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第三十話 魔導院

魔導院は言うならば陸の孤塔。

一本道である城下町の左に位置するが、入る事は出来ない。

魔導院にはグランゼン城城門を出て直を左に進んだ所から城壁の上で整地された道のみで渡れる。


「――で、どうすればいいのかしらね」

「いや、何も考えてなかったのかよ!?」


魔導院を目の前に立ち尽くす小夜の呟きにヴィンセントが突っ込みを入れる。


「中に入ってきましょうかっ?」

「それをすると今度は中から出れなくなる可能性が大きいな」


魔導院には院長が仕掛けた特別製のロックシステムが常時展開している。

それにより許可した人物以外が入る事は許されない。

つまり、その逆も可能のはず、と言うシンの意見で方法はほとんど消えてしまった。

打つ手なし、と諦めていた時だった。

不意に後ろから声を掛けられた。


「――あら?ラミアではありませんか?」


全員が声がした方へ振り返った。

そこにはニコニコと貼り付けた様な笑みを浮かべた女性が朱いローブを裾を抑えながら歩いて来ていた。

その声にラミアが緊張したのが小夜には判った。

そして、あくまで自然にラミアを抱きよせる。


「申し遅れましたわね、私は、エレシア。僭越ながらこの魔導院の院長を治めさせて戴いています。貴女方のご用件も大体把握しています。どうぞ中へお入りになってくださいな」

