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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第三章 王都市場参入
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第四十四話 証拠と疑惑も物々交換

王都アプスの市場で凄まじい勢いの物々交換が行われている。

市場にいる商人たちが挙って自分の商品をアズラに持って行ってもらおうと必死になっていた。

彼らがここまで必死になる理由は簡単だ。

市場が有力商会のフェアカウフェン商会などに牛耳られ商品価値証明書がないとまともに商売が出来なくなった。

そこに、ベスタ公国の公女つまりはお姫様の付き人が商品を買いに来たとなれば、王都で売れない商品が売れる可能性がある。商品価値証明書が無くても売れると考えたのだ。

お姫様の付き人のアズラはピント商会の商品を買い占めたためお金がないとの事。

ならば物々交換だと、とにかく自分たちの商品をアピールしようと必死だった。


市場の流れが変わり始める。

まだ、市場の一区画で起こっている小さな流れ。

アズラはこの流れをつかみ取る。必ずその手に掴んで見せると目の前の壁を見据える。

目の前の壁は、アズラが本当にお姫様の付き人、公女直属護衛騎士であるかを疑ってる。

納得させられれば流れは一気にこちらに傾くだろう。

そうすれば、本当に越えなければならない壁が出てくるはずだ。

市場を商品価値証明書で掌握した有力商会が。


「それでどうなんだ? 証拠はあるのか?」


男がアズラに問い詰めてくる。

対するアズラは冷静だ。


「それはどんな証拠を出せといっているのかしら?」


「勲章とか契約書とかあるだろ。まあ、あればの話だが」


市場にいる商人たちの視線が二人に集まる。

アズラは本物なのか。

それとも偽物なのか。


「どうぞ。これが公女直属護衛騎士の証である勲章よ」


アズラが男にフローラから授けられた勲章を見せる。

ベスタ家に仕える本物の騎士の証。


「なっ!? だ、だが偽物かもしれないだろ!」


「どうやって偽物だと判断されるの?」


アズラは攻める。そもそも、アズラは本物なのだ。

疑われたぐらいで、引く必要などない。


「然るべき人物に聞けばいいだろ」


「なら聞きに行きましょう。公女殿下は寛大な人だから、あなたの質問にも答えてくれるわ」


男は自身が抱いた疑問の気持ちが揺らぎ始めた。

どう聞いてもブレない。

本当に確認されても問題ないと思っているのか、脅えや不安が感じ取れない。

ただのギャンブル好きとも違う。

そう本当にこの女は騎士なのではと思い始めた。


「い、いやいい。疑ってすまなかった」


「気にしないで」


最初の壁はすんなりと引き下がった。

ただの商人だったようだ。

もし、アズラを潰そうと考えたならもっと追い詰めるようなことを聞いてくるはず。

例えば、いつ騎士になったのか、それを証明できる人物は公女以外にいるのかなど。

ただの一般人が公女に聞くのは難しい。不可能に近いだろう。

この部分がアズラの弱みでもある。

騎士になり立てのアズラは公女とその関係者しか騎士になったことを知らないのだ。

王都アプスには証明できる人がいない。身内では証明者にはなれない。

本物でも証明できなければ他人にとっては偽物と変わらない。


アズラは流れがこちらの内に弱みにつけ込まれる前に行動を開始する。


「私は2日後に一旦、ベスタ公国に戻ります。もし、私が本当に騎士か確認したいあるいはベスタ家に商品を売りたい方がいれば同行してくださっても構いません。護衛は私が勤めましょう」


ザワザワと市場にいる人たちがどうする? と話し合う。

ベスタ家に商品を買って貰えるのは非常に魅力的だ。公爵家は王家に匹敵する。

もし買って貰えたらその商品の価値は跳ね上がるだろう。有力商会が発行する商品価値証明書など必要なくなる。

だが、王都からベスタ公国の首都までの半月の旅をするリスクがあるのか?

そもそも信用できるのか?

