分かる騎士の証明をしていなかった。

その彼らが一目で騎士であると分かる証明が目の前で始まったのだ。

巡回している騎士たちが立ち止まりアズラに敬礼し道を譲っていく。

商人たちはアズラが一体どれほどの階級なのかと驚いてその光景を見ていた。

アズラは中級騎士なのであろうか?

いや、もしかすれば上級騎士であるかもと、商人たちは心を躍らせる。


カラグヴァナ王国やディユング帝国は騎士団を軍として保有している。

ディユング帝国では騎士は職業ではなく称号としての側面が強く現在は士官制度が普及しているが。

カラグヴァナ王国とその属国では騎士団が今も主流だ。

ベスタ公国も騎士団を保有している。

ベスタ公国は公爵に統治される国であるので、ベスタ公国の騎士は公国騎士と呼ばれる。

その中で、ウィリアム公爵に仕える騎士を近衛隊。

ベスタ家や公国の重要人物に仕える騎士を親衛隊。

そして、各騎士団の騎士団長。

以上の3つが上級騎士の階級となる。

アズラはベスタ家の長女フローラに仕えるので親衛隊という訳だ。


次に、各町などに従事する騎士を護衛騎士と呼び、彼らが一般的に公国騎士と認識されている。

様々な隊に別れており各騎士団の主力。

中級騎士の階級となる。

最後に、騎士見習いである従騎士や臨時の兵力として徴兵された者が下級騎士の階級となる。

騎士として認められていない階級でもあるため一般人と大差は無い。

カラグヴァナ王国と属国は、その国での特別な階級も存在するが概ねこの階級制度を採用していた。


さて、アズラたちは馬車から降り早速フローラとの謁見を取り付ける。

上級騎士である公女直属護衛騎士のアズラのおかげで一発で謁見にこぎつけた。権力の乱用である。

アズラたちは客間にてフローラを待つことになった。

アズラは騎士なので待つ必要などないのだが、商人を紹介しないといけないので一緒に待つことにした。


「いきなり来たけど大丈夫かしら?」


「今更であるか・・・」


「公女殿下もアズラ様が来てくださって喜ばれると思います」


アズラはフローラの心配をする。

いきなり押しかけて来たのだ迷惑かなと少し心配したのだ。

フローラはもう立派に公務をこなしている。

ウィリアム公爵が不在の時は、彼女がベスタ公国の運営を任されるのだ忙しいに決まっていた。

忙しいはずなのだが、ものの数分でフローラはやって来る。


「アズラ、お待たせしましたわ! どうされたの・・・、あら?」


何の前触れもなくフローラが扉を開け放ち、ズカズカと部屋に入ってくる。

それは美しく、一目見れば心奪われる至高の少女のはずが、ただ友達が来たから急いできた女の子みたいになっている。

フローラが公女ではなく、友人のフローラとして来てしまった。

公女としての振る舞いをしていなくても、十分優雅に見えるのだが、なんというか私生活が見えてしまっている感じだ。

商人たちがイメージする公女とかけ離れた姿が映し出される。妥協を許さない公女様はどこに行った。

みながポカンとしていると。


「コホン! 皆様、お初にお目にかかりますわ。わたくし、フローラ・ウィリアルナ・ベスタと申します」


深紅のドレスに優雅さを醸し出しながら、透き通るような聞き心地の声で自己紹介する。

それだけで、最初のミスなどなかったことに出来るほどの印象を商人たちに植え付けた。


「では、改めて。フローラ公女殿下直属護衛騎士のアズラと申します。このたびは皆様をお招き出来て光栄です」


アズラが商人たちの前で正式に名乗る。

これで騎士としての証明は完了だ。

自分の判断は正しかったと商人たちは嬉しそうに、フローラとアズラに一礼を返す。

それでは本題に入る。まずは、フローラに説明だ。

いきなり商品だけ渡したら、商人を連れて来た意味がない。

彼らがフローラに商品を説明する機会を与える必要があるのだ。

