第四十三鐘 翡翠の約束
クエストも終わり洞窟から抜け出したハイト達。“シンベル”へと帰る途中でハイト達の眼の前にロイドを筆頭とした村人達が現れた。突然現れた村人達にハイトが疑問を抱いていると、ロイドはウィルの事を訊いた。ハイトはミリアについた嘘と同じようにつくが、彼は騙されなかった。真実を暴かれたハイトは、村人達の糾弾を受けながらロゼと共に暗い夜道へと歩き出した。
「……何をしているんだ、ロゼ」
「何って……膝枕だけど?」
“シンベル”から追い出された俺達は、次の町へと少しでも近づく為に歩き続けたが、携帯の時計が零時を示した所で進行は中断。“コーション”と言うアイテムを使用してその場に一時的な安全エリアを作り、焚火の温かい光に照らされながら俺は地面に寝そべって、今の会話に到る。
「それは分かるが……なにゆえに膝枕?」
「ハイト疲れてたし……少しでも安らぐかな〜、って思ってさ」
どうやら、ロゼの膝枕は俺に気遣っての行動のようだ。
「まあ、確かに安らぐけどな……。何かこう……」
「恥ずかしがらなくても良いよ。私とハイト以外見てないんだから」
「……そうだな」
俺はロゼの言葉と厚意に甘えた。ロゼになら多少甘えても良いと思えて来た。
「……これで良かったの? ウィルがミリアちゃんを殺そうとしたのが気づかれないように、君自身を殺人鬼に仕立て上げて」
ロゼは揺れ動く焚火を見ながら、不意にそんな事を訊いて来た。揺れ動く光に照らされた顔から何かを読み取る事が出来なかった。
「別に構わない。俺はウィルに譲って貰ったんだ。これぐらいの泥は被らないとな」
それが、今俺に出来る恩返しをしたつもりだった。
「……そうだね。私達が生きてるのは、ウィルのおかげだからね」
ロゼはそう言って、上を見上げた。遠くにいる彼の姿を見ているのかもしれない。
「……ねぇ、ハイト。私、ハイトにお願いがあるの」
視線を俺に戻したロゼの顔は真剣そのものだった。
「ん? 何だ?」
だから、俺も真剣に聞く為に、視線をロゼに合わせた。
「今度から戦う時は、出来る限り私も一緒に戦わせて」
「……ロゼ、それは……」
俺はその願いの返事を返せなかった。ロゼには出来る限り危険な眼に遭わせたく無い。辛い思いをするのは俺だけで良い。そんな願いが俺の中にあった。
「さっきのは仕方無い事だってのは分かるよ。でも、仕方無い事以外の時は私も君の隣で戦わせて」
「……ロゼ、俺は――」
「嫌なのっ!!」
俺が言い終える前に、ロゼが俺の言葉を遮った。
「君が戦っているのに私だけ安全な場所で待っているのは嫌だよ! 君が死ぬかもしれないのに指を啣えて何も出来ないのは怖いよ! 私は仲間なんだから君の力になりたいんだよ!!」
俺は呆然としながら濡れた眼を見ていた。
「……君にとって私は足手纏いなの? もし、足手纏いじゃ無いなら、私も戦わせてよ……。もう待っているだけじゃ……辛すぎるよ……っ」
「…………」
俺はロゼの苦痛に満ちた表情を見ながら、自分がロゼと同じ状況になった時の事を想像した。
(……ああ。何をしているんだ俺は)
俺がロゼに危険な眼に遭わせる事よりも、それは余りにも苦痛だった。こんなの、堪えるのが無理だ。
「悪かった」
俺は起き上がり、ロゼの頭を撫でながら謝った。
「そうだな。辛いよな。怖いよな。身勝手な事をして本当に悪かった」
「……私は足手纏いじゃ無い?」
「そんなの当たり前だ。ロゼには本当に助けになっている」
俺に戦術を教えてくれた事。危険な場面で助けてくれた事。護りたいと言う気持ちを思い出させてくれた事。どれもこれもロゼのおかげだ。
(……そうだよな。護るだけじゃ駄目だよな)
