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第二十二話 宿命の王 『追憶』

新年一発は過去編です。

短いですがお付き合い頂けると幸いです。


俺こと伊集院 隼人は暁 小夜と言う少女と出逢えた事を心の底から誇りに思う。

運命的な何かを感じると胸を張って言える。

それでも、俺が何かしようとしても小夜は俺の一歩先を行く。

手を伸ばせば届く程距離は近いのに、俺たちは深い谷を挟んだ上で遠い場所にいる。

なら、離れていても小夜を少しでも楽にして上げられる方法を探して、実践するしか無いと思う。


――その為に力を求めるか?――


判らない。でも、小夜に任せっぱなしって言うのは嫌だな。って言うか此処は何処で君は一体、誰なんだ?


真っ白い空間に浮かぶ白い仮面に向かって俺は口を動かす。声は出ない、しかし、思いは届いたようだ。


――お前の中で蠢く力の源『宿命のルーン』だ――


突然、仮面から両端からアラビア数字の6と9の様な形に捻れた角が幾重に割れ、筆卸しをした筆先の様にふわりと舞い、俺の頭を掴んだ。






  †  †  †






忘れもしないあの夏。


俺と小夜が初めて出会ったあの日の事を、俺は絶対に忘れたりなんかしない。


忘れないあの言葉を、鮮烈に鮮明に鮮血に覚えている。


たとえ誰もが忘れようとも俺だけは忘れない。


小夜の優しさを、小夜が言う過去の自分を、俺は知っているから。


忘れろって言われても俺は忘れない。記憶し続ける。


忘れられる訳がないだろう。


だって――その言葉を聞いた時から俺――伊集院いじゅういん 隼人はやとは――あかつき 小夜さよの隣りに居たいって思い始めたんだから。






  †  †  †






伊集院 隼人は友人と共にデパートを歩き回り、フードコートにいた。

ちょうど、友人が席を外していた時、パッと見、有名人と見間違う程美麗な少女を見た。

照りつける太陽、茹だる様な熱気の中、少女はセーラー服の長袖の合服と言った姿で黒いレースの豪奢なリボンと、ポニーテール気味に束ねられた黒髪が歩みを進める度に、左右に小さく、しかし美しく流れる。

少女の周りには誰も居ない。

まるで少女が人を近づけさせない何かを発しているように。ぽっかりと空間が出来ていた。

そのまま彼女がある喫茶店に入って行くのを目撃した。

店の名は「twilight bell」と言う名の小洒落た看板を掲げた喫茶店。


友人が帰ってきた後も数分、数秒、ともすれば数瞬かもしれないが、確かにこの目で見たその少女の事が忘れられない。


友人と別れた後、隼人はその喫茶店に入った。

扉に付けられた金色の鐘が揺れ、心地良い音色を響かせ、客人が来た事を告げる。

その音を聞きカウンターの向こうから気怠そうな声と共に渋青色のエプロンを着た腕っ節の強そうな男性が姿を現す。


「らっしゃい…適当な所座ってくれ」


雰囲気に呑まれながらも、隼人はカウンター席に座り、亭主と思しき男性と対面する。

カウンターの上のクリアスタンドに挟まれた紙には、


『珈琲(ホットorアイス) 

 紅茶(ストレートorミルク)』


と無愛想な文字で書かれていた。

隼人が身が射抜かれてしまそうな程の亭主の視線に耐えきれなくなった、その瞬間、何処からともなく飛来したスリッパが亭主の頭に直撃する。


「だ~か~らァ!!アンタは!客を睨むんじゃないって何度言ったら判るんだァ!?」

「……すまん。睨んでるつもりはないんだが…」

「だったらァ?なんでこの坊主は萎縮してんだァ!?」

「悪い」

「……ったく、今度やったら店畳むよ」


罵声と共に姿を現した白いYシャツにジーパンと言うだらしない服装、紅い長髪を適度に切り揃えた女性だった。

女性はオレンジ色のフレームの眼鏡を外すと胸ポケットに掛け、隼人に向き直る。


「悪いわね。あたしは、明星あけぼし くれない。こっちは神田かんだ 慎二しんじ。君は?」

「伊集院 隼人です」

「ん、了解。伊集院。君は今、とある少女を追ってこの店に来たんじゃない?」

「…………え?」


明星 紅と名乗った女性から言われた一言。

隼人は一瞬、何を言われてるのかさっぱり理解できなかった。

その言葉の意味に気付いた時、思わず呆けてしまった。


「…まぁいい。君はここが何だと思ってきた?」

「何って…喫茶店じゃないんですか?」

「表向きはな。だが、違う。まず、おかしいと思わないのか?この店が昼間だっていうのに客はお前しかいない」


隼人はそう言われてハッとする。

確かに、テーブル席や他のカウンターには誰も居ない。

今、ここにいるのは自分と明星 紅と神田 慎二のみだ。

壁に掛けてあるレトロな時計の指針はすでに午後3時過ぎている。外の街の匂いに何処となく太陽熱の匂いを感じる程の暑さから考えてこの喫茶店で涼もうと思わない人は少なくはないだろう。

