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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第三章 王都市場参入
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第四十五話 嘘つきの嘘

王都を飛び出し街道を馬車で駆けていく。

アズラたちはベスタ公国に急いで向かっていた。

市場で商品を売るための逆転の手段を手に入れるためひたすら荒野を走る。

フローラに渡す商品を乗せた馬車とその商品を交換した商人たちを乗せた馬車。

2台の馬車を走らせ進んでいく。


「少し急ぎ過ぎではないか? 焦りは禁物であるぞ」


「平気、焦ってないわ。むしろ、早くこの先が見たいの」


アズラはこの市場での物語の結末が早く見たいと心がときめいていた。

自分の行動から始まったこの物語。

最後まで見ないと損をしてしまうではないかと、アズラは期待を膨らませる。

この物語の先はきっと自分たちの視野を大きく広げてくれるに違いない。

そんな気がしていた。


「しかし、エリウを残してきたのが心配であるな。一人で出歩かなければいいのであるが」


「あの子なら捕まっても一人で逃げ出せると思うけど」


「廃城では逃げ出せずに捕まっていたがな」


ルフタは王都に残したエリウが心配だ。あのバカは誰かが見ててやらないとすぐに何かを仕出かす。

本人に悪気が無いのがまた厄介なのだ。

怒るに怒れない。

本人のやることをうまくサポートしてやるのがエリウをいい方向に導く最良の手段だ。

その役はルフタだったのだが、セトに務まるだろうか? リーリエならうまく躾けてくれそうだがやってくれるだろうか。


「頼んどくべきであったな・・・。心配し過ぎなだけであればいいが」


「ルフタ・・・、あれ戦闘していると思わない?」


街道のはるか先に、砂煙が舞い上がり剣を叩き付けた時に出る剣撃の光がチカチカと光っていた。

誰かが剣で戦っている。


「ん? 戦っておるな。どうする助太刀するであるか?」


「もちろんよ。私が騎士であるっていう証明にもなるしね」


アズラたちは急いで砂煙の中心に向かう。

馬車の速度をさらに上げていく。

戦っている人たちの影が見えてきた。

9、10名ぐらいの集団が巨大な魔獣と戦っている。

まだ、遠目で分かりずらいが魔獣の形がグニャグニャと歪に動いていた。


「何? あの気持ち悪い動き方」


「まさか!? アズラ助太刀は諦めた方がいい。戦っている者たちを馬車に乗せて逃げるのだ。あの魔獣、間違いない特別指定個体ザントゾルである」


特別指定個体。

通常討伐が困難で、対象周囲の人間に避難を要求するレベルの魔獣。

出会ったら一目散に逃げなければならない存在。

その一体。


馬車が砂煙の中に入る。

砂煙の中では全身を赤黒い鎧で覆った10名の騎士が剣と術式でザントゾルと戦っていた。

戦っていたのはカラグヴァナ王国の騎士たちだったようだ。

王都近郊に出現した特別指定個体を討伐しようと戦っている。

鍛え上げられた剣技と術式のコンビネーション、体に刻み込まれた連携。

まさに熟練の騎士たち。

その騎士が押されていた。いや、陣形が崩壊し敗北一歩手前まで追い込まれていた。


魔獣ザントゾル。


全身が砂のようなミクロの粒の集合体。

あらゆる物理攻撃を受け付けない不定形の体に、術式に対する耐性まで備えている曲者。

目のように赤く光る発光体が本体と考えられているが、討伐事例が無く確証はない。

唯一、水の耐性がなくそれが対処法にも繋がっている。

その砂のような体が水に濡れると泥のように固まりしばらく動けなくなるのだ。

ザントゾルが動けない間に人々は逃げる。

そのようにして対処してきた魔獣だ。


その魔獣ザントゾルを目に捉えたアズラは。


「逃げるにしても、助太刀するにしても、結局、戦うしかないわよね!」


騎士とザントゾルの間に割って入るように凄まじい速度で飛び込んでいった。

風の術式で加速しているのだ。ルフタにはもう追い付けない。

アズラは一度、特別指定個体と遭遇している。

ディユング帝国領の東マルアフ・ノフェル遺跡群森林区の遺跡内で特別指定個体の魔獣メアを見ている。

魔獣ザントゾルとはまた違う脅威を持った魔獣だが、強さの基準にはなる。