一方的な守護は仲間では無い。助け合う事が本当の仲間である行動だ。
「これからはロゼにも俺と同じものを背負わせる事になるが……良いな?」
俺はロゼの仲間として最後の確認を取った。
「どんと来いだよっ!」
笑顔で自分の胸を叩くロゼの姿を見て、俺は気が楽になった。
(……あ)
俺はある事を思い出し、携帯を開いた。
「どうしたの?」
「ちょっとな」
ロゼの質問を軽く流して目当ての物を探した。
(……これだ)
俺はそれを選択して実体化した。俺の掌の上にあのネックレスが乗っていた。
「わぁ……綺麗なネックレスだね」
発言からして嫌いにならなそうで安心した。
「ほら」
俺は翡翠のネックレスをロゼの掌の上に乗せた。
「私にこれを?」
「あの時ロゼにプレゼントするって約束しただろ? 色々あって渡すタイミングを失ってたから此処まで引き延ばしてしまったが、受け取ってくれ」
本当は忘れていたのだが、それは言わない方が良いような気がした。
「覚えていてくれてたんだ……。つけても良い?」
「どうぞ」
俺の了承を得てから、ロゼはネックレスを首につけた。翡翠の宝石はロゼの胸元で綺麗な光沢を放っていた。
「……どうかな?」
上目遣いでロゼが聞いて来る。ネックレスで一層綺麗に見える彼女のその仕草に、頬が熱くなるのを感じた。
「……とても似合っているよ」
心臓の鼓動が速くなるのを落ち着かせながら、俺は素直に感想を言った。
「ありがとう……ハイトにそう言って貰えるのが一番嬉しいよ」
「……そうか。それは良かった」
ロゼの微笑みを見て、俺は悪人扱いされても良いと思った。彼女の笑顔が見れるのならそれでも良いと思った。
(……あの時ウィルに逢えなかったら、このネックレスをプレゼントする事は出来無かったんだよな……)
もし、あの世と言うものがあり、死んだ者の魂が其処に逝き着くのなら、今頃ウィルは天国にいるだろうか。
天国で笑っているだろうか。
(せめて……安らかに眠ってくれ。純白の騎士よ)
俺の願いに答えるかのように、ロゼの胸元にある翡翠の宝石が煌めいた。
<作者の一言>
これで“シンベル”編は終わりです。皆さん、如何でしたか?
前回の話は人を殺した罪に苦しむハイトとロゼの姿を、今回は助けた村人達に追い出される姿を書きましたが、暗いですね。こんな話でも最後はハッピーエンドにするつもりです。「バットエンドにはならないだろうな?」と思った其処の貴方。大丈夫です。どんなに暗い話を書いても、最終的には明るい話で締め括ります。まあ、其処まで作者が書き切れるかどうかなんですけどねアッハッハ(汗)。
今回は作者的にロゼの活躍が少なかったような気がします。次回はちゃんと活躍させて上げたい所です。作者の文才を考えると出来るかどうか不明ですが。
余談ですが、今回のメインバトルであるハイトとウィルとの戦闘のシーンで使わせて頂いた「葦原中国平定」の話ですが、これを基にして紫紺の矢を考えついた頃は「おお、これはあまり知られていないと思うし面白いんじゃないか?」と自信を持っていました。しかし、ある時家族から「それ葦原中国平定でしょ? 知ってるよ」と言われました。……これ、もしかして作者が無知なだけで皆知ってる事なのでしょうか? だとしたら凄く恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。でも話結構進んでいるから今更変えようが無いって言うね。何このジレンマ。一体どうしろと言うんだ。そんな状況に立たされながら書き上げました。一言で表すと、阿呆ですね。
最後に、感想、ご意見、誤字脱字のご指摘等お待ちしています。
此処まで後書きを書くのに一時間近くかかってると言うね。




