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第二十話 最凶の敵

天を駆け抜けたグライフが王都の上空から徐々に旋回し大きく袈裟切りにされた正門と城下町を繋ぐ石段の最上段へ降り、飛び立つ時と同じように伏せた。

背中から降りた小夜は正門を見た。

門の向こう側は暗く中の様子は窺えない。


「ありがとう、助かったわ」


小夜からの礼を受け取り一頻り喉を鳴らしたグライフは、再び飛翔した。


「かぁー、足腰ガッタガタだぜぇ…」

「私もですっ…」

「私も…と言いたい所だけど、泣き言を言ってられる状況じゃないみたいね」


膝を抑えたヴィンセントの涙声の訴えに賛同するラミア。

スカートの乱れを直した小夜はそれを一喝する。


「……この先で何が起こってるか判らないけど、気を引き締めて行きましょう」

「応!」 「はいっ!」






  †  †  †






黒豹の獣人の黒いブレイドトンファーと黒髪の女の一対の禍々しい鎌が黙視できない速さでぶつかり合い、火花が散る。


「貴殿は何故ッ!拙僧らの前から姿を消したッ!!あの村で何があったッ!!」

「貴方は知らなくていい事よ」


切り払いで弾かれたヴァルバトスは空中で体制を整え、大広間の支柱を足で蹴り突撃する。

アインはそれを双鎌を連結させ受け流す。


「甘いわね。昔と変わらず直線的で」

「貴殿も相変らず飄々としているッ!」


両者は攻撃の手をやめず戦闘は激化していく。

それを螺旋階段の踊り場から見る隼人。

目の前で行われている殺し合いに怯え、目を見開き立ち尽くす。

この状況では援護に行った所でただの足手纏いでしかない。

そして、それと同時に自分の無力さを噛み締め歯痒く思う。


「ふふ…まだ、手を抜いてるわね…?なら、あの子を殺したら本気なってくれるかしら?」

「何ッ!?」


連結した鎌を器用に操り、振り回す。

その視線は確かに踊り場の隼人を向いていた。

アインの無機質なハイライトの消えた眼と視線が合い戦慄する。

ヴァルバトスを払い除け、隼人へ向かって突進した瞬間、その向こう側に目が醒める様な黒いゴシック&ロリータ調の仕立て服を着た少女の姿が垣間見えた。


「――させないわよ」


少し怒気を含んだ低い声とともにパチンッと乾いた音が大広間に響き渡り、隼人に向け突き進む一陣の旋風になったアインの目の前で水壁が発生した。


アインが水壁にぶつかるや否や小夜は間髪入れずに、フィンガースナップをし、アインを包み込む様に水壁を発生させる。


「小夜……!」


隼人はホッと安堵の溜め息を吐き、水壁を避けて階段を下り小夜の元へ歩く。


「『魔女』殿……かたじけない……シンの姿が見当たらぬが何故?」

「…シンは、その内帰ってくるわ」

「そうか…」


片膝を突いたヴァルバトスの問いの返答に何と言ったらいいのか判らず、言葉を濁してしまう。

ヴァルバトスが視線を後ろの2人に向けるが、ラミアとヴィンセントも申し訳なさそうに俯くばかりだ。

それで多少察しがついたのか、意味深に頷く。


「何があったのですか!――あ…」


遅れて螺旋階段から駆け降りるエルフ――フォル・モーント。

踊り場付近で小夜の姿を見つけると、バッと飛出し思い切り小夜を抱しめた。


「っ!?」


突然の抱擁に小夜は思わずたじろいたが、その次の瞬間には右手だけで何とかフォルを引き離そうとする。

しかし、フォルの抱擁は力強く片手だけで何とかなる代物ではなかった。

その上、服だけになっている左腕ごと抱しめられているのだから抵抗する気も失せると言う物だ。


「心配しました…貴女の事を隼人さんから聞いてから尚更」

「―――だから、何?」


ほんの少しでも気を緩めそうになった自分を律する。

ただ冷徹に力技で無理なら言葉で拒絶するだけの事だ。

敵が増えようと構わない、それで勝手に動いてくれる駒が増えるなら自ら望んで悪役になろう。

別段、自分の思い通りに動いてくれなくとも構わない。


「…何ですか…難しい質問ですね。でも強いて言うなら『頼りにしてほしい』でしょうか」

「………」


まさか言い返してくるとは思わなかった。

しかも面と向かって、このエルフは恥じらいと言う物とは無縁なのだろうか?

そんな疑問どうでもいい頭の片隅に追いやり、次の手立てを考えようとした。

不意に左腕に痛みを感じるまでは。


「痛ッ――――ァ!?」


それは『痛み』などと言う物ではなかった。

力任せにナイフで肉を引き千切る音が耳に木霊し、その瞬間、肉の内側から皮膚に掛けて刃と言う刃が飛び出る感覚が神経を焼き千切る灼熱の炎になった。

左腕の筋肉を、血管を、筋をずたずたに引き裂き、その灼熱が意識を焼き、頭の中が真っ白になり、激しく震える全身から一斉に冷たい汗が噴き出した。


パリンッ・・・・


ガラスが割れるような小さく甲高い音が響き、アインを包んでいた水が飛び散った。


「ふ、ふふふふふ…何よ…もったいぶってさ……最初からそうしてればいいのよ!死にたくないと剣を取り!!恐怖に身を任せ!!必死に抵抗し!!もがき!!足掻き!!………私を楽しませてから死になさいッ!!!!」


ぶわっとアインから発せられるドス黒い殺気がグランゼンを駆け抜け、ルミセタ樹海に棲む様々な生物が城から逃げるように遠ざかった。


そして、それを目の前で感じた6人はただ一人ヴァルバトスを除き立ち竦んだ。

その中でもずば抜けて小夜の容態がおかしかった。

水壁の為に使った左腕が戻ってないのだ。

足下も覚束ずふらふらとヴィンセントにもたれ掛かる様に倒れ込んだ。


「…水……辺に……運…ん…で……」 


一言発するのが精一杯だったらしく、そのまま瞳を閉じた。


「行ってください。ヴィンセントさん。ラミアさん」

「ああ、此処は拙僧らが時間を稼ぐ」

「悪いね、うちんとこのリーダーが人心地着いたら戻ってくる」

「あ、あの……お願いしますっ!」


フォルとヴァルバトスの2人の後押しもありヴィンセントは吐く息の荒い小夜を抱き上げるとラミアと共に振り返り走り出した。


二人の姿を見ながら隼人は再び自分の無力さに腹立たしさを

感じ、そして、願った。

力が欲しい、と。


―――力を望むか。ならばくれてやろう。オレの力を―――


隼人は自分の胸の中で聞き慣れない声が響いた気がした。

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