商人たちは品定めをしていく。

アズラの信用を値踏みしていく。


「私は行くのでございます。お支払いがまだですし、公女殿下にぜひ今回のことの感謝を伝えたいのでございます」


ピントがアズラの芝居に乗った。ピントはアズラが騎士であることを知っている。

なら、リスクがあるのかなど考える必要はない。

自分の商品を買い占めるということも芝居なのだろうがここまでするということは何か考えがあるのだろう。

今、発生している損失とベスタ公国の首都までの半月の旅をする損失を埋め合わせる何かを。

出来れば作戦会議の時に全部話してほしいとピントは思うが、ここはアズラを頼るしかなさそうだ。


「わ、わしも行こう!」


「私も行くわ!」


商人の中から同行者が募り始めた。

計9名ほど。

10人は欲しかったがアズラは上出来だと納得した。

この9名がアズラが騎士であるという証言者になる。

作戦は第一段階と第二段階を繰り返す状態だ。

アズラが公女直属の騎士である噂を広める。

本当かどうかの疑いが強まった所で、その証拠を手に噂に食いついた相手と交渉をする。

おそらく、次にアズラが市場に顔を出すときが作戦の成否を決定付けるだろう。

行きで半月、帰りで半月。

1ヵ月の旅。

1ヵ月もあれば、噂は風化し市場も変化する。

その変化をアズラは読み切れるのかが勝負のカギだ。

噂が最も広がり、有力商会が食いつく絶好の時に戻ることが出来ればいい。


「分かりました。では2日後にまたここでお会いしましょう」


アズラは今日の所は引き上げるとする。これだけ噂の種を撒けば十分なはずだ。

後は、どれだけ噂の状態を維持するか。

噂を維持するためにも誰かが王都に留まり商売を続ける必要があるだろう。


「リーリエ適当な所で引き上げて」


「は、はい! あ、商品はこちらですー!」


リーリエに声をかけたが商品の交換でバタバタして忙しそうだ。

商品を売るのではなく交換するという状況でもリーリエは営業スマイルを欠かさない。

彼女は優秀だ間違いない。

アズラはセトたちと市場を後にした。


セトたちは待機場となっている馬車の中に戻って今後の打ち合わせを行っていた。

アズラが商品が売れるかどうかを左右する決定を独断で下したため、作戦の修正も必要だろう。

作戦はみんなで決めるはずとルフタが珍しく怒っていた。


「まったく! アズラ、お前さんはいつも一人で決めてしまうであるな。お前さんの思いついた作戦は吾輩らの協力が無ければできないであろうに」


「その通りね・・・、ごめんなさい一人で突っ走って」


「まあ・・・、その思いっきりは吾輩らを信じてくれていることの裏返しなのだから嬉しいのだが、相談しないのとは話が違うのである!」


「・・・はい」


ルフタはアズラに仲間での協力がどれだけ大事かを教えようとしている。

アズラはほとんどのことを一人で出来てしまうため、相手のペースに合わせるのが苦手なのかもしれない。


「ルフタが怒ってる・・・」


「だニャ」


セトとエリウは口を挟めないので黙って静観だ。

作戦会議のはずがお説教に変わってしまった。


「こういうことは一度相談してからでも遅くないのである。お前さんは一度誰かに頼ってみるといいな」


「・・・ありがとうルフタ心配してくれて」


「こういうのは大人の務めであるからな。なに、お前さんの作戦は上手くいく吾輩の勘がそういっているのである」


「あ、あのー・・・、戻りました」


リーリエが戻って来ていたようだ。

お説教中に戻ったため声をかけるタイミングがなかったのだろう。

そんなリーリエは商品の交換状態を報告する。


「えーと、商品なんですけどだいたい今日の分の3割近くは交換できました。ほとんどが市場で売れなかった行商人たちの商品なので、結局は売らないといけませんね」


「その交換した商品なんだけど、ベスタ公国に持っていくから馬車に乗せておいて」


「はい。でもどうして持っていくのですか?」


「交換した商品をもっと貴重なものに変えてくるのよ」


アズラは含みを持たせて答えた。高価な商品を貴重な何かに交換してくる。

交換するのが大事ではなく、このプロセスを踏むのが重要だとアズラは思っていた。

そして、その考えを心の奥からみんなに聞かせていく。


「いったい何をするのかというと、物々交換を繰り返して最後にフローラのお墨付きをいただくのが目的よ。私の騎士という噂はそこにたどり着くための餌。餌に食いついた商人たちの品物をピントさんの品物と交換したのが今の状態よ」


