第十九話 怒りの咆哮
すみません、遅れた上に短いです。
風邪を引いたり、色々在りました…もう大丈夫です。
それは突然起きた。
隼人が普段通りに疲弊しきった体を癒す為、ベッドの上で横になっていた時だ。
何が引き裂かれたような轟音が城中を駆け巡った。
瞬間的に音のした方向へ駆けだしていた。
体を包んでいた疲労感など何処かへ消え去り、ただ、不安と焦燥に駆られひた走る。
体感だが、音は正門の方から聞こえたような気がする。
大広間の螺旋階段を数段飛ばしで飛び下り踊り場に着きその光景を目にした。
「これはッ!?」
城下町へと続くはずの正門が一本の鋭い爪か何かで引き裂かれていた様に壊れている。
壊れた衝撃で門の上隅に溜まっていたであろう埃が黒煙を作っていた。
「……素直に最初から通してくれれば、無駄な事をせずに済んだのに…」
その黒煙の中から黒衣で身を固めた女が小さくぼやきながら歩いてくる。
その右手に、2本の大鎌の柄の部分を連結させたような双刃の薙刀。
黒光りする柄と細い金線で縁取られた3つの三日月の刃。
驚くほど病的なまでに色白く透き通った肌。
歩を進める度に揺れる長い黒髪は獣王の持つ鬣が放つ威風そのもので、隼人は背中に冷たい汗が滴るのを感じる。
その奥に光る真紅の瞳と目が合い女の口角がそれこそ三日月の刃の如く吊り上がった瞬間、直感した。
――――ヤバい。
と。
気が付けば、目の前に振り下されそうな三日月の鎌先があり、恐怖に怯え任せ目を伏せていた。
† † †
「色々と世話になったわね」
「いやぁ、こっちも色々こき使ったしお相子って事で」
日の出と共にシキの隠れ処に別れを告げ、一旦、王国へ戻る。
尤もそれは当初の予定通りではない。
シンを追いかけるためとも違う。
緊急を要する物だった。
昨夜の話し合いでふと会話に上がった、アイン・クセルセスカの行方。
彼女が言った一言、『興醒めよ。邪魔が入るんなら、先にあっちを片付けるまでよ』
その『あっち』が何を示しているか、最初は見当がつかなかった。
小夜を消したいと思ってる者が存在し、その誰かがアインに依頼をした可能性もある。
しかし、もしアインがその誰とも違う人物から依頼されていたとしたら?
浮かび上がった疑惑がそこへ到達した瞬間、小夜の勘が冴え渡った。
『あっち』とは何処か明確な場所を示すのではなく、小夜と共に《エレンシア》に来た青年、伊集院 隼人の事なのでは、と。
「急がないとなんでしょ?だったらこの子を貸してあげる。〝グライフ″」
シキの呼び声に呼応し、金色に輝く鷲の翼と上半身、白銀の獅子の下半身をもった獣が天を駆け皆の目の前に降り立ち、凛々とした猛禽類の黒眼が小夜達を警戒する目付きで睨んでいる。
「ヒューッ、すげーの飼ってるんだな」
「は、初めて見ましたっ!!」
巻き上がる風圧に身動ぎながらも呆気を取られていた小夜の後ろで陰りを帯びた声が囁いた。
『グリフォンね。昔読んだ本では、グリフォンは黄金を発見し守るという言い伝えから、「知識」を象徴する図像として用いられ、また、鳥の王・獣の王が合体しているから、「王家」の象徴としてももてはやされたそうよ』
聞いてもいない事を喋り掛ける常夜を流し目で一瞥し、グリフォンと視線を交わした。
「…本当にいいの?警戒してるみたいだけど?」
「うん?ああ、大丈夫大丈夫。躾はしてあるしちゃんと言う事も聞くよ」
相変らず何処かズレた返答を返してくるが、それもシキの一面ということなのだろう。
そう無理矢理結論付ける事に止めて置いた。
「グライフ。これからグランゼン城までこの3人を乗せて行ってくれる?」
グライフは従順に頷き、警戒を解き小夜達の目の前まで歩くと、静かに伏せた。
「乗れってさ。後はグライフに任せておいて」
「んじゃ、俺からッ!」
ヴィンセントが勢いよく飛び上がり、グライフの背に跨り手を差し出す。
小夜に抱えられたラミアがヴィンセントの手を握り後ろに突くように座る。
最後に小夜がヴィンセントの手を取り、ラミアの後ろに跨った。
「シンの事頼んだよ~……それと、一応気を付けてね」
グライフの頭を愛撫でするシキの表情には若干の翳りが帯びているのは気のせいではないと思われる。
シキも本当は行きたいのだろう。
それを理解したからこそ小夜は――
「任せて」
――ただ一言、しっかりと響く声で言った。
翳りを帯びていたシキの表情がパッと明るくなり、屈託のない笑みを浮かべていた。
そっとグライフからシキの手が離れると、グライフは起き上がり、悠然と翼を広げ飛翔した。
† † †
隼人が目を伏せる寸前に振り下された刃は、しかし何時までも隼人を傷つける事はない。
不思議に思った隼人はゆっくりと目を開けた。
「間に合ったようだな。ハヤトよ」
交差した2本の白と黒のトンファーの長い方がそのまま刃になっているブレイドトンファーを構えた黒豹の獣人、ヴァルバトス・アッシュヒーが振り下された鎌を防いでいた。
「ヴァルバトスさん!」
「ふむ。無傷の様で何よりだ。だが、少し下がっていてもらえぬか?」
何も言えなかった。
ヴァルバトスの背中から感じるそれは覚悟とも違い、純粋な憤りだった。
「さて、アインよ…我が主を殺めようとした貴殿を拙僧はどうすればよかろう?」
「知らないわよ…ふっふ…でも、貴方とも闘えるなんて嬉しいわ…」
牙を剥き出しにし、必死に感情を押さえているヴァルバトス。
狂気染みた笑みを浮かべたアインは連結した鎌を二つに戻し、両腕を下す。
再び、出逢った旧友は立ちはだかる強敵だった。
「この怒りを!誰にぶつければと聞いているッ!!!」
ヴァルバトスの瞳が金色に煌めき、怒りの感情を露わにし感情のままに吼えた。
abyss frontier を改良しabyss frontier on-line と改め、投稿しました。
宜しかったら読んでみてください。