「結構よ。この場で2、3質問に答えてもらえるかしら?」

「それで構わないと言うのなら、お答えできる範囲で答えましょう」


相変らず笑みを浮かべたままエレシアは頷いた。


「なら、まず1つ目。貴女は他人を眠らせる事が出来る魔術・・を知っているかしら?」

「ええ、ですが、私が院長になりたての頃に禁術をして認定されました」


頷いたエレシアはそのまま続ける。

その情報も昨日、エリオールから聞いた内容と合致していた。


「そう。次よ。貴女はその魔術を使った事がある?」

「ありますよ。一度だけ……何時、かどうかは聞かないのですね」


次は確証の無い問い、使ってないと言われればそこまでだが、使ったという事は少なからず彼女に容疑が掛かるという事だ。

何時使ったかも聞きたかった事の1つではあるが、それ程重要な事ではない。


「ええ、無駄だと判ってるから。次よ。ここ最近で起きている事件について何か知ってるかしら?」

「成る程。貴女方はその事件に私が関与している、と、そう仰られたいのですね」

「……その可能性のゼロじゃないと考えてはいるけど。それで?知ってるの?知らないの?」

「知っています。それから魔導院からも被害者は出ています」


一つ新しい真実が判明した。

魔導院でも被害者が現れている。

それは暗にエレシアが犯人ではないと言う可能性を高める証言だ。


「最後よ。貴女と、先代の魔導院長はどんな関係だった?」

「……師弟の間柄でしたよ」


一瞬、目を開いたエレシアは感慨深げに言葉を漏らした。

そのまま小夜達の脇を通り抜けると、振り返った。


「質問は最後、と言いましたよね。では、死んでもらいます」


息をするようにさらりと言い放たれた一言にラミアは眼を見開いた。


エレシアの姿が膨れ上がり、肌の色が人肌色から城の外に生えている木々と同じ焦げた茶色に変わり、細腕が無数に枝分かれする樹木となった。

小夜達を取り囲むように回された木の枝は徐々に幅を狭める。


「チッ……」

「お、おおい!?魔女サン!?どうすんのさ!?」


シンは軽く舌打ちをするとぶら下げていた鞘から剣を抜き、傍まで迫った枝を切り落とした。

その後ろに隠れる様に動いたヴィンセントは声を荒げる。

彼もこの事態は想像していなかったのだろう。


声の先で、パチンと乾いた音がする。

何時かの様に、小夜は動けないでいるラミアを庇うように抱しめ、自身の周りに水の球体を作り出した。


エレシアだった木はそれを押し潰す様に手を回す。

奇妙な形に変形した水球と木々が絡み合い異様なオブジェクトを造形した。

割れそうにないと判っていても木は手を止めず、尚もぐるぐると何重にも手を重ね、小夜とラミアを取り囲んだ。


「面倒だ……ヴィンセント!自分の身は自分で守れよ?」

「は?うわっと――あぶなぁ!?」


執拗に追ってくる木々を斬り続けていたシンは後ろの青年の外套を開いている手で掴むと、力任せに城の方へ向かって放り投げた。

ヴィンセントは身を翻し金色の義手で地面を削り、勢いを殺す。

それを確認したシンは振り返り、小夜とラミアを取り囲む何重にも重なった木を目指し走った。


ヴィンセントは銃を引き抜き木を撃つが、弾丸程度では木は折れない。


――ならば発想を変えればいい。


懐から取り出した柄が細く丸いナイフを銃口に取り付け、撃鉄を引き起こし、再び引金を引いた。


弾き出された弾丸に押されナイフが飛び、木に刺さる。

そのすぐ後ろに付いていた弾丸がナイフを刺さったナイフの柄を押し木は裂け、そのまま突き進んだ。


シンは重なっている樹木を脚に掛け、一段一段登り、塊の反対側へ飛び降りエレシアだったモノに目掛けて走り出そうと身を屈めた瞬間、後ろで塊が弾け、背に熱風を浴びるが、そのまま駆ける。

辛うじてエレシアだったと言う証拠になる衣服を纏った部分は木々を巧みに操り、シンの接近を妨げようとする。


シンはそれを避ける事もなく、突き進む。鋭利に尖った木の尖端が少しずつ身を掠める事も厭わず、押し通る。

そして、エレシアだったモノを斬り捨ててる。

瞬間、ピタリと木が侵食を止めた。


「何とかなったか……しかし、先の爆発音は一体……?」


剣を鞘に納めると、シンは振り返る。

音を無視した訳であるが、気にしていなかった訳でもない。

しかし、振り返っている時間が惜しかった。少しでも目を逸らせば、射止められていたかもしれない。

そんな明確ではない『死』と隣り合わせになったシンは突き進んだ。

振り返った先で巻き上がって砂埃が晴れ、中から人影の姿が徐々に視認できる。


「無事だったのか……」

「ええ、まぁ……魔導院長だったモノは?」

「斬り捨てた」

「……はいっ。アレは多分、院長の傀儡だと思いますっ。斬って正解ですっ」


砂煙の中から小夜とラミアが姿を露わにする。

若干、爆発に巻き込まれたのか小夜のスカートは少し短くなっている。

淡々と話を進める小夜とシン。

そんな話をラミアは酷く気が遠くなるような気がしながら聞いていた。


「はぁ……何だって、俺は退き者扱いされるんだか……ってか、さっきの爆発何したんだよ!?」


ヴィンセントは地に落ちたナイフを持ち上げ、サッと一振りすると懐に納め、肩を竦めながら声を荒げた。


「何って……ああ、水蒸気爆発よ。最初に張った膜の内側にもう一枚膜を張ってその隙間の水をラミアに熱して貰ったのよ。急激に気化し高温、高圧の水蒸気が爆発したって所ね」

「成程ね、さっぱり判らん」

「まぁ、理解しなくても大丈夫よ。さ、話を纏めておきましょう」


簡潔にしかし適当な水蒸気爆発についての説明に皆は首を傾げた。

それもそうだろう。

未知の出来事を素人から教えられても理解できるはずがない。

それは小夜も理解している。

早期に話を打ち切り、皆を促し、身を翻した小夜は歩き始める。

ラミアは困惑した様な表情だったが、やがて小走りで小夜の隣りを歩いた。


シンもそれに続こうとしたが、ふと視界の端を何かが過った気がした。

首を動かし、視線でそれを捉えようとした、が、シンが見えたのはそれは何処かへ飛んで行く後ろ姿だけだった。


(蝙蝠……?)


「何処見てんだよ?置いてかれるぜ?」

「あ、ああ……今行く……」


再び肩を竦めるヴィンセントの後を追い、シンも小夜の元へと歩き始める。




その光景を魔導院屋上から見る一つの影があった。

魔導院長エレシアだ。

風に靡く髪を片手で押さえ、下を見つめる。

その視線の先には、ラミアだけが映っている。


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