第二十四話 宿命の王 『仲間』
果ての無い白い空間に浮かぶ一つの漆黒の影。
暁 常夜。
細腕で体を抱き、ゆらゆらと漂うように宙に浮く。
不意に膝に埋めた顔を上げ、口角を緩め微笑んだ。
『うっふふふ…王は目覚め、勇者は囚われる。皮肉な物ね。自ら望んで悪を選んだ魔女が勇者に力を与えた王を倒し、勇者を救う。ねぇ………はどうするのかしら…?』
するりと身を捩り、水中に滑り込む様に落ち、前を見据える小夜の肩にふっと寄り添う。
『私と同調している間は貴女でもある程度水を操れるわ。時間までに勇者を救えるといいわね』
「……判ってる。それよりも弱点はないの?」
『ないわ。王は私達の中で最も最強と言う言葉が相応しいルーンよ。ふっふふ…怖気づいた?』
「それでも、パートナーよ」
そこで話は途切れた。
隼人の姿を借りた『王』は大剣を構え直し、直線状に切り込んで行く。
寸でで回避した小夜はそのまま、支柱を影にし、息を潜めた。
『小夜、そのまま聞いて』
「……ッ!」
『王を倒す方法が無い訳じゃないわ。勇者が王に屈服してなければ、ね。とりあえず私が王の部屋まで行って、そこで貴女と入れ替わる。貴女が呼び掛けて勇者を目覚めさせるのよ』
瞬間、小夜の隠れた一体を横薙ぎに大剣で切り倒される。
両腕で頭を抱え、吹き飛ぶ破片に身を縮めた。
『でも、その間、貴女はラグズを使う事は出来ない。それでも…?』
「構わないわッ!」
叫んだ小夜は支柱の影から飛出し、指を鳴らした。
水は出ず、代わりに透き通った黒い影が王の胸元に入り込んだ。
王の脇をすり抜けた小夜はそのまま走りだし、大広間を駆け支柱を楯に逃げ回り、大広間脇にある小部屋に逃げ込んだ。
† † †
シンとアイン。
2人の気迫がぶつかり合う。
「久しいな…こうして本気で戦うのも、『エピリア村』以来か…」
「……ああ、あの消した村の事、全く忘れてたわよ」
「お前は……ッ!」
『百没千日』の後、初めてシンとアインが出逢った村。
それは必然な出来事で紛れもない悲劇だ。
「ふっふふ…そんな顔をしないでよ。私は血塗られた運命を忌々しい呪いを架せられた4人なんだから…よしみが合ってもいいじゃない?」
巻き上がった殺気が暗い鈍光を放つ獅子を彷彿とさせるに朱い影なり、その勇ましい鬣でアインを包む。
「あの時と同じ、か」
糸目の向こうで在りし日の光景を思い出す。
砂煙に巻かれ荒廃した大地で剣を片手に闘志を湧き立てアインに立ち向かい、そして敗れた事を。
「でも、違うんでしょう?」
「ああ、もう迷わない。覚悟はある。俺はお前を倒す!!」
一呼吸置いてシンは目を開き、黒金の焔を灯した瞳でアインを捉えた。
ぶわりっと舞い上がるシンの放った闘志が蒼く煌めく影になり、虎を彷彿させる斑点模様がシンを包んだ。
「言ったはずよ?殺す気でなければ貴方は死ぬって!!」
アインは鎌の刃先をクロスしシンの首を十文字に斬った。
シンはそれを剣で刃を、鞘で柄を抑え防ぎ、上半身を捻り無理矢理アインを投げ飛ばし引き剥がした。
更に追撃し、蛇行しながらアインの腹部を目掛け鞘を振った。
空中にいながらもアインは逆手に持ち替えた鎌でそれを受け止め、腕力だけでもう片方の鎌を投げ飛ばす。
弧を描くそれを寸前でしゃがみ回避したシンは更に横に大きく飛び、再び飛来する鎌を避けた。
「……もっと、もっと、もっともっともっと!!こんなに愉しいのは久しぶりだわ!!」
受け身を取ったアインはパシッと見事に戻ってきた鎌をキャッチし回転させ、ダイヤ型の突起を地面に突き刺し嗤った。
「アイン!お前は何の為にそれを振るッ!?」
「決まってるじゃない。忌々しい呪いを解くために、血を吸う為によ!!」
剣を地面に擦りブレーキを掛け止ったシンの問いに答えたアインは地面に突き刺した鎌を放置し、一本の鎌を水平に構え一気に距離を縮め、まるで居合抜きの様に真一文字に振った。
「クッ……!それだけの為に多くの命を散らせ、多くの屍の上に立つのか!」