今のアズラに対処できるかできないか。

できるとアズラは判断した。


「また一人で決めて飛び出したのである・・・。仕方ないお前さんたち馬車を守れ! 吾輩は援護に向かう」


ルフタが続いた。

少し前に一人で決めるなと注意したはずだが、やっぱりアズラは飛び出してしまった。

彼は今すぐ退散した方がいいと考えるがアズラは勝てると踏んだようだ。

連れてきた商人たちが脅えている。

すぐに片付けないと文句をいわれそうだ。


「! 貴殿は!?」


「アズラ・アプフェル。助太刀します!」


「かたじけない。私はシャーウィン・キャロルナ・レイ。相手はあのザントゾル勝算はあるか?」


「無い!」


威勢よく、無い! と答えたアズラを見たシャーウィンは面を食らって一瞬固まるがすぐに戻る。

少し灰汁が抜けたような、そんな感じをシャーウィンは味わう。


「ハハ! なかなか肝が据わっておるようだな。奴は水で動きが鈍くなる、火も多少有効だが決定打にならない。気を引き締められよ若い女戦士よ」


「戦士じゃありません。これでも騎士よ」


アズラの四肢に魔力が集まる。

光る白いスジのようなものが浮かび出て彼女が戦闘態勢に入ったことを告げた。

さあ、戦闘開始だ。



----------



アズラたちを見送ったセトは仲間たちと今後の打ち合わせをする。

具体的には、誰が噂を流すかそもそもどういう風に流すかが問題だった。


「じゃあ、噂を流したい人!」


「ニャア! あちしがやりたいニャ」


「私も協力します」


「エリウとリーリエさんで決まり! 必要な人を集めて準備の方をお願いします」


噂を流し状況維持に努めるのはエリウとリーリエのペアだ。

リーリエはエリウが失敗しないようにフォローに回ってくれた。

ルフタの心配は杞憂だったようだ。

リーリエはしっかりと周りのことが見えている。

セトたちのことを後ろからしっかり支えてくれるだろう。

暫定的にリーダーを務めるセトは実は内心緊張で倒れそうなのだが、リーベが見ている前でそんなかっこ悪いお兄ちゃんは見せれないと踏ん張っていた。

リーベも心の中で頑張れーと応援してくれているに違いないとセトはお兄ちゃん力を全開にしていく。


(・・・お菓子食べたいな)


残念ながらリーベはお菓子のことを考えていた。

そんなことには気付かないセトは一人で張り切っていくのだった。


さて、やることがあるといっても1ヵ月近く待つというのはかなり暇である。

ピント商会の商品は露店に並べてはいるが相変わらず売れない。

もう売るのではなく、まだいることをアピールするために店を出している感じだ。

普通なら赤字になるだろう。

アズラの噂の効果で売れたのは噂が広まった最初の一日だけだった。

すぐに尻つぼみのように売れなくなるのだ。

次々と手を打たないと客を引き続けることができない。

だが、今セトたちに打てる手はないのが現状だ。


仕方ないので、セトは日課である剣の素振りをしながらみんなの報告を待つことにした。

剣を上段に構え、攻撃の構えをとる。

セトはこの形しか知らない。

まだ、他の形を教わっていないのだ。この形も即興で叩き込まれたもので忘れないようにと素振りを繰り返す。

ブン! ヒュン! と空を斬る音が鳴る。

日々の練習のおかげかだんだんとコツを掴んできた。


セトの攻撃スタイルは短剣による受け流しとカウンターを基本とした戦法を取っている。

短剣の剣先を後ろに向くように構えてすれ違い様に斬るのだ。

通常の剣を使用したこの素振りは攻撃力を求めたものだ。

両手でしっかりと持ち力強く振るう。

セトには、まだ二本の剣を同時に持ち扱う技術は無いが、彼のたどり着こうとしている剣技のイメージは二刀流なのだ。

何故二刀流をイメージしたのかは彼にも分からない。

でも、二刀流が自分に最も適していると感じたのだ。


ヒュン! ヒュン! と素振りを繰り返す。

横を通り過ぎていく人たちの会話が聞こえてくる。

セトは素振りに集中しようと意識を剣に向けていくが、次の会話で集中が途切れた。


「聞いた? 市場で商人たちが詐欺に遭ったらしいのよ。なんでも公女殿下の騎士を名乗る女に騙されたんですって」


「まあ、公女殿下の騎士を名乗るなんて恥知らずな人もいたものですね」


セトは素振りをするのをやめていた。

通り過ぎていく人の会話をもう一度思い出す。

市場で詐欺?

