プロローグ 初めての商売
王都アプス。
カラグヴァナ王国の中心であり、ディユング帝国と大陸の勢力を二分する強大な都市。
さすが、王都と言うだけあって町は活気に溢れていた。
商品が飛ぶように売れ、傭兵に護衛の依頼がワンサカと舞い込んでくる。
商人を志した者なら一度は訪れたい町だ。
そんな王都アプスに何やら頭を抱えた一行がいた。
「うーん・・・。これは困りましたぞ」
「ピント殿、日を改めるのはどうだろうか? 今日は運が悪いだけかもしれぬ」
頭を抱える商人ピントに、ツァーヴ族の男が提案してきた。
確かにそうかもしれない。
そうだといいのだが。
商品を売りに来たのに全然売れないのは予想外だ。
ほかの店は飛ぶように売れているというのに。
今日一日、朝から夕方過ぎまで全力で売り込みをかけたのに。
もう全く売れないのだ。
手に取って見てはくれるのだが買ってくれない。
どこの商会のものかと聞かれピント商会と答えると、じゃあいらないと立ち去ってしまうのだ。
ピントは商人としてのプライドが粉々になりそうだ。
「腹減ったニャ。退屈だし、もう帰りたいニャ」
ピントの気持ちなどまるで考えないハトゥール族のバカ女が自分勝手なことをいう。
しかし、やることがないのも事実だ。
どうしたものか。
いっそ、売れ残った食材でパーッとパーティーでも開こうかと考えていると、情報収集に行っていたあの姉弟が戻ってきた。
「ピントさん! 売れない原因が分かったよ。」
「ほ、本当ですか!」
「うん。商品価値証明書っていうのがこの辺りを取り仕切っている商会から発行されているらしくて、それがないとお客さんが来なくなっちゃうんだって」
弟の方が聞いたことを説明していく。
話によると商品価値証明書というものが必要のようだが、こんなものは以前来た時はなかった。
「商品価値証明書ですか・・・。まさにその名の通りの物のようですね」
「どういうものなんですか?」
「物の価値を証明しているのでございます。そうですね、信頼を証明書という形で証明しているのですよ」
「証明書で信頼を? 紙に書かれたことより実際に見た方がいいんじゃ」
弟君は商品価値証明書の効果に疑問を持っているようだ。
確かにどこぞの誰ともしれない商人が書いても意味はない。
だが、町の誰もが知る人物がこの書類を発行すれがそれは意味が違ってくる。
その人物の発言が書類が証明となり、商品の価値を魅力を跳ね上げさせるのだ。
「お客様は一目で分かるものを基準にします。それがこの証明書というわけでございます」
これを考え付いた人物は相当頭が切れるようだ。
売るのではなく、売るルールを作りほかの商人たちを従わせている。
ピントもルールに従い証明書を買うべきかと悩んでいた。
「発効した人物に会って証明書を買わないとお客様は見向きもしてくれませんね。こんな市場掌握方法があるとは王都で情報屋を雇っておくべきでございました」
簡単に言えば、商品がブランド化したのだ。
この証明書がある商品は信頼できる、あそこが太鼓判を押すのだから良いものなのだろうと。
ならば、証明書がない商品はブランド品より魅力が落ちるのは当然だ。
始めから魅力ある商品なら独自のブランド力を発揮して売れるだろうが。
同じ商品ならブランド品の方が売れるのだ。
ピントはやられたと悔しそうな顔をするが、乗り遅れた自分の情報力の無さを反省し次の手を考える。
そもそも証明書は買えるのだろうか?
