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第二十八話 ドレスアップ

黒い合皮で作られた厚底ブーツを履き、ポニーテール風に束ねた黒髪を揺らしながら小夜はグランゼン城を歩く。

巡回する兵士はそれを避ける様に脇へ退き道を開ける。

小夜は忌み嫌われていた。否、小夜から避ける様に仕向けたと言っても過言ではないだろう。

それでも、小夜はそれを横目で軽く睨むだけで何事も無かったかの様に通り過ぎる。


『うふふ、避けられてるわね?』

「構わないわ。道が勝手に開くだけ」


兵士を通り過ぎた後、虚空に浮かび上がった常夜に小声で返答する。


『そうね……私達の前には誰のいないわ……最前線に居るのは私と小夜。後ろに控えてるのは味方?それとも敵?』

「何かの暗示?」

『うっふふ……まだ視えないわ……』

「そう」


謡う様に綴られた常夜の声に怪訝な顔をした小夜が問う。

常夜は何時もの様にはぐらかす。

判り切っていたのでそのまま、通路のドアを開き、大広間の上階へと出た。


小夜はそのまま螺旋状の階段を下りる。

軽く下の大広間を覗くと皆、既に集まっていて、その内の一人・ラミアが小夜に気付いたのか手を振っている。

軽く手を振替し駆け足で階段を下り、仲間たちと合流した。


「悪いわね。さて、行きましょうか?」

「サヨ様。どちらへお行かれになられます」


大広間で待っていた3人と合流し行こうとした矢先に呼び止められた。

燕尾服を着用した老執事・マアトが後ろに5人のメイドを控えさせていた。


「何処って……ギルドよ」

「おお、成りませんぞ。本日は王との会食の日。まさかとは思いますが、遠出は控えになられる様に聞いておりませんか?」


嘘を吐く必要を感じなかったのだろう小夜は行先を告げる。

だが、マアトが背中で組んでいた片手を上げると後ろで控えていた5人のメイドがサッと小夜の身を拘束し、身動き一つできなくさせられた。


マアトの問いに心当たりがなかった小夜は首を回し3人に尋ねるが返ってくる返事は首を振るだけ。

つまり、聞いていないと言う事になる。


「……聞いてない」

「然様で御座いますか……不躾ながら、メイド達に強制的にお召し替えさせて頂きます」

「ちょ、ちょっと……まだ出るなんて言ってないじゃない」

「ええ、ですから『強制的』にで御座います。心配為さらずとも後ろの方々のお召物も用意してあります」


尚も、もがき続ける小夜だが、人数差が多くては振り切れるはずもない。

マアトは見当違いな事を述べ連ねるが、そんな事はどうでもよかった。

現在の問題の早期な解決を望んでいる訳ではない。しかし、会食等とどうでも良い事で時間を潰される等真っ平御免だった。






  †  †  †






「この毒を含んだ飲み物を魔女の手に渡るように仕向けると……」

「ですが、どうやって渡すのです?まさか手渡しという訳には行きませんでしょう」

「簡単だ。メイドに運ばせればいい」

「成程。罪を被せると言う訳ですか」

「しかしなぁ……メイドが真実を語っちまったらお終いだろ」

「ぬかりはない。充分に恩を買わせてある特注がいるからな」






  †  †  †







メイド達に衣装部屋へと連れ込まれた小夜は見るからに覇気を失い、ぼーっと遠くを見続けているだけだった。

メイド達は無言のまま小夜の体の寸法を取り、サイズにあったドレスを持ち、着替えさせる。

メイドの1人が化粧品の様な物を取り出し簡単なメイクを始めた。

しばらくして、姿見の鏡の前に立たされた。

小夜は鏡に映ったドレスアップされた自分の姿を見つめる。


黒一色で装飾も少ない、まるで薔薇の花を彷彿とさせるリトル・ブラック・ドレス。

だが、一般的な物とは違い、袖と裾が長めにしてあった。おそらく袖の方は左手にある『ラグズ』を隠す為に長めの物を用意したのだろう。それによって裾の方も長めに調節したと言った所だろうか。

元々の美麗な容姿に加えて、薄くすっきりとした化粧が加わった事でより美しく華やかになっていた。


ふと、鏡越しにメイド達が何故かニコニコと微笑んでいるのが見えた。

鏡に映った小夜……否、自分自身が笑っていた・・・・・

それも偶に浮かべる冷徹な笑みではなく、朧気ながらも優しさすら感じる笑みを浮かべていた。

きっと、メイド達は彼女達が整えた服装で小夜が笑った事が嬉しくて笑っていたのだろう。


「お気に召された様で何よりですわ」


声を掛けられ振り返った。

メイド達と同じ服を着た女性が衣装部屋に脚を運んできた。

小夜の後ろにいたメイド達は一斉に頭を下げる。


「あら、失礼。申し遅れましたわね。私、メイド長のマリアンヌと申します。何も仰らずとも結構です。貴女の事はマアトから窺っておりますので」

「一つ、聞いてもいいかしら?」


深々と頭を下げるマリアンヌに何時もの様に無表情に戻った小夜は語り掛ける。


「はい、何用でございましょうか?」

なんで他のメイド達は・・・・・・・・・・喋らないのかしら・・・・・・・・?」


小夜は疑問に思っていた。

小夜を取り押さえる時も、衣装部屋に連れてくる時も、寸法を測る時も、ドレスを持ってくる時も、笑った小夜を見て笑った時も、メイド達は一言・・・・・・・も発していない・・・・・・・

だが、メイド長と名乗るマリアンヌは流暢に喋っている。

その差が一体何なのか知りたかった。


「原則として、喋る事が禁じられてますの。口は災いの元、と言うでしょう。尤も、それでは仕事にならないので私とマアトは言葉を、メイド達には独自の言葉を覚えさせてますわ」

「……そう」


納得の行く答えではなかったが、素直に認めた。

喋らないのではなく、喋れない。

この時代のどうしようもない風潮背景に押し潰されそうになる。


「では、参りましょうか」


マリアンヌに先導され、連れて行かれたのは、ダンスホールの様な場所。

奥方では料理が並べられ、給仕達が忙しなく働いている。


「今暫く、御待ち下さいませ」

『うっふふ……楽しい晩餐会の始まりね……』


そう言うとマリアンヌは元来た道へと戻って行ったと、入れ替わる様にマアトに連れられた皆が入ってくる。

常夜の声が酷く耳鳴りの様に重なり続ける。


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