公女殿下の騎士を名乗る女が騙した?

自分たちのことだ。

だが、何故こんな噂が流れている。

何故、詐欺をしたことになっている。


(なんでこんな噂が? 誰かが意図的に流した? 僕たちと同じように・・・。なら、なんで僕たちを狙うんだ)


セトは急遽、使用人たちにこの噂の出所を探らせた。

噂が流れたなら誰かが流したはず。

その最初の一人を見つけ出す。


「僕たちを狙う理由は知らないけど、アズ姉の邪魔をしたんだ絶対見つけてやる」


セトはアズラの邪魔をしてくる見えない敵に宣戦布告した。

何故妨害をするのか、それは誰なのか。

情報が少ない。

セトはエリウとリーリエが戻って来るのを待って、再度作戦会議を開いた。

それを影から見ている一人の者。


「いいね・・・、うまく食いついた。実体のない噂とイタチごっこを続けるといいさ」


また、闇に隠れていく。

セトたちはまだ気づけない。



----------



荒野の中心で砂煙を巻き上げていく。

アズラは火の術式を叩きこみ、カラグヴァナ王国の騎士たちが流れるように次々とザントゾルを切り結んでいく。

しかし、体をバラバラになるまで斬りきざまれたザントゾルは何事もなかったように一つの体にくっついていきすぐに元に戻った。

いくら攻撃してもまるでダメージがないのだ。

術式による攻撃は動きを止めるだけで、こちらもダメージに繋がらない。

特別指定個体。

それに指定されるだけの要素をこのザントゾルは確実に持っている。


「全然効いていない!?」


「アズラ殿、ザントゾルの一部を焼き尽くすつもりで攻撃してもらえるか」


「いいわよ。ありったけのをくれてやる」


アズラの手の平で火と風の混合術式が組み上がっていく。これだけ平然と使っていてもアズラは高等術式を使用している自覚はない。

完全に独学、いや才能で成り立たせているのだ。

火の術式で生み出された熱に風の術式で酸素を大量に注入していく。

詰め込みるだけ詰め込んだ酸素と熱の塊が白く輝いている。

そうこれは爆弾ともいえるエネルギーだ。それをアズラは構えて、ザントゾルに狙いを定めた。

それに合わせるようにシャーウィンたちが続く。


「スタンドアップ・コード・P.D.M.S・セットアップ・クレスト・マイム・エリアコード・A」


騎士たちが水の術式でザントゾルの動きを制限していく。


「くらえ!!」


ドンッ! と光の玉だ発射された。光の玉は真っすぐザントゾルの胴体に吸い込まれ直撃する。

激しい爆発が起こりザントゾルを吹き飛ばした。

その膨大な熱がザントゾルの砂のような体を焼き焦がす。


「これで・・・、クッ! ダメなの」


パラパラとザントゾルの体が砂のように崩れすぐさま元の状態に戻り活動を再開していく。

だが、シャーウィンたちは攻撃を続行する。まだ諦めていない。


「スタンドアップ・コード・P.D.M.S・セットアップ・クレスト・マイム・エリアコード・A」


水の術式で水の玉を生成しをザントゾルの焦げた部分にぶつけた。

ジュウウウウウウ! と一気に水が蒸発しザントゾルの一部が冷却される。

すると、砂でも泥でもない完全に石のように固まった状態になった。

さらに亀裂が入りその部分が動かなくなる。


「どうだ? これだけの急激なエネルギーの変化。砂の体でも防げまい」


ブォンッ! とザントゾルの赤い発光体が激しく点滅するように輝いた。

固まり亀裂の入った体の一部を体内に飲み込んでいく。

ザントゾルが膨張していく、地面に張り付いていたのが起き上がっていく。


「気を付けて! 何か仕掛けてくる!」


アズラの警戒通りにザントゾルが仕掛けてきた。

その砂のようなミクロの体を散弾のように猛烈な勢いで飛ばし始めたのだ。

一発づつではない。ザントゾルの砂の体が一気に飛んできた。

騎士の一人が飲み込まれる。


「がっ!」


ザントゾルが通り過ぎた後には赤い染みしか残っていなかった。

飲み込まれた者がどうなったのか考える必要もないだろう。

その砂の体で磨り潰したのだ。

これが特別指定個体。

まだ、ザントゾルの底ではない。

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