もし証明書を考え出した有力商会の傘下に入った者にのみ、発効していたらどうするべきか。
「ピントさん。たぶんですけど、他所からの商人を締め出すためにこの証明書を作ったんじゃないかしら?」
姉の方が証明書が考え出された経緯を予想した。
ピントが聞きたくなかった答えだが彼も一端の商人だ。その可能性は考えていた。
確実にそうだろう。
「だとしたら、この証明書の効力が弱まるまで待つか。ほかの有力商会とコンタクトを取り、同じような手法を取るのが得策でございますね」
「ほかの商会も同じように締め出そうとしていたらどうするの?」
「うっ・・・」
当たり前だろう。こんなに成功した方法を他の所がマネしない訳がない。
ピントはまだ情報を手に入れていないが、すでに王都には10を超える証明書が発行されている。
ブランド品の大量発生だ。
もちろん、このブランド品たちもいずれは淘汰されていき数個が残るだけだろう。
だが、ピントのようにブランド品ですらない商品を売りに来た商人はその生き残りを懸けた戦いにすら参加できない。
このままでは大赤字になってしまう。
ピントは頭をフル回転させる。
そんなことにはさせないと、彼の商人魂に火が付く。
「皆さん、聞いてください。今回、お客様への商売では先手を取られましたが、何も物を売れるのは王国臣民だけではないのでございます」
「つまり?」
「証明書を発行した商会に売り込むのでございます。最終価値は相手に取られますが、証明書による購買力が上がった今の状態なら、高値で買い取ってもらえるはずでございます!」
「「おおー」」
「「???」」
姉とツァーヴ族の二人から賛同を得た。ピントは我ながら悪くない手だと思う。
売れない期間を長く過ごすより、とっとと売ってしまって次の商売に備えた方が損失が少ないと読んだのだ。
弟君とハトゥール族のバカ女は理解できなかったようだ。
バカ女は仕方がないバカなのだから。
弟君はもう少し勉強を頑張れば大丈夫だ。
「それでは、早速向かいましょう! こんな所で立ち止まっていられません!」
ピントは気持ちを切り替え売り込みをかけに行く。
この程度のことなど今までに何度も遭ったことだ。
ちょっとやそっとではへこたれない。
商人とは売れると信じて突き進む生き物なのだ。
・・・、
・・・、
日が落ちたのにまだまだ町の街灯で明るい王都。夜になっても町は眠らないようだ。
依然と多くの人が町を歩いて行き賑やかさを保っている。
そんな眠らない王都の片隅で、両手両ひざを地面に付き動けなくなった者とそれを心配する者たちがいた。
ピント商会一行だ。
「まさか・・・、独占契約で売り買い出来る商会が決まっていたとは・・・。いつの間にこんな契約が結ばれたのだ・・・」
「ピントさん元気だして。明日もあるわ」
「その通りだ。今日は情報を得ることが出来たと喜ぼうではないか」
出来る二人組、姉とツァーヴ族の二人がピントを励ます。
だが、プライドが粉々になったピントは凹んだままだ。
丸一日、損をしたことになり損失もかなりのものになりそうだった。
「どうしよう・・・。このままじゃみんなに給料払えないよ」
「ニャ!? それは困るニャ! おいピントとっとと売ってくるニャ!」
弟君は自分たちが雇っている使用人に給料が払えないのではないかと心配になってきた。
ちなみに、姉弟の使用人はしっかり者のツァーヴ族の男とバカのハトゥール族の女だ。
他にも70名近くいるのだから驚きだ。
「・・・。ピントさん、私に考えがあるんだけどこの商品任せてもらえないかしら?」
「いいでございますよ。私はもう燃え尽きてしまいました・・・」
ピントは重症のようだ。しばらく休ませてあげるとしよう。
さて、せっかく仕事をしたのだ報酬を貰い使用人たちに給料を払わなければならない。
出来る姉はピントの替わりに商売を開始する。
商人などやったことはないが。
姉はアズラ・アプフェルは、損をしない選択を取れば商売が成り立つはずだと考えていた。
やり方が分かれば後はやるだけだ。
今回の敵は手強い。
いまあるアズラの全てを使って倒さなければいけない壁だ。
彼女は、決意を秘めて動きだす。
アズラ・アプフェルの商売が始まった。
第三章スタートです。
今回は商売のお話しです。




