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第二十一話 希望ノ光

メリー…クリスマス!!

すべての人に平等に幸せが訪れますように。

はい、クリスマスとは全く関係ない本編が始まりますよ


「水辺って言ってもよ。この近くって《レーム湖畔》ぐらいしか思いつかねんだけど!?」

「私もですっ!でも、かなりの距離がありますよっ?」

「それなんだよなぁ…」


グランゼン城から出たヴィンセントとラミアは石段を駆け下り、一本道に連なった城下町を走る。

ヴィンセントの腕の中には苦痛に顔を歪ませた小夜が右手でヴィンセントの胸元を縋るように握り締め、ブツブツと譫言の様に繰り返している。


「……座標がずれるかもしれませんが、転移計陣魔法を使いますかっ?」

「…いや、止めておいた方が良いと思う。面倒な所に飛んだらダメだし、やっぱし走るしかないね」


杖を掲げたラミアを制し、ヴィンセントは考える。

どうすればこの状況を打開できるかどうかを。


「ああ!!くっそが!!邪魔だ!!さっさと道を開けろ!!!」


しかし思い付かず、道の邪魔になる町民を八つ当たりと判っていながら怒鳴りつけた。

怒鳴られた城下町の民が左右に散った事で走りやすくなった城下町を一気に駆け抜け、城下町を出た。


「なっ!?こんな時に魔獣!?」

「迎撃しますっ!下がってくださいっ!!」


グランゼンを飛び出てからも、歩を止めず走り続けた2人の眼前に棘の生えた翠の甲羅を持つ亀型魔獣《ブルコドラ》が5匹の群れで現れた。


ラミアは杖を構え緑色の魔法陣を展開し、ヴィンセントに警告する。

警告に従いヴィンセントが下がった数瞬後、魔法陣から薄く緑付いた風陣が射出し、亀の群れを容赦なく引き裂こうと飛来するが、亀の群は堅牢な甲羅に潜り回避する。


「えっ!?」

「――ブルコドラに陣魔術は効かん。グライフ、《ウィンドショット》!」


聞き慣れた懐かしい声と共にグライフが大きく翼をはためかし飛ばした旋風が渦巻く鎌鼬となりブルコドラの甲羅の棘を削り通り抜ける。

更に地に降り立ったグライフの獰猛な咆哮にブルコドラの群れは一斉に逃げ出した。


「――急ぎなんだろう?乗れ」

「……ありがとな」


燦々と輝き続ける太陽を背に浴び更に金色に輝いたグライフに跨った人物から発せられた声に従い差し出された手を掴み、グライフの背に乗ったヴィンセントとラミアは笑みを浮かべる。