「それは、貴方もでしょッ!!!」
受け止めたシンが苦痛に顔を歪めるが脚に力を込め、鍔迫り合いになり吼えた。
懐から短剣を取り出したアインは力を抜いき、シンが前倒れになった瞬間、サマーソルトキックと放つと共に『後方倒立回転とび』所謂バク転し、シン目掛けて目掛けて投擲する。
シンはそれに対しあり得ない速度で反応し、サマーソルトキックを身を捩って回避、投擲を剣で弾き返した。
「ハァ…ハァ……クソ…!」
「…やっぱりまだ体が付いて言ってないみたいね。抑制していたから私の様に使い慣れてない。だから、消耗も激しいし、何より負担が大きいはずよ?仮に全力で闘っていたら私を殺すチャンスは何度か合ったわ。貴方の敗因は『倒す』事に囚われすぎた事ね」
アインの言うとおり、シンの体は片膝を突き剣で体を支えていなければ立ってもいられない程に激しく消耗していた。
しかし、そんな事は他の誰よりもシン自身が判っている。
とっくに体が限界を迎え、悲鳴を上げていた事は、鍔迫り合いになる前から判り切っていた。
「……でも………ら……け……ば……ない……が……あ……だ……」
「まだ喋る気?往生際が悪いのね。折角一思いに殺してあげようと思ったのに」
アインは聞き取れない声でおぼろげに呟くシンに溜息を吐くと、地面に突き刺したままの鎌を取りに背を向けた。
「――それでも…!護らなければいけないモノがあるんだ……!」
真直ぐに聞こえたその声に驚き振り返るアイン。
両手で持った剣の柄頭で体を支えてはいるものの、両足で立つシンの姿があった。
巻き上がる闘志は消えておらず、むしろ燃え盛る劫火の如く震え上がった。
体を包んでいた斑点模様が立派な蒼虎になり、猛り切った咆哮を上げる。
「…なッ!?何よ…!それッ!?」
突然の変貌にアインは理解できていなかった。
死に掛けていたシンが立ち上がり、蒼い闘気を纏い、更に忌々しい蒼虎まで具現化している。
「『開眼』は…!私達がそれぞれ受けた四獣の呪いのはず!なのに……どうして!どうして、それを纏っているの!?」
シンは答えない。
ただ一歩一歩、確実に焦燥に駆られるアインに歩み寄る。
剣を杖の様に使い、ボロボロの体に鞭を打って、一歩ずつ距離を縮める。
アインとの距離が本の数メートルになった瞬間、闘気は霧散した。
「……お前は、これを呪いと言ったな…?それも間違いじゃないかもしれない……だが、同時に俺達が得た加護でもあるんだ…」
「加護…?そんな筈は…ッ!」
「判らないか…?なら、何故、俺は生きている?何故、お前の放った影は消えている?」
「あ………」
「これは呪いなんかじゃない…俺達が授かった加護で、道が違えた俺達を繋ぐ絆だ…」
アインの透き通るような肌をほろりと伝う涙。
温かく癒しに満ちたそれを感じたアインは必死に拭うが溢れ出した涙は止まらず、ついには子供の様に泣き声を上げた。
それを見届けたシンはその場に崩れ落ち目を瞑った。
「え……シン!?…嘘でしょ…?シン!シン!!!」
アインが涙目を擦りながらシンを揺さぶるが返事はなく、ただ罪悪感と切なさが込み上げ、再び目元に涙が浮かび、心細くなる。
「……お願い。私達を護ってくれてるんでしょ…?助けてよ…シンを……大事な仲間を…!!」
シンの傍に座り込み、手の甲で涙を拭いながら護ってくれていると言う四獣に懇願する。
「――あーあ、やっぱり来て正解だったねぇ…全く…ウチの男性陣は無茶ばかりするんだから…!」
「……シキ…!」
アインの願いを聞きいれたのかどうかはともかく、信頼に於けるもう一人の仲間が――シキ・リオハーツがピンク色の風と共に大きなリュックサックを背負ってアインが壊した正面門から入り、アインの元へ駆け付けた。
宿命の王編ですが…内容的にはアイン戦になりました…(サブタイ詐欺とか言わないで…)
次話で、宿命の王の王編、及び一章・黒い旋風が終わりを迎えます。
作者は何時も通りに書きますので過度な期待は禁物ですよ!!