それで初めてフローラが商品を欲しがってそれを渡すことができる。

いらないといえばアズラが、友人でしょ? といって渡せばいい。


「今日はフローラにぜひ見せたいものがあって王都から戻ったの。見てくれる?」


「それはもちろんですわ。わたくしの騎士であり友人のアズラの頼みを断る訳が無いですの」


ちゃっかり公女と友人アピールも済ませる。貴族とそれに仕える騎士が友人関係になるのはわりと良くある話だ。

王族に仕える場合は階級や立場が邪魔をしてしまうが、貴族の場合は階級としては対等であることが多い。

アズラの場合はかなり例外なのだが、商人から見ればそんなことは知らないので気にならなかった。

貴族としては最高位の公爵家の者と友人。

これだけで、アズラという少女の価値は跳ね上がる。


「こういう可愛いのとか好きだと思ったんだけど、どうかな?」


アズラは可愛らしい動物の金属細工を取り出した。

手の平サイズの銀色の犬の置物。

非常に精巧に出来ており毛並みまで再現されていた。

金属のみを削って加工した一品、熟練の職人の手によるものだと一目で分かる。

公女のフローラから見れば安物かもしれない。だけど、友達が買ってきてくれたとなると彼女にとっての価値はどんな高級な宝石にも劣らない一品となる。


「まぁ! 可愛らしい犬ですわね。王都で買われたのですか」


「そうよ。今日はこれを売っている商人も連れて来たから、彼らがいろいろと答えてくれるわ」


「そういうことですの。この置物は他にもありまして? 全部欲しいのですわ」


「ぜ、全部でございますか! お任せください公女殿下。全部で10種類のこの精巧な金属細工すぐにご用意いたします」


フローラは動物の金属細工をまとめ買いにしていく。

アズラにプレゼントされたのもあって気に入ってくれたようだ。


「これもどうかしら?」


「買いますわ」


「これは・・・」


「全部ですの」


アズラの勧めたものは全部購入するつもりのようだ。

さすが貴族といった所か。

嬉しいがもう少し迷って欲しい気持ちもある。

迷ってくれたら一緒に欲しいものを選べるからだ。

商人に注文したのを確認したアズラは小声でフローラに話しかける。


「フローラ、ちょっとお願いがあるんだけど」


「わたくしのサインですわね。喜んで書きますわ。ただ、この仕事が終わったら二人きりの時間を下さいな」


「え、ええ。いいわよ。お礼もしたいしね」


アズラは一蹴、ドキッ! とした。やっぱり公女は凄いと感心する。

どの時点で気付いたのかは分からないが、こちらの思惑を理解して協力してくれたようだ。

お礼はとびっきり美味しいお菓子のお店にでも誘おうか、セトが連れて行ってくれた所なんかいい感じだとアズラは考える。

きっと、どこに行ってもフローラは喜ぶと思うのだが、アズラはキチンとお礼がしたいのだ。


一通り商品の紹介が終わった後、フローラは人数分の直筆サインの入った推薦書を書いてくれた。

ピントの分もある。


「これで、商売はうまくいきますかしら? 必要ならまたお書きしますわ」


「ありがとうフローラ!」


「ふふ、これくらいなんてことないですわ」


フローラはアズラが喜んでくれて満足しているようだ。

アズラたちの目的は達成した。後は王都に戻り最後の仕上げをするだけ。

みんなが喜ぶ中一人何かに悩むものがいた。うむむ・・とルフタが考える。


「むう、公女様の権力を私的利用するのは大丈夫なのであろうか・・・。友人関係なら問題ない・・・のか?」


ちゃんと公女が納得して買うと思っていたルフタは、公女が途中から協力的に購入しだした時点で大丈夫か? と思ったのだ。

大丈夫だ。これはアズラの人脈だ。

ルフタはその性格と神官をしていたこともあって対等な関係を好む。

これは、ルフタの良い所であり融通うのきかない性格としても出ているのだ。



----------