「何処までだ?」

「レーム湖畔までですっ!」

「だそうだ、グライフ。飛べ!」


満面の笑みを浮かべ答えたラミア。

その人物の声に呼応するかのようにグライフは首を回し、大きく羽ばたき飛翔した。


「――シン………あり…が…と」


揺れる意識の中、何と無く感じたのか小夜が落ち着いた声で呟く、それを耳にしたシン・マクスウェルは本の少し口角を緩めた。






  †  †  †






「エルフ殿、ご助力頼む」

「はい!」


大広間では俯き左右にゆらゆらと揺蕩い嗤いながら近寄るアイン・クセルセスカを前にヴァルバトスとフォルは互いに武器を構えていた。

その顔には相当の覚悟が見て取れる。


3人の間が残り数メートルになると不意にアインが顔を上げ、連結した鎌を持っていない右手で目元を抑えながら前髪を掻き上げる。

真紅を通り過ぎ紅蓮にまで燃え盛る双眼がひたり・・・とヴィンセント、フォルの後ろにいる隼人まで捉えた。


「ヴァルバトス、貴方も『開眼』してよ…本気でやろうよ」

「こちらは2人掛りだ。それは出来ん」

「あっそう…なら、死んでッ!!」


今までの速度とは全く違い影すら目では捉えられない。

数メートルの間を一瞬で埋め、一枚の三日月を横薙ぎに振るう。

間一髪のところでいち早く察知したフォルが前に出、交差した緋と蒼の2つの粒子が揺れる一対のカットラスで受け止める。


ニヤッ・・・


アインがニヒルな笑みを浮かべ、宙に浮いた状態で連結した鎌を2つに外し、更に二枚の三日月で首筋を狙い追撃を繰り出す。

フォルはそれを察するが体が追いつかなず、寸での所で頭を逸らすことが精一杯の回避法だ。

ヴァルバトスがフォルの影から飛出し、身を捻らせトンファーで防御に周るが、それはアインに読まれていた。

薙ぎ払いではなく、ダイヤ型の突起でヴァルバトスの胸甲ごと心臓を狙い突きに来た。


「クッ……ウォォォォォッ!!」


避けられないと悟ったヴァルバトスは更に身を捩り1回転し鎌を弾こうとするが、アインの刺突の破壊力を程度減らすのが限界だった。

毛で覆われた肩から突き刺さった鎌の突起が抜かれ、真紅の血液が溢れ出る。

再び切りかかろうとするアインを蹴り飛ばし、距離を置く。

フォルが指を縦に振り描いた薄緑色の魔法陣から緑色の風【ヒールエイド】が吹き遊び、ヴァルバトスの傷を癒す。


「…これだけの戦力差があっても開眼しないの?」

「しざるを得ない状況であるのか…だが、ならば全力でぶつからせてもらうぞ」

「ふふふ…本気で戦ってほしいからそうしてるのよ」


ヴァルバトスは目を閉じ、然りと頷く。

再び目を開けたヴァルバトスの眼は緑掛った碧の輝きを放っていた。





  †  †  †






柔らかい緑味を帯びた青、ホリゾンブルーが一面に広がる《レーム湖畔》

セルセタ樹海の湿原区域にあり、湖畔から流れ出る河川は膨大な水資源の塊だ。

その沿岸部に降り立ったグライフ。

その背中に乗っていた4人は湿地に立ち、湖畔の傍に寄った。


「そういや、こっからどうすりゃいいんだ?」

「何も聞いてないのか?」

「はいっ。ただ水辺に連れてってとしか…」


ヴィンセントの腕の中で目を瞑っている当の本人は何も言わず、ただ時折痛みに顔を歪ませている。

立ち尽くす中、ラミアが何かを感じ取った。


「え、判りました…ヴィンセントさん。サヨさんを湖畔に沈めてくださいっ」

「あ、ああ」


ヴィンセントが片膝を突き、腕の中の小夜を転がす様に湖畔に沈ませる。

ゆっくりと沈み行く中小夜が水流で仰向けになった瞬間、湖畔から強烈な緑光が輝きだした。

湖畔に沈んだ小夜の体、回復しない左腕を中心に緑光に輝く水流が生まれ、紅い血液と共に毒素が抜け、流れ込む水流が新たな血肉を作り、小夜の表情から苦しさが消える。

元来、ルーンに供えられた自己治癒能力を常夜が十二全に使える水中だからこそ成し得る荒業であり、ルーンを使った後に受けた傷以外には適応しないという欠点を持つ。


「ふぇぇぇっ!?」 「なっ!?」 「これは!?」


緑光が煌めく水流で巻き起こる気泡が粒子の様に流れる異様とも思える幻想的な光景を目の当たりにした3人は言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くすのみ。

完全に元通りになった小夜は目を開け、指を弾く。

水中を振動し甲高い音色を湖畔に響かせ、渦巻いた水流が蒼穹に向かい一筋の緑色の竜巻と成る。

竜巻が晴れた後、3人の目の前には――


「手間取らせたわね。さぁ、反撃の狼煙は上がったわよ」


晴れた竜巻の雨に体を濡らしながら、フリルの黒スカートを靡かせ、黒髪をポニーテール風に纏めた少女が冷徹な笑みを浮かべ、毅然として立っていた。


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