「そこからどうやってお墨付きに?」


「商人たちと交換をしたことでフローラに商品を届ける責任が発生するわ。そして、公女殿下であるフローラに売ることが出来るという商人にとっては誉れ高い行為も同時に生まれるの。じゃあ、商品を渡す所を見た商人たちは私たちのことをどう思うかしら?」


客としては、最高ランクの公女に商品を買って貰えた。その事実が何を生むのか。

アズラは商人たちと公女フローラの橋渡し役を担う形だが、それで何を得られるのか。

アズラは公女フローラの騎士なので、商品を渡すという行為をクリアできる。

そう、傍から見れば公女が欲しがるものを買ってきた騎士に見えるのだ。

では、その騎士が買い占めたものはどの様に見えるのか。


「そうか! 公女様への土産を買いに来た騎士は公女様の代わりである。お前さんが買い占めたと思わせたピント殿の商品。ピント殿の商品がそのまま公女様の欲しいものになるのだな!」


「ええ、そして、もう一部の商品は交換で市場に流れたわ。誰にも警戒されずに市場に並んで、そこにフローラが買った欲しがっていたという証拠と共に私が王都に戻ってくれば」


「その商品たちは化ける。公女殿下が欲しいといわれる商品。それを見た客は売っている場所を探して私の露店になだれ込むという訳でございますね」


「だが、やはり時間が問題であるな・・・」


時間。

この作戦の最大の障害。

問題はアズラがベスタ公国に行って帰ってくるまで、どうやって噂を維持し続けるか。

約1ヶ月、それだけの時間を空けることになる。

ピントの商品の在庫を売り捌くのも手の一つだが、商品が化ける前に市場に大量に出しては悪影響が出てくるだろう。

今は、少量だけ流し噂で維持するのが理想だ。

今の状態では噂も一週間持てばいい方だろう。

だが、アズラは時間の心配はしていなかった。なぜなら。


「大丈夫よ。この作戦、交渉の場に着くのが目的でしょ? 商品価値証明書の効力を少しでも脅かすことができればいいわ。それで、市場を牛耳った奴らを引っ張り出せる」


アズラは目先の売り上げなど気にしない。彼女が見たいのはその先だ。

市場の流れを変えるきっかけ、それが生まれる瞬間を見てみたいだ。

それはきっと世界が変わる瞬間と同じに見えるはず。


「噂は私がまとめて購入したことを強調して流し続けて。それだけ覚えていてくれたら十分だわ」


「了解だよアズ姉。僕たちは噂を流すことに集中すればいいんだね」


「簡単だニャ。あちしでも出来るニャ」


「そういって一度失敗されましたよね?」


「ギクッ!」


リーリエに釘を刺されるエリウは放っておいて、役割分担が決まっていく。

アズラとピント、そして、ルフタは護衛数人と共にベスタ公国へ。

残ったセトたちは現状維持に努める。

なにより、ピントの荷物を1ヵ月守らないといけないのだ。


「それじゃ、これで作戦会議は終了ね。2日後に作戦スタートよ」


「「「「「了解」」」」ニャ」


そして、2日後がやってきた。

アズラたちは商人たちを連れて急いでベスタ公国に向かう。

行きと違い馬車のみなのでかなり早く着くと思うがカラグヴァナ王国領を超えるまで油断は出来ない。

セトたちも準備を進める。

さりげなく噂を流しアズラたちが戻ってくるのに備えるのだ。

そんなセトたちを影から見ている者が一人。


「あれか、市場でコソコソと動き回っているのは? いいね・・・、俺の小遣いが増えるじゃないか。出る杭は早めに潰すってね・・・」


影から見ている人物は誰にも気づかれることなく闇に隠れていった。

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