カラグヴァナ人特有の太陽のように輝く金髪と青い目の瞳をしている一人の男。

整った顔立ちで美形といえば美形なのだが、どこか特徴のない顔をしている。

目は少したれ目で、少しめんどくさそうにしている雰囲気をしていた。

彼の名は、ディア。

ただのディアだ。

つい先日、セトたち一行に返り討ちに合い、なんだかんだで雇われることとなった。

仕事内容は、フェアカウフェン商会の情報をセトたちに流すこと。

今日も彼は、待ち合わせ場所のある奴隷市場を黒いズボンと白い上着で歩いていく。


ここ奴隷市場はクソッタレな場所だとディアは思う。

誰も好き好んで奴隷になりたく無かったろうに。奴隷はディアが嫌う束縛の最終段階ともいえる状態だ。

奴隷となった者にはもう自由は存在しないのだから。

今も檻の中に、人や亜人が放り込まれている。

政治犯や犯罪者などが奴隷にされるケースや人攫いに売られたケースなど様々だが、奴隷はいつも絶えずに檻に埋まっている。


亜人の奴隷はカラグヴァナ王国では当たり前か。

犬の特徴を持つケレヴ族と猫の特徴を持つハトゥール族はポピュラーな奴隷だ。

人に近い姿なのでまだ扱いもいい。扱いがいいと同時に性奴隷などの人間の快楽にされることも多いのだが。

逆に、人の姿から遠いゴイム族とツァーヴ族の扱いは悲惨だ。

ゴイム族は豚顔の亜人でその逞しい筋肉の体から重労働をさせられることが多い。体が丈夫ということもあって紛争地帯にも先兵として送り込まれてもいる。

ツァーヴ族はルフタと同じトカゲ顔の亜人。狩りが得意な一族ということもあり、賭け事での殺し合いをさせられることもしばしばあるようだ。


奴隷の運命は使い潰されて死ぬ。

それしかない。

ディアはそんな運命に縛られた者たちの前を通り過ぎていく。

檻と檻の間を進んで奴隷市場の裏路地に入る。

出会う人の雰囲気がガラッと変わった。

ディアと同じ裏の仕事を生業としている者たちがひしめいている。

さらに路地を進み、ポツンとある扉を開け中に入った。


「よーう、ディアか。どうだ調子は?」


「最悪だよ」


「お前、新米もんの商人潰したんだって? カーッ、かわいそうな事するねぇ」


「うるせぇな」


ディアは適当に答えていく。こいつらに用はない。

用があるのはフェアカウフェン商会のボス、その名はフェアカウフェン、通称フェア。


「戻りましたよ。フェアさん」


ディアの目の前に、欲望で膨らんだ肉塊を晒す男が座っていた。

両脇に奴隷の女を抱え、肉と酒を貪っている。

このハゲ頭がフェアだ。


「ゲシュ、ゲシュシュシュ。戻ったかディア。それで連盟の奴らは?」


気持ち悪い笑い声を放つフェア。ディアはこの声を聞くのがたまらなく嫌だった。

人を縛る権化のような男の声。その笑い声。

彼が元の依頼主だから黙って聞いているがそうでなければぶん殴っている所だ。


「未だに動きなし。こっちが動くのを待ってるのでは?」


「ゲシュ。なら動かしてやれ、一人二人潰せば嫌でも動くだろう」


「それボーナス出るんですよね?」


「いいから、とっとと行け! ・・・ゲシュシュシュ、連盟が潰れればワシの勝ちだ」


フェアは邪悪な笑みを広げた。両脇の女を抱き寄せその脂ぎった手で撫でていく。

もうすぐ、王都商会連盟との全面対決となる。

奴らは商売で勝負しようと考えているだろうが、自分は違うとフェアはその貪欲なプライドを高ぶらせていく。

商売が始まる前に勝負はつくのだ。


外に出たディアは、路地の奥を歩いていく。

ふと上を見ると屋根の上にエリウの尻尾が見えた。

ちゃんとついてきているようだ。

もうすぐ、フェアカウフェン商会が攻勢を仕掛ける。

獲物を狙っている時が一番無防備なもの。

その時をセトたちが突ければもしかしたら・・・。

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