それなのにここには3人しかいない。


まるでここだけが隔離された別世界なのでは、と錯覚をしてしまう。


「…お前は此処の〝存在″に気付いた。ウチらのルールでな。此処に気付いた奴には『知る権利』がある」

「………聞かせてください」

「判った。あたし達は端的に言うと祓魔師エクソシストだ。故に、現在、店に来るのは3つに別れる。1つはあたし等の同業者。2つは君みたいな〝来てしまった″奴。3つは憑かれた奴」


指折りしながら片目を閉じながら教える紅。

その後ろでは慎二が珈琲豆を挽く芳ばしい香りが鼻腔を燻ぶる。


「何か質問ある?」

「…お二人の関係ってなんですか?」

「……俺はただこの店のマスターで、紅がこの店の2階を事務所にしているだけだ」

「そゆ事。コイツの煎れる珈琲は美味いんだけど、不愛想だから人が寄らなくてねー。あたしが有効活用してるだけ」


まぁ、それだけじゃないんだけどね。

と言い、慎二が煎れた珈琲を飲む紅。


「神田さん!!表の看板入れ替えておきましたっスよ!!!」


バン!と扉を開き、ネズミ色のパーカーの下の服はジャージ。フードから垂れる緑髪が印象的な青年が「twilight bell」に足を入れる。

扉を開ける力が強すぎたのか、入店を告げる鐘が未だに鳴り止まない。


「…はぁ、仕方がない。国崎、お前は看板の向き替えた罰だ。喫茶店の方を手伝っていろ。伊集院、お前はこっちだ」


隼人は頷き、カウンターの向こうへ渡り、二階へ続く階段がある奥の通路を歩く。


「今入ってきた奴は国崎くにさき 凌牙りょうが。あたし達のメンバーの一人だ」

「そうだったんですか……あ、凌牙さんが言ってた『看板入れ替えた』ってどういう意味ですか?」

「それは後で話す」


胸ポケットから眼鏡を取り出し着けた紅が振り返る。

長い真紅の髪が動きに合わせ揺れる様はまるで火の粉を散らすようだ。

くいっと親指で後ろの鉛色のドアを指差す。


「ここがあたし達の事務所」

「…失礼します」


バタン。

隼人も紅の後を追うように事務所に入ろうとしたが、すぐさま、ドアを閉じた。

部屋の中で、合服の裾を捲り上げている先程見た少女が居たからだ。

何よりもその少女と目が合ってしまったのがより気まずくさせた。


「はっははー…悪い悪い。もう終わったから入っていいぞ」

「本当ですか…?」

「ああ、もう大丈夫だ。今の不注意って奴だな、うん。以後気を付ける様にしよう」


未だに信じきれない隼人の後ろに回り込み背中を押し、事務所へ迎え入れた。

中には先程の少女が不機嫌そうに目を瞑り、脚を組んでソファに座り腕を胸元で組んでいる。

後ろ手にドアを閉めた紅が隼人の脇を通り抜け、事務所の奥に配置されたデスクへ向かい、オレンジ色の眼鏡を取り付け椅子に座る。


「適当な所に座ってくれ」


――適当な所って、あの子の目の前に座れって事だよなぁ…そこ位しか座れる場所ないし


ぐるりと事務所を見回す。

ガラス製のテーブルとその両脇に置かれた応接用と思われる二つのソファ。

ブラインド越しに伝わってくる傾き沈みかけた陽光が目に刺さる。

デスクの上に積み上げられた大量の紙が無ければ、此処が事務所とは思い難い。


少女の向かいのソファに座るも、すぐさま感じる目の前の少女から発せられる威圧感に苦笑いを浮かべる事しか出来ない。


「…さて、伊集院 隼人。改めて自己紹介だな。 あたしは明星 紅。ここの所長。でこっちが――あかつき 小夜さよ。んで、さっき下に入ってきたのが国崎 凌牙。基本的にあたし達が活動するのは暁と国崎の2人だ。あたしは此処で依頼を請け負ってる。まぁ、他にも説明する事たくさんあるんだけど………口で説明するより、直に見た方が速いだろ?タイミングが良かったって事で。暁、丁度もうすぐ次の依頼に行く時間だったろ?伊集院も連れてけ」

「……構わないけど――何があっても保証しないわ」


今まで無関心そうに眼を瞑っていた小夜は眼を開け、睨む様に冷徹な視線を隼人に浴びせながら不機嫌そうに頷き徐に口を開き言った。

それでは、皆さん、良いお年を



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